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シリーズ この人に聞く 参議院選挙・農政の焦点――3

   

“選別”でなく地域農業全体
支えるシステムを


社会民主党 参議院議員
(全日本農民組合連合会会長)
谷本巍 氏

  聞き手: 後藤 光蔵 武蔵大学教授


 シリーズ3回めは社会民主党の考え方を参議院議員の谷本巍氏に聞いた。
 谷本氏は米価回復のためには備蓄を適正量に見直すべきことを指摘する。また、新たな経営所得安定対策については「特定農家に焦点を当てた選別政策の時代は終わった」と主張し、兼業農家なども含め担い手を幅広く捉えた政策で自給率向上をめざすべきだと訴える。環境保全型農業の振興策の必要性も強調している。

◆備蓄量見直せば米価は回復する

‐‐最初に、米価の下落の原因についてのお考えから聞かせてください。

  「豊作が続いていることもありますが、それ以上に制度が生み出した米の過剰が原因だと捉えています。
 この制度をつくるとき、備蓄量をどのくらいにするかが問題になった。この備蓄は、備蓄した米を全量主食米市場に回転することにしている。その回転可能な量は120万tなのです。ところが、政府・与党は基準備蓄米は150万tと主張しました。大凶作を受けての備蓄制度づくりだったため2年凶作が続いても耐えられる制度にしようという謳い文句で、備蓄基準量を150万tにしてしまったのです。だから、平年作でも30万tの繰越しが生じる計算になる。その繰返しのなかで過剰米の大発生となったのです。ということは備蓄のあり方を変えれば価格も好転し、価格も安定できるんです」

‐‐経営に着目した新たな経営所得安定対策も検討されていますが。

 「この対策では対象を40万戸に絞るということもいわれていますね。これは主業農家や認定農家を念頭に置いた数字だと思いますが、対象を限定すれば直接支払い制度的なものが財政的にも可能だと、財政問題との絡みからも40万という数字が出てきていると思います。
 そうなると、ほかの農家を排除するわけです。それが大規模農家にとってプラスなのかといえば疑問がある。規模拡大するときでも大規模農家は近所に気を使いながらやっている。それは稲作でも畜産でも変わりはない。ところが、特定の農家だけに施策が集中すると周囲は冷え込んでしまう。そうでなくても大きな農家が存立していくには、多くの兼業農家などとの協力関係を結ばなくてはやれないのが現実です。対象を限定するのは間違いです。
 もう一つの問題は、この政策を保険制度的なものとして仕組んだとしても、保険制度では価格の変動には耐えられません。そうなるとこの制度を維持するために、もうひとつ価格安定政策をやらざるを得ない。それを組み合わせなければだめだということになる。そのような仕組みをWTO協定も念頭にいれながら上手に仕組まなければだめだ」

◆「自給の社会化」地域経済にも影響

‐‐では、どのような政策が必要だとお考えですか。

 「特定農家に視点を当てた選別政策の時代は終わったと思います。農業でも輸入野菜の急増などグローバリーゼーション化が進むなか、規模拡大で生き残りなさいといっても生き残れません。  そうするとどういう手法があるのか。私は、専業農家も兼業農家も、それからホビー農家や市民農園農家でさえも、ひとつの生産の担い手として地域でトータル的に捉えていくことが大事だと思っています。
 最近、野菜の産直運動などを見てみますと兼業農家が中心になっていますね。要するに自給の社会化です。自給するために野菜を作っているわけだけれども、その延長としてもう少し多く作ってみようか、という人たちだ。だから安心・安全の野菜だと産消提携ができあがり、運動が実に多様な構成員から成り立っているから広がりが生まれる。
 こういう動きを考えてみると、やはり農業生産に携わる人を全体として捉えて地域の自給率をどう高めていくか、地域生産と地域消費、ここを基礎としながら近隣の小都市とどう結びついていくか、こんな発想を基礎に据えた新たなシステムをつくらないと、専業農家も成り立たなくなってゆくのではないか。
 日本農業の場合には古くから、大小相補う関係ができていました。専業農家のように技術水準の高い農家がいないところには地域農業も成り立たないんです。集落営農システムをつくるといっても兼業農家がいないとうまくいかない。したがって、専業的な大規模農家を守っていくためも、選別する政策ではなく、地域全体がその人たちを支えていくような体制をつくり、それに対して公的なバックアップ体制をどうつくるのかが問われていると思います。
 過疎化を免れた地域、あるいは都市近郊でも農業が維持できている地域には共通の特徴があります。その一つは、作った農産物をそのまま売らないで加工している。そういう地域は必ず専業農家と兼業農家との交流関係が生まれてきます。地域全体を活性化させていくには、原料生産だけではだめで付加価値部門を地域にどう落としていくか、それと相俟っていかないと地域経済は成り立ちません」

‐‐野菜のセーフガード発動についてはどう評価しますか。

 「農水省が、麦を生産しよう、トウモロコシを生産しよう、というなら、圧倒的に高い価格政策で育成することですよ。
 採算に合う農業にするにはどうしたらいいかというのは、通産省的発想です。食料は採算に合わない。安全保障は採算に合わない。逆に言えば、農業も採算に合わせる商売でなければならないとなったら、日本は飢えるんだということです。
 土地改良事業についても、公共性が高く必要な部分はあるわけで、それは国家ベースで行うが農家負担はゼロにすべきです。それはなぜなのかといえば、国民の食料を確保するためだからです。
 今は、農家が儲けるために国がやってやる、だから自分だって負担しなさい、という発想。ところが、発想を変えれば、国が国民の食料をしっかり確保できるようなほ場を整える、施設を整える、だから都市の人たちから集めた税金でそれをしっかり作る、農家が負担するなんてもってのほかだ、ということになりますね。そういう基本的な政策のスタンスを変えるのがわれわれの考える農業の構造改革なんです」

‐‐セーフガード発動についてはどう評価しますか。

 「私は発動すべしと主張してきた一人です。日本の農業のように多面的役割を非常に高く持っている農業の場合は、やはりセーフガードのような制度がないと守ることができないと思います。  中山間地域では人がいなくなったところと、人が住んでいるところでは、景観がまったく違いますね。これはもうはっきりしている。村に人が住んでいるから、あっちもこっちも手を入れて、景観が整っているわけです。では、景観を維持するのに、たとえば公園ならどれだけの維持費を払っているか。草刈りも樹木の剪定も必要ですから、相当な費用が投入されている。農業の持つ国土保全の役割にしても同じことです。
 つまり、農業生産を通じて生み出している価値のうち、農家が受け取っているのは農産物の販売代金というごく一部だけでしかない。その収入だけで賃金のものすごく安い国から入ってくる農産物と勝負をしろといってもできっこない。
 セーフガードは必要であり、しかもこれからは一定価格を割った場合には自動的に発動されるとか、あるいは数量を基準にして自動的に発動されるようにするなどを考えていく必要があると思います。
 もうひとつ別の問題は有機農産物の輸入です。今、中国では有機野菜の生産が急ピッチで伸び始めていますね。現地のコストは日本の9分の1だそうです。輸送費も安くなっていますから、これは大変な違いですね。
 しかも改正JAS法が成立して有機農産物の認証制度が発足した。中国から入ってくるものも当然対象にされていくことでしょう。日本国政府が認証したものが出回るということになると、日本の消費者の国産品に対する対応が変わる可能性があるんじゃないか。
 私たちは認証制度をつくる際、有機農業振興法も同時につくれと主張したんです。セットでなければ法案のあり方としてはおかしいわけです。野菜の場合ですと収量が安定するには3年から5年かかりますね。ですから、その間の所得補てんをどうするかといった問題もあります。そういう問題について政府がきちっと援助しましょうという制度を作っておく必要があるが、それがない。ここが問題です」

◆環境保全型農業を振興させる制度を

‐‐WTO農業交渉における日本の課題はなんでしょうか。

 「最大の課題は、多面的機能の問題です。WTOはガット時代から効率化一点ばりでやってきましたが、これでは世界の農業を維持することは無理だ。世界の農業をきちんと維持しながら、環境保全型の農業を伸ばしていく。これをやっていくには、効率化と多面的機能の2本立てでやっていくことが、世界の農業を守るうえで大きな課題になってきた。ただ、問題なのは日本は世界に向けて農業の多面的機能の評価を主張しながら、国内農業では、どうもはっきりしないということです。私たちはかつて中山間地域農業振興法案をつくり所得補てん政策をやりなさいと政府に迫ってきましたが、私たちが提出した法案は、無農薬で作ったものと慣行農法で生産したものには助成金に格差をつけるというものでした。つまり、環境保全型農業を推奨するという助成策でなくてはならないというのが基本的な主張でした。ところが、政府は平場とのコスト差だけを基本にして中山間地域政策を考えた。やはり今後は環境を視点に据えた政策であるべきではないかと考えています」


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