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シリーズ 農協運動の前進のために「農協改革」を考える ―


農協金融システム改革と政府の役割
― セーフティネット強化は政府の責任

 農協の組織、事業の改革を目的に、政府は農協法の改正案と農林中央金庫法改正案を閣議決定し今国会に提出している。これらの法案に盛り込まれた内容は、農水省の「農協系統の事業・組織に関する検討会」が昨年11月にとりまとめた報告書「農協改革の方向」で示された提言に基づいたものだ。そこで本紙では、本格的な国会審議を前に、今後の農協運動を前進させるため、改めて同報告書の内容などをもとに、現在、論議されている農協改革の方向の問題点とJAグループの課題を考えてみるための短期連載を企画した。まず農協金融システム改革のあり方をめぐって、三輪昌男國學院大學名誉教授の指摘と提言を聞く。
セーフティネットの設置・管理は本来政府の仕事

−−検討会の報告書「農協改革の方向」では、系統農協を取り巻く社会経済情勢の変化として、金融ビッグバンによる大競争時代に入っていることが強調されています。そのうえで、農協改革の方向が議論され、提言内容をみても信用事業の見直しが大きな柱になっています。
 その具体的な内容ですが、セーフティーネットについて農協系統が「自主ルール」をつくることを求めています。信用事業ではこれから破綻が今まで以上に起きるかもしれず、それへの備えとして行政から早期是正措置の命令が出る前に自主的なルールによって早めに手を打つべきだと提言しているわけですね。
【自己資本比率規制】
 自己資本比率規制は、1987年に国際決済銀行=BISで取り決められたルール。
 リスク資産(リスクを考慮して資産額を計算する。たとえば国債はリスクなしで、残高があってもリスク資産ゼロとなる)を分母に、定められた基準で計算した自己資本を分子に置いて算出する。各金融機関が年度末決算時に算出、当局へ報告し、一般人に情報開示する。
 早期是正措置は、農協など国内営業だけの金融機関の場合、自己資本比率「4%未満」「2%未満」「0%未満」の3段階の基準を設けて行われている。
 4%未満になると、経営改善計画の作成・実施を命令する。2%を割り込むと、たとえば、新たな出店や新規事業を禁止したり、役員報酬カットなどといった具体的な改善を命令。0%未満になると、業務の一部または全部の停止を命令する。
 初めの2段階は早期に措置して健全性を回復させること、0%未満は早期に破綻処理して処理費用を小さくすること、がねらい。

 三輪 自主ルールというのは、まったくおかしな話だと思います。
 早期是正措置などのセーフティーネットの設置・管理は、本来、政府の仕事であって、民間に行わせてよいことではないのです。
 それに、行政から命令が出る前に、自主ルールで早めに手を打つ、というのがおかしい。たとえば、健全性の最低水準=自己資本比率4%を割り込んだ時、いわば突然に命令が出るという理解が前提になっているようですが、それはまったく間違った思い込みです。
 行政は検査を行っています。そのさい、注意・警告・指導などをしている。その効き目がなかったときに命令です。早めの手は打たれている。それを含めての管理がされている。それが不十分というのなら、行政自身の課題として強化をはかる。それが筋です。自主ルールは筋違いです。

自主ルールを作れというなら政府の仕事をどう強化するか示すべき

−−セーフティーネットの管理は、検査を含めて現に政府の仕事として行われているわけですね。なぜそうなのか、解説して下さい。

 三輪 預貯金は国民誰もが持っています。金融は産業活動の動脈といわれています。だから金融機関がつぶれるようなことが起こると、社会問題になります。社会問題に対処するのは政府の責任です。だから政府の仕事なのです。
 今回かりに自主ルールができ、運営されたとしても、もし事故が起これば、結局のところ、政府は「何をしていたのか」と責任を問われます。
 自主ルールを作れというのなら、少なくともそれとセットで、自主ルールとの関係で政府の仕事のどこをどう強化するのかが示されなければならない。
 その話がまったく聞こえてこない。これは問題だと強調したい。政府に説明義務があります。
 それよりも、自主ルールの話はどうやら、是正命令が突然出るという間違った思い込みによるようです。撤回して、政府の仕事の強化に力を注ぐべきです。

−−自主ルールの話は他の金融機関業界や外国にはないのですか。

 三輪 個々の金融機関が早期是正措置の観点で自己点検・自己評価・是正努力をするのは、制度的に義務づけられています。しかし、業界としての自主ルールの話はありません。米国でもまったくありません。ヨーロッパは勉強していませんが、「作れ」などという話は特にありうるはずがない。自主ルールというのは、まことに珍妙な話なのです。

セーフティネットの強化は検査体制を強化し手法も改善して

【早期是正措置】
 金融機関に対して自己資本比率を基に業務改善命令などを出す早期是正措置について、わが国では1995年12月、住専問題関連を含む金融制度調査会答申のなかで、初めて取り上げられた。その後、根拠法規の整備、具体化の検討が行われ、98年4月にスタートした。現在の根拠法は銀行法第26条。農協については農協法第92条2。
−−自主ルールでなく、政府が自分の仕事として早期是正措置の管理を強化する。どのようにでしょうか。

 三輪 政府が自分で考えることであって、余計な発言は無用と思いますが、参考意見を申し上げましょう。要するに検査体制の強化ですね。  まず、国と都道府県の検査体制の一体化をはかることです。今、単位農協の検査は県の担当で、国は関与していません。信用組合について以前は国の管轄外で、県の検査だけでしたが、90年代に入って事故が多発するなかで、大蔵省=金融庁は信用組合を直轄管理にしました。詳しいことを知りませんが、農林水産省はそれに学んだらどうですか。
 私なりに考えてみて、単位農協の検査の一部に、国の検査が加わるということ、そして当然に県の検査との連携を密にすること。つまり「ひとつの検査体制」を構築するのです。
 次に、その上で検査の充実をはかる。一つは頻度を高めること。もう一つは検査手法の改善・強化です。
 検査手法については、米国がたいへん参考になります。日本と同じ「現場検査」のほかに、それを補足する「現場外監視」がある。検査と検査の間に「コール・レポート」(各金融機関が四半期ごとに連邦準備銀行に提出する業務報告書)を主とする資料を分析し、その結果に基づいて注意・警告・指導をするのです。
 検査ではCAMELシステム(統一銀行格付制度)が用いられ、現場外監視でも専用の格付システムなどが工夫されています。
 むろん、そのまま持ってきて使えるということではないでしょう。農協の場合は経済事業も兼営だから特にそうですね。しかし、たいへん参考になるはずです。

−−頻度を高め、手法の充実をはかるとすると、検査官の増員が必要ですね。

 三輪 そうです。しかし合併大農協500トすると、驚くほど多数の増員にはならないでしょう。

「財政難だから民間へ」は筋違い 米国に参考にできる例も

JAよこすか葉山(神奈川県)の窓口カウンターで
JAよこすか葉山(神奈川県)の
窓口カウンターで
−−それにしてもコストがかかる。今の財政事情では無理。そんなことも自主ルールの話の背景にあるのではないですか。

 三輪 財政難だから民間に代理させる。これは筋違いです。それに民間も経営事情が厳しく、コスト負担はつらいのです。
 そこで、ここでも米国を参考にしましょう。日本の預金保険機構と貯金保険機構を合わせたものに当たるFDIC(連邦預金保険公社)は、検査体制を持っています。日本の両機構は持っていない。
 FDICは検査(を含む預金保険制度の管理に関する)コストを保険料で(保険基金を造成し、その運用益で)賄っています(99年末の保険基金の残高は397億ドル、1ドル115円として4兆5655億円、年4%の利回りとして1826億円の運用益)。
 そこで、預金保険のほうはともかくとして、貯金保険機構に検査部を設ける。貯金保険の保険料でコストを賄えば、国の財政難とは関係なく検査体制を作れる。
 今の貯金保険の一般保険料は付保貯金残高の0.018%、特別保険料(貯金全額保護見合い)が0.012%です。預金保険はこれよりかなり高く一般0.048%、特別0.036%。そこで体制強化のために、たとえば一般保険料を0.018%引き上げる(まだ預金保険より安い)。低金利情勢だから貯めて運用益でとは参らないので、フローで使う。今までなかったものだから別に支障はないはず。もし支障があるようなら、全額保護打ち切りで不要になる特別保険料の一部を当てにする。
農協の付保貯金残高を65兆円とみましょう。その0.018%は117億円。かなりの検査体制を作っても、おつりがくるのではないですか。

自主ルールを作らせておいて政府はノータッチでは本末転倒

−−FDICの検査官はどのくらいいるんですか。

 三輪 FDICの部署別職員数がわかる別表をみてください。99年末で総勢7266人。2001年3月末の日本の預金保険機構職員数は386人、貯金保険は21人だそうです。合わせてもFDICとはひどい違いですね。
 FDICの検査部は2693人、主席検査官室が272人。うち検査官が何人かはわかりませんが、2500人はいるのではないでしょうか。
 なお、米国では、日本の金融庁、日銀、県、に当たるところがそれぞれ検査体制を持っています。FDICの検査官数は金融庁に当たるところの検査官数より多いようです。

−−今日の話を整理すると、セーフティーネットの強化は政府の責任で行うべき。要するに検査体制の強化だが、コストがかかる。その点、貯金保険制度を生かして、コストを保険料で賄うことが考えられる。こうした対応を政府は検討すべきであって、自主ルールは筋違いということですね。

 三輪 民間に自主ルールを導入させ、政府自身は何もしない。これは本末転倒もいいところですね。
 どうやら間違った思い込みに基づく、他に例をみない珍妙な自主ルール。これは早期是正したほうがよい、ということです。

−−ありがとうございました。

FDIC幹部職員・一般職員数     1998〜1999年(年末現在)
 
合計
ワシントン
本部
地域・現地
事務所
  1999年 1998年 1999年 1998年 1999年 1998年
役員室 (注) 96 110 96 110 0 0
監督部 2,693 2,655 208 197 2,485 2,458
法令等遵守・消費者対策部 634 646 54 59 580 587
破綻処理管理部 753 795 130 134 623 661
法務部 849 907 450 482 399 425
財務部 541 570 296 298 245 272
情報管理部 528 505 435 429 93 76
調査統計部 103 94 103 94 0 0
保険部 74 69 41 36 33 33
事務管理部 662 687 410 417 252 270
主席検査官室 227 218 158 145 69 73
職員技能多様化・経済機会促進室 47 45 36 33 11 12
オンブズマン室 38 37 13 15 25 22
内部統制管理室 21 21 21 21 0 0
合計 7,266 7,359 2,451 2,470 4,815 4,889
(注)理事長、副理事長、理事(任命制)、最高業務執行責任者、財務担当責任者、情報担当責任者、総務部長−の各室、広報室、議会担当室、政策策定室(1998年末現在のみ)を含む。(FDICの年次報告1999年版)


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