農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事
第2回 田んぼの生き物調査シンポジウムより
環境支払いの導入をふまえ 生産者、消費者の協同運動の広がりを


生き物調査で自然を読み解く能力を養う
生き物調査で自然を読み解く能力を養う

 全農大消費地販売推進部とパルシステム生協連、NPOふゆみずたんぼなどで構成する「田んぼの生き物調査プロジェクト」が11月26日、第2回シンポジウムを東京・大手町のJAビルで開いた。生協、JAなどの関係者220人が参加した。
 このプロジェクトは、生産者団体、消費者団体、環境NPOなどが協力して田んぼのなかの虫や植物を調べ、環境保全型農業のための営農指導と、農業への理解を進め食と農の距離を縮めることなどを目的に活動している。農水省は新たな政策のなかで農業と環境を保全する取り組みへの直接支払いを検討しているが、この生き物調査はその先取りとなる取り組みとしても注目されている。


◆稲は生き物とともに育つ

シンポジウムには220人が参加した
シンポジウムには220人が参加した

 田んぼの生き物調査に参加している産地は「冬期湛水(ふゆみず田んぼ)」、「早期湛水」と「不耕起栽培」で米づくりをしており、こうした農法による田んぼの環境変化を探るとともに肥料、農薬をできるだけ使わない栽培をめざしている。田んぼに多様な生物をよみがえらせようという取り組みだ。
 その生物多様性について、講演した保全生態学が専門の鷲谷いずみ東大教授は、環境負荷を減らし長期的に人間の活動を持続させていくためには「調整原理」が必要で、その原理のひとつが「生物多様性」だと指摘した。
 ただし、現在では都会の人間はもちろん農業者でも虫や植物の名前を知らない人も多く、どのような自然が望ましい環境なのか具体的に判断がつかない。
 鷲谷さんは「自然を読み解く能力を持つことが現代人には必要で、そこに田んぼの生き物調査の意義がある」と話し、「ふゆみず田んぼ」など生き物と共存できる農業は「消費者の主体的な参加があれば傍流から主流になれる」と期待を寄せた。
 また、NPO法人「農と自然の研究所」の宇根豊代表理事は、近代農業が農業者の自然へのまなざしを衰えさせたと指摘。「ご飯一杯分の米は稲3株。そのまわりでオタマジャクシが35匹育つ。稲だけが育つことはなく、生き物が育つから稲も育つ。百姓仕事は生き物を育てる行為の一部」と話し「生き物調査は農業を守る土台だ」と参加者に呼びかけた。

◆調査結果を農法に生かす

 田んぼの生き物調査は、田んぼの恵みや生物多様性を確認することだけが目的ではなく、有機稲作の収量安定の技術の一部という視点から報告したのが、民間稲作研究所の稲葉光圀理事長。
 冬期湛水、早期湛水によって田植え前に、アミミドロなどの緑藻類やイトミミズやユスリカが発生し、田んぼにトロトロ層が形成される。それらの発生量によって田植え後に稲の活着がよければ、雑草の発生を抑えることができるという。そのために田植え前、田植え後に調査をして生き物の種類と量を継続的に調べることで、抑草効果を診断していくことが大切になる。稲葉さんは深水管理よってヒエの防除もできるなどの結果を紹介した。
 また、カエル、クモ、ヤゴなどの生息状態や飛来する鳥類などの観察も害虫被害を未然に防ぐために重要だという。「生き物調査は有機稲作など新たな農法の転換への技術診断指標。収量を安定させ安定した経営につなげるために、湛水の時期などの検討をさらに続けていきたい」と話した。
 そのほか千葉県立茂原農業高校の生徒たちが「谷津田にトキを呼び戻そう」と耕作放棄水田を借りて生き物を育む水田づくりに挑戦した体験と生物調査結果なども報告された。

生き物の種類と数は農法の指標
生き物の種類と数は農法の指標

◆田んぼに通う時間増えた

 パネルディスカッションは、生き物調査を実施した生産者と生協関係者がそれぞれの実践を話した。
 JAささかみ職員の石塚美津夫さんは、自らもふゆみず田んぼを実践している。田んぼにメダカやホタルなど多彩な生物が戻ってきたことで自然を楽しむ余裕が出てきたと話した。
 兵庫県豊岡市福田地区でコウノトリのエサ場としてビオトープづくりに取り組んだ上山茂さんは、地域に放たれたコウノトリの観察と環境保全型農業に転換し水田の見回りなど「田んぼに通う時間が増え生活に楽しみが増えた」と話すなど、この取り組みが自らの農業に対する考え方を変えていることを指摘した。
 山形県藤島町の庄内協同ファームの白澤吉博さんはJA庄内たがわや行政とともに環境保全型農業推進協議会を立ち上げて活動を展開。田んぼの生き物調査には、行政、教育関係者、生協、農業高校生など幅広い参加で実現した。継続して調査することによって参加者からは調査全体に関わって農業への理解が深まったなどの声が聞かれたという。「50人もの人が田んぼに入ってくれた。仲間には自分たちの取り組みが評価されたと励みになっている」と話した。
 また、神奈川ゆめコープの斉藤文子理事長は30代半ばの母親たちに意外に農業体験ニーズが高く、産地との交流事業への参加者が予想以上に多いことを紹介。「子どもたちに体験させたいというよりも親自身が農業を知りたいと思っている。生き物調査によって農の価値を伝えていきたい」などと語った。
 生活クラブ生協の大井久子理事は「農産物を農薬の使用成分数など数字や言葉ではなく、田んぼを肌で実感できる場が必要」と調査に参加した感想を述べた。
 ただ、生き物調査には専門的な知識が必要で、今後、調査結果を体系的に整理できる知識を多くの人が身につけなければ運動は広がらないとの課題も指摘された。

◆米の販売ネットワークを

 また、課題となったのは、米づくりである以上、販売ネットワークがないと生産者と消費者の共同の取り組みが進まないという点だった。
 会場からは「ふゆみず田んぼなどを実践したいという生産者はいるが、販売ネットワークがないために躊躇しているのが実態。JAも含めて支援が必要ではないか」との声もあった。
 今後について、「生き物調査をしていることを付加価値にして販売していくことも考えてはどうか」、「産直と環境をピーアールしていく。理解ある消費者を育てることも生協の役割」などの課題が出た。また、産地にとっても環境保全型農業への関心を高める意識改革への取り組みの必要性も指摘された。
 原耕造プロジェクト代表(全農大消費地販売推進部次長)は、生産者と消費者の懸け橋機能の発揮という点で田んぼの生き物調査は「共通言語」になってきたと語り、農業構造改革が進行するなかで、有機農業に携わる小規模な農業者も支えていく仕組みをこの運動から作り出していくことが求められていると呼びかけた。
 具体的には国の環境支払い政策とは別に民間による支援として生産者や生き物調査に参加しているNPO、研究者の活動に対する直接支払い制度を検討していくことなどを提起した。
 「生産者と消費者のコンセンサスづくりが進展すれば、国内農産物に対する信頼が価格志向を上回る可能性もある。日本農業の向こうにある自分たちの暮らしを大切にする視点で田んぼの生き物調査活動を続けていきたい」と原代表は話している。

(2005.12.20)


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