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シリーズ 2002コメ改革
対 談
生産調整は国の十分な関与で
―即時廃止論は「中間とりまとめ」から逸脱―
山田俊男氏 JA全中専務理事
梶井 功氏 東京農工大名誉教授

 農水省は10月に再開された「生産調整に関する研究会」に米政策の改革案を発表した。改革案では国は生産調整の配分を廃止するとの方向が盛り込まれており、計画生産を基本とすべきと主張しているJAグループには反発が広がった。
 今回は、この改革案への考えと、今後の議論のあり方、JAグループの政策提案などについてJA全中・山田俊男専務と梶井功東京農工大名誉教授に話し合ってもらった。

◆納得できない国の改革案
  具体策の提示こそ必要

山田俊男氏
やまだ・としお 昭和21年富山県生まれ。早稲田大学第一政経学部政治学科卒。44年全国農業協同組合中央会入会、平成2年組織部組織課長、3年組織整備推進課長兼合併推進対策室長、5年組織経営対策部長兼合併推進対策室長、6年農業対策部長を経て、8年全国農協中央会常務理事、11年専務理事就任。

 梶井 10月17日に開かれた政府の「生産調整に関する研究会」に、食糧庁は「中間とりまとめ」の検討項目に対する考え方をまとめた米政策の改革案を提出しました。
 改革案では、平成16年に生産調整の配分を廃止するという第1類型から、若干タイミングをずらして廃止するという第2類型、第3類型、さらに状況を見ながら廃止の是非や時期を判断するという第4類型まで出されています。(図1
 いずれにしても生産調整から国は手を引くという政策姿勢が出ていて私は驚きましたが、まずこの改革案についての包括的な評価を聞かせていただけますか。

 山田 先日の研究会の場で、私は、「中間とりまとめ」のなかには第1類型のように国が生産調整の配分を行わない、生産調整から国は撤退する、という印象を与える議論はまったくしていないのではないか、その点でこの案は「中間とりまとめ」からは大きく逸脱したもので、到底納得できないと強く主張しました。
 さらに、今後、研究会で1か月半かけて11月末には具体策をまとめようというときに、いきなり第1類型のような案が出てきたことに対して、地方から澎湃として反発の声が沸き上がってきており、これではとても11月末にまとめるということにはならない、ということも申し上げたんです。
 そして座長に見解を求めたのですが、座長からは、第1類型は「中間とりまとめ」の方向からははずれている、あくまで今後議論していく論点、考え方の整理として第1類型から第4類型が示されたと捉えていただいて結構です、との見解をいただきました。
 たしかに議論の過程では、一部の委員からは、もう生産調整はやめてはどうかという意見もありました。しかし、中間とりまとめを行うまでの長い議論のなかで、やはり計画生産が必要で、そのためには国の支援が不可欠だという議論になった。それで「中間とりまとめ」では、当面の需給調整のための条件整備を行うという立場でその後の論理展開をするという構成になっているわけですね。まさに今後も国が十分に関与し、支援措置を講じての生産調整を行っていく、というのが中間とりまとめの基本だと思うんです。
 どういう意図であのような案を出したのかが問題だと思います。ご案内のように経済財政諮問会議で米の生産調整の廃止という議論がされ、さらに小泉総理から農水大臣に対して米政策改革が宿題として出されていますね。そういう舞台で農水省が一定の主張を行うためだけのために、中間とりまとめから大きく逸脱した対応を行ったのではないか。きわめて政治的な姿勢だという意味でも納得できません。このような案に全国の生産者が不安を持ち抵抗が出るのは当然です。
 11月末には改革案をまとめたいというのであれば、国は責任をもって、基本的に計画生産は必要でありそのために国は支援するということをまず明確にし、そのうえで、生産者団体にもこれまで以上に主体的な取り組みが求められるが、こういう具体策ではどうか、といった形で提示すべきです。それなら私たちも大いに議論できる。
 ところが、最初からどの案にも国は生産調整の配分を行わないという考えが示されている。そうではなく具体策をこのようにまとめたいという議論への切り替えは国がやるべきなんです。それをしないで、農水省は本来はこうしたかったが生産者団体の抵抗にあってやむなくこんな案にせざるを得ませんでした、という議論の流れにしようという意図があってでかもしれませんが、それは絶対に納得できません。

 梶井 改革案のなかで、需給調整に関する行政と生産者団体の役割分担の考え方も示していますが(表1)、基本法の第11条(農業者等の努力の支援)などだけを根拠に、生産者や生産者団体が行う自主的な努力を支援するところに政策の役割があるのであって、需給調整も本来そうであるという話になっていますね。
 しかし、「食料の安定供給の確保」を定めた基本法第2条の趣旨はなぜふまえないのか。食料の安定供給の確保は国の責任です。安定供給を生産者や生産者団体の自主的な取り組みに任せておいて、国として責任が持てるかといえば持てないわけですね。持てないからこそ、不測の事態も含めて国はつねに安定供給の確保を心がけなければならないとなっている。その具体策として何よりも重要なのは、土地と人の量的質的確保策ですが、それは国の責任です。
 ところが、今回の改革案では、不測の事態への備えとして危機管理体制の再整備という話だけになっている。(図2)しかもこれを流通システムの改革案のなかに位置づけられていること自体が、安定供給の確保を真剣に考えていないというか、考えが甘すぎるのではないかと思います。
 そもそもこのような恣意的な法律の解釈を改革案の根拠とするのはおかしいと生産者団体も強調すべきだと思います。
 もうひとつ、改革案を構築するためにまずはふまえるべき法律である食糧法には一切触れていない。奇妙なことです。

◆改革に不可欠な担い手への経営安定対策

梶井 功氏
かじい・いそし 大正15年新潟県生まれ。昭和25年東京大学農学部卒。39年鹿児島大学農学部助教授、42年同大学教授、46年東京農工大学教授、平成2年定年退官、7年東京農工大学学長。14年東京農工大名誉教授。著書に『梶井功著作集』(筑波書房)など。

 梶井 改革案で私が気になるのは、2010年までに本来あるべき米づくりの姿を実現することを前提にしていることです。その米づくりとは、効率的かつ安定的な経営体が担い手として米生産の大宗を握れるようにするということですね。
 しかし、どうすればあと8年で実現できるのか明確に示されているのでしょうか。それなくして目標だけ立てるのは政策提案としては無責任だと思います。

 山田 生産調整に関する研究会は、単に生産調整に限らず、米政策全体、さらにはわが国の水田農業のあり方全体について議論し、米づくりのあるべき姿を描きました。
 ですから、今後の議論のためには当然、あるべき姿にもっていくための政策の基本柱は何かということがいちばん最初に整理されなければなりません。
 では、それは何かといえば、新しい担い手をどのように育て上げるかということだと思います。そうすると新しい担い手を育て上げるには、一つには農地の利用集積をどう図るかですし、二つめは担い手の経営を安定させる対策です。これが政策の柱になるわけです。
 ところが、今回の提案ではこれらの点が大変曖昧になっています。

◆集落営農組織の位置づけと過剰米対策には一定の評価

 梶井 効率的経営というのは、生産力構造の問題ですから、これはつくろうと思えばできる。しかし、その経営が安定的であるかどうかは市場条件如何にかかってくるわけですよ。そのためにいったいいかなる価格・所得支持政策が裏打ちとして必要なのか、こういう政策があって初めて効率的経営を安定的にしていくことができるんですね。それを抜きにしておいて、効率的経営ができればそれが即、安定的であるかのような錯覚を持たせて話を進めているところが問題だと思います。

 山田 ただ、経営所得安定対策の姿が曖昧だという問題はあるにしても、今回の農水省の提案では従来より明確に集落営農について経営体としてみなすという方向が出されています。
 経営収支を一体化しているとか、農地集積が相当行われているなどの一定の要件を備えていることが条件ですが、これは前向きな整理だと思います。そして、集落営農組織が経営体として経営所得安定対策の対象になるという方向で進むのなら新しい方向として評価したいと思います。
 また、過剰米処理についても一定の融資を行い、販売できなければ現物を引き受け加工用や飼料用として処理するという販売努力支援方式を提案しており、われわれの主張にある程度答えたと考えています。今後の問題は、過剰米が集荷できる達成要件や拠出の制度的裏付け、融資の水準ですね。

◆農地利用集積図かるにも2階建て方式の所得支持策が

山田俊男氏

 梶井 集落営農の組織化を図るのはいいとしても、問題は経営体として認めるために要件を設けるという発想でいいのかどうかです。
 農地は特定の経営体に強制的に集中させることはできません。自分で作っているよりもこの人に預けたほうがいいという条件があって初めて農地は動いていくわけですね。
 たとえば、ホールクロップサイレージ稲の生産を実践している集団があるとしても、それはその集団以外の人たちに、地域としてはこうした農地利用のほうがいいと納得してもらい、土地利用協定を結んでもらわなければ動かないわけです。ですから、自分の水田をホールクロップ用に提供してもいいなという気を起こさせるような地代支払い力を集団につける必要があります。それが価格・所得政策です。そのほうが農地の利用集積はスムーズに進む。
 だから、この際、一定の要件を満たした集落営農なり、経営体だけ、手当てするのではなく、以前から専務も主張していた2階建ての発想で対策を組むようきちんと主張すべきだと思いますね。2階部分は保険方式でもいいですが、1階部分は国の価格・所得支持政策でしっかりと支持しなければ構造が変わっていかないということを考える必要があるということです。

◆実施者集団による計画生産にメリット対策を

 

 梶井 改革案にはまだ問題がありますが、JAグループとしての対策案がまとまったところだそうですので、どんな政策提案をしているのか。ポイントをお聞かせいただけますか。

 山田 われわれは計画生産が基本だということをいちばんの柱にしています。そのうえで具体策案には2つのポイントがあります。
 ひとつは計画生産に取り組む生産調整実施者による集団を集落や地区で再編していくということです。
 そして、この実施者集団が水田農業の再編、あるいは特色ある営農を推進することを担い、そのために弾力的に助成金が活用できるようメニュー方式とし、実施者集団に対して一括で助成金が交付される仕組みをつくることを主張しています。
 この考え方の裏側には未実施者の扱いがあるわけで、われわれとしては実施者集団にできる限り未実施者を取り込んでいくのは当然ですが、それでもどうしても生産調整を実施しないという人がいた場合は、それらの未実施者を除いて、助成措置は実施者集団だけを対象にする形にすることで公平性の確保を図るということです。
 従来は地区での達成を要件にしていたために、達成するには未実施者の分まで実施者が背負わなければならなかったわけですが、その仕組みを思い切って改めようということです。これまでのわれわれの考え方からすれば一歩踏み込んだ整理をしているつもりです。
 ただ、今回の農水省の案には、安定契約生産者を積極的に位置づけるという言い方が出ています。売り先を特定して安定的に生産、販売している生産者という意味のようですが、これには疑問があります。現段階では生産調整を行うことを条件にしているかどうかは明確に整理されていませんが、現在でも生産調整に取り組みながらJAや生産者組織などが特定の消費者に販売しているケースはあるわけで、それなのにわざわざこのような言葉が出てくるというのは、生産調整をしないで販売する生産者を積極的に位置づけていくという狙いがあるとも受け取れます。それなら納得できないですね。

◆「生産調整」とは水田機能の確保が目的

山田俊男氏

 梶井 もし指摘されるような考え方が農水省案にあるとすれば、それはやはり生産調整の政策的な意味についての議論が不十分だからでしょう。
 生産調整とは水田という資源を確保することが前提になっている政策です。ただし、水田を確保するといっても現在はすべて米を作付けしてしまったのでは需要より過剰になるので当面の米生産はこの程度に抑えてください、そして他の作物を作ってください、ということですね。不測の事態に備えた食料の安定供給を考えると、水田は絶対にこれだけは確保しておかなければならないという考えが生産調整政策の基本になければならないんです。自分で米を売れる人はやらなくていいんだ、ですむことじゃない。

 山田 もともと水田農業の構造改革とは、水稲単作で規模拡大することで問題が解決するということではありませんね。今回の提案のなかでも将来のあるべき構造展望として、水稲プラス他の作物という姿を描いているわけです。つまり、複合経営が前提です。そうなると米の計画生産をしない安定契約生産者という位置づけは、この思想に反することになります。

 梶井 そうです。政策目的が分裂していることになりますよ。

◆JAグループ自らも効果的な需給調整を提案

 山田 そうですね。それからもうひとつが県間流通銘柄米による需給調整の取り組みを強化できないかということです。
 県内消費よりも県間で流通することによって需要先を確保している主産地銘柄米は、需要先の動向によって価格に影響を受けているわけです。ですから、そうした県間流通銘柄米を中心に、過剰な場合は調整し、価格の安定を図れないかと思っているわけです。その場合、そうした取り組みに対して一定のメリット対策を講じることが必要だと提案しています。
 つまり、需給調整を全国一律で考えるんじゃなくて、米生産の大宗を占める地域の銘柄米でより効果的な需給調整を模索するということで、これは前向きの取り組みではないかと考えています。

 梶井 まさに新提案ですね。かつて主要作物について主産地どうしの話し合いのなかで需給調整ができないかという議論がありましたが、これが米で実現すれば大変画期的なことでおおいに注目したいと思います。

 山田 主産地にも、それからそれ以外の地域にも十分に理解していただき、主産地の取り組みを全国的に支援することが大切になります。新しい需給調整の取り組みですし、ましてこれはわれわれの自主的かつ主体的なものですから大きな意味があると思っています。

 梶井 今後の具体策の議論のなかで、今日、伺った問題点が解決されJAグループの提案が実現されるよう期待したいと思います。ありがとうございました。

メリット対策のイメージ

対談を終えて

 正念場である。ここで農水省と妙な妥協をすることは、日本農業の崩壊にJA自らが手をかすことになりかねないと私は思う。「平成16年に生産調整の配分を廃止、22年度までに生産構造改革を進め、あるべき姿を実現」というような食糧庁の米政策改革案を見て、これが政策当事者の考えることか、と憤りを感じた生産者も多かったことだろう。さすがに、生源寺研究会座長も、さきのような案は「研究会中間とりまとめを踏まえた案とはいい難い」としたようだが、あらためて生産調整の政策的意義の明確化を研究会は議論すべきだ。その議論を日本農業を守り、発展させることに方向づける責務をJA全中は負っている。
 さきのような案をひねり出す姿勢との間には妙な妥協をする余地はないというべきだろう。山田専務もこの点は百も承知、とお見受けした。残された時間は、多くない。組織の総力を結集して、こういう案は早く潰してほしいと思う。 (梶井)




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