農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

6月中旬の合意めざし事務レベル協議続く 
−WTO交渉



◆3すくみの対立構図

 4月末にモダリティ(各国共通に適用される新貿易ルール)合意ができなかったWTO(世界貿易機関)農業交渉は、6月中旬の合意をめざし5月から事務レベル協議を続けている。
 4月の農業委員会特別会合でファルコナー議長は、今後、第1週目に議長が各国・各グループと個別協議し、第2週目に非公式全体会合と少数国会合を開くというサイクルを3回行い、これを5月第1週からスタートさせる方針を示した。ファルコナー議長はこの2週間サイクルを3回行ったうえで「状況を評価する」としており、この間に議論が収れんすれば6月中旬にもモダリティ合意に向けた閣僚会合などが開催される可能性もある。中川農相も4月末の記者会見で「6月ぐらいにはもう一度、閣僚会合が行われると予想している」と述べている。
 ただ、交渉の構図は農業分野だけでなく非農産品、サービス分野も絡んで厳しく対立している。
 米国は、EUや日本、ブラジルなどG20に対して農業分野と途上国全般の市場開放を迫っているが、一方で米国は各国・各グループから国内農業補助金の削減を突きつけられている。
 また、G20はEU・日本に対して農業の一層の市場開放を要求しているが、EUと日本はG20に非農産品とサービス分野での譲歩を迫っている。このようにEU・日本と米国、G20との間で、いわゆる“三すくみ”の構図にある。
 そのうえに農業交渉自体では、とくに市場アクセス分野で主張が対立している。
 これまでの交渉で合意されているのは、▽一般品目は関税の高さで4階層に分け関税の高い品目ほど大幅に削減▽階層の境界関税率は75%、50%、20%▽削減方式は定率削減など。また、重要品目については▽関税削減と関税割当約束の組み合わせでアクセスを改善することが合意されている。
 ただし、重要品目については、その「取り扱い」そのものが主張が対立している。日本をはじめとするG10とEUは、重要品目の市場アクセス改善の程度は一般品目より小さくすることが原則と主張しているのに対して、米国、G20は市場アクセスの改善は一般品目と同等であるべきと主張している。
 その主張の違いが関税割当の拡大方式の考え方の対立となっている。
 たとえば、米国は、現行の約束数量に、国内消費量をベースにした基礎的拡大部分に加えて、高関税のものほど拡大幅が大きくなるという要素を入れた算出方式を提案しているが、日本やEUは「高関税品目に対して二重に負担を求めるもの」と強く反論している。
 一方、G10とEUは関税の削減率と関税割当の拡大を組み合わせるスライド方式を提案している。関税削減率を大きくすれば、関税割当拡大幅は小さくなるという考え方だ。


◆スライド方式でG10が新提案

G10提案の計算例

 なかでも日本は4月のG6高級事務レベル会合でこのスライド方式について新たな提案を行った。
 数値はあくまで計算例としているが、この提案で標準的な組み合わせとして示したのが▽関税削減率は階層方式で適用される削減率の50%、関税割当拡大率は20%というもの。これを標準として、削減率を大きくすれば関税割当拡大率は小さくなり、削減率を小さくすれば関税割当拡大率は大きくなるというモデルを示した。
 ただし、関税割当拡大率は現行の関税割当枠が消費量に占める程度によって、修正係数をかけて調整するという提案も行っている。関税割当枠が国内消費量の5〜10%の品目の修正係数を「1」として、消費量割合の大きいものは圧縮し、小さいものは拡大するという方式だ。たとえば、関税割当枠が消費量の30%以上を占める品目の場合は「5/1」を修正係数とする。小麦などがこうした品目に該当するが、その場合の関税割当拡大率は4%に圧縮される。逆に消費量に占める割合が2.5%未満のものは修正係数を「3」とする、としている。
 日本の場合、国内消費量に占める関税割当枠がもっとも小さいのがコメでミニマム・アクセスとして合意された7.2%。今回の提案をもとに考えると、コメの場合は修正係数が「1」のため、標準的組合せ(関税削減率は階層方式の削減率の50%)を選択すると、20%の拡大となることから約92万玄米トンの枠となる。ただし、関税削減率を階層方式の削減率の80%とすれば、関税割当拡大率は5%とすることができるため、この場合は現行枠より3.8万トン多い約80.5万玄米トンにとどまるという計算になる。
 G10はこの提案について、とくに輸入量の小さい品目の関税拡大幅が大きくなるよう修正係数を設定したと輸出国側に説明、また、EUも輸入量が小さい品目の場合は消費量をベースに拡大幅を計算する方式を提案している。しかし、いずれについても輸出国側は関税割当拡大幅が小さすぎるとして評価していない。
 このほか重要品目については、その品目数についても重要な焦点になる。また、階層方式に適用する関税削減率についてもG10は45%(高関税品目の場合)、米国は90%と大きな隔たりがある。さらに市場アクセス分野には米国に批判が集まる農業補助金(国内支持)削減の問題が絡む。
 ただ、これらの論点が議論されるためにも「重要品目の関税削減と関税割当拡大の方式でどう合意の見通しが得られるかが焦点」(農水省)という見方もあり大きな論点になっている。

G10提案の修正係数
(2006.5.10)
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