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シリーズ コメ卸から見た流通最前線 ―― 1

緊急米対策−卸業界の反応
対策の「確実」な実行こそ異常事態からの脱却の道

◆早ければ年明け早々に”下げ止まり感”

コメの価格を決めているのは今や量販店や業務筋。 米価の値上げは消費者の理解が得られなければ難 しい。

 「今回の緊急総合米対策は、カネの使い方としてはいわゆるバラ撒き型であり好ましいとは思えないが、問題を価格面だけに絞って考えると、なかなかおもしろい。年内(10〜12月)は安い計画外流通米の影響などもあって12年産自主米価格の下落が完全に止まるとは言えないが、年明け以降にはボディブローとして効果がジワジワ発生。早ければ年明け早々には“下げ止まり感”が出てくると思われる。産地銘柄などによっては来春(3・4月)以降を目途に価格が若干ながら反発、値上がりに転じる事例がないとは言えないだろう」(関西の大手主要卸)。

 政府は9月末に緊急総合米対策を決定したが、この対策に対する各米卸の見方は概ね前述の関西の大手主要卸の見解で言い尽くされていると思われる。
 @12年産米の作況を9月15日現在の103のままだと仮定した場合、12年産米の生産量は945万・程度になる(12年産米の10a当たり平均収穫量534kg×12年産米の作付面積176万8000ha)、Aこれから12年産政府米買入れ数量の40万tと、これから全農が行うことになると見られる25万t程度の12年産自主米の市場隔離を差し引くと、12年産米の供給量は880万t程度にとどまり、B米の年間需要量である930万tを、50万tは下回る格好になる、Cこれに売れ残った11年産自主米など20〜30万tが販売されるとしても、13米穀年度の政府米販売数量が12米穀年度の20万t程度にとどまると仮定すれば、古米を含めた実質的な供給量と需要量がちょうど一致、Dタイト感がある需給になる可能性がある、E全体の実質的な需給がタイトになれば、例えば今年の12年産米で品質などが良くて売れ行きが良かった産地銘柄は後半戦で不足気味になることも考えられる――からだ。

 ただ、だからと言って12年産自主米の仕入れを強化、在庫の積み増しを慌てて行おうとしている米卸は現段階ではほとんどないのが実情。「価格が安定する可能性がある」とする見解と矛盾するようだが、この12年産価格の安定を成功させるには「いくつかの条件が達成されることが前提になり、その先行きが現時点では不透明である」(関西の大手主要卸)ことが理由。

◆全農の25万tの市場隔離が1つのカギ

 前提条件のひとつになってくると思われるのは、全農による12年産自主米25万t程度の確実な市場隔離の実施。なぜなら、今回こそ「隔離効果が高い自主流通法人による一元的な調整保管を実施する」と対策の中でも明記されているが、ここ2〜3年は当初計画していた市場隔離を100%行うには至らず、毎度のように全農による市場隔離が尻抜けになってきていた(例えば30万tの隔離を計画しても、最終的な隔離数量が20万tに減っていたという意味)。このため今回、本当に25万t程度の市場隔離を確実に行えるのかどうか、各米卸ともに「半信半疑」であるのが実態のようだ。

 13米穀年度の政府米販売方針が、多少ながら変わってくると見られることも一因。@今回の緊急総合米対策の中身をよく読んでみると、これまで行われてきた食糧庁と全農による「協調販売の実施」という文言がどこにもない、A協調販売という言葉が削除されたからといって、食糧庁が極端に政府米販売価格を下げるなどの対応を行うとは考えにくいが、B少なくとも12米穀年度までは実施していた自主米と競合するような年産・銘柄の政府米販売を中止する販売凍結は原則中止してくる可能性がある――からだ(ちなみに12米穀年度では、本来なら売れ筋になるだろう8年産の岩手あきたこまち1万8052t、宮城ササニシキ1万9568t、秋田あきたこまち1万2420t、茨城キヌヒカリ2962t、三重コシヒカリ1337t、福岡ヒノヒカリ4864t、佐賀ヒノヒカリ3812t、大分ヒノヒカリ3816tなど合計30万tの販売が止められていた)。

 もちろん8年産政府米の販売凍結を解除したからといって、例えば現在1〜5類平均で60kg14,100円程度である販売価格を古米化の進行を考えつつ、今の7年産政府米と同水準である12,900円程度に下げるのが精一杯と推定され、政府米販売が米価下落の大きな要因になるようなことはもはやあり得ないと見るのが常識的なところだが、展開が十分に見えない限り買う側の米卸としては様子見を続けるしかないということになる。

◆米卸は当面様子見を続行

 米卸では、この他にも不安定要因があると指摘する。@今回の対策では13年産米の生産調整面積を現行の96.3万ha比25万t分(約5万ha)拡大、Aこの見返り条件として、減反拡大分に限定して稲の青刈り(子実前刈取り)やホールクロップサイレージ(稲発酵粗飼料)などの転作助成金を大幅に上乗せすることや、減反上乗せを行った都道府県などの稲作経営安定対策の補てん基準価格を12年産同水準で据え置くことなどが決まったが、Bこれ以上の減反拡大に対する生産現場の限界感は相当高いと思われ、一体どこまで実行出来るのか疑問が残る、Cしたがって、仮に今回の減反上乗せ分を達成出来なかった場合、当然の事ながら来年の13年産の新米需給が現在の見通しよりも緩む形になってくる(13年産の新米供給がそこそこあるのなら、今年の12年産自主米を無理に抱えなくても良いだろうとの発想に繋がってしまう)、Dまた、さらに言えば、食糧庁が特例分として買入れた12年産政府米25万tは、「生産調整が未達成なら、減反目標を達成できなかった経済連が買い戻す」ことになっており、これも全体需給がダブつく原因になってくる――ことになる。

 つまり、各米卸ともに米価が安定する事は期待しているが、全農による25万tの12年産自主米の市場隔離、13米穀年度の政府米販売方針の在り方、13年産米の減反の達成状況などによっては今回の対策の効果が減殺される可能性がある。このため当面は様子見を続行、12年産自主米の仕入れも、効果発揮が明確になってくるまでは従来通りの当用買 いにとどめるとしていることがに留意しておく必要もある。

◆緊急対策の複雑さ 速効性をスポイル

 また、今回の対策は「総合的」な対応であることを売り物にしているが、この複雑さが逆に市場へのメッセージ性を薄くし、速効性をスポイルする格好になっているとも言える。
 前述の関西の大手主要卸では「今年の12年産自主米価格の動向がどうなるのかは、全中・全農のお手並み拝見というのが正直な感想。政府米販売の在り方を除けば、いずれも全中・全農が各都道府県の経済連や農協、ひいては農家をいかに説得できるかにかかっている事柄であるからだ。ごく一部の計画外流通米を別にすれば、計画外流通米の相場も13,000円台半ばから後半が底値になってきており、価格安定の基本的な環境は整ってきている。米価の下落は流通業者としてもマージンの減少に繋がる事を勘案すれば、各種対策がうまく機能して、年明けには12年産価格が安定することを願っているのが本音だ」と話している。

◆消費者の理解なしに値上げは難しい

 一方、「コメの価格を決めているのは今や量販店や業務筋で、更に言えば消費者がいくらでコメを買ってくれるのかが重要であり、消費者の理解を得られない限り米価の値上げは難しいのが実情。そう考えた場合、今回の対策は余りにも複雑、かつ玄人好みする内容であり、一般の消費者で対策の中身を知り得ている人は1億数千人の人口中、1人もいないのではないか」(関東の大手主要卸)との意見もあった。


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