農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

「本当に大丈夫か?」
米国産牛肉輸入再開に不安の声



 米国産牛肉の輸入再開問題で政府は5月17日から日米専門家会合を開き米国の認定施設の点検結果や、日本側の事前調査の実施などについて大筋で合意し、政府は6月1日から全国10か所で消費者、事業者などとの意見交換会を開く。ただし、米国の安全確保の体制については依然として不安や疑問の声が多く、生協など消費者団体も専門家を招いた学習会などを開いている。日米専門家会合が開催中の18日には、東京マイコープが食品安全委員会プリオン専門調査会の前座長代理の金子清俊東京医科大学教授を招いた学習会を開いた(写真)。金子教授の報告をもとに米国産牛肉の問題点を整理してみる。

消費者との意見交換会を6月から開催 政府

◆米国産牛肉、何が評価されたのか?

 17日から19日午前にかけて厚労省、農水省などと米国農務省で行われた日米専門家会合で、35の日本向け輸出認定施設の再点検結果について、一部で手続きや書類上の問題点があったものの、牛肉製品に影響を及ぼすものではなく、問題点については早急に改善される予定であることが確認されたという。また、輸入再開のための手続きとして日本側の事前調査の実施や、適格品リストの提供などにつても意見交換した。
 この日米専門家会合の結果を厚労省、農水省は6月1日の仙台会場を皮切りとした消費者への説明と意見交換をふまえて輸入再開に向けて手続きを進める方針だ。
 ただ、今回の専門家会合で米国が示した認定施設の検査結果も処理された牛肉の記録という保管されていた書類上のデータ。処理工程や牛肉そのものが点検されたわけではない。意見交換会などで消費者の納得がどこまで得られるか。
 一方、昨年末に米国産牛肉のリスク評価をした食品安全委員会の答申や、それを受けて輸入再開を決めた政府の対応に依然として疑問の声は多い。
 東京マイコープが開いた学習会で金子教授は、昨年の米国産牛肉のリスク評価の問題点を改めて指摘した。
 国内では牛肉の安全性については、2001年10月から実施された全頭検査体制を含めたBSE対策そのものを評価した。全頭検査のほか、肉骨粉の流通、使用禁止など飼料規制と食肉の処理工程では特定危険部位(SRM)の除去が行われてきた。これらの対策のもとで集められたデータをもとに評価が行われた。
 その結果、20か月齢以下の牛からはBSE感染牛が発見されていない事実を報告し、総合的なBSE対策が実施されているなかで、評価した時点で20か月齢以下の牛にはBSE感染リスクは少ないとした。
 金子氏は改めて評価した時点で20か月齢とは、BSE対策が実施されているという前提で、具体的に「2003年4月以降に生まれた牛、という意味」と強調した。しかし、それが単に「20か月齢以下」という理解になってしまった。
 と畜場での全頭検査、飼料規制、SRMの除去という「3重のバリア」があり、さらに2001年から35万頭の検査結果というデータをもとにして評価されたものということを改めて考えるべきだろう。

◆基本は予防原則

 これに対して米国産牛肉のリスク評価は、本紙でも繰り返し指摘しているように、米国のBSE対策を評価したのではなく、製品・産物の評価であり、しかも日本向けの輸出プログラムが守られたと仮定しての安全性評価だった。
 さらに問題なのは、この評価には「20か月齢以下は検査不要」でSRMの除去さえなされていれば「安全」という前提がつくられているのではないかということだろう。金子教授が指摘するように、国内対策の見直しの答申で出てきた「20か月齢以下」が一人歩きしてしまっている。
 米国のBSE対策が評価の対象であれば、しばしば指摘されるように飼料規制が完全には実施されていないということも大きな問題だ。

◆人から人への感染リスク

 金子教授によると、今後のBSE問題で大きな課題となるのが人から人への変異型CJDの感染。食品安全委員会では「食品」の安全性評価だからという理由で、牛から牛への感染と、牛(牛肉)から人への感染のリスク評価にとどめられたが、今年になってからの報告で英国では変異型CJDの潜在感染者は1万4000人との発表もあるという。人から人への感染リスク評価も重要な課題だ。
 この病気は潜伏期間が長いため、感染していてもそれと知らずに輸血、臓器移植などをしてしまうことも可能性もふくめて評価した結果が英国内の推計データとして示された。潜伏期間の長さについてもまだ明確ではないが、BSE感染牛が今後減っていっても、変異型CJD患者は世界のあちこちで発生していく可能性は高いという。
 こうした人の安全を脅かす事態が牛肉生産の場から世界中にもたらされたことになるが、牛のBSE、人間のCJDについても不明なことが多いという。
 ただし、金子教授が強調したのは「プリオン専門調査会が明確にしたことのひとつは、低汚染国ではと畜場で検査をしないと約半数のBSE感染牛を見逃す可能性があるということ。依然、実態が分からない対象についてはやはり予防原則のもと日本のような対策が必要ではないか」という。
 世界的な流れはSRMさえ除去すれば安全という傾向で、BSE検査の目的は発生傾向を探るサーベイランスの位置づけでいいというもの。
 しかし、人への感染を防ぐため、確実にBSE牛を見つけ、飼料規制など食物連鎖から排除するという対策が将来の安全を確保するという視点を忘れてはならない。

(2006.5.29)
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