農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事
販売リスク管理ふまえ直売拡大にも取り組む
レポート 売れる米づくりへの挑戦 JA鳥取中央


 米価が低迷する厳しい状況のなか、各地で売れる米づくりに向けた努力が続いている。JA鳥取中央(鳥取県)は果樹や園芸作物などの出荷が多く、全販売額に占める米の割合は約15%と、全国平均に比べて低いが、それでも16年度実績で農協集荷分は9000トンある。大部分は全農委託だが、16年度にはじめて290トンを直売した。小売り業者を対象に、県内中心で販売した。「自分たちで作った米は、自分たちで売る」を合い言葉に生産者の手取りを増やすことをめざし、JAの責任で生産者からの信頼を得たいとしている。ただ、直売にはさまざまなリスクもある。直売のリスク回避のための対策では、県内他JAの経験を共有することなどで万全を期したいとする。

農産部米穀課永代達憲課長
農産部米穀課永代達憲課長
 JA鳥取中央の17年産水稲の作付面積は、16年産と同程度の3022ha。16年産米の生産量は、1万4930トン、うち農協集荷分が9000トンであった。「コシヒカリ」が7割、「ひとめぼれ」が2割、「おまちかね」ほか「日本晴」「ヤマヒカリ」などが残り1割の作付け面積となっている。管内は山間部の標高500m付近から日本海沿岸まで標高差があり、地域別に特徴を生かした米づくりを進めている。
 同JAは梨、ブドウなどの果実、スイカ、イチゴ、メロンなどの園芸作物、畜産の出荷額が多く、16年度実績で米は22.3億円。これは、全体出荷額150.3億円の約15%で、米の割合は高くない。しかし、売れる米づくりに向けた取り組みで、JA米に加え、減農薬・減化学肥料で作る特別栽培米などを生産している。

◆悩む生産者の声を受け止めて

 JAは生産者に対し集落座談会などを通じ、(1)三朝米、せきがね米など、行政と一体となって管内の地域ブランドの宣伝・販売を進める、(2)生協、米穀会社、酒造会社などとの契約栽培を拡大すると同時に、産地交流会による消費者との連携強化、(3)直販を拡大するとともに、地域内での販売強化の推進、などの売れる米づりに向けた取り組みを説明した。また、生産部会にもJAの方針を理解してもらうと同時に、米価低迷で苦しい台所事情から何とか手取りを多くしたいという生産者の意向を汲み上げ、販売対策を強化する取り組みを行っている
 その一つとして『自分たちで作った米は、自分たちで売る』を合い言葉に、16年産米から直売事業に着手した。JA鳥取中央の米であることを全面に打ち出し、主に管内を中心とした県内販売を進め、農協集荷分9000トンのうち、16年度は290トンの販売実績をあげた。生産者の手取りをできる限り多くすることが直売の目的であるため、取引先は小売り業者に限定し、小売店、スーパー、量販店などと取引を行った。
 米の売り方は、玄米を販売する方法と、JAで精米まで行い白米を販売する方法があり、玄米販売は米穀課、白米販売は直販課が担当している。米穀課と直販課で連携をとりながら、今後は学校給食、県内の生協などに販路拡大を求めたいとしている。

◆自分たちで作った米は、自分たちで売る

 「290トンの農協直売分以外の販売は、全農に委託。今のところ直売分はわずかですが、今後はもっと直売の割合を高めて行きたいと思います。それは生産者が望んでいることであり、JAが生産者から信頼されることにつながると考えています。米価の低迷で生産者は苦しい。それをなんとか打開すると同時に、消費者から求められる米を生産できる産地をめざしたい」、農産部米穀課の永代達憲課長はJA直売に取り組む理由についてこう話す。
 管内各地区ではそれぞれ地形・気象条件などの特徴を活かした米作りを行っている。内陸部の三朝町、関金町では『三朝産こしひかり』、『せきがね特別栽培米』を生産している。「おまちかね」は氷点下でも凍結しない温度に調整して貯蔵し、鮮度保持期間延長と食味向上が確認された『氷温米おまちかね』として県内のみの生産で、注目を集めている。また、大相撲の元横綱琴桜が倉吉市出身であることから、籾貯蔵米を「ことざくら米」の商品名で販売しており、店頭に並べる直前に精米し、つきたての美味しさにこだわった米として、琴桜ファンなどに支持されている。

店頭に並ぶ各地区の米
店頭に並ぶ各地区の米

◆リスク回避が課題、他JAと経験を共有

 「米をブランド化し、売れるためには、ストーリーが必要。例えば、良い水と良い米で美味いお酒ができるよう、その米の誕生に関するドラマチックなストーリーを作るなり見つけるなりしたいと思っています。話を聞いて誰もが納得するストーリーであれば、ブランド化は半分成功したといえる。管内で生産している米にストーリーを加わえて、早く全国区になれるよう頑張りたい」。
 売れる米には程度の違いはあっても必ず語り継がれる物語があるはずと永代課長は語る。今後のJA直売拡大を念頭におくと、商品数を揃える必要もあり、さまざまな地域米、減農薬や減化学肥料にこだわった特徴ある米などの開発に力が注がれる。
 JAの集荷量が9000トンとあまり多くないこともあり、当面は地産地消、地元中心の販売をめざす。しかし、今後は大消費地である関西や首都圏での販売にも力を入れたいとしており、既に実績のある関西の一部取引先に加え新たな販売先の開拓を進める。
 直売には▽売り切れるかどうか(売り残りが出ないか)、▽価格が不安定、▽代金回収がうまくいくか、▽納品がスムーズにいくか、などの問題点がある。JAが生産者に対する責任を全うするためには、こうしたリスクを解消し安定した直売事業が求められる。そのためには、(1)量的に無理な販売はしない、(2)決済は現金で行う、(3)販売先の売り場管理に関わる、などの対策を取引先との話し合いの中で行い、常にリスク回避を心がけているという。また、同じような問題点を抱えている県内他JAと、経験などを共有するための話し合いも始まった。

◆直売所でも米を販売、毎月平均した実績

 一方、小売り業者への販売とは別に、管内の農産物直売所でも米の販売を行っている。その一つが倉吉パークスクェア内にある「フルテリア」だ。
 「フルテリア」は市が建設した鳥取二十世紀梨記念館を中心とした複合施設の一角にあり、レストランなども併設されている。平日の昼間でも市内の主婦層を中心にかなりの人出があり、広い駐車場の7〜8割が車で埋まる。店内には野菜、果実、農産物加工品などと並んで米のコーナーも確保されており、「はわい米」「倉吉米」「ことうら米」など管内各地の米が2Kg詰め袋で売られている。価格は1袋1000円前後で、平均すると月に約20万円の売上があるという。「米は売上にあまり変動がなく、毎月の売り上げはほぼ同じです。リピーターも多く、同じ銘柄の同じ単位の米を常に置いておくことが大切です。あそこへ行けば、また同じ米が買えると思わせるような販売を心がけています」と、担当者は語る。知名度を上げるということは、毎日の繰り返しを確実に行うことだとも語った。

直売店「フルテリア」
直売店「フルテリア」

◆全農に情報提供などを期待

 「直売といっても、まだ290トン。ほとんどは全農委託です。ことざくら米、三朝米など我々が開発し、直売を進めているいくつかの米は、現在全農委託でも販売しています。今後もそのような形で協力してもらうと同時に、主に販売情報などの提供を期待しています」。JA鳥取中央の米直売はまだ始まったばかり。委託分、直売分いずれも生産者と消費者の架け橋機能を持つ全農との連携が欠かせないと、永代課長は語る。

(2005.9.6)


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