農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

田んぼの生き物調査の統一研修会を開催
環境保全型稲作の最新技術など報告
−田んぼの生き物調査プロジェクト




 JA全農とパルシステムなど生協、環境NPO法人などで構成している「田んぼの生き物調査プロジェクト」は3月4〜5日、町田市のJA全国教育センターで06年度の統一研修会を開いた。JAの営農指導員や生協関係者など100人が参加。田んぼの生き物調査の意義とその方法を実際の田んぼでのフィールドワークも取り入れて学んだ。そのなかから、今回は環境保全型稲作のための生き物調査の意義についての報告を紹介する。

■環境の変化を確認する技術

 農薬や化学肥料の使用量を減らす環境保全型農業の推進に取り組む産地も少なくないが、実際に環境がどう変化したか確認されることはあまりない。田んぼの生き物調査は、環境の変化を知るための技術であり、消費者も参加することによって国内農業への理解と支持を広める目的もある。
 この調査への取り組みはそうした食農教育につながる側面も重要だが、田んぼの生き物を継続的に調査することで、生き物の種類、量などを指標とした環境保全型農業技術の確立をめざす狙いもある。農業者にとっては新たな農法を確立する「営農のための生き物調査」の側面が重要だろう。
 環境保全型稲作は、冬から田に水を張ることで多様な水田生物を生み出し、それが雑草の発生、成長を抑えたり、病害虫防除にも効果を発揮するという技術がベースになっている。いわゆる「ふゆみず田んぼ」だが、最近では4月ごろに水を張る早期湛水でも抑草効果があるとされている。

■成苗を使用した有機稲作

 研修会で環境保全型稲作のための生き物調査のポイントについて報告したのは、NPO法人・民間稲作研究所の稲葉光圀氏。
 農薬を使わない米づくりのために、「温湯処理」技術が普及してきたため種子消毒はそれで対応できる。ただし苗について稲葉氏は、葉が4枚半程度に成長した「成苗」を植える必要があると指摘。通常の稚苗を4、5本づつ植える方法では6月ごろに分げつが急速に進む。7月初めには田を中干しするが、それは分げつを制限するためだという。こうして適正な茎数、穂数を確保するが、この時期の中干しは田のなかにいるオタマジャクシがカエルになる前のため水を切れば死滅することになる。
 一方、成苗を使って疎植した場合は、分げつはゆっくりと進み慣行栽培のような7月初めの中干しを必要としないため生き物を生存させることになるという。倒伏を防ぐために7月の中下旬には中干しを必要とするがその時期ならヤゴの羽化、カエルの変態も可能になる。その後、太茎、太穂に成長し収量も確保できるという。

■生き物の早期活性化が鍵

 米づくりで問題となるのは除草だが、鍵を握るのは早期に水を入れて水田生物を活性化させておくこと。4月下旬に湛水を開始すると、イトミミズ、ユスリカ、アオミドロ、ウキクサなどが発生する。田植え前に生き物調査をしてその状態を記録しておく。
 そして、抑草には田植え後直後からの深水管理が重要になる。田面を露出させないように水位を維持し、苗の生育に合わせて水位を上げ30日間続ける。稲葉氏はこの深水管理と水田生物の働きで、ヒエは表層の種しか発芽しないことを紹介。また、発芽したヒエも根をあまり出さないため、そのうち浮力に耐えられなくなって抜けてしまうという。 そうなると水田の雑草はコナギが主力になる。このコナギも、イトミミズが作り出すトロトロ層による種子の埋没効果、アオミドロやウキクサの発生による光遮断効果などによって抑草されるという。稲葉氏は、緑藻類が発生して雑草を抑えた例などをスライドで紹介した。
 また、多様な水田生物の発生を促すためには、あらかじめ米ぬか発酵肥料をすき込むことも有効だという。そのほか大豆とレンゲ栽培の後は根粒菌が発生するため、宿根性雑草のオモダカなどの発生も抑制されるという。

■病害虫の発生抑制も

 こうした多様な生物の力を稲作に生かすために、湛水直後、田植え後、田植え10日後といった時期に生き物調査をすることで技術的な対応を考える指標としていくことが求められていると稲葉氏は強調した。たとえば、田植え前の調査でアミミドロなどの発生が少なければ米ぬか発酵肥料を追加して発生を促進する、あるいは田植え後の調査で田んぼの半分以上にアミミドロが発生していれば、草取りに入る必要はなくそのまま湛水管理を続ける、というようにである。
 また、障害不稔、いもち、紋枯れ病の多発についてはこれまでの稚苗田植えにおもに原因があるとして、成苗による疎植、太茎の確保という農法への転換で解決できるとした。さらにウンカやカメムシについては、減反を逆に活用して、通年型のビオトープを作付け田周辺につくっておき、カエル、クモなど天敵の多い水田環境を作り出すことなどで病害虫の発生を防止できるはずと指摘した。
 冬みず田んぼは江戸時代に考案された技術。水利条件によっては取り組みも難しい地域もあるが、早期湛水なども検討し現代の環境保全型稲作の技術体系をづくりをめざすことが研修会でも課題となった。そのため生き物調査を継続して多くのデータを蓄積することが必要になる。消費者からの支持を得て地域農業を再建するためにも生き物調査に取り組む産地が広がることが期待される。

(2006.3.13)


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