農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事
WTO農業交渉
上限関税の阻止が焦点
重要品目の十分な確保も


 WTO農業交渉は7月末にモダリティたたき台の案が提示されず、秋の交渉から年末の香港閣僚会議までに数値を含めたモダリティ確立に向け厳しい交渉に入る。
 7月下旬には、ジュネーブでグローサー農業交渉議長が少数国会合を重ねて開催したが、輸出国と輸入国、先進国と途上国の対立の溝は埋まらず7月28日、議長が第2次状況報告ペーパーを提出にするにとどまった。
 このペーパーで議長は、「市場アクセス」分野についてもっとも複雑で「国内支持」と「輸出競争」の2分野にくらべて多くの時間が必要だと総括。
 議論は7月12日の中国・大連での非公式閣僚会合でG20の提案(1.関税率の高さで階層を分け先進国は5、途上国は4とする、2.削減方式は定率削減=リニアカット方式、3.100%の上限関税の設定、4.重要品目はごく少数)がベースとなったが、議長は留保した国はあったが中間点を探るための「建設的なアプローチ」だと一定の評価を与えた。
 ただ、関税削減は定率ではなく関税率によって累進性を加えるべきだと主張した輸出国などがある一方で、日本を含むG10やEUが関税削減方式と同時に重要品目の扱いを議論すべきという国もあったことを客観的に報告もしている。
 そのうえで、今後の議論では関税削減方式そのものに何らかの柔軟性を認めるべきかどうかが「核心」になるとしている。その問題点として、柔軟性を認めれば対象品目の関税削減幅が小さくなるため、輸入国側はより厳しい削減方式を求め、他方、輸入国は柔軟性がなければ大幅な削減率に合意することは一層困難になるとの見通しを示した。
 農水省の交渉担当者によると、今回の交渉では削減方式に柔軟性を与えるべきと日本などが主張したが、大半の国は反対したという。そのなかでも議長ペーパーに盛り込まれたことは「議論を客観的にみている」と評価している。また、G20提案にある上限関税の設定に賛成した国もあったが議長ペーパーでは上限関税という言葉が記述されていないことにも注目している。

◆国内支持で米・EUが対立

 「国内支持」分野では、次の2点で決断が必要だとしている。1点は削減対象である「黄色の政策」をもっとも活用しているEU、日本、米国をどの階層に位置づけるか。階層の位置づけによって削減幅が変わる。7月末の交渉では、2000年の約束水準で6.6兆円のEUを第一階層とし、4兆円の日本と2.3兆円の米国を第2階層とすべきと日本とEUが主張したのに対し、米国は反発してまとまらなかった。
 二点めは、「青の政策」について、「黄」と「緑」の中間に位置するように規律を決めること。これは米国が導入した基準価格を下回った場合に農家にその差額全部を補てんするという「新青の政策」への各国の強い批判が背景にある。
 交渉ではG20を代表してブラジルが「補てんの制限を設けるべき」と主張したのに対し、米国は新青の政策だけを議論するのではなく、既存の青の政策も含めて検討すべきだと反発した。既存の青の政策には、わが国の稲作所得基盤確保対策もあることから、その見直しにつながりかねない米国の主張には日本も反対した。また、EUは米国が新青の政策で譲歩しなければ、関税割当拡大のルールづくりなど市場アクセス分野での譲歩はできないと強調した。こうしたことから、議長ペーパーでは国内支持分野での決断は市場アクセス分野での決断も同時に必要だとしている。
 また、緑の政策については基準の明確化と途上国の農業実態にあった類型を追加する作業が必要だと指摘している。

◆G10、上限関税は断固阻止

 G10、EUは今回の交渉で重要品目については、どの階層の品目であっても一般品目とは別扱いとすることや、各国の状況を反映した品目数が確保されるべきこと、市場アクセスの改善程度は一般品目よりも小さくすべきことなどを主張した。また、市場アクセス改善は、関税削減と関税割当約束の組み合わせ方式を導入すべきだと主張した。
 これに対して米国は重要品目の関税削減が小さければ大きな関税割当拡大をすべきことや、重要品目の数が多ければより大きな関税割当拡大とすべきといった一般品目と異なる扱いに対する代償的な措置を求めて厳しく対立している。
 日本を含むG10にとっては重要品目の十分な確保が実現できるよう一般品目の関税削減方式の議論を睨みながら交渉を続けていくことが秋からの焦点となる。
 また、先進国と途上国の扱いを同一とするのか、区分けするかも論点となるという。
 ただ、米国をはじめ多くの国が上限関税の設定に賛成しており、G10にとってはこの議論が再燃すると、もっとも大きな問題となりそうだ。一般品目と重要品目との関連については課題は多いものの交渉はするが、「しかし、上限関税はまったく別次元。上限関税の議論になるならG10は交渉できない」(農水省国際部)との立場で断固反対していく。
 7月末で農業交渉議長はグローサー氏からニュージーランド大使のファルコナー新議長に交替した。9月にはEU貿易担当大臣だったラミー氏が事務局長に就任する。
 ラミー氏は、カンクン閣僚会議前の2003年夏、米国と手を組んでUR方式とスイス・フォーミュラを組み合わせた米・EU共同提案をまとめた。共同提案には上限関税の設定も盛り込まれていた。日本の交渉担当者はラミー新事務局長が秋からの交渉をどうリードしていくか、警戒も含めて注目している。

(2005.8.16)


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