農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

格差拡大社会の低価格志向に応える事業を進める
日本生協連 通常総会議案のポイント



 日本生協連(小倉修悟会長)の第56回通常総会が、6月15〜16日に東京で開催される。06年度は、日本生協連が進める第9次全国中期計画(9次中計)の最終年度であり、また昨年の総会で決定され「時代の変化の方向性とスピードを見据えながら、生協の21世紀理念を積極的に具現化し、社会に意義ある組織として存在しつづけるための、長期的指針」として位置づけた「日本の生協の2010年ビジョン」(以下「2010年ビジョン」)の具体化のための実行プランともいうべき、第10次全国中期計画(10次中計)作成の年として位置づけられている。
 日本生協連は、国内最大の消費者組織であり、その動向は、国内農業はもとより生産者、農協に対しても影響をおよぼすものがある。そこで、総会の議案書から、現在の生協の状況とこれからの課題を探った。

◆個配の伸展と組合員増で事業を維持

 まずはじめに全国の生協の05年度の概況をみてみると、日本生協連加盟の会員生協数は626生協(購買生協502、医療生協116、共済・住宅生協8)で前年と変わらないが、加入組合員数は2350万3000人で前年よりも2.6%増え、その総事業高は3兆3316億円で同1.2%増となっている。
 産直事業などで農協組織とも関係が深い地域生協は、生協数は161と前年と変わらないが、組合員数は1653万3000人と前年よりも56万4000人増えた(3.5%増)。共済事業などを含めた総事業高は2兆6227億5000万円、共済事業などを除いた供給高は2兆5191億円といずれも前年より1.2%の増加となっている。
 そのうち店舗による供給高は、9977億円強(前年比1.9%減)で1兆円の大台を割り込んだ。無店舗供給高は、1兆4899億円と同3.2%の増加となっているが、班供給高は7944億円と前年より5%近く減少。一方、個配による供給高は6955億円と同15%弱の増加となっている。
 組合員1人当たり月利用高は03年度1万4162円(前年比98.4%)、04年度1万3742円(同97%)と減少傾向にあるが、05年度も1万3449円(同97.9%)となり、この傾向が引き続いている。
 こうしたことから、個配事業の伸展と組合員の増加によって、生協の事業が支えられているという構図が浮かび上がってくる。05年度の重点課題として「無店舗事業での個配拡大による、供給高の成長性回復が全国的に最優先課題」として提起されていたが、一定の成果があったということだろう。

◆強まる低価格志向に応える価格競争力を

 こうしたことの背景として議案書は「人口減少のなかで世帯構成人数が減少しており、高齢者や若者の単身世帯が増加し、社会のシングル化が進行」、さらに「年金が主要な収入となる高齢者や非正規労働者が増加している若者等を含めて、社会全体に所得格差が拡大し低所得者層が増加して、品質やブランドへの指向と同時に低価格への指向も強くなって」いる。日本生協連の全国生計費調査によれば組合員世帯の収入の月平均は「2000年度以来減少を続け2004年度は前年比98.4%」となっていることや税金や社会保険料の負担が増加しており、消費支出が名目では上昇しているが、実質的には引き続き減少していることをあげている。
 そして「安全な食材提供の視点で生鮮の産地開発等の努力」が続けられているが、「価格に対する組合員の不満は解消されておらず、低価格指向が強まる中で価格競争力の強化が改めて求め」られている。そのために「生協の購買事業の核となる食品では、ふだんのくらしを支える生鮮・惣菜の充実が重要であり、生協の基本である安全・安心を大切にしながら、生鮮・惣菜の鮮度・価格・品揃えの充実」をはかるが、「社会全体に合理的な低価格指向が高まっており、生鮮・惣菜においても、シーズン毎の値ごろ把握に留意し、価格競争力の維持」をはかることが06年度の重点課題として掲げられている。

◆負の遺産などを一掃し新たなステップへ

 06年度については、05年度は「個配拡大の事業戦略、事業連合による連帯、生協の社会的役割発揮等については、具体的な実践」が進んだが、「04年度の消費税総額表示への対応不足による経営危機の発生から、05年度は03年度レベルへの業績回復が最重点課題となり、事業・経営構造改革の課題はその多くが積み残し」となったので、「06年度は、9次中計の目標達成に努力しつつ、10次中計に向けて基盤整備を行う年」であり、「10次中計を、2010年ビジョンの実行プログラムとして策定するうえで、06年度の到達レベルが大きなポイント」になる。そのため「06年度で、過去の負の遺産や積み残し課題を一掃して、次の新たな発展のステップに踏み出せる、高いレベルの体質を作り上げることが重要」だとしている。
 そして06年度の重点課題として、▽経営構造改革を進め、購買事業の経常剰余率1.5%を実現▽事業改革を進め、ふだんのくらしに役立つ事業を確立▽事業連合の統合の質を高め、事業連帯を前進▽くらしの安心をめざす、生き生きした活動を発展▽新しい社会システムの定着と社会的役割発揮の取り組みを前進させるという5項目を掲げた。

◆人件費削減と外部委託化で経営構造を改革

 このなかで「低価格志向の高まり」に応えた「価格競争力の維持」とともに注目したいのが、「経常剰余率1.5%を実現」するために「人件費構造改革を進め、販売管理費を1ポイント削減」する。そのために正規職員を中心とする「余剰人員対策を正面に据えた人件費削減の徹底」とパートや外部委託への「労働力編成の大胆な転換」だ。
 すでにコープかながわでは、6月1日から45歳以上の正規職員を対象に200名の早期退職者を募集することにしているし、多くの生協で業務の外部委託化が行われている。また、「赤字店舗の一斉閉店による店舗事業の大幅な軌道修正や、場合によっては店舗事業からの全面的な撤退」についても「組織的な合意形成」を進めることにしている。
 こうしたことが、今後、産地にどのような影響をおよぼすのか注目していきたいと思う。

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 議案の基調にある「所得格差拡大社会」とそれによる「低価格志向」に応えることが生協事業の基本という考え方は、「2010年ビジョン」や「日本の農業への提言」以降、一貫して日本生協連が主張していることであり、総会議案もその点では首尾一貫しているといえる。そのことが、国内農業とくに産直事業などで生協と提携している産地・農協にどのような影響を与えるのかを注意深く見守っていく必要があるのではないだろうか。

(2006.6.2)
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