農業協同組合新聞 JACOM
   
農協持論
これで良いのか日本の食料
東京農大経済学会創立50周年記念シンポジウム
 


◆農業、農村の内発的エネルギーをいかに引き出して発展につなげるか

 基本計画見直しの議論を通じ農政の転換が検討されているなか、日本や中国など東・東南アジアの農業者の内発的なエネルギーをどう引き出して農業、農村の発展につなげるかを議論するシンポジウムが11月に開催された。紹介された事例は日本、中国、タイ。とくに最新の海外事例では、農地利用のあり方と農村開発、環境問題に対応した持続的な農業のあり方を模索するなどの取り組みとして注目を集めた。同シンポジウムの概要を紹介する。

◆地域の潜在的エネルギーその引き出し方がテーマに

 このシンポジウムは東京農業大学農業経済学会の創立50周年記念大会の一環として開催されたもの。「東・東南アジアにおける農業者の内発的エネルギーと地域の農業・農村社会・食文化の統合的発展ビジョン」をテーマに11月12日に開かれた。
 基調講演では松田藤四郎同大学理事長が農業者、農村地域の内発的エネルギーの要因と発展のための今後の課題について提起した。
 わが国では飲食費の最終消費額が80兆円規模の市場に成長しているのに対して、農水産物の生産額は12兆円にとどまっている構造を指摘、生産法人や集落営農組織、農協などが農産物の流通、加工段階に参入する中間組織体として発展する必要があると提起した。とくに第一次加工では産地で原料農産物を集積することが必要だとした。また、運送コストを考えると消費地から遠い地域ほど単価は高くなるが、一方で消費地に近い地域では運賃がかからないかわりに農地価格が高いという関係にあることから、これまでの純農村地域、都市近郊地域といった農業経済地帯区分はすでに無意味になったのでないかと指摘し、むしろそれぞれの地域の自然条件などに合わせた適地、適産によって内発的エネルギーを高められる可能性があるのではないかと提起した。そのほか規模拡大など経営の自由度を高めるための規制緩和と農地制度改革も必要だとした。
 研究報告ではまず門間俊幸同大生物企業情報学科教授が日本における内発的発展の課題について整理した。
 門間氏は、内発的地域発展には「地域住民の潜在力をいかに引き出すかが鍵だ」として、地域資源の発見と活用技術の開発が課題になると指摘。ただし、農業が地域条件に左右されることから、都市・近郊地域、純農業地域、条件不利地域といった地域類型によって内発的発展の方向を整理するべきだと提起した。
 都市・近郊地域では、混住化が進み農業と農地の維持が最大の課題であり、そこで考えられるべき方向は「農業・農地の多面的機能発揮による市民参加型農業の確立」ではないかと指摘。体験農園、食農教育、地産地消のための農産物販売システムづくりなどの具体的な取り組みのほか、政策的には農地維持のための相続制度の改革も必要だと強調した。
 一方、純農業地域では日本の農業生産を支え競争力ある企業的経営体の育成が緊急の課題であり、担い手への農地の利用集積や経営支援のための多様な販売ルートの確立など担い手への支援ネットワークづくりなどが求められると提起した。また、中山間地域など条件不利地域では、農業自体が困難だけでなく兼業機会にも恵まれないことから、活性化の目標は「地域資源を活用した地域特産品開発による雇用の確保と行政の支援制度の充実」と指摘。具体的には地域資源、地域産業の掘り起こしのための、研究機関などの支援やNGOなどを活用した製品販路の拡大などが求められるという。
 こうした視点から門間氏は国内の事例について紹介し、いずれも住民参加がキーワードになるが、その場合、地域の関係機関と住民との関係が押しつけ的ではなく、共生、連携の関係となる必要があることや、活性化プランが総花的になりがちなため、農家の所得向上に結びつけるビジネスの視点を取り入れるなどの課題もあることを指摘した。

◆アジアの農業として連携もエネルギーに

 北京大学の章政氏は、中国の農業、農村発展の課題について報告した。しばしば指摘されるように中国では地域格差が大きく、農民の所得も東部、中部、西部地域で大きく異なり、東部と西部ではほぼ2倍の格差が生まれているという。
 背景には、農産物価格の低迷と農民収入増加の減速、農村の有効需要不足と過剰労働力問題などがあると指摘。こうしたなかで伝統文化の維持と農村の統合的発展を図ることは容易ではないとしながらも、一部で生産から農産物加工、流通まで一体化させた農・工・商複合型の発展方向が地域に生まれてきていることや、地域全体で農地を集積して、居住地区と明確に区分して利用するなど持続的で大規模な農業経営が出現しつつある最近の動向を紹介した。
 また、最近では安全な食生活という意識も国民に広がり減農薬、減化学肥料による農産物づくりも進み、国内向けだけでなく輸出野菜の生産農場として発展を始めた地域もあるという。
 章政氏は地域の食文化をベースとした農業、農村の発展方向も中国は模索すべきだとして、アジア農業の経験もふまえながらアジアとの連携で発展方向を探ることも重要であると強調した。

◆持続的な農業発展のための技術開発がこれからの課題

 タイ・タマサート大学のソムチャイ助教授は最近のタイの農村地帯の取り組みを報告した。
 タイではアグリビジネスによる商業的な農業により国際的な競争力のある農業となったが、農民に必ずしも豊かさがもたらされたのではなく、森林伐採など環境破壊も進んだと指摘した。
 タイとしては農業は国際商品として国の重要な産業であり、今後もそれを持続させていかなければならないが、一方で農民の経済的な自立と農村の発展の両立も課題だという。
 そのため現在取り組みが進められているのは、「ニュー・セオリー」という考え方。これは自立のための農法で農民の持っている土地を稲作だけでなく、果樹、貯水池、永年作物などに分割して利用するように指導し、自給を基本にした生産サイクルを取り戻すというものだという。作物を特化させず分散させることで経済的なリスクの分散にもつながる。また、こうした取り組みに参加した農業者が組織化され果樹を共同で販売するなど方向も出てきている。
 商業的な生産からタイの農村が本来持っていた農村の相互扶助などのライフスタイルを復活させ持続的な農業につなげるという考え方でもある。生産者の意識も高まり高品質な農産物づくりが行われていけば、国際競争力を持つ農業をめざす政策と両立できる取り組みだとソムチャイ氏は話した。
 ディスカッションではこうした中国、タイの取り組みに注目が集まり、アジア地域での農業、農村の発展の課題が探られた。
 そのほか、基本計画の見直しにともなった農地制度の規制緩和の是非についても議論された。

(2004.12.7)


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