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シリーズ 2002コメ改革
米政策の再構築を考える

インタビュー
最低価格保証制度の導入は「国の責任」
食料の安定供給体制には集落営農も基盤にすべき
遠藤武彦農林水産副大臣に聞く

 遠藤武彦副大臣は、「食料の自給、安定供給は大きな土台にならなくてはいけない」と今後とも農政の基本であることを改めて強調。そのうえで米政策について「生産調整は価格維持機能を失った」とし、今後、価格維持機能を発揮させる政策としては「最低保証基準価格を導入しなければならない」と語り、これからの具体策の議論で焦点のひとつになるとの注目すべき見通しを示した。

◆揺るぎなき食料の安定供給体制の確立を

遠藤武彦氏
えんどう・たけひこ 昭和13年山形・米沢市生まれ。中央大学文学部卒。一時、農業と養豚を営む。県庁に入り、その後自動車学校を創設。県会議員、県農業共済連理事、自民党県連議員総会長などを歴任。昭和61年、衆院山形2区初当選。平成9年、第二次橋本改造内閣で通産政務次官、13年4月、小泉内閣で農林水産副大臣就任。

 梶井 米政策の改革について伺う前に「食と農の再生プラン」とそれに関連して経済財政諮問会議の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(骨太方針第二弾)についてお聞かせいただけますか。
 いわゆる骨太方針第2弾のなかの食料産業の改革では「我が国の将来の食料供給に関しては国民の相当程度が不安を有している。さらにBSE問題等を契機に食の安心・安全性への国民の不信が高まっている」という書き出しになっています。
 しかし、将来の食料供給に関して国民が不安を有していると言っておきながら、「食と農の再生プラン」の工程表をみるとこの点にはほとんど応えていないのではないかという印象を受けます。BSE問題等を契機に食の安心・安全性への国民の不信が高まっている、ということに対応した施策だけが前面に出ていると思いますが。

 遠藤 もちろん食料の自給、安定供給というのは、大きな土台にならなくてはいけないと思っています。石油やその他の化石エネルギーも食料もみな海外に依存しているようでは、それで本当に国家といえるのかどうか。そういうことを土台に置いて、食料産業としてどういうものを構築していくのか、と考えることが必要ではないかと思っています。
 たしかに今、米は安定供給されていますが、雑穀なんてほとんどなくなってしまいましたね。こんなことで一体いいのかどうか。しかも生産調整とあいまって、麦と大豆にだけ特化してしまっている。大豆などは平成22年の生産目標をすでに上回ってしまっているわけで、非常にバランスを欠いた食料生産計画だと思いますね。
 やはりおっしゃるとおり、安定供給、自給力、これは一つの国力の源だと私は思っています。

 梶井 その点は、工程表に書かれていなくても、農政の基本として、当然の前提と押さえているということですか。

 遠藤 そうです。将来にわたって食料の安定供給体制をどうつくるか、その体制は揺るぎがあってはならない。BSE問題や食品表示の問題は、いわばその時その時の現象ですから、そこを間違えてはいけないと考えています。

◆地域の特性に応じた形で需給調整ができないのか

梶井 功氏
かじい・いそし 大正15年新潟県生まれ。昭和25年東京大学農学部卒。39年鹿児島大学農学部助教授、42年同大学教授、46年東京農工大学教授、平成2年定年退官、7年東京農工大学学長。14年東京農工大名誉教授。主な著書に『梶井功著作集』(筑波書房)、『新農業基本法と日本農業』(家の光協会)など。

 梶井 分かりました。さて、今日の本題の米政策についてですが、生産調整研究会の中間とりまとめについて伺います。
 私は望ましい米づくりの姿を描くのはいいと思いますが、中間とりまとめは、効率的かつ安定的な経営が米生産の大宗を担うようになれば、そのような望ましい姿になるという話になっていますね。いわば絵を描いておき、これからそこにもっていきましょうということですね。
 しかし、その絵はなかなか現実のものにはならない。たとえば、加工用需要に応えて低価格での生産ができるような経営が生産の大宗を占めるまで一体どのくらいの時間をみているのか、その間、米の供給はどうなるのか、といったことについて中間報告は何ら触れていないわけですね。副大臣はどう評価されていますか。

 遠藤 生産調整研究会は、今年の1月から始まって週3回ぐらいのペースで議論していただき、一応、骨格のようなものをとりまとめられたわけですから、それはそれで評価してもいいんじゃないかと思っています。農業団体の方々からすれば、まだ言い足りないとか、こういう課題が抜けているなどの問題もあると思いますが。
 ただ、この議論の出発点、つまり、見失ってはならないことは何かといえば、米については、「食べない、余る、売れない、安くなる、減反」という負のスパイラルに陥ってしまっていることです。そしてその度ごとに減反面積を増やしてきた。そこでもう面積による生産調整は限界だとなったわけです。
 だから、これからは、作ってはならない面積を割り当てるのではなく、作っていただく量、という観点から何か切り口が見つからないのかと。面積から量へ、切り替えることができないかということが議論の出発点にあります。
 日本列島は地形が急峻で高温、多雨、多湿です。ですから、基本的に日本農業は小規模、零細、家族労働経営でやってきた。農地をしょっちゅう手入れしないとならない。小規模多品種生産という形を選んで、何百年、何千年という歴史を持っているのが日本の農業ですし、私はそこが基本だと思っています。
 ただ、今後の政策を考える場合は、今までのように北は北海道から南は沖縄まで、あるいは日本海沿岸の非常に狭く急峻なところも一律に同じ農政ということはないだろうと思っています。一律平等は、必ずしも公平ではない。
 ですから、地域の特性に応じた形での、生産、需給調整ができないだろうかということもこの研究会の冒頭に申し上げました。今後は与党や農業団体などが政策のたたき台を出していって、そのなかかから具体的な手法を見い出だしていくというのがスケジュールです。
 ただし、あまり時間がない。できれば早く経営所得安定対策と整合するような形でやりたい。秋口ごろには見えるようにしていただけないかと与党にはお願いしました。与党の会議では、これからが本番ですよと言っています。

◆「協同原理」に裏打ちされた「特区」構想なら検討の余地も

遠藤武彦氏

 梶井 コスト安の生産体制をつくるにしても、それは何も規模を大きくすることだけではないということもふまえる必要があると思います。
 とくに日本では、集団的な生産組織で対応して相当コスト安に生産している例は結構あるわけですね。コスト安の生産体制は、規模拡大一本槍ではない、ということをはっきり認めたうえで、われわれとして実現したいのは一体何なのかということをはっきりさせることが非常に大事じゃないかと思います。

 遠藤 小規模・多品種・少量生産という日本では、私は集落営農は大事だと思っています。 それも個人の農地所有権とか利用権をきちんと保証したうえでの、集落営農ができないかと考えています。
 10年ほど前になりますが、長野県の伊南農協管内の宮田村の壮大な実験は私にとって非常に参考になりました。小さな村でしたからできたのでしょうが、すべての農地を農業委員会と農協がつくった第三者委員会のような機関が管理していますね。そこが貸し手と借り手を結びつけて、農地の集約をする。
 しかも標高差によって作る米の品種まで変えるなどの指導も行っているし、農協は大型の農機具を農家に売らないんですね。集落に機械センターを設置してそこで機械を共同利用する。それからミニライスセンターを置いて、農家ですらそこから飯米を持ってくる。
 農機具コストだけでも3割のコストが省けるといいます。たとえば、1万5000円のコストだとすると5000円はまるまる浮くわけですからね。そういう農協はすばらしいなと思いましたね。
 しかも農地を団地化したものですから、酪農家でもりんごを作ったり、あるいは養豚でも団地化して頭数を増やすことができた。そういう形での農業ができる。一方、零細な土地提供者には、農地を証券化して保証する仕組みがあって、区画整理後、かつての自分のほ場はなくなっても、自分の農地はきちんと保証されているということになっているわけです。

遠藤氏と梶井氏

 梶井 まさに管理主体がしっかりしていればそういうことができるわけですね。
 それに伊南農協管内には、農地を単に預けっぱなしにするのではなくて、お年寄りの方はそれなりに自分でできる仕事やってくださいということにしているところもあります。たとえば、畦の草刈り程度はできるというなら、それをやってもらい、その代わりに地代もそれに見合った水準にするというような工夫がありますね。

 遠藤 そういう集落営農を基盤にして法人化が行われるべきだと思います。

 梶井 法人の株式会社化の議論も、私は集落営農的な形態がそうなるのならいいと思いますね。

 遠藤 経済財政諮問会議の骨太方針第2弾では「特区」構想が打ち出されており、農業分野でも項目にはなっていますが、これはいわば規制緩和、要するに市場原理、競争主義、そこから発想した「特区」なんですね。
 しかし、集落営農から積み上げていった法人をかりに「特区」として認めるならば、私はそれは地に着いたものになると思います。規制緩和や競争原理を導入するのではなく、協同原理を持ち込むわけですから。

◆生産調整にはすでに価格維持機能はない

遠藤武彦氏

 梶井 さて今後の議論に望みたいのは生産調整の位置付けです。これは単に価格維持のためだけではなく、いざというときの食料確保や国土保全のために水田の機能を維持することが必要だという観点から考えるべきではないでしょうか。しかし、米をフルに作れば今は余ってしまうから生産調整をする、ということだと思います。
 ところが、どうも価格維持のためのカルテル行為だというような議論が多いようですね。

 遠藤 私は実際問題として生産調整は価格維持機能を失っていると思います。現実の価格をみれば分るように価格の下支え機能はなくなってしまった。
 そういう面では、需給調整としての生産調整は考え直してみなくてはならないと思います。
 今、日本中どこに行ってもコシヒカリばかり作っているというような状況がありますね。日本の農産物が米に特化してしまったのと同じように、結局、米の世界ではコシヒカリばかり作っているという、非常にバランスを欠いたものになった。それはやはり生産調整が価格維持機能を失ったから、そうならざるを得なくなったということを示しているのだと思います。
 では、どのような政策で価格維持機能を発揮させるかですが、私はもう生産調整では無理だと思いますから、いわゆる最低保証基準価格のようなものを、あらゆる作物に導入していかなくてはならないだろうと思っています。
 しかも今は、野菜は野菜、果樹は果樹、とバラバラになっていますが、これを体系化してそれぞれの作物の需要状況に応じた最低保証基準価格をまとめて検討していくということが必要でしょう。生産者にとっても、ここまでは保証されるんだな、となれば生産の選択の幅が広がってくると思いますね。

 梶井 そういう基準を示して比較が可能になってこそ、米以外のものを作ろうかという経営判断ができるんですね。

 遠藤 そうですね。こういう政策議論が党との間では出てくると思っています。

 梶井 それはぜひ期待したいですね。そういう制度がベースにならないと、たとえば、保険的な仕組みで経営安定制度を考えるといっても経営の安定にはつながらない。

 遠藤 やはり最低の保証基準価格を設定する。これは国としては最低負わなきゃならない責任ではないかと考えています。

 梶井 それが将来にわたって安定的に供給するための国の責任につながるわけですからね。どうもありがとうございました。




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