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シリーズ この人に聞く 参議院選挙・農政の焦点――1

   

コメの生産調整 選択制に

 民主党衆議院議員
(ネクストキャビネット環境・
農林水産副大臣)
鉢呂 吉雄 氏

  聞き手: 後藤 光蔵 武蔵大学教授


 本紙では、今号から7月の参議院議員選挙に向けて、おもな政党の農業・食料政策について問うインタビューを連載していく。各党に共通の質問項目を(1)米価など農産物価格下落への対応、(2)新たな農業所得経営安定対策への対応、(3)セーフガード発動の評価、(4)食料・農業・農村基本計画の目標達成に必要な施策、(5)WTO農業交渉への対応‐‐、とし、インタビュアーを後藤光蔵・武蔵大学経済学部教授にお願いした。
 第1回は、民主党衆議院議員の鉢呂吉雄氏。米の生産調整の選択制への移行と、国際的な食糧援助機構の設立の必要性などを訴えている。

◆米価下落は市場原理導入が原因

 ‐‐米価の下落が続き、とくに中核的な農家が悲鳴を上げています。この原因をどのようにお考えですか。

 「やはり市場原理の導入が原因だと考えています。最近は上昇している銘柄もあるようですが、やはり過剰で全体として下落しています。
 これは米価にも消費動向を反映させるということですから民主党としてはそれは是として捉えながらも、しかし、米作農家の経営環境は悪化しているわけです。価格変動を経営に影響させない仕組みをとらなかった政府の政策的な失敗は大きいと思いますね。
 価格補てん制度(稲作経営安定対策)はつくりましたが、これはきちんとした制度ではなく次から次へと手直しをしている。それでも追いつかない状態です。ですから、たとえば、補てん基準価格をもっと固定的にするなど恒久的な制度としてすみやかに作り直す必要があると考えています」

◆転作制度は選択制か国の制度としては廃止に

 ‐‐ミニマム・アクセス米や備蓄制度の在り方の影響はどうでしょうか。

 「最終的な結論はまだ出していませんが、民主党は、事実上強制となっている米の転作制度については、これを選択制、ないしは国の制度としては廃止すべきだと考えています。
 農村では米の転作制度に対する反発は予想以上に強いですね。もちろん国の制度としては廃止しても、生産者の自主的な取り組みとして残すことはあっていい。そのうえで国としては備蓄制度を持ち、さらに国際的な食料援助機構をつくって、そこで国際的な食料危機に対する支援を具体的に行うべきだと考えています。
 そういう方法で米の過剰を避けながら、一方で生産者がもっと米の販売を伸ばすような努力をするといった自主性を高める政策が大切になっていると思います。
 ですから、ご指摘のように備蓄米やMA米が市場に悪影響を与えているというのは当然だと思いますが、そこは早く適正な備蓄水準に思い切って持っていくべきです。もちろん国際的な食料支援に使うとなれば膨大な予算が必要になってきますから、そこはきちんと予算をつける。その財源をどうするかが問題ですが、われわれは土地改良事業から相当の予算を持ってこれると思っています。今の政府ではなかなかできませんが、これからは直接、生産者や消費者に対応できる予算の仕組みにすることが問われていると思います」

 ‐‐新たな農業経営所得安定対策が検討されはじめていますが、どう評価されていますか。

 「民主党ももっと強力に直接所得政策を実施しようと考えています。ただし、予算のばらまきはまかりならんという立場でわれわれは対象を、貿易自由化の影響をもっとも大きく受ける専業的農家と、日本農業が生き残る道を考えてやはり有機農業などの環境保全型農業に取り組む農家、そして現在実施されている中山間地域などの条件不利地域に対しての定住策、と3つを考えています。このようにきちんと対象を明確にしてルールづくりをすべきだと考え、議員立法で国会に提出する予定です」

◆農産物の特別セーフガードを拡充する措置を

 ‐‐野菜のセーフガードの発動措置についてはどのようにお考えですか。 また、そのような緊急措置と同時にどのような対策を考えていくべきでしょうか。

 「急激な輸入増加ですからセーフガードの発動はやむを得ないと思います。ただ、これは一定期間の措置でそれ以降は何もありませんから、やはりWTO協定のなかで農産物についての特別セーフガードを拡充するための措置が必要だと思っています。
 一方では、国内の農業が外国と競争できるようにしなければなりませんから、野菜農家についても経営安定化のための施策が必要で、価格安定基金制度といった政策を相当拡充する必要があると考えています。
 それから生産者の方から意見が出ているのは、生産資材のコストが海外と全然違うということですね。今後は中国などとコスト競争ができるように生産資材費を下げるための目標値、ガイドラインのようなものが必要になってくるとも思っています。
 また、流通業者や開発輸入業者が日本に売る野菜の安全性について政府が一定のルールづくりをする必要があると思います。生産資材の面でも日本の商社が関わっていると思いますが、それを日本の食料の安全性に関わる問題として、たとえば輸出資材の安全基準というものも検討しなければいけないだろうと思っています」

◆農地を減らさないための完全な規制導入を
後藤 光蔵 武蔵大学教授

 ‐‐新基本法と基本計画が策定されました。目標達成には何が重要だと思いますか。

 「総体の農地面積を減らさないための規制強化が必要だと考えています。日本には国土全体に対する土地政策がなく、そのために結局、農地が食いつぶされてしまう。
 農地に対する規制は難しいと言われますが、われわれは、農地を減らさないための完全な規制を導入し、一方で担い手についてはある程度自由にしてもいいのではないかとの考え方に立っています。株式会社の参入問題が論議されましたが、担い手をあまりに限定しては農業になかなか活気が出ないのではないか。
 実際、株式会社であっても農地に対する規制が本当に厳しければ参入して来る人も限られてくる。今までの例は農地を他に利用しようする目的があるから参入しようとしたのだから、そこをきちっと規制する仕組みをつくることが大事だと思います」

 ‐‐WTO農業交渉で日本は何を主張すべきだと思いますか。

 「基本的には日本政府の主張でいいと思っています。農業の多面的機能や食料安全保障などを主張して、農産物は他の工業製品と同じではないということを訴えていくべきです。ただ、願わくばWTO協定の条文の改正にまでもっていければいいと思います。政府の方針は改革過程を前提にし、そのなかで非貿易的関心事項に配慮するという条文に沿って交渉をする方針のようですがそれでは弱いと思っています」

 ‐‐日本の主張を実現するための取り組みとしては何が必要でしょうか。

 「WTOではすでに各国から日本提案に対する批判が上がりましたね。あれを押しのけて日本の主張を通すのは相当至難なことだと思いますが、まずは米国政府に対して日本が強く交渉していく。今のところ、日本はEUなどのフレンズグループなどと連携していますが、やはり米国やケアンズグループの懐に入って、それも総理大臣を先頭にして主張していくことがいちばん大事だと思います。外交官など官僚に任せるのではなくて」

 ‐‐こうした議論の基には21世紀の社会のあり方、あるいは農業の役割をどう考えるかということも必要ですね。

 「地球は有限だという認識が必要でしょう。資源や食料供給には限界があるという理解をどう広げるか。国内でも農業など知らないという人も増えていて、農村的な環境、文化が精神を癒してくれるという理解も少なくなってきていますから、そこは教育も大事になります。
 セーフガード発動についても、消費者からは安いほうがいいという声が多く、安全な農産物は国産でという声が少なかったのは残念です。しかし、政府は、与党と農業団体のほうだけを向いて、たとえば三者会議で方針を決める。こういう内向きの姿勢ではなかなか国内で農業を理解してもらうということ自体もおぼつかないのかなと思います。われわれは政策を決める手法も問題にしていきたいと考えています」


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