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農協時論

JAの改革は農と食の安心・安全システム重視で

東京農業大学国際食料情報学部教授 白石正彦
 

 

白石正彦氏
(しらいし まさひこ)昭和17年山口県生まれ。九州大学大学院修了。農学博士。東京農業大学農学部助手、講師、助教授、教授、英国・オックスフォード大学客員教授、ドイツ・マールブルク大学客員教授等を経て、現在、東京農業大学国際食料情報学部食料環境経済学科教授。著書に『食料環境経済学入門』(編著)、『協同組合の国際化と地域化』(監修著)、『新原則時代の協同組合』(監修著)などがある。

◆農と食をつなぐ安全システムの揺らぎ

 平成7年に日本で最終消費された飲食費は約80兆円でそのうち加工品が62%、外食が30%を占め、生鮮品等はわずか8%にとどまっている。この結果、飲食費80兆円のうち第一次産業の国産食用農水産物額は約11兆円とわずか14%にとどまり、大部分は食品工業、食品流通業、外食産業などの食品産業が取得している。
 このため、農業者やJAにとっては最終消費者に焦点を当て、農産加工や直売、観光農業などを包含した高付加価値型事業システムづくりが大きな戦略課題となっている。しかし、消費者は最近の食中毒事件や遺伝子組換え食品の輸入等で農産品への安全性に対する不安が広がり、食の安心・安全システムが揺らいでいる。

 『地上』8月号には、「わたしはそれでも一人の農業者として雪印を応援していくつもり」と呼びかけ、雪印1人100株運動に取り組んでいる山崎洋子さんの興味深い記事が掲載されている。その中で、「大樹工場は風による停電でラインが止まることが多いにもかかわらず、自家発電装置や停電時のマニュアルがなかったうえ、停電後に微生物の繁殖を防ぐための基本的な作業であるパイプの水押しをしていれば事件は防げたのに、それさえも怠っていたのです。『安全』というもっとも基本的なことを確認する作業が欠落していたと担当者は言いました。・・・いまこそ農業者が企業を積極的に見守り、応援することが必要な時代が来ているのだと実感しています」と記述し注目される。

◆農と食をつなぐシステムへの期待高まる

 昨年10月の第23回JA全国大会議案では、消費者の視点からみた全農安心システム(産地および取引先との合意を前提に生産方法・生産工程等に関する情報を開示するとともに、検査認証によって安全・安心な商品提供をはかる「生産・販売一貫システム」)の構築を強調している。
 今年6月に開催された日本生活協同組合連合会総会の第8次全国中期計画の中で、6つの実現((1)食の安全、(2)くらしの安心、(3)地域の共助、(4)地球社会への責任、(5)競争力ある事業の構築、(6)健全な経営の確立)をめざした取り組みを強調している。特に、平成11年度の地域生協及び居住地職域生協の食品供給高合計が約2兆円(食品小売高推計の5.1%)を占めており、「食の安全〜事業・活動を通じて新しい社会システムの創造」を第1番目に掲げている点が注目される。
 今年6月の日本フードシステム学会大会シンポジウムで高力美由紀さん(セゾン総合研究所)は「消費者の安全性志向とフードビジネスの責任」の中で(1)食材の安全確保(食材調達での安全確保・食品加工、製造、流通段階における安全確保)、(2)店舗での安全確保(衛生管理全般・オペレーションでの安全管理・従業員の安全意識の確立等)の2つの遂行と(3)情報開示によって、遡って検証可能な「品質保証」を実現し、その結果として、(4)顧客の「健康志向」への不安感を取り除き安心感を与え、顧客の「安心」につながり、最終目標の「美味しさ」の維持を可能とすると重要な指摘を行なっている。
 『家の光』8月号では、ファーマーズマーケットの成功例の1つとして愛知県JAあいち知多のはなまる市を紹介している。その中で、中嶋好夫さん(前JAあいち知多専務理事、あぐりタウンげんきの郷参与)は、「土・日曜などの買い上げ客は6000人から1万人。多いときには1日500万円以上を売り上げる直売所の店づくりとは?・・・コンセプトは、安心、安全、安価な野菜の提供」と語っている。
 ノンフィクション作家の島村菜津さんは今年3月に開かれた「21世紀の食を考える第14回協同組合のつどい」(神奈川県協同組合間提携推進協議会等主催)で、イタリアで323支局、会員3万人、さらに海外にも41カ国に広がっているスローフード運動について、「究極的には我が家には我が家の味がある。そんな多様な味の世界観を目指そうじゃないか、という運動なんです」と指摘されている。しかもその活動は、(1)間違いない食材を使っているお店のガイド本等の出版活動や「味のサロン」と題した食の見本市(宣伝力もない小さな生産者等も招待)を開き、子どもたちを含めた食べる側の味の教育活動、(2)伝統食や質のよいものを一生懸命作っている小さな規模の生産者を守っていこうという運動、(3)このままほおっておけば、生産性も低いし、効率も悪いんで、だれも作らなくなってしまう、食べられなくなってしまうものを丁寧に見直す活動(絶滅寸前の味の世界の見直し運動)であると指摘されている。

◆JAのリーダーシップで多様な活動実現

 農と食をつなぐ安心・安全システム重視のJAの改革のために、以下の4点が重要である。
 第1に、JAのリーダーシップで「健康づくりとおいしさ」をキーワードとして、減農薬・減化学肥料による環境保全型の学童農園、市民農園、自給農園、直売・観光農園、集落農場づくり運動等を地域に広げ、児童から高齢者まで世代をつなぐ多様な農業の担い手による多様な旬の農産物づくりによって、地域農業のイメージを大きく転換すべきである。
 第2に、JAのリーダーシップで「健康づくりとおいしさ」をキーワードとして、地域の伝統的な食文化を掘り起こし、JA女性部のみでなく児童から高齢者まで各世代の担い手が地域の農産物を活用した料理や加工品づくり、ファーマーズマーケット運動を広げ、イタリアにみられる「スローフード運動」などもヒントにしながら、食の歪んだスタイル(特に若い世代の孤食や個食、欠食)を根本から見なおす食生活運動を広げる必要がある。
 第3に、販売チャネルの多角化とユーザーの需要の多様化(卸売市場のみでなく、食品工業・大手スーパー・外食産業等)に対応して、JAと全農などの連合会が先導して選定農家(契約希望農家)とユーザー間の契約取り引きによる安心・安全システムを重視した新しいブランドづくりに挑戦すべきである。
 第4に、外国からの日本への農産物輸入の拡大の実態は、円高による農産物の内外価格差の拡大、アメリカ・EU等の補助金つき農産物輸出の継続、関税率が低いため米飯にした米の輸入、輸入商社の開発輸入など、決して公正な農産物貿易とはいえず、不安定さを内包している。このため、農と食の安心・安全システムを重視し、消費者の信頼を確保できるJAの改革(全農の平成13年度スタートの中期事業構想にみられる事業・業務・物流・組織・意識の五大改革の実践を含む)において、外食産業や大手食品小売業(生協を含む)との連携を重視すべきである。


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