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農協時論

大規模経営法人経営がJAに求めていること

    東京大学大学院農学生命科学研究科 助手  木下幸雄
 


◆ 大規模経営・法人経営への支援に向けたニーズの把握が必要

木下幸雄氏
(きのした ゆきお) 1970年愛知県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程(農業・資源経済学専攻)、日本学術振興会特別研究員を経て、2000年より現職。主著に『大規模水田経営の成長と管理』(共著、和田照男編著、東京大学出版会)など。

 第22回JA全国大会議案『「農」と「共生」の世紀づくりに向けたJAグループの取り組み』によれば、地域農業振興と農業の多様な機能の発揮を果たすために、担い手の育成・支援が急務の課題であるとし、地域農業の将来を支える担い手を明確化し、その育成に対してJAは支援を積極的に行うこととしており、将来を支える担い手としては、集落営農のほかに、大規模経営や農業生産法人が例記されている。

 このようなJAの対応方向は、将来を支える重要な担い手とされる大規模経営・法人経営の支援として意義があるのと同時に、彼らが資材購入や農産物販売等において農協以外との取引を最近強めていることへの対応であると思われる。彼らは、より有利な条件を求めて、農協との距離を置き、業者や独自のルートで取引を行おうとしている。そうなると、大規模経営・法人経営が真に要望する支援をJAが果たして提供できるかという問題が浮かぶが、そのためにはまず彼らの意向・支援ニーズを把握することが必要となろう。ここでは、(社)農協協会が昨年実施した「JAと生産法人との関係についての意識調査」の結果を検討材料として、大規模経営・法人経営とJAとの関係の現状を見ながら、彼らがJAに何を求めているかを探る。

 同調査は、無作為抽出で主に耕種部門を経営する全国500の農業生産法人を対象とした郵送によるアンケート調査であり、回答数244、回答率48.8%であった。回答を得た経営の平均面積は41.4ha、平均販売額は8,195万円であり、全国でもトップクラスの販売額を誇る経営が大多数を占める。また作目別では、稲作中心の経営が37%、園芸作中心の経営が39%、それ以外のタイプで24%である。

◆ JA利用度は低く、“JA離れ”がみられる

 大規模経営・法人経営はJAとどの程度の関係があるのか、JAの利用度について見てみよう。まず、彼らとJAとの大きな接点は資金調達である。56%の法人がJAから事業資金の融資を受けており、またこれが生産資材購入の動機の1つとなっている。

 販売面では、JA経由の販売率が70%以上の法人割合が31%であるのに対して、JA販売率10%未満の法人が46%を占める。この数字は、販売金額が高くなるほど低下する傾向があり、販売金額3千万円未満層では38%であるのに対して、2億円以上層では73%も占めている。この理由は、より有利な取引条件を求めていると見られ、業者と取引をしたり、産直等の独自のマーケティング活動を行っていることが考えられる。米販売のある経営(145法人)に限ってみると、米の計画流通の平均出荷比率は55%であり、残りの45%は計画外流通米として出荷している。計画流通米出荷の主な選択理由は、取引価格の安定性(回答率(複数回答)26%)、代金回収リスクの発生防止(26%)、他事業でのJAとの付き合いの延長(22%)である。一方、計画外流通米出荷は、計画流通米出荷より収入が有利であること、産直による高収益の確保(各々40、34%)、既存の販売ルートを既に確保していること(39%)、量販店や消費者の評価を直接得たい(37%)が選択の主たる理由となっている。計画流通米集荷は取引の安定性というメリットがあるものの、計画外流通の方がメリットは大きく、収益の有利性に加え、量販店や消費者といった顧客の評価についての情報を収集できるというメリットが重視されている。これは、経営に有用な情報収集のためにはJA以外との販売取引が有効な手段となっていると見られる。

 生産資材購入面でのJA利用度を見ると、平均購入金額は、肥料252万円、農薬165万円、農業機械211万円、農業用資材435万円であり、合わせて1,058万円となっている。このうち、JAからの購入金額割合は、各々41%、37%、33%、28%、全体では6割相当がJA外からの購入である。JAからの生産資材購入の理由は、組合員だから(回答率(複数回答)51%)というのが他の理由に比べ圧倒的に多い。一方、JA外から購入してJAを敬遠する理由は、資材価格が高いこと(46%)、新技術・新資材・マーケティング等の役立つ情報が入手できないこと(37%)とJA利用のデメリットが挙げられている。これらの評価は資材全般に共通する。ここで興味深いのが、JAとの取引では、価格の不利性だけでなく、経営に有用な新たな情報提供の不足を感じている点である。その一方で、地元業者や農業資材専門店との取引は、価格が安い上に、情報が入手できるという点に魅力を感じている。
 また、半分以上の法人では営農指導・相談をしていないと答えており、JAとの関係の希薄化が窺がわれる。

 このように、全国でもトップクラスの販売金額をあげている大規模経営・法人経営のJA利用度は低く、彼らのJA離れが見られる。これは、彼らのような優れた経営者は、経済面で有利な取引を行い、また、新たな情報に敏感で、有用なものは積極的に経営に導入し、新技術・新作物導入やマーケティング活動を展開していくことが多いためであろう。彼らの重要な情報入手先は、新生産資材関連、新技術関連、マーケティング関連のいずれの情報も業者・メーカーが圧倒的に多く(回答率(複数回答)平均69%)、JAは少ない(平均19%)。また、技術情報では農業改良普及センター(28%)、マーケティング情報では口コミ・市場・消費者・マスコミ等の「その他」(22%)も有効な入手先である。

◆ 単協レベルでの工夫ある取り組みに期待

 大会議案中、大規模農家・法人の育成支援として、農用地利用調整と連担化、作業受託組織等システムの確立といった担い手を中心とした生産体制の確立、生産資材の低コスト化と利用量を勘案した価格設定、多様な流通チャンネルに対応した販売支援と連携、雇用労働力の確保と労災保険・共済加入の促進、税務・経営分析と経営の多角化への対応、法人設立時の支援が掲げられている。これらの方向性は、彼らのJA利用の実態からすればおおかた妥当なものである。が、問題はこれらをどう実現するか、実現は単協レベルでの工夫ある取り組みにかかっている。

 例えば、大口利用による価格面での有利な取引については、サプライチェーンの構築と物流合理化によって低コスト化を図ると同時に、組合員平等扱いという従来からの運営原則から、組合員間の性格の違いを考慮し、効率性も重視する運営原則へと転換することが避けられない。農家の性格が多様化してきている中、農家間の利害が必ずしも一致しない可能性があり、JAのバランスの取れた対応が求められるのである。地域の生産体制の確立に向けてはJAが地域農業マネジメント機能を発揮することも必要であるが、そのためにはJA内でふさわしい人材を育成・登用し、さらには彼らの懸命な活躍と農家との連携・綿密な情報交換が求められる。また、JAの情報提供も重要である。情報の提供方法はインターネット等の発達で極めて効率的なものとなった。が、問題は情報の中味である。経営発展に繋がる新技術・商品・品種情報、消費者ニーズを捉えるマーケティング情報、確実に競争が激化している海外農産物の情報等、幅広い情報収集・提供に力を注ぐことが必要となろう。



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