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シリーズ この人に聞く 参議院選挙・農政の焦点――4

   

無秩序な農産物輸入に歯止めを

日本共産党・衆議院議員
(日本共産党国会議員団農林水産部会長)
中林 よし子 氏

  聞き手: 後藤 光蔵 武蔵大学教授


 「食料、農業問題は日本の危機的な状況の一つ」と主張する日本共産党は、自給率向上を最大の農政課題と捉え、無秩序な輸入に歯止めをかけることや、生産者の経営を守る価格保障政策の充実が必要だと主張する。そのために今後本格化するWTO農業交渉では、国際的な連携のもとでWTO協定の改訂を実現すべきとの考えだ。同党衆議院議員の中林よし子氏に聞いた。

−−農産物価格が下落しています。とくに米価下落についてはどう考えていますか。

 「WTO農業協定に身の丈を合わせ、価格保障を取り払うことにした新食糧法の施行、そしてその総仕上げとしての新基本法の成立、この流れとミニマム・アクセス米が原因だと思います。
 価格保障がない限り余剰になれば当然下落するわけですが、では、なぜ過剰になったかといえばそれはミニマム・アクセス米の存在だと思います。昨年10月末で294万t、今年も70万t以上輸入するというとんでもない量です。しかも国産米の需給に影響させないと言っていたにもかかわらず、加工用や主食用に100万t以上使われている。国産在庫米が今年10月末に280万tになるようですが、300万tを超えるミニマム・アクセス米がなかったら、もっと需給動向が改善して米価は上がっていっただろうと思います。それから、入札での値幅制限の撤廃も原因でしょう。
 こういう事態に対して政府は稲経をつくりましたが、毎年、緊急対策を実施しており、自民党ももうこの制度は破綻していると認めていますよね。だから、この問題では政治の責任が非常に大きいと思っています」

−−稲作政策の転換は、市場原理の導入というこの間の農業政策の方向を象徴するものだったと思います。しかし、それも価格下落が続き今は経営所得安定対策が検討されていますね。

 「このままでは日本から農業がなくなってしまうという危機感が自民党に新しい所得保障政策を考えさせたとは思います。ただ、その中身は過去3年平均をもとに一定割合を補てんするということのようですから、自分たちが破綻を認めた方式を追認するわけで、これはいただけません。
 また、40万戸ぐらいに限定して、大規模農家、中核農家に手厚い所得保障をということですが、それで本当にその人たちの経営が守られるのか大変疑問ですし、この人たちだけで自給率が上がるのでしょうか。
 私たちはわずか2割程度の農家だけに目を向けるような施策より、農家の大多数をカバーできて、これまで日本の農業が培ってきた家族経営がしっかり守られる政策でなければいけないと考えています」

−−施策を担い手に集中するというのは必ず争点の一つになりますね。その点も含めどのような政策が必要と考えますか。

 「農家の大多数が展望をもって生産に励めるようにすべきです。また、根本に触れないで対症療法的な施策をしても一層矛盾が拡大するということです。その根本的な問題とは、輸入を認めてしまっていること。それから米も含めてすべての農産物を市場原理に委ねていることです。そのいちばん基本を変えなければならないと考えています」

−−そうすると米政策ではもう一度価格政策を実施することが必要だということでしょうか。

「私たちは米の自由化の際、政府は最低でも60kg2万円で300万t買い上げるべきだと緊急提言し、備蓄も200万tは必要だと主張しました。米価の下支えがあれば自主流通米価格も上がっていくでしょう。今はさらに自主流通米価格は下がっていますが、せめて1万8500円ぐらいに入札の下限価格をし、これを守るために政府の買い支えも行われるべきです。やはり米の価格保障が今の農家の経営基盤を支えるうえではかけがえのない施策だと思いますね」

−−野菜についてはセーフガードが発動されました。

 「これは非常に意義があると思っています。今までは日本は何でもかんでも輸入する国なんだというのが政府の姿勢だったわけですね。自由貿易、これは絶対に崩さないと。
 ところが、今回、農民のみなさんをはじめとする全国民の思いのなかで実現したということは、日本も貿易ルールを行使するんだということを世界に宣言したことになり意味があると思います。
 ただ、遅きに失したという感じは否めないですね。というのは、3年前にイ草について熊本県に調査に行ったとき、半年間で20人を超える人が自殺しているという実態を聞いてすぐに発動を申し入れたんですが、そのときは、これは輸入が原因ではないとされてしまった。今年も発動前に現地に行ってみたんですが、さらにイ草を生産していない農家は増えていた。倒産した農家の織機はどうなっていくのかと聞いたら、結局、業者が買いにきて中国に売ると…。こういう産地の思いを考えると本当に遅きに失したと思うんです。ただし、今後は暫定で終わらせず4年の期間がある本発動をすることと、農産物ではタマネギ、トマト、ピーマンなどについても直ちに発動させていくことにつなげないといけません。参議院選挙が終わればこの問題も終わりというのは絶対に許されませんよ

−−一方、この問題は開発輸入にも原因がありますね。政治としてはどう対応しますか。

「日本政府もそこにメスを入れるべきです。たとえば、外為法にも国内産業に影響を及ぼすようなことがあればそれを制限するという条項がありますが、これまで日本は一度もその条項を使っていません。ですから、この規定などを使って農業に限らず繊維分野などの開発輸入の問題を、まず国内問題として解決していくことも重要です。  開発輸入規制ができればその時点で中国でも韓国でもそれぞれ農業生産の正しい方向を考えていただけるのではないか」

−−ところで、新基本法と基本計画については共産党はどう評価していますか。

 「私たちは新基本法に対案を示し唯一反対した政党です。今、食料と農業に求められているのは自給率の向上であり、6割を外国農産物に頼っているのは危機的な状況です。ですから、自給率向上に本当に役立つ基本法でなければならないと思ったわけですが、私たちが反対したのは、まず自給率の目標値が書き込まれなかったこと、一定の輸入を食料供給のための義務という位置づけにしたこと、価格保障を一切なくして市場原理を導入したこと、株式会社の参入、家族経営の軽視などの問題があったからです。
 基本計画では45%の目標値を掲げましたが、その中身は農業者やその他の関係者が取り組む課題だとして、政府が何をするのかまったく曖昧なままになっています。
 一方で、国民の食べ方の問題も上げて、5ポイントのうち2.2ポイントは消費者の食べ方を変えることによって高める、残りの2.8ポイントは農業者の努力だということですね。ただ、今まで農業者も精一杯やってきたわけですね。にもかかわらず、同じ方向を打ち出すのではとても2010年までに5ポイント上げることはできないと思いますから、この基本計画は評価できません」

−−今の新基本法をつくる枠組みとしてもWTO協定は影響を持ったと思いますが、今後の農業交渉では何を課題にしてどう主張していくべきでしょうか。

 「政府が出した次期交渉に対する基本施策とは、今のWTOの枠組みは是認し、そのなかで若干自分たちの主張を入れていくんだというものですね。これでは日本農業は守れないと思うんです。
 やはり食料自給は国の主権として認めるという方向でなければなりません。日本は米が主食ですから、食料主権という立場から、これは農業協定からはずす、つまり自由化の対象にはしない。こういう主張をしなければならないと思います。
 それから生産を刺激するような政策は認められないということですが、各国の事情を調べると米国でも価格保障は堂々とやっているわけですね。それは米国がけしからんのではなくて、それが当たり前だということです。したがって、私たちはWTO農業協定の改訂を当然求めていくべきだと考えています。
 私たちは、日本の危機的な状況のひとつが食料、農業問題だと位置づけています。そういう意味ではこれは国民的な課題です。国の生存権に関わる問題なのに、6割を外国の食料が占めているという異常な自給率。これを早く50%に回復し60%をめざすというのが基本政策です。
 そのためには、繰り返しになりますが無秩序な輸入はやめることと何といっても価格保障ですね。これがなければ経営が安定しない。農林水産業の予算のなかでも半分以上が公共事業で所得に関わるのは2割程度というのは、諸外国とくらべても非常に少ないわけです。
 国民の命の源、環境に与える問題だと考えれば、当然、予算措置もこの部分をしっかりさせることが大切です。安全な食べ物を日本の大地から、この基本を国の中心に据える政治に転換しなければなりません」


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