農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事
多様化する生産・消費ニーズに対応した
事業システムの構築

「新生全農園芸事業改革基本方針」のポイントと背景
JA全農園芸販売部園芸企画課副審査役 中田哲也


 JA全農は1月31日の全農園芸事業委員会で「新生全農園芸事業改革基本方針」を審議・決定した(概要は2月20日付本紙参照)。園芸事業は、平成5年に卸売市場販売の「県域完結」「全国本部は直販」特化などを決定して以来、大きな変化がなかったが、今回、経済事業改革の一環として事業全般を見直し「基本方針」を策定した。そこでこの「基本方針」のポイントとその背景について、全農園芸販売部園芸企画課の中田哲也氏に解説してもらった。

◆「基本方針」策定の経過

 この「基本方針」は、2年近くをかけて園芸事業改革の方向性を検討してきたもので、経済事業改革中央本部委員会の下に設置された「販売事業等検討委員会」での検討・とりまとめ(17年12月)や新生プラン(17年12月に農水省に提出した「改善計画」)も包括している。
 ところで、園芸事業については、平成5年の「組織整備実行方策」において卸売市場販売の「県域完結」を打出した。以降、全国本部(当時の全農)は直販(青果センター)事業と野菜制度対応などに特化してきた。このことは、県域と全国域の機能重複がない合理的な事業方式であったが、後述するような事業環境の変化の中で、県の枠だけでは解決できない今日的課題が表面化しており、若干の補強が必要となってきている。

◆大きく変化した青果物をめぐる事業環境

 昨年6月、野菜市況に産地も流通業者も首をかしげた。6月の野菜価格としては、平成に入って最安値。それも数量104・価格78(いずれも前年比、東京都中央卸売市場取扱実績)と、それほど入荷は多いわけではないのに大幅な価格低迷。レタスに至っては、数量98・価格48。明らかに需給と価格の相関が崩れている。この「不思議な現象」はその後も続き、今夏、産地では多くのレタスやキャベツの廃棄が行われた。
 さまざまな要因が複合しているものと思われるが、その主なものとしては、(1)市場外流通の拡大=卸売市場流通の「地位」の低下(グラフ1)、(2)輸入野菜の増大、(3)消費の減退・変化などが考えられる。
 卸売市場は、本来需給を反映した価格形成機能をもっているが、市場外での取引が増えれば、市場への発注は減る。当然、買い手がつかず、市場価格は下がる。
 平成17年の生鮮野菜の輸入量は、111万tと史上最高となった(グラフ2)。輸入野菜の多くは市場外で取引されるから、当然、輸入野菜の拡大は市場の機能を低下させる。輸入野菜が主に加工・業務マーケットを「侵食」していることは周知の事実であり、「食の外部化」の進展=加工・業務需要の拡大は、こうした構造をさらに深化させている。また、生鮮野菜だけでなく、「混合野菜ジュース」も含めた「トマト加工品」の輸入も着実に増加している。近年、野菜飲料が大きく伸びているが、この原料として加工品輸入も増加している。「食のサプリメント化」は知らぬまに国産青果物のマーケットを圧迫し始めている。

(上)卸売流通量・経由率の推移 (下)野菜の輸入実績の推移

◆キーワードは多様化

 日本の青果物流通は、系統共販と卸売市場流通の「車の両輪」に支えられてきたと言われる。
 しかし、その「両輪」のいずれもが大きく変化し始めている。これまでは、生産部会を中心とした系統共販=卸売市場への委託販売という言わば単線型事業システムであったものが、これに満足しない大規模生産農家や農業生産法人の増加、一方でさまざまな形態・ルートによる市場外流通の拡大の中で、JAグループ園芸事業は多様化する「川上=生産」「川下=販売チャネル」双方に対応する多元的な事業システムへの変革が求められていると言えよう(図1)。

多元的事業システムのイメージ

◆「縮小の連鎖」からの脱却

 園芸事業は、JA・連合会ともに総じて赤字の傾向にある。関係者の中には、「園芸事業は赤字でもいい」との考えもあるが、現実には、赤字であることの結果、JAも全農も事業体制を弱体化させてきている。事業体制の弱体化は、事業競争力の低下をもたらし、さらなる収支悪化につながるという悪循環に陥ることが懸念される。なんとかこの「縮小の連鎖」に歯止めをかけなければならない。もちろん収支改善が最終目的ではないが、収支改善抜きにJAグループ園芸事業の事業競争力の強化は実現しない。

◆卸売市場販売の重点化

 ここ数年の経済事業改革の中で、「卸売市場販売から直販への転換」が強調されている。しかし、卸売市場流通を過小評価する一方で、直販を過大評価しているように思える。
 前述したとおり、卸売市場流通の「地位」が低下していることは事実であるし、さまざまな課題があることは間違いないが、商品の集散機能(市場は荷受拒否できない)、価格形成機能、商品評価機能、代金決済機能など、卸売市場流通の機能は極めて合理的であり、生産者にとって重要な販売チャネルである。
 特に、貯蔵が難しく数量等が大きく変動するという青果物の商品特性を考えれば、卸売市場の役割を軽視すべきでない。
 卸売市場流通は、卸売会社の再編などを重ねながら、今後も青果物流通の最大のチャネルであり続けると考える。
 その一方で、今後、卸売市場の機能・経営両面の格差が一層拡大することは確実である。こうした中で、それぞれの産地としてのパートナー市場の確保を進め、相互にメリットを受益できる取組みを展開することが重要である。たとえば、(1)価格や数量等取引条件を事前に取り決めた双方にとっての安定取引の拡大、(2)出荷・配送ロットの大型化、流通範囲の絞込み(域内に限定するなど)、実需者への直接配送などによる物流コストの削減、(3)(1)(2)の取組みに伴う卸売市場手数料の弾力化など産地へのメリット還元を追求していく必要がある。

◆新生全農が目指す「直販」

 直販事業の展開は、特に青果物については容易ではない。直販の目的の1つとして収益拡大があるが、現実には直販事業で収益を確保することは容易ではない。
 直販は、見かけの粗利益は大きいが、卸売市場販売に比べ、コスト(営業体制、物流費、事務経費、施設投資等)とリスク(債権管理、相場差損等)が格段に大きく、手間がかかる。たとえば、量販店のニーズに応えようと思えば、営業担当者を確保し、場合によってはパッケージ機能・施設も持つ必要がある。また、取引先ごとに異なる受発注システムに対応し、きめ細かい配送体制を整備する必要がある。淘汰の激しい小売業界各社の債権管理をどうするのか。日々変動する数量・価格リスクをどう吸収・ヘッジするのか。
 こうした対応ができるJAはかなり限られると考えられる。その意味では、直販事業は、主に連合会が担っていくべき機能だと考える。
 ところで、一言で「直販」と言うが、実は「直販」のとらえ方がまちまちである。今回「基本方針」において、新生全農がめざす「直販」を整理した。
 そもそも「直販」の拡大の最大の意義は、JAグループ自らが価格など取引条件に関与する、言い換えればリスク・責任をもった販売をすることにより、生産者手取りの安定化を実現することにある。こうした観点から考えれば、図2のとおり、厳密な意味での直販だけでなく、広義の直販や卸売市場との事前値決めなどによる販売、言い換えれば、「卸売市場への無条件委託でない販売」を拡大していくことがJAグループの園芸事業戦略として重要である。
 とりわけ、大消費地から遠隔に位置する産地については、前述したような販売体制を構築することは難しく、卸売市場や全農青果センターを活用した、広い意味での「直販」を強化することが現実的かつ有効である。

新生全農が強化・拡大をめざす「直販)

◆いまなぜ本所機能の再構築か

 前述のとおり、園芸事業は、その事業特性上、県を事業の単位とすることが現実的であり、平成5年の整理自体は、いまもなお合理性がある。しかし、当時とは事業環境が大きく変化している中で、多くの産地から、「県域を越えて連携し、輸入青果物への対抗や消費拡大の取組みなどに取り組んでほしい」「それができるのは全農しかない」との声があがってくるようになっている。
 こうしたこともふまえて、今後、本所機能を再構築し、加工・業務向けリレー販売のコーディネートや消費拡大の取組みなどを強化していく必要がある。

◆懸け橋機能の強化をめざして

 全農園芸事業は、これまでも全農グループの経営理念である「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋」機能を実践してきた。しかし、従来の事業システムでは、多様化する川上・川下のニーズに対応しきれないし、部門収支改善なしには多元的な事業システムへの改革は進まない。今回の園芸事業改革の最大のポイントはここにある。

(2006.3.16)


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