農業協同組合新聞 JACOM
   

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シリーズ 卸売市場を考える(6)
食品流通の効率化等に関する研究会「報告書」をめぐって
これからの卸売市場はどうあるべきか

高橋正郎
農水省食品流通の効率化等に関する研究会座長・
女子栄養大学大学院客員教授に聞く


インタビュアー藤島廣二 東京農業大学教授


 卸売市場のあり方を検討してきた「食品流通の効率化等に関する研究会」の報告書が出された。そこで、同研究会の座長である高橋正郎女子栄養大学大学院客員教授と藤島廣二東京農大教授に、報告書をめぐる諸問題を話し合っていただいた。

◆研究会設置の背景
  消費者に軸足をおいた市場の見直し

高橋正郎氏
(たかはし・まさお) 昭和7年中国・大連市生まれ。東京大学農学部卒業。農学博士。昭和47年中国農業試験場農業経営部研究室長、53年農業技術研究所経営土地利用部研究室長、56年農業研究センター農業計画部研究室長、59年日本大学教授、平成13年女子栄養大学大学院客員教授、14年定年にて日本大学教授退職。大豆入札取引委員会委員長、日本フードシステム学会顧問。

 藤島 まず、この研究会がもたれた経緯や背景についてお話いただけますか。

 高橋 この研究会は、昨年の7月2日に第1回が開催され、今年の4月24日まで10回開かれています。研究会がもたれた背景を私なりにまとめてみますと、次の4点になると思います。
 1つは、BSE問題発生以降、農水省の姿勢がその政策路線を軌道修正されたことです。具体的には「食と農の再生プラン」で、消費者に軸足を移した農林水産行政を進めるとしたように、いままで生産者、卸売業者に比較的ウェイトが高かった卸売市場制度を見直す必要性が出てきたということです。
 2つ目は、卸売市場関係者の経営が非常に厳しくなり、赤字経営がかなり出てきたことです。
 3つ目は、内閣府の規制緩和推進会議で卸売市場の手数料自由化が提起され、平成15年度中に方向を出すよう指示されました。この問題の背景は研究会ではほとんど議論されていないのですが、行政当局にすれば一番重い課題だっただろうと思います。この研究会が発足する前に、13年10月から「卸売市場競争力強化総合検討委員会」がもたれ、14年5月30日に「中間報告」が出されましたが、そこではほとんど両論併記でしたので、もう少し突っ込んで議論しようということがあったと思います。
 4つ目は、青果物に対する消費者ニーズが変わってきて、中食とか惣菜などの業務用需要が非常に増えて、かつてのように生鮮品が農家から卸売市場を経て八百屋さんあるいはスーパーで販売され、各家庭の台所で調理するという仕組が変わってきています。この傾向はますます進んでいくだろうから、この変化にどう対応するかということです。

◆論議の流れ
 原則自由にし、ビジネスとしての展開を

(ふじしま・ひろじ) 昭和24年埼玉県生まれ。昭和47年北海道大学農学部農業経済学科卒業。農学博士。
 平成元年農水省中国農業試験場地域流通システム研究室長、5年農水省農業総合研究所流通研究室長、8年東京農業大学教授、10年同大学院農学研究科農業経済学専攻食品産業経済論特論担当教授(現在)。食料・農業・農村政策審議会臨時委員、野菜供給安定基金評議員。

 藤島 研究会での議論の流れはどのようなことだったんでしょうか。

 高橋 委員の構成は、野菜をめぐるフードシステムの関係者が多く、卸売市場関係者は半数近くいますが、その人たちが主体ではないという性格でした。そこでの、議論の方向性をまとめてみると、概ね次の3点になると思います。
 1つは、現行の卸売市場法の原則は規制で、例外条項で「何々をすることができる」という形になっていて、力のある卸売会社は例外条項をうまく使っていますが、それをうまく使えない会社はかなり苦しくなっています。そこで、卸売市場法を「原則自由」にして、公共面などについて「例外規制」をするという形をとったらどうかというのが、論議の大きな底流でした。
 2つ目は、卸売会社が公共性をもとにした国や地方自治体の代行機関という意識が強く、そのため保護されてきたという面があります。そうした卸売市場における公共性と独自で自由なビジネス展開、そのいずれに重点を置いていくのかという論議が初期の段階でかなりありました。そして流れとしては、卸売市場もビジネスとして展開していくべきではないかという方向になりました。
 3つ目は、いままでどうしても、市場流通と市場外流通、卸売業者と仲卸業者を峻別して議論してきましたが、そういう峻別のないところで議論をしていこうということがあります。
 そして、研究会のテーマは「食品流通の効率化」ですが、食品流通全般について議論するのではなく、国がどう関与できるのか、国の関与の仕方はどうあるべきかを議論することが主題であったということです。

 藤島 研究会あるいは報告書の背景はわかりましたが、報告書の内容は、今後どうしていくのかという具体性に欠けるという感じがしますが…

 高橋 規制緩和が必要であるということは、随所に書いてありますが、しかし、どのような規制緩和をどういう形で、いつ頃までにやるのかということについては、ご指摘の通り報告書では明確にはしていません。それは、この研究会では全体としての方向性を出すことに重点をおき、その具体化については行政当局が詰めるというのが主旨だからです。

◆規制があることが高コスト構造を生み出す

 藤島 「報告書」では、「高コスト構造の是正を図ることが喫緊の課題となっている」としていますが、「高コスト構造」とは具体的には…。

 高橋 結論から先にいいますと、自由なビジネス展開を規制するような制度枠があるのではないか。これをなくすことによって、自由な競争がもっと展開してくるだろうということです。
 報告書では「生鮮食品卸売業では、店舗数の減少が緩やかに推移している等再編・統合が進んでいない状況にある」と指摘していますが、これはかつて食管法で規制され許認可対象だった米穀小売業の店舗が減らなかったように、卸売市場は卸売市場法で保護され動きがないからです。自由なビジネス展開を行い、それによって競争を展開することで、高コスト構造が是正されると私は考えています。

 藤島 現在が「高コスト」だから、よりコストを下げるためには競争が必要ということとは違うのですね。

 高橋 違います。競争を規制しているような卸売市場法があることが、現在、高コスト構造をもたらしているということです。その規制を緩和することで高コスト構造が是正されるという考えです。

 藤島 規制していることに大きな問題があり、規制することが高コスト構造であるということですか。

 高橋 生鮮卸における自由なビジネス展開が規制されているからです。一般論として、他の食品卸の改革と比べて、変化への対応が遅く、生鮮流通でも「こだわり商品」などを中心とする新しい動きは市場外流通で主に展開しておりますが、生鮮卸ももっと自由なビジネス展開をして欲しいし、そのことで構造が是正されてくるということです。

◆手数料問題は全体の中の一つの問題

 藤島 報告書の「卸売市場流通の効率化の考え方」のなかで「機能・サービスに見合った手数料を弾力的に徴収できるようにすることが求められる」と指摘していて、高コスト構造とは「手数料」かとも思えますがその点はいかかですか。

 高橋 市場関係者は、この研究会が「手数料自由化委員会」と位置づけていますが、研究会の議論では、手数料問題は規制緩和全体の中の一つであるという位置づけです。手数料問題を先行して、それだけを自由化するなどということは論外であるということで一致していますので、手数料問題だけに短絡して理解されると困ります。

 藤島 しかし、冒頭にご説明いただいた「背景」の3つ目にもありましたように、行政はかなり手数料問題を意識しているのではないかと思いますね。ところで、卸売市場の実質的な手数料はどの程度かという点については、各委員はどのように理解していましたか。

 高橋 それは適正手数料は何かという議論にいくべきというご意見ですね。そうではなくて、私どもは、そういうことを国や公的機関が決めること自体が、規制緩和の流れの中ではおかしな話だと考えております。他の商品の取引で手数料を国が決めているものはありませんよね。しかし、おかしいのはこの手数料問題だけではなく、他にもいろいろあるじゃないかというのが、研究会の議論です。

 藤島 いずれ手数料は自由化になると考えていますが、そのこととは別に、現在の手数料が「高コスト構造」なのかどうかという点については、委員会関係者は十分に理解しておくべきだと思います。また適正な手数料ということになると、そのときの経済事情によって変化するものと思います。

 高橋 自由なビジネスの中で、流通で付加価値を高めれば、当然、マージンだって高くなるわけですから、ビジネスの中で決まっていくことだと思いますね。

 藤島 手数料の実態については、研究会に報告されているんでしょうか。

 高橋 それはされています。出荷奨励金とか完納奨励金についても出て、十分理解されています。関連していえば、出荷奨励金で運営されている出荷団体までこの報告書の精神が周知徹底されていませんので、今後、出荷団体にこの精神を理解してもらうことが大事だと思います。

◆国の関与は緊急時や安全性確保などだけに

 藤島 規制緩和について、どういう規制を緩和していくのか。そして今後の青果物流通にはどういう姿が求められるとお考えですか。

 高橋 「米政策大綱」では、平成22年度を目途にこういう形にする。その過程で段階的にその形に接近するとしていますね。私も同じように、卸売市場法を変えるとすれば、卸売会社や出荷奨励金で運営する出荷団体に準備期間が必要ですから、何年先にはこういう形になるというものを出し、施策としては段階的にこういうものを出すので、準備をしてくださいという、目標年次とプロセスを明確にした手順表をつくるべきだと思います。
 そのときに、行政はなにをするかといえば、一つは公正な取引・競争を行わせることだと思います。二つ目は、生鮮食品ですから緊急時に確保する手立てをしっかりつくっておく必要があるということです。そして三つ目に、食の安全を確保する手立ても行政が担当することだと思います。
 それ以外については、国の役割が変わってきたというのが研究会の認識です。いままでのような、補助金をもとにした助成策を含めて、国が責任を持って青果物流通をコントロールするんだという考え方ではなく、「原則自由」にして民間に任せ、ビジネス展開で十分にやっていくけれど、最低限、先ほどいった緊急時などには規制できる形に切り替えていくという考えで、「小さな政府」という考え方が背後にはあります。

 藤島 私も、競争を維持していくことは大事だと思いますし、競争を維持していかない限り効率化はないと思います。それから、緊急時の対応と安全性についてもその通りだと思います。その上で、「生鮮食料品のEDI標準(受発注等の取引情報を電子的に交換する方法の標準的な取り決め)の導入などによる電子商取引の統一的方式の普及」のような社会的なインフラの確保は国にしっかりやってもらいたいと思いますね。

◆将来方向をどのようにつくりだすのか

 藤島 もう一つ私が、行政やこうした研究会に要請したいのは、将来の効率化した卸売市場のビジョンを出すべきではないかということです。卸売業者は自分たちで変えていかなければいけない、会社ごとにビジョンをもつべきだということはその通りですが、全体のビジョンがあってはじめて自分たちの立場がはっきりしてくるわけですから…。

 高橋 私は、それには反対です。なぜかといえば、それは、業者の自由な活動によって自ずとおさまってくるもので、国が方向を出してそれに倣えという時代ではなくなったからです。ただ、国がやるべきことはきちんとやらなければいけませんから、報告書の最後で「各種制度の見直し等を可及的速やかに進める」ことが国の責任であるといっているわけです。そして国がどの程度やっているかをチェックしていくことも必要だと思います。報告書でも「時期を限ってその進捗状況を評価する」と明記しています。
 この報告書では、国がやることは規制緩和をすることであり、後は自由な活動に任せて自分たちでつくっていってくれといっているわけですから、これが国が出すべきビジョンだともいえます。

 藤島 国が何をするかというときにも、将来方向があるからハッキリすることだと思います。例えばEDIにしても、国がインフラを整備しなければ企業としても使えないわけです。

 高橋 それは逆で、民間が自由なビジネス展開をしていく場合に、個々の企業ではなく社会的なレベルで共通項をつくる必要があるなら、業界団体からそういう問題提起がされて、それによって国・行政が動くのであって、国・行政が先に立ってついて来いといういままでの行政の姿勢は変えるということです。

◆市場内・外、卸・仲卸の区別がなくなる

 藤島 残念ですが、国の将来方向(ビジョン)を国が示すべきか否かについては、互いに考えがまったく違うようですね。ところで、これからの市場流通はどうなる、あるいは何をするべきでしょうか。

 高橋 まずはこの報告書に沿って国が思い切った規制緩和の方針を出せるかどうかでしょう。それがあいまいなら、卸売会社や仲卸会社にツケが回ってしまう事態になると思います。
 私たちが期待するような規制緩和の方向が出たときには、開設区域内でしか取引できないとか、卸と仲卸の垣根を峻別するような市場ではなくなりますし、兼業規制もなくなり自由になりますから、逆に、生き残りが熾烈になると思いますね。いまある卸売会社・仲卸会社が5年後10年後にそのまま存続することにはならないでしょうから、合併とか吸収とか系列化とかいろいろな動きが出てくるでしょう。
 もう一つ大きな問題は、いまの卸売市場法とか出荷奨励金に依存した産地の出荷団体の維持・運営が非常に厳しくなるということです。自前で手数料を確保しなければいけなくなりますからね。その切り替えには時間が必要でしょうが。
 そういう生みの苦しみを経たあとは、卸売会社が市場外流通をどんどんやって、市場流通と市場外流通という区別はなくなりますし、市場内加工とか調理食品への参入とかが進み食品加工のセンターとなり、いまの卸売市場というイメージはなくなると思います。

 藤島 私もこれからは、卸売市場もいままでのように生鮮だけに特化してはやっていけないと思いますから、加工品などを積極的に取り扱うようになると思います。そういう意味では、従来の卸売市場という概念ではなくなり、大幅に変わると思います。ご指摘のように、市場流通・市場外流通の区別もなくなってくるだろうと思います。
 と、同時に、産地が大型化し輸入も増え、消費地からみると遠隔地化してくると思います。そのときに流通コストをどう引き下げるかといえば、輸送の大型化しかないと思いますし、それを受け入れられる卸売市場にならざらをえない。一方、消費者は、高齢化が進みますし、購買行動としても遠くまで出かけて買いだめする人はアメリカのようには増えないと思います。
 そうなると市場は、大型化した産地の品物を受けなければならないと同時に、分散化した購買行動に対応しなければならないというということになります。

◆商流・物流などの機能分担で効率化

 高橋 生産面からいうとおそらく中国、韓国からの青果物輸入がどんどん増えるでしょう。しかも、現地に加工施設をもってですね。一方、消費面から見ると、生鮮野菜を購入し各家庭で調理するのはもっと減って、惣菜とか調理食品が増えてくると思います。そうすると中国からの冷凍野菜がさらに、中食とか外食産業にストレートに入ってくるようになると思います。
 そうだとしても国内青果物がなくなるわけではないわけです。そこでご指摘のように、北海道のホウレンソウが夏場に首都圏に来るようになればかなりの物流コストがかかります。そのときに報告書でも指摘していますが、いままでどこの卸売市場も同じ機能を持たせてきましたが、情報を中心にする商流のセンターがどこかにあり、物流のセンターが別のところにあるというように、機能分担することが期待されます。

◆国の農業政策との関わり
  国内産地をどう育成していくのか

 高橋 いずれにしても、生産者が高齢化して、国内農業の生産力が衰えていることが、苦しいところです。これは流通の問題ではなく、国の農業政策にかかわることですが気が重い問題です。

 藤島 私もその通りだと思います。報告書にもあるように、市場も産地を育てるような機能を持たなければいけないと思います。そのときに市場は、北海道や遠隔地のものでもできるだけ輸送コストを安くして引き受けられる体制を整える必要があります。
 中国からの輸送コストと比較すると、国内は4〜5倍高いんです。これでは敵うわけがないので、トレーラー輸送とかを考えなければいけないと思いますし、市場もトレーラー出荷を受け入れられる体制整備が必要になります。と、同時に地元産農産物を引き受けられる体制も整える必要があるわけです。ただ、遠隔地と地元に一つの市場で対応するかどうかは別の問題で、ご指摘のように機能分担することも考えられます。また、トレーラーや大型海上コンテナで入ってきたものを小売店に低コストで分荷するシステムも重要になります。
 こうした、国内産地を活かせるような市場としての十分な体制づくりが、今後の市場のあり方として非常に重要だと思います。

 高橋 生鮮ものの場合には、保存がきかないあるいは品質が急変するという特性を踏まえながら、どのようなシステムづくりができるのか。情報と分荷のシステムをどのようにつくるのかですが、これも国が方向性を決めるのではなく、民間に任せて、その活力やビジネスのアイディアでどんどんやっていくことだと思います。

 藤島 民間に任せるのはいいんですが、国としても自給率を高めるために輸入品に対抗できる仕組みをつくりだそうとする民間企業には支援することも重要だと思います。

 高橋 そこにあまり力を入れすぎると伸びるものも伸びていかないわけです。産地でエネルギーが出るのは、大量生産大量出荷ではなく、「こだわり商品」でスーパーなどと取引きする中でアイデアやエネルギーがでてくるのではないかと思いますね。

 藤島 いろいろな産地があっていいと思いますが、「こだわり」だけだと、全体として産地が衰退していくことになると思いますから、それなりに国として食料自給や食料政策の考え方を出すことも重要だと思います。

インタビューを終えて

 インタビューを通して、「国の規制が多すぎる。これが流通の効率化を妨げている。規制の緩和・撤廃こそが重要だ」という高橋研究会座長のお考えを何度もお聞きし、今回の研究会の趣旨は、まさに「規制の緩和・撤廃」にあったのだと理解することができた。
 平成11年の卸売市場法の改正の際、農林水産省は「取引の自由化」を旗印に「セリ原則」を廃止する一方、セリ比率による取扱品目区分(1号物品、2号物品等の区分)という新たな規制を設けたことがある。このことを奇異に感じていた私としては、今回の「規制の緩和・撤廃」の強調に「我が意を得たり」の思いを強くした。
 しかし、「規制=高コスト構造」を公理のごとく前提とした上で、「規制の緩和・撤廃」が必要というお話には納得しがたいとことが多かった。「どのような規制が実際にどのような高コストを生み出しているのか」といった具体的なご意見もお聞きしたかった。 (藤島)

(2003.6.11)

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