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シリーズ 2002コメ改革
市場経済に任せるのは危険すぎる
米は主食という立場を捨てた中間取りまとめ
生活クラブ連合会河野栄次会長に聞く


聞き手 梶井功 東京農工大学名誉教授

梶井功氏と河野栄次氏米政策の改革は、生産者のみならず消費者にとっても重要な課題となる。今回は、長年、産地と提携し生産者と共同で米づくりを行ってきた生活クラブ連合会の河野栄二会長に米政策はどうあるべきか語ってもらった。河野会長は、主食としての米という視点を今後も大切にすべきだと訴え、わが国の自給率向上は麦、大豆、飼料用米の生産などを含め「水田機能の活用すべき」と提言した。聞き手は、梶井功東京農工大学名誉教授。

◆食料生産の概念をなくした「中間取りまとめ」

河野栄次氏
河野栄次氏

 梶井 今日は、昭和63年から旧遊佐町農協と提携して米づくりをし組合員への供給事業に取り組まれている生活クラブ生協として、今後の米政策はどうあるべきとお考えなのかをお聞きしたいと思います。まず生産調整研究会の「中間とりまとめ」については、どう評価されていますか。

 河野 生産者に対して最終ユーザーである消費者のほうを向くべきだと言ったのは初めてのことで、これは非常に評価できると思いました。
 ただ、重要なことが欠けていて、それは食料生産という概念がなくなっているということです。生産者に対して最終ユーザーを見ろというのはいわば当たり前のことですが、しかし、それをすべて商品経済のなかに組み込んでしまおうという考えが見え見えですね。これは危険だと思います。
梶井 功氏
梶井功氏
 なぜ、危険なのかといえば、日本の農業生産に占める米の位置を考えれば分かることです。私は米生産の必要性は10年経っても極端に低くならないと思いますね。それからもうひとつは、個人の食料消費支出に占める米の位置も単体の食料としては10年後もまだ一番だと思う。
 さらに文化・風土を考えた場合、米の消費が緩やかに下がっていったとしても、米を中心にした文化はまだ続くと思うんです。
 そうするとすべてを市場に任せるのは危険すぎる。しかし、「中間とりまとめ」では、その方向に行くとはっきり言い切っている。私はそれはだめだと思っています。
 ですから、この際、米の需要実態、需給状況をきちんと把握して、もう一度セットし直すというのは正しいだろうと思いますが、私は、そのうえで食料政策として、米の自給とそれ以外の主要な作物の自給をワンセットにして考えるべきだと思います。
 たとえば、大豆、小麦もそうですし、飼料穀物もです。これらの生産をどうするかのプログラムを合わせて出さないと。米だけ商品化しろというのは、牛肉の輸入とまったく同じことになってしまう。
 40%の自給率を今後引き上げていこうと農政は言っているんだから、その方向にどう歩むかというなかで、水田の問題を位置づけないといけません。

 梶井 おっしゃる通りですね。この中間とりまとめの最大の特徴は、米の主食としての地位をやめたということなんです

 河野 そうですね。私もその点については驚きました。基本的な食料政策がなきゃならないわけですよね。それを完全に市場に委ねるというわけですし、さらに市場に委ねる前提条件としては、すべて農業者責任でやれということでしょう。
河野栄次氏
 私は、農業者責任でやれというならば、食料の自給政策はどうあるのか、その枠組みを組んだうえで、農業者が市場とどうアクセスするのかと考えるべきだと思います。そういう枠組みがなくて、全部放り出すというのは、今、世界で起きている弱肉強食の世界になるということです。そうなったら日本のマーケットなどはひとたまりもないでしょう。
 たしかに、減反率が30%、40%という時代を終えなきゃならないとは思います。ただし、その意味では、たとえば、飼料穀物をどのレベルで生産できるのかという取り組みを検討していいと思っているんですよ。そうなると米の品種も、今みたいにコシヒカリ一辺倒じゃなくて、多収穫米という概念があっていいわけです。
 
 梶井 飼料用稲では、10アールで1トンの収穫は割と容易なわけです。そういう品種が実際にあります。さらにがんばれば、私は1・5トンぐらいは可能だと思う。現実に中国ではインディカのF1を豚のエサにしていますが、それは10アールで1・5トン収穫できます。
 かりに1ヘクタール15トンの収量が可能になれば、1万ヘクタールで15万トン、50万ヘクタールで750万トンです。それだけエサの輸入が減るわけですから自給率が上がる。

◆食管会計の「赤字」ではなく食料政策に必要な経費

河野栄次氏

 河野 私は、かつて“内陸サイロ論”というのを主張したことがあるんです。食料を自給するときは、港湾施設でなくて内陸にサイロをつくるべきだということです。今のお話はそれにつながると思いますが、もっと言えば、今農家の持っている機械設備なら10ヘクタールを1台でこなすのは楽ですから、その点では持っている機械で飼料用米づくりができてしまうわけで、コストが上昇するなんてことはない。
 ですから、これは政策としてはっきり数値目標を掲げることが必要です。たとえば、飼料用の米生産量をいつまでに何十万トンにするという目標を掲げて、そこに向けて順次必要なことをやっていく形をとればいい。そこにコストをかける。 食管会計の赤字といいますが、その概念はやめるべきですね。
 
 梶井 そうです。赤字ではなく政策費用なんですから。
 
 河野 食料政策に必要な経費ですよね。それなのにいつのまにか赤字、赤字と言っているから、不要なものと考えられるようになってしまったのではないでしょうか。
 
 梶井 自衛隊に支出する予算を赤字という人はだれもいない(笑)。あれは国防政策のための経費ですからね。

河野栄次氏

 河野 飼料作物に対してこの10年でこれだけ生産するとなったら、それに対するコストは投下しなきゃならない。それで自給率を高めていこうということですが、その代わり主食用米の生産は減る。減っていては危険ではないかと言う人もいるかもしれませんが、飼料穀物で水田が維持されていればいつでも主食用生産に転換できるわけです。全然、怖いことはない。

 梶井 それから別の観点でいえば、米の栄養的な価値を考えると米を中心とした食生活のほうが、パンを中心とした食生活よりも安くすむと思うんですがどうなんでしょうか。

 河野 確かに本来なら米を食べているほうが安いと思います。ただ、今はお米を食べているというけれども、ごはんを食べているわけでしょう。つまり、お米を買って炊いて食べているなら安いと思うんですが、ごはんではパンと同じように買ってきて食べるわけですね。そして、ごはんで食べるとなると外食産業向けになってしまう。そうなると価格は暴落すると私は言っているんです。
 最近、提携している生産者から、10年後の米価はどうなるかと問われたので私はこう答えました。消費者がお米で買っているうちは60キロ1万3000円がいいところでそれ以上は落ちない、しかし、ごはんで買い始めたら悪いけれども1万円そこそこになりますね、と。つまり、お米を水で炊いて食べることがどの水準で維持できるかによって、米の値段が決まるということです。
 そこで最近、生産者に提案しているのは、今後5年間で化学肥料と農薬をもう一段削減するビジョンを出してほしいということなんです。というのは今微量成分でも環境や健康に害を与えるということが知られてきましたよね。つまり、毎日連続的に食べるものについては、できる限り化学物質総体を削減しようと考えてほしいと。それなら今よりも10%以上高い値段で買うことにはやぶさかじゃないといっています。
 それはなぜかといえば、今のエンゲル係数は24%です。10%食料費が上がっても生活費に占める割合は2・4%しか上がらない。携帯電話を止めれば2・4%なんてわけないですよ(笑)。
 そういうふうには誰も言わないわけですね。健康問題にとって食料は大切なのにも関わらず、結局、安さを競っているわけです。そこはみなはきちがえてしまったと思う。もう一回見直さないとと痛切に感じています。

◆農協は価格構成を全部公開すること 

梶井功氏

 梶井 農協系統の米事業についてはどう評価されていますか。
 
 河野 農民が農協に向いているのはいいんですが、農協はたとえば、価格の構成を全部公開することだと思いますね。自主米センターでの形成価格と自分たちで売った価格がどうなっているか、それにどう対応するのかを知らせる作業は残念ながらあまり正確にやられていないと思います。
 しかし、専業でやっている人たちはそれを絶対に知りたい。そして価格に自分の意志が働かせたいと思う人たちは計画外流通米として販売するようになるでしょう。ただ、農業、食料を維持し需給調整するための負担がどれだけかかっているかということは除外されてしまっているわけですね。
 だから、自分の価格が知りたいということに応える必要はありますが、同時に全体の構造を知らせるというこの両方が必要なんじゃないでしょうか。
 
 梶井 それはある意味では組合員に対する教育でもあるわけですね。

 河野 そうですね。食料生産というのはものすごく大切な労働行為なんですよ。大変な社会的価値です。それが農協に売っているという意識では単なる商品を売っているのと変わらなくなってしまう。ところが、そうじゃない。消費者に目を向けるということは、まさにこの人々の健康を維持するための食料生産をしているんだという考え方をもってほしいということです。だからこそ、生産者の方には消費者のほうを向いてほしいということなんです。
 
 梶井 どうもありがとうございました。 


インタビューを終えて

 供給ベースで24%、摂取ベースで29%。これがカロリーから見た日本人にとっての米の地位である。単品でこれだけの重味をもっている食品は他にはない。
 「個人の食料消費支出に占める米の位置も単体の食料としては10年後も変わらないと思う」と河野さんはいう。私もそう思う。その米を「市場にまかせるのは危険すぎる」と河野さんは断言する。その通りだ。米流通を担っている第一線の責任者のこの発言を政策立案に当たっている人たちはよくよくかみしめてほしいものである。
 「消費者がお米で買っているうちは60キロ1万3000円がいいところで、それ以上は落ちない。しかし、ごはんで買い始めたら悪いけれど1万円そこそこになりますね」という河野さんの指摘は重要である。業務用米需要が増えていること、そしてこれから更に増えるであろうことはJAの関係者でも認識はしている人は多いだろう。しかし、それが価格形成に及ぼす影響がこうも深刻なものになると考えている人は少ないのではないか。
 食料費支出のうち外食に当てているのは、全世帯平均では16%だが、世帯主年齢25〜29歳の世帯では24%にもなっている。このなかには調理食品は入っていない。「ごはんで買う」のが支配的になりつつあるなかで、どう対応すべきなのか、河野さんの問いかけは重い。 (梶井)

▽生活クラブ連合会=1965年、東京・世田谷区で牛乳の集団飲用から始まった生活クラブは、現在、15都道県22生協に広がり、合計組合員数25万、供給高731億円、出資金209億円となっている。牛乳工場など関連・関係会社は8社。協同組合方式の新しい働き方をつくるワーカーズ・コレクティブや、地方議会議員として代理人を送るネットワーク運動にもつながっている。
 生活クラブ連合会は、食品や生活必需品の開発・仕入の事業連合組織として1990年に設立。国内自給力の向上と生態系の保全を目標の一つとし、合成洗剤や遺伝子組み換え食品の不買、容器包材の環境ホルモン対策などを推進。超軽量牛乳びんなどのリターナブルびんの普及にも努めている。1989年、もうひとつのノーベル賞といわれる「ライト・ライプリフット賞」を受賞。95年には、国連50周年記念「われら人間:50のコミュニティ賞」を受賞。遺伝子組み換え食品の全面表示制度を求める自治体請願運動なども展開している。

 




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