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シリーズ 2002コメ改革

将来の地域農業をどう描くか
米政策の改革に向けたJAグループの討議と
実施討議のねらいとポイント


馬場利彦 JA全中食料農業対策部水田農業対策課長

 米政策の改革に向けJAグループは8月下旬にかけて徹底した組織討議を行う。政府の「生産調整に関する研究会」は6月の中間とりまとめで基本方向は示したが、明確な具体策は示されておらず今後の検討に委ねられた。組織討議はその具体策を検討するもので、JAグループの政策提案が改革に大きな影響を与える。討議のポイントをJA全中・馬場利彦水田農業対策課長に解説してもらった。

◆研究会中間とりまとめとJAグループの対応

 6月28日、政府の「生産調整に関する研究会」で中間とりまとめがなされた。 「米政策の再構築に向けて」と題するこの取りまとめは、将来の米づくりのあるべき姿に向かっての基本方向を示すにとどまり、多くの具体策の検討が今後にゆだねられるものとなっている。JAグループとしては、生産現場の実態をふまえた具体策の策定に向けた意見の積み上げを急がなければならない。
 このため、JAグループは、去る7月11日の全中理事会において「米政策の改革とJAグループ米事業改革の方向について」討議資料を決定し、中間取りまとめに対する具体的提案を含め、米政策の改革に向けた課題について、8月下旬にかけ県・JA・生産現場段階における徹底した討議を行うこととしている。

◆米政策改革の必要性

 そもそも、現行の米政策には多くの問題・課題を抱え、改革を迫る情勢にあることは間違いない。これまで需給調整を最大課題として取り組みをすすめてきたが、豊作等によりその効果は減殺され、生産調整実施・未実施、転作率格差など、不公平感が拡大する一方で、担い手の確保は困難を極め、結果として耕作放棄など農地・水田の荒廃がすすむなど、地域の水田農業の将来ビジョンを描ききれない状況にある。
 さらに、計画流通米のみで需給調整を負担していることなど不公平な仕組みのもとで、JAグループ米事業の競争力の低下、集荷率の低下がすすみ、JAの経営問題にまで発展している。
 今後、少子・高齢化の進行により米需要がさらに減少することをふまえれば、現行の米政策や事業を思い切って改革する必要がある。
 このため、我々として将来のあるべき姿を明確にするとともに、その実現に向けて自ら取り組む課題と、政策として求めることは何なのか、これらの点について徹底した討議をふまえ、米政策改革のなかで具体策として確信ある提案を生産現場から行っていく必要がある。
主食用需用量の減少と外食の増加量
◆将来の地域農業をどう描くのか

 将来あるべき米づくり・水田農業について地域でどう絵を描くのかが、今回の討議の重要なスタートラインである。
 米の計画生産と麦・大豆・飼料作物をはじめ地域の戦略的な作物を位置付け、その上で、将来に向けて、集落営農を含む多様な担い手を地域の中で明確化し、農地の集積に取り組むなど、担い手を軸とした戦略のもと、売れる米作りや、地域の戦略作物生産への取り組みなど、あるべき姿に向けた取り組み課題やJAの取り組み強化策を明確にする必要がある。
 その上で、将来像に向けて水田の構造改革をすすめる政策をどうするのか。土地利用型の実態をふまえ、集落営農を含む多様な担い手に対する「新たな担い手制度」の確立や、農地を農地として利用することを確保する農地制度の見直し、自給飼料増産に向けた耕畜連携の支援策等、必要な政策を確立が必要があるのではないか。
望ましい水田利用のイメージ
◆計画生産目標の配分と調整

 需要に応じた計画生産に向けて、国が需給計画(基本計画)策定のもとに計画生産目標とメリット対策を提示し、これを生産者・産地が主体的に取り組んで全体需給を確保する仕組みが基本である。その目標は、営農実態に即して生産面積を基本にして、豊作等の過剰米処理を生産調整の一環として組み込む仕組みとすることが必要ではないか。
 今ひとつの課題は、現行の転作率の不公平の解消をどうはかるのかである。 その際、すでに転作定着した分を除外した実施水田面積に対する一律とするのか、現行を基本に販売動向に即したガイドラインを提示するのかなど転作率のリセットのあり方、また、販売戦略に基づき各産地・生産者が主体的に判断し、全体として調整しうる仕組みをどう構築するのかを検討する必要がある。

◆生産者全員の負担による公平な過剰米処理対策

 現在、豊作分のエサ米用別途処理など計画流通のみの負担で実施していることに大きな不公平が生じているが、中間取りまとめでは、今後「供給量調整に取り組んだ結果の余り米は自己責任を基本に、具体的な処理方法を検討」としたところであり、今後の議論の最大の焦点として、討議を通じた具体策の検討が必要である。
 豊作や需要減など、短期的な需給変動による過剰米の発生は避けられない。基本的には、需給調整を取り組んだ上での過剰米の発生については、政府の制度として生産者・国の分担の中で対策を措置することが必要であると考える。
 また、現行のエサ米処理など過剰処理にかかる負担の不公平の解消に向けて、法制度による裏づけを含めた生産者全員が負担する仕組みを確立する必要がある。生産調整における生産枠の提示と調整を通じて、すべての稲作生産者から拠出を求めるような法制度の枠組みが可能かどうか、具体策として、十分な検討・検証を行う必要がある。
 さらに、過剰米処理の具体的仕組みとして、豊作による過剰分としてふるい下米を含め安価に集荷した米をプールし、加工用等需要に安定供給をはかる仕組みが構築できないだろうか。また現場としてどういう手法なら取り組めるのかといった課題について検討する必要がある。

◆計画生産メリット対策

 生産調整の実施者に対しては、現在、水田農業経営確立助成やとも補償助成として措置されているが、メリット対策の仕組みが複雑なことから、メリット感が見えづらかったり、JA・市町村等の事務処理の煩雑化を招いている。
 このため、地域の特色を活かした多様な取り組みに対し助成金を一括するようなメリット対策の検討や、計画生産への取り組みを前提に、集落営農を含む多様な担い手に対する経営所得安定対策の具体化が必要である。
 また、現行の稲作経営安定対策については、需給調整メリットの明確化を前提に廃止という方向が示されているが、望ましいメリット策や経営安定対策の姿を示すなかで、どのように対応するのか検討が必要である。
新たな生産調整のイメージ
新たな過剰米処理対策のイメージ
◆JAグループ米事業改革と流通制度

 JAグループ米事業の改革に向けて、旧食管法時代からの集荷を中心にとした事業方式から、販売を中心とした事業展開と組合員の結集という方式へどう転換するかが課題である。そのもとで、地産地消、業務用・加工用需要の拡大など需要の多様化をふまえ、産地として売れる米づくりに向けて生産から販売にいたる魅力ある米事業の展開をはかることが出来ないのか、このための具体的な改革策をどうするか、さらに、需給調整の効果の大きい県間流通銘柄を中心に、JAグループとして連携と協同を発揮する取り組みをどうすすめ、その支援のあり方をどうするのか、等の課題について検討する必要がある。
 流通制度については、計画米によるエサ米処理など需給調整負担の一方で、計画外の販売環境をも整備し、結果としてその流通量が増大している実態、また期別販売計画や入札への義務上場等の規制など、平等な競争条件が確保されていない実態にあることから、米の計画生産と過剰米処理の仕組みを前提に、計画外流通米との競争力の強化をはかる観点からの計画流通制度の規制緩和について検討するとともに、安心・安全な米生産とその表示・検査制度についてあり方を検討する必要がある。

◆徹底した討議と提案を

 政府研究会は、中間取りまとめをふまえた具体策の検討について、秋に再開し、最終的な結論を得るとしている。その際には、具体策の検討によっては、中間とりまとめの基本方向を見直すことがありうることについても確認している。
 こうした研究会の検討状況とあわせ、秋には政府・与党での本格論議がなされる。こうした状況に対し、現場からの政策提案こそ重要となっており、生産現場の討議と提案が米政策の今後を決定付けることになろう。JAグループの組織を挙げた徹底した討議・検討をお願いしたい。




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