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シリーズ JAグループに望むこと

社内教育を徹底 「地縁ストア」目ざす
―安全・安心の生産情報を食卓へ届けて国産品愛用運動を―

吉野 平八郎 (株)マルエツ代表取締役社長

聞き手 原田 康 前農協流通研究所理事長

原田康氏(左)と吉野平八郎氏
 マルエツグループは従業員教育のための新会社をつくった。従来のような販売重点と異なり「正直なビジネスをやっていく教育をする」と吉野社長はいう。コンプライアンスを軸に適正表示や品質管理などの研修となる。「健康」「安全・安心」「環境」に配慮したスーパーとしてキャンペーンを張り続けてきたが、新しい教育活動は、そこに筋金を入れることになる。「環境」ではリサイクルや省資源などの企業活動を知らせる「環境報告書」も発刊している。対談では、JA経済事業にとって示唆に富む話が次々に飛び出した。

 原田 食品の安全性が問われています。首都圏最大の食品スーパーであるマルエツさんのこの問題への取り組みはどのようにされていますか。

 吉野 現在、店舗数はグループで約280で毎日60万人ほどのお客様にきていただいておりますが、3年ほど前、基幹店舗に「ドクター元気コーナー」というのを設けましてね。マルエツグループは「健康」「安心・安全」「環境」に配慮したスーパーマーケットであるというキャンペーンを張り続けました。例えば、うちで販売する農産物の安全を保証するという運動でした。ところが、昨年のBSE発生以後は「本当に安全なの?」とコーナーの表示を疑うお客様も出てきました。そこで市場に確認しましたが、卸売市場ではわからないのですよ。

◆直接契約で生産者コーナー
  品質保証

吉野平八郎氏
よしの・へいはちろう 昭和13年生まれ。34年(株)主婦の友ダイエー入社(現 株式会社ダイエー)、59年(株)マルエツ入社、第二販売本部長、同年常務取締役、62年専務取締役、平成3年開発本部長、9年販売統括、11年取締役副社長、12年代表取締役社長、現在に至る。

 原田 今の卸売市場の仕組みでは安全性を証明することは無理です。

 吉野 物流機能だけで、品質保証の機能まで備えていないのです。しかし、これが逆によかった。それではと今度は農家と直接契約し、今は6000人の生産者のコーナーを各店舗に設けています。生産者の顔が見えるようにして責任を持ってお客様に安全性を説明できる体制を整えているわけです。もともとスーパーマーケットの原理原則には、消費者と販売者の関係を深くしていかない限り消費者情報を生産者にフィードバックできないという基本がありますから、今後とも三位一体でやっていきます。

◆研修に本腰新会社をつくって
  教育投資

 原田 安全性と企業自体としての取り組みについてはいかがですか。

 吉野 コンプライアンス(法令順守)とかガバナンス(企業統治)とかの社会的要請がきていますが、うちも約3万人の全従業員に対し、正直なビジネスをやっていくための教育をどうすればよいのか悩みましてね。
 その結果、ライフコーポレーション(食品スーパー最大手)さんと折半出資で従業員教育のための「日本流通未来教育センター」という新会社を立ち上げました。
 ライフの清水信次会長が同じような危機感をお持ちだったので、ではいっしょにやろうということになりました。たまたま私どもは埼玉県蕨市に研修施設があり、ソフトも持っておりますので、それを活用し、増築を予定しています。
 年内には適正表示とか品質管理などの研修を始めます。これは一企業を超えて食品スーパー全体への信頼確保を自分たちで率先してやればお客様も支持してくれると考えたからです。企業不信を食品メーカーなどの責任にするだけではなくてね。待ちの経営ではだめです。だから2社だけでなく他社からの受講者も受け入れますよ。

◆取締役会も毎週 勉強続ける
  法令順守

吉野平八郎氏

 原田 従業員の教育も、従来の売り場作りや、接客に加えて安全についての商品知識や規則、法律に重点を置く内容になるわけですね。

 吉野 マルエツには創業時から「お客様のために」という基本理念がありましたが、従業員教育面が弱いため「お客本位」よりも目先の「販売」が前に出ていました。そこで教育投資を強化しようと2年前に役員自らが勉強することになりました。そこへコンプライアンスという言葉が強調されてきました。
 このため商法や食品衛生法などをよく理解し、それを組織でどう消化するか、まずは役員から勉強する必要があるとして、このごろの取締役会は毎週、勉強会を続けています。

 原田 生鮮三品の現場は最近まで商品の価値判断は職人の世界でした。定評ある産地の品物でも毎年同じとは限りません。今年の品質は今ひとつなどと見分けるのは各品目のプロでした。そんな世界へコンプライアンスを持ち込むのは難しくありませんか。

 吉野 いや今は少なくなった。そういう職人芸をむしろ求めたい状況です。今の世代は効率的にシステマティックに商品づくり、売り場づくりをしていくような技術者ばかりです。
 仕入れは経営を制するほど重要な役割を担います。そこで仕入品の価値を見極めるプロを企業内で育成するか、流通全体の中でアウトソーシング的に教育するか。将来は機能別の役割分担になるのじゃないですか。

 原田 そうなると全農を含め農協の役割は、卸売りの機能を期待されるということですか。

◆商品開発はJAと連携して
  情報交流

 
通商産業大臣から(株)マルエツに消費者志向優良企業として認められ表彰された。

 吉野 集荷と卸売、さらに、その上で、私どもにとっては、もうバイヤーがいらないといったほどの役割も期待されるのではないですか。
 消費者の中には私ども販売者では考えられないようなニーズを持った方がいっぱい出てきました。だから私どもは、買ってくれる人の顔が見える商品開発をいつもやっています。顔の見えない人に向けた開発では自信が持てませんから。
 ところがニーズに応えようとすればするほど小売業のコストがかかり、ひいては生産コストに関わってきます。そこで消費者と生産者の間にいる小売業と農協が有機的に商品開発をやれるような情流を整備する必要があります。物流と商流に加えて情流が大切です。
 いずれにしても、トレーサビリティをしっかりやれば外国産に負けるはずがない。新しい農水大臣も強調しているのだから今がチャンスです。

 原田 コストでは中国産などに対抗できないのだから、やはり国産品は安全・安心を正面に出した戦略が決め手ですね。

 吉野 一部の消費者のニーズは余りにも神経質過ぎる面があります。そこでチェーンストア協会は、このままでは今の2倍のコストをかけてもニーズに応えられなくなりますよ、と説明して消費者団体に啓蒙運動をお願いしています。農水省と生産者、販売者が共に運動して国産品愛用を訴え続ければ中国産に勝てますよ。

 原田 トレーサビリティには大変なコストがかかる点やコストを誰が負担するのかも、そうした運動の中でもっと議論する必要があります。

 吉野 小売業の一側面には、消費者を教育しながら販売していく責任が本来あるのです。

 原田 食肉の偽装事件などの場合、その会社の製品を売り場から撤去するチェーンと、商品は売り場に置いて消費者の選択に任せるチェーンがありますが、マルエツさんはどちらの方針ですか。

 吉野 いえ商品の品質と偽装事件は別の問題ですから、品質に問題のない限り撤去しないであくまでお客様に選択していただきます。買う買わないはイメージの問題ですからね。ば声を浴びせる方もありますが、品質や供給責任を説明しています。

◆同志増やし6業態棲み分け
  出店戦略

吉野平八郎氏

 原田 デパートの地下食品売場が繁盛しております。マルエツさんは郊外と同時に都心部への店舗を意欲的に展開されておられますが、今後の方向はいかがですか。

 吉野 現役世代の職住接近や退役世代の都心回帰などから都心の人口が増えているのに、商業施設は、この3年間に東京都民1人当たりの売場面積で10%弱しか増えていません。このためデパ地下のお客様が増え、さらにお客様の苦情に合わせて価格も下げたから繁盛しています。
 それでも、お客様はまだ不満で私どもの「店長直行便」という投書箱にはスーパー出店を望む声が殺到しています。しかし都心は家賃が高く、かといってコンビニでは品ぞろえが少ない。そこで都心型でありながら売場面積が余り大きくない150坪の食品スーパー第1号店を本社1階に出店し、お客様の支持を得ました。この1年の新規出店のうち都内は全体の5割強にあたる7店前後になります。

 原田 マルエツグループはM&A(企業の合併・買収)も含めて拡大されていますが、今後もこの方向ですか。

 吉野 ええ、総合的な出店戦略からしますと、消費者の志向は2極分化ですから、もう少し高級な食品スーパーのグループ化も進め、71店を増やしました。うちにノウハウのない業態では既存店を同志にしたわけです。業態別の棲み分けが必要ですから看板はそのままで、販売も分散です。しかし管理は中央集権で仕入れも一本化しています。
 500坪、300坪などのクラスと合わせ、これで全部で5業態になりますが、さらにもう一つの業態を開発中で、計6業態を備えたマルエツグループとする戦略です。これで大きな変動があっても時代に合わせたフレキシブルな出店ができると考えています。
 10年間をめどに首都圏の食品市場規模の10%に当たる1兆2000億円を獲得する目標に挑戦中です。最後に強調したいのは、「地縁ストア」を目ざしているということです。

インタビューを終えて

 マルエツさんの前身の丸悦ストアーとは、全農(当時は全販連)が1968年に埼玉に「東京生鮮食品集配センター」を開設した当時から取引をいただいている。
 また、島屋さんとは同センターのオープン前の要員研修を、島屋の系列の島屋ストアーで数ヶ月間お世話になったという歴史があり、両社共農協グループの直販事業にとって長い間ご愛顧をいただいている取引先である。
 マルエツさんは首都圏に191店、この他にもマルエツグループの企業が7社あり、首都圏では株主のダイエーよりも元気の好いスーパーである。
 吉野社長の積極的な拡大方針によって、首都圏の食品のマーケット約12兆円の10%1兆2千億をマルエツグループで獲得という意欲的な目標に向けてチャレンジ中である。
高島屋さんは百貨店の老舗として、「生活文化」の創造とそれぞれの時代の文化水準を担ってこられている。
 百貨店の地上階はその店の「格」を表す商品が並んでいるが地下の食品売場は幅の広い客層を狙った買物市場の賑わいをみせている。
 森川部長のお話では、「デパ地下」は伝統のある売場で、物不足、品揃え、量より質と時代や世相を反映し、2000年代は安全・安心がテーマであると分析をされている。
 お二人の農協グループへの提案は次の3点である。(1)生産者の皆さんはもっと自分の作ったものに自信を持って、栽培や肥育の過程をオープンにすること。
(2)農協の安全・安心システムの商品に期待をしている。品目や量を増やすことを急ぐことよりも「確実な自信を持った商品」をつくること。
(3)農協グループは売場と生産の現場をダイレクトにつなぐ役割であること。

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