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シリーズ コメ卸から見た流通最前線 ―― 3

「在庫で儲ける」時代は終わった
需給の先行きが読めない
売れるコメだけを堅実に仕入れる

◆あまりにも不透明要素が多すぎる

 「食糧庁や全農が様々な需給対策を発動してこようが、その結果、新米の需給が多少締まり気味になってこようがコメの市場は最早2〜3年前までのようには反応しないのではないか。価格が上がったら上がったで、その時に考えれば良い。相場の先高(反転)を見込んで在庫を積み増すようなことは各卸ともにほとんどしないだろう。需給や相場の先行きを読んで、安いうちに買ったコメを値上がりしてから売り、その差益を儲けるというのが各卸の仕入れ担当者の腕の見せ所だったが、良くも悪くもそういう昔気質の相場師、コメのプロの時代は終わったのだ。今は可能な限り相場変動による在庫差損のリスクを回避して、売れる(食味、価格の)コメだけを堅実に仕入れて販売していく時世に変わった」。

 12年産第7回自主米入札(1月26日実施)では全体の落札加重平均価格が1万5847円と前回の第6回入札(1万5831円)に比べて16円反発。例えば青森ゆめあかりが前回指標価格比179円高の1万4557円、北海道きららが同14円高の1万3811円、新潟魚沼コシヒカリも122円高の2万3198円になるなど、いわゆるスソ物銘柄とトップブランドが揃って反転基調に突入し、久し振りに相場に強弱が付く格好になってきたが、関東のある大手主要卸の関係者は開口一番、そう答え、今後とも在庫の積み増しを行わず当用買いを続けていく考えを強調した。
 何故なのか?その背景にはコメ販売や価格決定の主導権を量販店や業務筋が掌握し、流通の中間に位置する卸が安易にコメの価格を値上げできなくなってきたこともさることながら、「余りにも不透明要素が多すぎる」ことがある。

 12年産自主米価格の動向については、@昨秋の緊急需給対策で打ち出された12年産64万トン(エサ米処理15万トン、13年産の生産調整拡大の見返り分の特例買入れ25万トン、特別調整保管24万トン)の市場隔離を確実に実施できるか?A64万トンの隔離を行っても12年産主食うるち米(自主米)の供給数量は11年産自主米の12米穀年度末までの販売実績である343万トンを14万トン程度上回る357万トン程度になる見込みであり、この増加分の「14万トンの借金」を本当に消化仕切れるのか?ーの2点が大きな焦点になっていた(12年産自主米の357万トンは、12年産集荷見込み数量485万トンー64万tの市場隔離ー加工用米24万トンーモチ米15万トンー酒米25万トンで試算)。

 これに対して@全農分の12年産自主米販売は、今年1月末現在までの累計で11年産自主米同期(104万トン弱)比10万トン増の113〜114万トンを記録、Aこの結果、2月以降の12年産自主米の販売残数量は243〜244万トン)となり、供給量が増えた分の「14万トンの借金」はほぼ返済し、11年産自主米の昨年2月〜同10月までの販売実績(239万トン弱)比3〜4万トン多い程度まで追い込んできたB更に卸段階の昨年12月末現在の流通在庫が、一昨年同期(41万トン弱)比11万トン程度少ない30万トン弱程度まで減少していることを勘案すると、各卸が手持ち玉を取り崩す余裕は余りなく、12年産自主米の全体需給はかなりタイトな状況に突入、C例えば昨年を上回る販売ペースが続いている宮城のひとめぼれ等の需給が今年4月以降、スソ物銘柄に続いて締まってきてもおかしくない情勢になってきたのが実情と思われる。

◆米価の再度下落で差損の危険性も

 しかしながら、以上の推察はあくまでも基本的な項目に基づく見込みに過ぎず、この他にも、@13米穀年度(昨年11月〜今年10月)の政府米販売数量A小売り段階の流通在庫の変動B12年産計画外米流通数量C次の新米である13年産政府米の買入れ数量ーなどの「不透明要素」が存在。
 例えば、12年産計画外米流通数量(農家消費等を含む)は464万トン(12年産生産量949万トンー12年産集荷見込み数量485万トン)で、11年産(446万トン)に比べて18万トン増えているが、この18万トンが従来の販売業者のコメ販売市場を浸食していると見なした場合、先程の12年産自主米需給の見通しが悪化することになるからだ。

 また、@13米穀年度の需給見通し通り45万トンの政府米を販売することを目指して食糧庁が4月以降、8年産政府米の販売価格(現在は長期安定契約価格で1万3500円)の値下げに踏み切るだろうとの噂が各卸では「確信に近い情報」として流布しており、政府米販売数量が12米穀年度の20万トン弱を上回った場合、これも12年産需給の足を引っ張る要因になりかねないA食糧庁は昨年12月に政府米の買入れ・販売手法を総合的に見直す事を狙って備蓄運営研究会を設立したが、同研究会が仮に現在150万トンプラス・マイナス50万トンとしている適正在庫水準の下方修正を打ち出した場合、自動的に13年産の政府米買入れ数量の削減に繋がる恐れもある(政府米の買入れ数量減は13年産自主米の供給量増を意味し、生産調整面積の拡大効果を相殺する可能性もある)B特に政府米に絡む問題は食糧庁と農業団体の綱引きの部分があり、どう転ぶのか読みようがないーからだ。

 つまり、@確かに1月末現在までの12年産自主米販売の動向などの基本部分だけから判断すると、今後ジワジワと需給が締まってくる可能性はあるが、A計画外米や政府米などを巡る情勢の部分で余りにも不透明要素が残り過ぎており、B12年産自主米価格の反転を見込んで下手に在庫の積み増しを行うと米価が再度下落。膨大な差損を発生させる危険性がある(近年の米価低迷や販売競争の激化で各卸の体力が弱っていることを勘案すると、仕入れの失敗は会社の倒産に繋がりかねない)Cそれであるならば無理をしないで、当用買いを続けた方が無難であるとの判断に各卸が傾斜。従来のように単純には需給対策による価格安定効果(反発バネ)が作用しない状況になってきているーことがポイント。

◆業界の「体質転換」が進んだ象徴か

 こうした情勢について、関西のある大手主要卸では次の通り述べている。
 「今回の事態は、コメ販売業界の『体質転換』が進んできたことの象徴と思われる。@当初は24万トンの特別調整保管による産地銘柄別の隔離作業を昨年末までに計画になっていたのに依然、具体的な内容が決まらず、市場に対するシグナルの発信が遅れていることが全体の米価安定の足を引っ張っている側面があるため、本当に政府米などの不透明要素が原因で反発バネが作用しにくくなってきたとは断定できない部分もあるが、A少なくとも3年ほど前までの各卸ならば、新米需給がここまでトントンの状況になってきた場合、相場の反発を見込んで在庫積み増しに突入していたーからだ。
 また、この体質転換をどう評価するのかは関係者の視点次第だろう。@国や農業団体が需給対策を発動しても市場は反応しないのだから、米価の反発という意味では苦戦。米価低迷に頭を痛めている生産現場などから見ると危惧すべき事態かも知れないAしかし、卸 の思惑も絡んで米価が急騰するような状況は回避。米価の通年的な安定に近付くという面では消費者から支持されると思うーからだ」。

 また、関東のある卸関係者は「国の権威失墜」が反発バネ不発の一因になったと指摘する。  「コメのプロは、食糧庁や全農の方針がある程度、一致。その動向を先読みする事で成り立っていた。
 しかし、@食糧庁も財政的に余裕がなくなってきた事から、近年は政府米や豊作分の過剰米処理などで両者の綱引きが激化、Aその時その時の政治情勢などに政策内容が左右されるようになってきた(新たな米政策の方向は変わらないが、政策内容に振幅、揺り戻し がでてきたとの意味)B今回も昨秋の需給対策の発動以来、政治的な要請もあり食糧庁側が12年産自主米価格の安定をことあるごとに内外で表明しているが、Cタイミングを見て8年産政府米の値下げや、政府米在庫を減らすための買入れ数量の制限などを食糧庁が進める可能性があるのが実情と思われるーからだ。
 もちろん政府米在庫が減れば市場に対する在庫圧力も軽減、中長期的には米価を下支えする事にはなるのだから、米価安定の方針が首尾一貫していないというのは語弊があるかも知れない。ただ、政治情勢に応じて政策内容がブレる恐れがある事が近年のコメ対策の特徴だとすると、需給の先行きを読むには危険すぎるのが実態だろう。
 相場を読むコメのプロは、国の権威があったから成り立ったのであり、国の権威失墜とともにコメのプロの時代も終わったというと言いすぎだろうか」。



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