農業協同組合新聞 JACOM
   
若林 正俊
農林水産大臣
各界から新年のご挨拶
攻めの姿勢で国民の信頼と支持を得られる農政を推進

若林 正俊氏

 明けましておめでとうございます。
 平成20年の輝かしい新春を迎え、皆様の御健勝をお祈りいたしますとともに、農林水産行政の責任者として、所感の一端を申し述べ、年頭の御挨拶とさせていただきます。
 私は、昨年8月1日、当時の安倍内閣において農林水産大臣を拝命し、福田内閣においても、大臣として引き続き農林水産行政を担っているところであります。私にとって農林水産行政は、農林水産省の職員として携わったことにはじまり、国会議員になってからも、参議院農林水産委員会の委員長を務めるなど一貫して取り組んできた政策分野であります。新年に当たり、任務の重大さを改めて認識し、初心に戻って、懸命に職務にまい進しようと、決意を新たにしているところであります。
 振り返れば、昨年は台風第4号や新潟県中越沖地震など、大きな災害に見舞われた年でした。被災された皆様に改めてお見舞い申し上げるとともに、お亡くなりになった皆様の御冥福を心からお祈り申し上げます。これらの災害では、農林水産関係においても各地で大きな影響が出ており、今後とも、被害を受けた農林漁業者の皆様への支援に引き続き取り組んでまいります。農林水産業は自然を相手にした営みであり、自然の力により大きな影響を受ける産業です。本年が、大きな自然災害がなく、豊かな自然の恩恵の下に実りの多い年となることを心から祈念しております。
 農林水産業と農山漁村は、食料の安定供給はもとより、国土や自然環境の保全、良好な景観の形成といった多面的機能の発揮を通じ、国民の暮らしにおいて重要な役割を担っています。農林水産業や農山漁村が持つ潜在能力を最大限に引き出すことは、地域を活性化し、豊かで安定した国民生活を実現するための基本であると考えております。
 現在、農林水産行政をめぐっては、新たな経営所得安定対策をはじめとした農政改革の円滑な実施、重要な局面を迎えているWTO交渉への的確な対応、食品の安全と消費者の信頼の確保、農山漁村地域の活性化など、内外にわたる政策課題が山積しております。
 農林水産行政がまさに一時の停滞も許されない状況にある中、これまでの経験を活かし、当面する以下の課題に全力で取り組んでまいります。
 第一に、食品の安全と消費者の信頼の確保です。
 国民の皆様の健康・生命の源は食であり、消費者の視点に立って、農場から食卓までを通じた食品の安全確保の取組みを進め、消費者の健康被害を未然に防止するための農林水産行政を展開するとともに、食品に対する消費者の信頼を確保することが、国の重要な責務であると考えます。
 昨年は、食品表示に対する消費者の信頼を揺るがすような事件が相次ぎました。このため、10月に「食品の信頼確保・向上対策推進本部」を設置したところです。また、12月には「生活安心プロジェクト・緊急に講ずる具体的な施策」が決定されたところであり、これに基づいて、「食品表示特別Gメン」の新設、業者間取引の表示義務付け、食品企業の法令遵守の徹底等により、消費者の信頼確保に努めてまいります。
 第二に、国内農業の体質強化です。
 農業・農村が活力を持ち続けることは、地域を再生し、安心できる豊かな国民生活を実現するための基本です。将来にわたり食料の安定供給を図っていくため、昨年4月から米や麦などの土地利用型農業を対象とした新たな経営所得安定対策などを導入し、意欲ある担い手を支援することにより力強い農業経営の育成に取り組んでいるところです。本対策については、制度の内容の普及・浸透が十分でないことによる不安やさまざまな要望が出されたことから、これらの要望を踏まえ、制度の基本は維持しつつ、地域の実態に即した所要の見直しを行ったところであり、その改善措置を着実に実施してまいります。また、小規模な農家も安心して集落営農に参加できるよう、支援を充実します。
 また、米の消費の減少、輸入に多くを依存している麦、大豆、飼料穀物等の国際需給・価格動向等を踏まえ、米の生産調整を確実に実行し、水田において自給率向上が必要な麦、大豆、飼料作物、非主食用米等の生産を着実に定着させる取組みを推進します。
 一方、農業の最も基礎的な生産基盤である農地については、その有効利用を促進する観点から、昨年11月に「農地政策の展開方向について」を取りまとめました。この方向に沿って、改革を順次具体化していきます。
 このほか、農林水産業と食品産業の連携強化や、生産・流通の各段階の改革のほか、農協の経済事業改革を進めることにより食料供給コストの縮減の取組みを強力に推進します。また、先端技術を活用した新たな技術体系や新食品・新素材の開発など、イノベーションを先導する技術の開発・普及を推進するほか、このような技術や植物新品種、ブランドなどの知的財産の戦略的な創造・保護・活用について、特許や商標制度を実施する経済産業省とも連携しつつ取組みを進め、農業の潜在的な力の発揮を図ります。
 第三に、農山漁村を守り、活性化する政策の推進です。
 農山漁村においては、人口の減少や高齢化などにより、その活力の低下が懸念されており、農山漁村の活性化を図ることが重要な課題となっております。
 このため、昨年11月に農山漁村集落の再生と地域経済の活性化を柱とする「農山漁村活性化のための戦略」を取りまとめたところです。地域のリーダーとなる人材の育成、祭りや伝統・文化などの保全・復活による新たな地域協働の形成、都市と農山漁村の交流などによる雇用の創出などを通じ、農山漁村の活性化を図ります。また、経済産業省とも連携をとりながら、「農林水産業と商業・工業等の産業間での連携促進」に取り組み、相乗効果が発揮されるよう、地域産品を活用した新商品の開発の支援などを図ってまいります。
 さらに、野生鳥獣による被害については、農林水産業のみならず、農山漁村に暮らす人々の生活にも深刻な影響を与えていることから、昨年12月に「鳥獣による農林水産業等に係る被害防止のための特別措置に関する法律」が成立したことを踏まえつつ、被害の広域化・深刻化に対応し、地域の実態に即した対策の充実・強化を図ります。
 第四に、食と農に関する施策の戦略的な取組みについてです。
 近年、世界の食料需給をめぐる状況は大きく変化しています。バイオ燃料需要の増加や異常気象の頻発などにより、需給はひっ迫の傾向を強めており、これによる農産物価格の大幅な上昇は、食料の多くを海外に依存している我が国国民の暮らしにも大きな影響を与えています。
 このような世界の食料事情の変化を踏まえ、どのように食料の安定供給を図っていくべきかについて、現在、私が主催する「食料の未来を描く戦略会議」において議論が続けられています。この議論の成果を、今後、国民向けのメッセージとして取りまとめていきたいと考えています。
 国民への食料の安定供給は、国内の農業生産の増大を図ることにより実現することが基本です。しかしながら、我が国の食料自給率は、平成18年度にはカロリーベースで39パーセントに低下しており、平成27年度までに45パーセントとする目標を達成するには、関係者が連携を強化し、危機感を持って取り組む必要があります。このため、食料自給率に大きく影響を与える米、飼料作物、油脂、野菜の重点品目について生産と消費の両面から集中的に対策を講じてまいります。
 次に、現在、重要な局面を迎えているWTO農業交渉については、食料輸入国としての我が国の主張が出来る限り反映された成果が得られるよう、最大限の努力を行ってまいります。一方、日豪をはじめとしたEPA交渉については、WTOを中心とする多国間貿易体制を補完する貿易促進の手段として、国内農業の構造改革の進捗状況にも留意しつつ、「守るべきもの」はしっかり「守る」との方針の下で、日本として最大限の利益を得られるよう、政府一体となって取り組んでまいります。
 我が国の農林水産物や食品の輸出促進については、中国へ輸出された第一便の日本産米が昨年7月下旬に販売され、好評を博したところであり、12月には私自ら中国に赴き、李検験検疫総局長と会談し、恒常的輸出に向けた検疫問題について本年3月までに解決すること及び解決までの間150トンまで輸出できる暫定措置について合意したところです。今後とも平成25年までに輸出額を1兆円規模にするという目標の達成に向け、輸出環境の整備、品目別の戦略的な取組み、日本食・日本食材の海外への情報発信等に重点的に取り組みます。
 第五に、地球環境保全に対する貢献です。
 地球温暖化の進行による農業生産への影響が懸念されるなど、地球環境問題は農林水産業と密接に関連しております。農林水産省としても、北海道洞爺湖サミットの開催に向けて、地球温暖化対策をはじめとした資源・環境対策に積極的に取り組んでまいります。
 まず、京都議定書における温室効果ガスの削減目標達成のため、「美しいもり森林づくり」を国民的な運動として展開し、間伐をはじめとした森林の整備・保全等の加速化を図り、森林吸収源対策を着実に進めてまいります。
 また、バイオマスの利活用は、地球温暖化防止のみならず、地域の活性化や雇用につながるとともに、農林水産業の新たな領域を開拓するものであります。食料及び飼料の安定供給に支障が生じないよう配慮しつつ、国産バイオ燃料の大幅な生産拡大に向け、平成20年度からバイオ燃料エタノール混合ガソリンに係るガソリン税の減免措置及びバイオ燃料製造設備に係る固定資産税の特例措置を創設いたします。さらに、農林漁業者とバイオ燃料製造業者の連携強化による低コストでの安定供給に向けた仕組みを構築します。
 第六に、森林・林業政策の推進です。
 我が国の国土の3分の2を占める森林は、地球温暖化の防止のほか、水源のかん養、国土の保全など多様な機能を有する「緑の社会資本」であります。このような森林の恩恵を将来にわたって享受できるよう、森林・林業基本計画に基づき、国民のニーズを捉えた多様で健全なもり森林づくり、森林施業の集約化・機械化によるコスト削減、市場ニーズに対応した木材製品の安定供給体制の確立による国産材の利用拡大を進め、林業・木材産業の再生を図ります。また、国民の安全・安心の確保のための治山対策を総合的に推進していきます。
 第七に、水産政策の展開です。
 我が国の水産業・漁村は、資源状況の悪化、漁業生産構造のぜい弱化、燃油価格の高騰など厳しい状況にある一方、水産物の世界的需要の高まりなどこれまでにない情勢変化に直面しています。こうした中、水産物の安定供給を図るとともに、力強い水産業と豊かで活力ある漁村を確立する必要があります。
 このため、水産基本計画に即して、水産資源の回復・管理の推進、漁船漁業の構造改革や新たな経営安定対策の導入による足腰の強い経営体の育成、漁港・漁場・漁村の総合的整備をはじめとする水産政策の改革を早急に進めるとともに、燃油価格高騰に緊急に対応するため、平成19年度補正予算によって基金を設置して漁業者の経営体質の強化・省エネ型漁業への転換を推進することとしております。
 以上、年頭に当たり、今後の政策展開を中心に私の所感の一端を申し述べました。
 農林水産行政は、現場に密着した政策課題であると同時に、国民の毎日の生活に深く関わっているものです。私自らが先頭に立って、「攻め」の姿勢で農林水産行政の抱える課題に取り組んでいくとともに、政策の実施に際しては、現場に出向いて生産者や消費者の声をしっかりと受け止めることなどにより、国民の信頼と支持が得られる政策を推進していく所存ですので、御支援と御協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

(2008.1.4)


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