農業協同組合新聞 JACOM
   
田中 稔一
日本肥料アンモニア協会 会長
各界から新年のご挨拶
農業のニーズを的確に捉え高機能品の研究開発に注力

田中 稔一氏

 新年を迎え、謹んでご挨拶申し上げます。
 昨年を振り返りますと、わが国経済は、バブル景気が底を打ち、ゆるやかな上昇に転じた2002年2月から景気拡張期間に入り、昨年11月で58か月となり、「バブル景気の51か月」、「いざなぎ景気の57か月」を超え、戦後最長を記録いたしました。
 ただこれを支えたのは中国、米国向けなどの輸出増と、設備投資増で国内消費は労働賃金の抑制もあり、個人消費は伸び悩み、全体的には景気回復の実感に乏しく、業種によりバラツキが大きいように思えます。株価の動きも一進一退で力強さに欠け、好景気を反映した相場とはほど遠い感じがいたしました。
 また、政治的には5年間続いた小泉政権から初の戦後生まれの安倍政権へバトンタッチされましたが、政策的には小泉政治を引き継いでおり、国内的には概ね平穏な1年であったかと思います。
 一方、国際情勢はさらに混迷を深めた1年となりました。
 北朝鮮のテポドンなどのミサイルの乱射に続く、地下核実験の強行は世界各国から非難を浴び、国連による制裁決議へと発展いたしました。
 また、中東では、毎日のようにテロが発生しているイラク国内紛争の泥沼化、イスラエルとパレスチナの終わりなき憎悪の増幅など、事態は一向に治まる気配は見られません。世界各地において緊張が日々高まってきております。
 米国中間選挙におけるブッシュ政権の敗北による影響も計り知れません。
 他方、わが業界に目を転じれば、景気回復の実感は乏しく、相変わらずの原料高の製品安と需要減少に苦悩した1年でありました。
 特に肥料は原油、ナフサ、リン鉱石、リン安、カリなどの主要原燃料の輸入価格が高止まりの中、国内販売価格はわが国農業の厳しさもあり、18肥価格も引き続き最小限度の上げ幅に抑えられました。
 さて、わが業界を取り巻く環境は依然として厳しく、難問が山積しており、その舵取りは困難が予想されます。
 一昨年、協会として、有識者の方に委員をお願いし「協会事業に関する提言委員会」を設置、半年以上を費やし検討の結果、「日本農業の今後と肥料工業の在り方」、「今後の協会事業」について答申を受けました。
 その中で、特に
1)消費者指向・生産者動向の変化に伴うニーズの的確な把握と対応をすること
2)肥料需要の予測と企業合理化判断をすること
3)肥料事業収支と国産供給基盤の維持努力をすること
4)肥料原料の確保策を講ずること
5)環境対策
6)情報の受発信や広報活動を推進すること
などの問題提起を受けております。
 いずれも重要な課題で、個別企業が独自に判断する問題もありますが、協会としても積極的に取組み、できることから一つずつ実践して行きたいと思っております。
 この中の、1)項に関連の、「農家アンケート調査の実施」、6)項に関連の
「広報誌の発行」、「消費者団体等との情報交換」については既に具体的行動を起こしており、「ホームページの充実」などについても今年度中に実施する予定であります。また、5)項の環境対策については技術・環境委員会を中心に日常業務の中できめ細かに対応しております。
 肥料の主要な原料であるリン鉱石、塩化カリなどは特定国に偏在しており、昨今の国際市況の上昇にメーカー各社は苦慮しておりますが、4)項の「肥料原料の確保」に関連する最近の注目すべき動きとして中国政府の資源確保優先政策の影響が挙げられます。
 中国は経済成長が著しく資源需要の急増に対し、「増値税還付の取り消し」や「加工貿易禁止目録への追加策」を打出していましたが昨年11月、資源の確保優先政策の盛り込まれた「輸出関税制度の拡充(品目追加、税率アップ)と輸入関税の引き下げ」が施行されました。
 輸出関税が新たに10%課せられた品目の中にわが国が輸入量の50%依存しているリン鉱石も含まれており、資源を持たないわが国の原料の安定確保は一段と厳しさが増してきた感がいたします。
 日本農業を巡る環境は再三指摘されている通り、大変厳しいものがあります。政府も、農業生産基盤の強化、平成27年度の食料自給率を45%へ引き上げることなどを目指し、中核農家育成へ施策を集中しております。
 政府は農業基盤の強化を図るため、次々と斬新な施策を講じておりますが、その効果が現れるのにはまだまだ時間を要するかと思います。また、昨年12月交渉入りが決定した日豪EPA(経済連携協定)交渉の行方も大いに懸念されます。
 日本農業のこれ以上の衰退や、食料をこれ以上海外に依存することは食料安保上、大きな問題であると思われます。世界の人口はまだ当分の間増え続けると思いますが、これに対し、世界の食料生産能力は、地球温暖化、砂漠化、農業用水の確保等々のマイナス要因も抱え、生産力のアップはあまり期待できない環境にあります。
 農産物も、原油のように、売り手市場になる日が遠からず訪れるでしょう。
 日本は世界一の食料輸入国です。また、日本は農業に適した風土を持っています。いざというときに備え、足腰の強い農業生産基盤を国内に確立することが急がれていると思います。
 肥料メーカー各社は工場の一部閉鎖やOEM、肥料部門の分社化などの合理化で凌いできましたが、昨今は事業収支の改善と供給基盤の強化をはかるため、肥料メーカー同士の事業統合が発表されるに到っております。
 事業統合(合併)により生き残りを賭ける、厳しい時代に突入したわけです。
私ども肥料業界は、日本農業の発展があってはじめて成長が期待できます。
 言い換えますと「日本農業が存続、活性化するためには日本農業を熟知している日本の肥料工業の存続、活性化が不可欠である」と自負しているところであります。
 以上の通り、農業も肥料工業も課題が山積みしておりますが、この難局を乗り切るためには農業関係者、肥料関係者が一致協力し、叡智を結集することが重要かと思います。
 我々は今後とも、足腰の強い日本農業の再生のために、日本農業の必要性や重要性を広く訴えていくとともに、新たな農業のニーズを的確に把握・対応し、さらなる合理化や高機能肥料の研究開発などを全力で推進していく覚悟であります。
 最後になりましたが、皆様方の本年のますますのご多幸、ご繁栄を祈念し新年のご挨拶とさせていただきます。

(2007.1.4)


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