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シリーズ 卸売市場を考える(9)
台湾における卸売市場流通の特徴と問題点


王 良原 台湾・東海大学助教授
  1 はじめに
王 良原先生
1964年生まれ。1998年広島大学生物圏科学研究科博士課程修了(農学博士)。社会調査研究所(東京)研究員を経て、2001年より台湾・東海大学農学部助教授(食品流通学・食品マーケティング論)。現職のほか、農業委員会(農水省)の外郭団体である中央畜産会・食肉基準諮問委員、食品流通業界の流通情報電子化部会指導委員などを兼務。

 台湾では現在、台北市をはじめとする主要都市や主要な産地において卸売市場が設置され、各地の生鮮食品流通の中で重要な位置を占めている。特に台北市では膨大な数量の生鮮食品を集散し、出荷者ごと、品目ごとの価格を決め、迅速・確実な代金決済を可能にする場として、卸売市場が高く評価されている。
 しかし、その一方において、量販店の出現や外食・中食産業の伸長といった時代の変化に、卸売市場が十分に対応しえなかったため、近年、その重要性が次第に薄れつつあることも否定できない。そのことを端的に示しているのが1980年代後半以降に始まった卸売市場経由率の低下である。例えば、86年に44%を超えていた青果物の卸売市場経由率は、最近では38%にまで下がっているほどである。
 以下では、台湾における現在の卸売市場流通システムをその特徴的な点を中心に紹介するとともに、現在の問題点をも指摘し、今後の日本や台湾などの卸売市場の改善方策の検討に資することにしたい。

2 総取扱高の7割弱を7市場で――卸売市場の種類と取扱高状況

◆青果物市場は61――卸売市場の種類

 台湾には、1982年に制定された農産品批発市場管理辧法(農産物卸売市場管理規則)によって認められた卸売市場が、現在、145市場存在する。が、それらは全て青果物専門あるいは畜産物専門といった専門卸売市場で、その内訳をみると青果物市場が61市場、畜産物市場が23市場、水産物市場が58市場、そして花卉市場が3市場である。
 これらのうち花卉市場を除く142市場は、表1に示したように年間取扱量に基づいて特等から5等までの6種類に分けられている。ごく大まかに日本の卸売市場と比較すると、特等から2等までが日本の中央卸売市場に相当し、3等から5等が地方卸売市場に相当するとみることができる。

表1  年間取扱量による卸売市場の等級区分

市場種類

青果物

卸売市場

225千t

以上

225千t

60千t

60千t

40千t

40千t

20千t

20千t

10千t

10千t

未満

畜産物

卸売市場

125万頭

以上

125万頭

35万頭

35万頭

25万頭

 25万頭

15万頭

 15万頭

 7万頭

 7万頭

 未満

水産物

卸売市場

65千t

 以上

65千t

20千t

 20千t

10千t

 10千t

4千t

 4千t

2千t

 2千t

 未満

  出所)行政院農業委員会中部辧公室「台湾地区農産品批発市場年報」2001


 それぞれの等級区分ごとの卸売市場数は、特等市場が台北市内の1青果物市場と1水産物市場の2市場で、畜産物市場にはまだ特等市場が存在しない。1等市場と2等市場は合わせると、青果物で15市場、畜産物17市場、水産物10市場。3等から5等までの卸売市場も合計すると、青果物45市場、畜産物6市場、水産物47市場である。
 ちなみに、台湾では専門卸売市場しか設立できないわけではない。台北市第1卸売市場(青果物)を設立する際にも総合卸売市場化が検討されたが、市場用地(55043m2)の広さが不十分との理由で断念したのであった。また、現在も台北市郊外に総合卸売市場を広域流通センターとして設立するための検討が進められている。

◆規模格差が大きい取扱高

 上記の多数の卸売市場の総取扱高(各卸売市場の卸売高の合計)をみると、2001年において青果物243万トン、440億NT$(台湾ドル)(1760億円)、畜産物838万頭、373億NT$(1490億円)、水産物58万トン、278億NT$(1110億円)、花卉5949万把(束)、27億NT$(108億円)であった。したがって、1卸売市場当たり平均取扱高を計算すると、青果物市場4万トン、7億NT$(28億円)、畜産物市場36万頭、16億NT$(64億円)、水産物市場1万トン、5億NT$(20億円)、花卉市場1983万把(束)、9億NT$(36億円)である。
 ただし、いうまでもないが、全ての卸売市場が平均水準の近くにあるわけではない。それどころか、表1からも推測できるように、卸売市場間の取扱高規模格差はきわめて大きい。例えば青果物卸売市場でみると、2001年の取扱高が皆無であった3市場を除く58市場のうち、同年の取扱高が最大であったのは台北市第1卸売市場で、その取扱高は49万0457トン(野菜31万3386トン、果実17万7071トン)、105億2900万NT$(野菜58億7100万NT$〔234億円〕、果実46億5800万NT$〔186億円〕)、最小は竹崎郷卸売市場の79トン(果実79トン)、160万NT$(果実160万NT$〔640万円〕)であった。倍率を算出すると、前者は後者の6200倍〜6600倍に達するほどである。
 したがって、当然ではあるが、特定の大規模卸売市場への取扱高の集中も著しい。例えば青果物の取扱高第1位を誇る台北市第1卸売市場の場合、1市場だけで2001年の全卸売市場総取扱量(各卸売市場の卸売量の合計)243万トンの20%、総取扱額(各卸売市場の卸売額の合計)440億NT$の24%を占め、さらに取扱量10万トン以上の上位7市場(台北市第1、西螺鎮、三重市、台中市、台北市第2、台南市、高雄)の取扱高を合計すると、147万トンと297億NT$(1188億円)にのぼり、全卸売市場の総取扱高の60%と68%を占めるほどである。

3 スーパーも経営する卸売市場―-制度からみた特徴と問題点

◆開設者と卸売業者を兼務する公司

 これらの卸売市場の開設者(卸売市場の管理者)と卸売業者(荷受業者)をみると、台湾ではどれほど大規模な卸売市場であっても、また逆にどれほど小規模な卸売市場であっても、公司や農漁業団体といった一つの組織が両者を兼ねているのが一般的である。
 例えば台北市第1卸売市場と第2卸売市場の場合、台北農産運銷公司が開設者と卸売業者を兼ねている。ちなみに、同公司は1974年に2億NT$で設立された株式会社で、出資比率は台湾政府22.76%、台北市政府22.76%、農会(日本の全農・総合農協に相当する)24.85%、青果運銷合作社(日本の専門農協に相当する)9.58%、青果物商業者(後述の承銷人)20.05%である。
 台北市以外の卸売市場でも、公司が開設者と卸売業者を兼ねているのが多いが、これにはいくつかの理由がある。
 そのうちの主な理由の一つは、公司(株式会社)が開設者と卸売業者を兼ねることによって、民間資本だけでなく公的資本も受け入れ、公共性を確保すると同時に、小資本で大型投資を可能にすることである。実際、台北市第1卸売市場と第2卸売市場の場合、土地と建物を台北農産運銷公司が直接に所有するのではなく、それを台北市政府から借用して卸売市場を運営しているのである。同公司は土地・建物の賃借料として、1年間に手数料収入の10%分(卸売額の0.3%に相当する)、およそ3100万〜3200万NT$(1億2000万円)を台北市政府に支払っているが、これ以外の支払い、例えば卸売場使用料のような支払いはない。
 もうひとつの主な理由は、民間資本と公的資本とが合わさることによって、柔軟かつ敏速な行動が可能になることである。というのは、公的資本だけとなると、当然、さまざまな規則によって行動が縛られるが、それだけではなく、時には議員の注文にも配慮しなければならないからである。
 ただし、公司が民間資本とともに公的資本を受け入れる場合、必ずしも良いことずくめではない。というのは、公的資本が入っている安心感から、集荷・販売両面で努力不足に陥る傾向が認められるからである。特に台北市の2卸売市場の場合、主要産地の多くが台湾最大の消費地である同市への出荷を強く望んでいるため、集荷面での台北農産運銷公司職員の努力不足は否定できないとのことである。

◆15のスーパーマーケットを経営する台北市卸売市場

 上述のように公司が開設者と卸売業者を兼ねていることが多いが、この公司は卸売業務についたまま、小売業務に進出することも可能である。1981年制定の農産品市場交易法(農産物市場取引法)は、出荷者と買受人の兼営を禁止しているものの(第20条)、卸売業者が小売業業務を営むことを禁止してはいないからである。
 台北市卸売市場の卸売業者でもある台北農産運銷公司は、小売業務に積極的に進出している代表例といえる。同公司は、現在、台北市内に12のスーパーマーケットと、周辺都市(中和市、新店市、板橋市)に3つのスーパーマーケットを所有している。スーパーマーケットが台湾で展開することになったきっかけは、1970年代から80年代にかけて台北市政府などが流通近代化の一環としてその展開を強力に押し進めたからであったが、同公司はその意を受けて、積極的な経営方針の下、スーパーマーケットの発展に尽くし、数年前には21店舗を擁したほどであった(その後、不採算店を閉鎖)。
 台北農産運銷公司が擁するスーパーマーケットの総売上高は、年によって変動しているものの、年間で25億〜35億NT$(台湾ドル)(100億〜140億円)に達している。このうちのほぼ85%が食品の売上高で20億〜30億NT$(80億〜120億円)、そして食品売上高の20%弱が青果物で3億〜5億NT$(12億〜20億円)である。
 その青果物の仕入れは、通常は台北農産運銷公司が経営する供給センターが行う(同センターは台北市第1卸売市場から仕入れることができる承銷人の資格を得ている)。卸売市場からの仕入れと卸売市場以外からの仕入れとがあるが、両方とも供給センターが行い、さらに各店舗への配送も行っているのである。また、卸売市場や産地から一部の店舗に荷を直接配送する際も、商流は供給センター経由で行われている(ごく最近、4店舗において物流と商流の両方とも店舗と産地が直結する取引方式が試験的に始められた)。

◆市場仕入率が低い大規模小売店

 卸売市場と卸売市場以外からの仕入れ比率は、台北農産運銷公司が経営するスーパーマーケットの場合、おおよそ4対6である。日本のスーパーマーケットに比べると、卸売市場からの仕入れ比率は決して高くはないが、台湾内の他のスーパーマーケットと比べると、かなり高いといえる。というのは、冒頭で触れたように、最近の卸売市場経由率は40%を下回っているが、都市部の一般小売店の多くが100%近くを卸売市場から仕入れていることを考えると、大半のスーパーマーケットやデパートの卸売市場仕入れ比率は20〜30%、あるいはこれ以下と推測されるからである。
 台湾においてスーパーマーケットのような大規模小売店の卸売市場仕入れ比率が全般に低いのは、主に次のような3つの理由によるものと思われる。
 (1) 台湾では産地と消費地が比較的近く、産直が比較的容易である。
 (2) スーパーマーケットやデパートが取り扱う青果物の多くはきれいに包装してあるが、卸売市場経由の青果物の場合、厳選した青果物や包装した青果物がまだ少ない。
 (3) 台湾でもスーパーマーケットやデパートが有機野菜等の差異化商品を取り扱う割合が高まっているが、そうした商品を入手するには産地との連携・提携が必要である。
 このようなことから一般のスーパーマーケットなどの大規模小売店の卸売市場仕入れ比率が低いことを考慮すると、台北農産運銷公司が卸売市場仕入れ比率の相対的に高いスーパーマーケットを経営していることは、同公司の卸売市場の取扱高の増加にも寄与しているといえる。ただし、相対的に高いとはいっても40%程度にとどまっていることをみる限り、卸売市場側のスーパーマーケット対策、すなわち包装加工対策、差異化商品対策等が不十分であることも明らかであるといわざるを得ない。

◆買い手はすべて承銷人

 台北農産運銷公司が経営するスーパーマーケット(供給センター)が台北市卸売市場から仕入れる数量と金額は、15店舗の合計だけにかなり大きなものではあるが、それでも卸売市場の総卸売額に占める比率は1〜2%程度にすぎない。このことは、当然、卸売市場における買い受け人が相当の数にのぼることを意味している。事実、台北市第1卸売市場で約1800人、第2卸売市場で500人以上である。
 これらの買い受け人は台湾ではすべて「承銷人」と呼ばれているが、大きく2つの種類に分けることができる。その一つは、卸売市場内に店舗を構えている承銷人で、「仲卸商」とも呼ばれている(日本の仲卸業者に相当する)。台北市第1卸売市場の場合、表2に示したように、この種の承銷人(同表の「承銷人・A」)は、現在、野菜部と果実部の合計で1015人、第2卸売市場の場合は224人である。

表2 台北市卸売市場における承銷人の種類と数

 

承銷人・A

(場内店舗あり)

承銷人・B

(場内店舗無し)

台北市第1卸売市場

野菜部

  598 人

   601 

  1,199 人

果実部

    417 人

    177 人

    594 人

  1,015 人

    778 人

  1,793 人

台北市第2卸売市場

野菜部

    125 人

    166 人

   291 人

果実部

     99 人

    140 人

    239 人

    224 人

    306 人

    530 人

  出所)表1に同じ。

  注)承銷人・A:卸売市場内に店舗を構えている承銷人。

    承銷人・B:卸売市場内に店舗を構えていない承銷人。


 もうひとつは、卸売市場内に店舗を構えておらず、卸売市場外に店舗を有する承銷人である(日本の売買参加者に相当する)。この種の承銷人(表2の「承銷人・B」)は第1卸売市場で778人、第2卸売市場で306人である。
 これらの承銷人の中には、現在の台北市第1卸売市場が1975年に設立される以前の旧卸売市場で活動していたものもいるが、その設立後に新たに認められたものも少なくない。新たに認める場合の資格条件は、以下の3点である。
 (1) 台北市政府等から小売業の許可を得ていること。ただし、ここでの小売業とは行商のような無店舗小売業ではなく、小売市場のブースや独立店舗などのような店舗施設の中で営むことができる小売業である。
 (2) 不動産所有権証書を担保として台北農産運銷公司に提出すること、または保証人を立てること。
 (3) 買い受け高の2日分に相当する保証金を同公司に現金で預けること(仕入れ代金が3日目払いのため)。この保証金は現在、承銷人1人当たり平均で約6万元、日本円で20数万円である(保証金の利子収入は同公司の収入になる)。
 ちなみに、「仲卸商」とも呼ばれる承銷人は、そのほとんどが旧市場時代から活動していた人びとである。彼らが新市場に移る際には、悪徳商人を排除するため、台北市政府から厳格な審査を受けたが、入場後は売場使用料ないし市場施設使用料のようなものについてはなんらの徴収も受けていない(ただし、後述するように、取引手数料3%の半分と、場内運搬費を支払わねばならない)。

4 セリ中心に相対を併用――取引の流れからみた特徴と問題点

◆共同輸送としての生産者組織出荷

 生産者から消費者にいたる取引の流れをみると、卸売市場によって違いがあるが、もっとも大きな相違点は大規模消費地市場と産地市場(または小規模な消費地市場)との間にみられる。それは大規模消費地市場では通常、出荷者(生産者等)と承銷人(小売業者等)との間に卸売業者が介在するのに対し、産地市場(または小規模消費地市場)では大半の荷が出荷者と小売業者の間で直接に取り引きされることである。なお、産地市場とはいっても、大産地内や周辺に位置する卸売市場という意味で、必ずしも消費地市場への転送を主な機能とする卸売市場ということではない。
 こうした違いがあることから、すべての卸売市場をひとくくりにして流通チャネルの図を描くことができない。そこで図1では大規模卸売市場の代表である台北市卸売市場(第1市場と第2市場を一括)を取り上げて、同市場を核とする流通チャネルの概要を示した。

台北卸売市場経由の青果物流通チャネルの概要


 同図から明らかなように、出荷段階においては生産者や輸入業者が卸売市場に直接出荷する場合と、農会、青果運銷合作社、農業生産合作社等の生産者組織、あるいは産地商人を経由して出荷する場合とがある。特に台北市卸売市場の場合は、他の卸売市場に比べると、生産者組織からの出荷比率が断然高い。同図にあるように生産者個人からの出荷比率がたった9%であるのに対し、生産者組織からの出荷比率は56%に達しているのである。ちなみに、同卸売市場への出荷量は台湾内の生産・出荷量の12〜15%といわれているが、生産者組織による同卸売市場向け出荷量は生産者組織の総出荷量の80%前後にのぼるとみられている。
 しかし、生産者組織による出荷とはいえ、それは必ずしも共選品の出荷を意味するわけではない。台北市卸売市場での聞き取りによれば、現在、600弱の生産者組織から荷を受けているが、その中で共選を行っているのはわずかに5組織にすぎないとのことであった。したがって、生産者組織による共同出荷のほとんどは個選物の共同輸送にほかならないといえる。
 産地市場や小規模な消費地市場はもとより、台湾で最大規模の台北市卸売市場においてさえ、このように共選物の比率が低いことは、先にも触れたように、多数のスーパーマーケット等が卸売市場外からの仕入れに走る大きな要因にほかならない。

◆台北市卸売市場が価格形成―インターネットで価格を公表

 卸売市場での取引方法をみると、生産者や生産者組織などから卸売業者が荷を受ける時は、特別なことがない限り、委託方式である。買付が行われることはほとんどない。が、販売に当たっては、セリと相対とが行われている。青果物市場だけに限っても、産地市場や小規模な消費地市場のように、出荷者(主に生産者)と承銷人(小売業者等)とが直接に取り引きしている卸売市場では、当然、セリは行われず、相対方式だけでの取引であるものの、台北市の2卸売市場と花蓮市卸売市場はセリ中心で、三重市卸売市場、台中市卸売市場、台南市卸売市場等の17市場ではセリ、相対の併用である。
 しかし、セリか相対のいずれであったとしても、ほとんどの卸売市場は独自の価格形成機能を持っているとはいい難い。厳格な意味で価格を形成しているといえるのは、台北市卸売市場、とりわけ台北市第1卸売市場であるとみてまず間違いない。その理由としては台湾全域から出荷が同卸売市場に集中することもあるが、それだけではない。
 同卸売市場ではセリが午前3時半から始められ、ほぼ6時半ごろ終了する。セリ取引の割合は野菜が90%、果実が85%である。残りは相対であるが、これは一種の契約取引として行われ、出荷者側の意向も重視される。これらの取引がすべて終了する10時以降、品目別の価格等がインターネットで公表されるのである。これは誰もがみることができるし、さらに出荷者は自分のパスワードを使って各自の詳細な価格を知ることもできる。
 したがって、台北市卸売市場以外の卸売市場の場合は、卸売業者も、また承銷人も台北市卸売市場の価格を参考にせざるを得ないのである。しかも、農産品市場交易法の第25条によって、出荷者側が最低の成約価格を指定できると認められているため、多くの卸売市場では仮にセリであっても各卸売市場ごとの日々の需給状況だけで価格を決めることができないのである。
 なお、セリであれ、相対であれ、委託品については、台北市卸売市場では台北農産運銷公司(卸売業者)が3%の手数料を徴収しているが(手数料率は卸売市場によって異なるが、3%あるいは5%の卸売市場が最も多い)、1982年の農産品批発市場管理辧法の制定以降は、出荷者と承銷人の双方から折半で徴収している。また、同公司は出荷者、承銷人の双方に対し、出荷奨励金や完納奨励金といった奨励金の支出は行わず、出荷額の多い出荷者や、買い受け額の多い承銷人の中から特定の人数を選定し、年間100万元(400万円)の予算内で日本などの先進地域の視察に招待している。

◆卸売市場内の荷役担う送貨工

 最後に、卸売市場内での荷の受け渡し過程をみると、ここで活躍しているのが送貨工(場内での荷の運搬を担当する人)である。産地から到着したトラックからの荷おろしと売場での陳列は、トラックの運転手らと台北農産運銷公司の職員とで行うが、セリ後の運搬は送貨工が担当するのである。台北市第1卸売市場だけでも、送貨工は560名ほどにのぼっている。
 送貨工は承銷人または買出人の支持を受けて、セリ場から、あるいは仲卸店舗から指定された場所まで運搬するが、料金は重量で決められている。1梱包・1ケース当たり25kg以上の物の場合は7NT$(30円弱)、25kg未満の場合は5NT$(20円)である。
 この料金の支払者は承銷人または買出人である。承銷人が送貨工に指示して場内の特定の場所へ運ぶときは、当然、承銷人が支払うし、承銷人の場内店舗から買出人の指示する場所まで運ぶときは、承銷人か買出人のいずれかが支払う。もちろん、自店舗からの運搬については、送貨工を使わずに、承銷人が自ら行うこともある。
 この場内運搬料は合計すると、台北市第1卸売市場だけでおおよそ1億5000万〜2億1000万NT$(6億〜8億円)、第2卸売市場も合わせると1億9000万〜2億6000万NT$(8億〜10億円)にのぼる。これは卸売額のほぼ1.5〜2%に相当する。

5 おわりに

 以上、台湾における卸売市場流通システムの特徴を台北市第1卸売市場を中心に紹介した。その中で指摘したように、台北農産運銷公司が民間資本と公的資本とによって構成されたことによって、小資本で大規模施設を利用できるなどのメリットがもたらされたといえるが、逆に競争が激しくなってくると、柔軟な対応が遅れるといったようなデメリットが強まるようでもある。それが最近におけるスーパー店舗数の減少に現れているように思われる。
 したがって、同公司の幹部もいわれるように、公的資本がかかわっている卸売市場にあっても、今後は民間資本をより増やし、民間活力を積極的に活用する方法で競争に打ち勝つような態勢を強めることが求められることになろう。

(2003.9.22)


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