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シリーズ 農協運動の前進のために「農協改革」を考える ―


農協金融システム改革と政府の役割
破綻処理の方式は「ペイオフ」と「資金援助」

 新たな農協金融システムの構築の方針のもと、農協改革法案では、JAと信連の早期経営改善を図るため、「自主ルール」を策定することが打ち出されている。三輪昌男國學院大学名誉教授は、この自主ルール策定の問題点として農林中央金庫がその設定と管理にあたる点に問題があることなどを指摘する。また、金融機関の破綻処理法のひとつである「ペイオフ」について、正しい理解が必要だと強調する。
表 監査体制は中央会系統監査システムの活用を

‐‐前回は早期是正措置の設定・管理は本来、政府の仕事であって、自主ルールを作れと政府がいうのはおかしいとの指摘でした。
 とはいっても現実として、政府はその方向で事を進めています。そこでもう少し検討すべきだと思いますが、この自主ルールの設定・管理は、農林中金がやれ、という話のようですね。

 三輪 奇妙な話です。かりに政府が自主ルールを作れといってもよいとして、なぜ中央会系統の監査システムでやれといわないのか。
 農協界は昔から、農協の経営問題を発見して経営陣に是正を促す活動をする、中央会系統監査システムを持っています。早期是正措置とは無関係に、また政府にいわれてつくったわけではありません。協同組合界には他にも例があり、ドイツの監査専門の全国規模の協同組合が有名です。日本の農協中央会系統監査システムも、国際的にみて立派なものです。

‐‐協同組合界にはなぜそういうものがあるんですか。

 三輪 協同組合では組合員が経営者です。しかし経営の素人ですから、それをカバーするためにです。もう一つは、監査を、組合員とくにリーダーの経営者能力を素人なりに高める機会にするためです。

‐‐なるほど。早期是正の自主ルールを作れというのなら、この中央会監査システムにいえばいい……

 三輪 そうです。農林中金はそういう監査の経験もシステムも持っていないのですから。

‐‐それなのになぜ?早期是正措置は信用事業に関するものだからでしょうか。

 三輪 それはありえません。農協は総合経営だから、経済事業などのリスクが信用事業のリスクになる。これは切り離せない。
 実は、1971年に預金保険制度ができたとき、農協と漁協は入れてもらえなかった(やむなく貯金保険制度が作られた。リスクが信用事業だけでないから、という理由でした。農林中金で信用事業専門に、というわけにいかないんです。

‐‐だけど中央会系統は信用事業に弱いといわれています。

 三輪 そんなことをいってないで、例えばFDIC(米国の預金保険公社、前号参照)の検査・監視の手法を勉強して強くならないといけません。急には強くなれないというのなら、農林中金から出向させればよい。


農林中金が自主ルールを作るのは奇妙

 三輪 農林中金にやれというのが奇妙である理由が、他に二つあります。
 一つはこういうことです。農林中金は金融ビジネスを営んでいる。つまり早期是正措置の対象です。それでいて早期是正措置の自主ルールを設定・管理するのは、明らかに矛盾です。(中央会系統は営んでいないから矛盾はない)

‐‐農林中金と単位農協とは営んでいる金融ビジネスの内容が違うからと考えてのことではないでしょうか?

 三輪 違っていても、早期是正措置の対象としては同類だから、矛盾は解消しません。それに「ひとつの金融機関」として一体化せよといっているのだから、違いはなくなります。

‐‐もう一つの理由は何ですか。

 三輪 農林中金と信連・単位農協は、金融ビジネスで取引をしています。一般企業界の表現を用いていえば、ある時はこちらが顧客、またある時はあちらが顧客。つまり、取引の立場は対等です。
 ところが、対等の立場の一方が、他方の行動を規制するルールを作って管理する。ひどい話じゃないですか。

‐‐本当に問題が多いですね。

 三輪 なぜ農林中金に、ということになるのか、私にはまったく理解できません。不思議です。


「積立基金」の機能は相援制度と同じ

‐‐自主ルールに関連して「積立基金制度」を作れという話があります。これは貯金保険制度の補足のようなもののようですが。

 三輪 これがまた、奇妙な話です。必要な説明をまず簡単にしておきます。
 1964年に農協系統は「全国農協貯金者保護制度」を作りました。信用金庫・相互銀行・労働金庫・信用組合の業界が、54年からこの順で同様の制度を作っているのをみならったのです。どれも政府とはまったく無関係なものです。
 その後公的な預金保険と貯金保険の制度ができる。他の業界の制度はそれでほとんど姿を消しますが、農協系統は73年の貯金保険の発足の時、貯金者保護制度を「全国農協信用事業相互援助制度」(相援制度)に改組・発展させました。むろんまったく自主的にです。そして、貯金保険制度に対応しながら、それを補足する活動をつづけて現在に至っています。

‐‐そこに新しい積立基金制度の話が出てきた……

 三輪 検討会の報告書で積立基金の機能としていわれていることは、本質的に相援制度が営んできた、そして今も営んでいる機能と同じです。とすると、相援制度の充実をはかれ、といえばよい。
なぜ別に同じ機能のものを作れというのか、私には理解できない。

‐‐では、相援制度は今後、どうすべきといっているのですか。

 三輪 不良債権の処理のために活用せよ、です。

‐‐今の機能はやめて?

 三輪 はっきりいっているわけではありませんが、そう理解するほかないですね。新基金との機能重複は無意味だから。

‐‐不良債権の処理が重要で、それ専用の基金が必要なら、新基金をあてればよいのでは。

 三輪 ところが、そうではない。なぜなのか、私には理解できません。相援制度の立場にとって、多年に渡って果たしてきた、そして今も果たしている役割をやめて、別の役割へ変わるのは重大なことです。新しい役割がどれほど重要かの説明が必要です。
 農協の不良債権がこれだけあって、こういう大きな問題を引き起こしている。相援制度の保有資金がこれだけある。全部充当すると不良債権を解消できる。ぜひそうしなければならない、という説明です。

‐‐その説明はないんですね。

 三輪 大手銀行の不良債権は深刻な貸渋りを引き起こしている。持っている株と土地の評価損を大きな要因とする大手銀行の不良債権。一方、それをけっして大きな要因としない農協の不良債権は、内容・質が違う。しかも、貸渋りが起きているわけではない。それなのに、なぜなのか。説明が絶対に必要です。それなしに、役割を変えろ、です。
 相援の資金は農協系統が自主的に貯めたものです。それを突然、こう使えという。民のものは官のもの、官に民が従うのは当然。そんな話ではないですか。国民の一人として、私は大きな違和感を持ちます。

‐‐自主ルールの話はこのへんで打ち切りますか。

 三輪 もう一つだけ。カネの話ですが、農林中金が自主ルールを管理する、つまり問題農協を早期発見するためには、監査システムの運営が不可欠です。それにはカネがかかります。農林中金でなく中央会系統監査システムでやるにしても充実にはカネがかかる。それを何で賄うのかの話はまったくありません。

‐‐農林中金がくめんするだろうと……。

 三輪 どんぶり勘定はいけません。相援の基金なり新基金なりで捻出すべきです。
 しかし報告書ではそれに触れる配慮はみられない。たぶん発想が粗雑だからでしょう。


破綻処理の方式は「ペイオフ」と「資金援助」

‐‐早期是正措置の自主ルールを作れという話は、農協の経営環境が厳しくなるからということで出てきました。厳しくなる事情の一つとして来年、2002年4月からの「ペイオフ解禁」があげられています。

 三輪 ペイオフ解禁というのは間違いです。「全額保護の打ち切り」。「解禁」を使うのなら「1000万円以上の保護をしないことの解禁」が正しい。全額保護期間中も、別にペイオフが禁止されていたわけではない。ペイオフをできるけれど、しなかっただけ。だからペイオフ解禁は間違いです。

‐‐もう少し説明を。

 三輪 自己資本比率0%未満になり、早期是正措置で業務の全部停止命令が出ると、預貯金保険制度が登場して破綻処理に入ります。破綻処理の方式は大別して「ペイオフ」と「資金援助」の二つです。
 ペイオフは、破綻した金融機関の預貯金者に対して、保険機構が保険金(を財源にして預貯金)をペイオフ(=支払)する方式です。
 市場情勢の把握力が乏しい少額預貯金者の保護が目的ですから、保護=ペイオフ金額の最高限度が設けられています。日本では86年9月以降現在まで、1000万円です。(バブル崩壊後、金融危機下の預貯金者の不安を除くため96年6月から限度なしの全額保護が臨時措置された)
 もう一つの「資金援助」にはいくつかのタイプがありますが、わかりやすい典型的なタイプで説明します。
 破綻した金融機関の資産と負債(預貯金を含む)を、健全な金融機関が引き継ぐ。そのさい引き継ぐ側に対して、保険機関が資金援助(無償援助金供与や有利条件貸付)をする。
 預貯金全額が引き継がれるから、ペイオフは起こらない。そして実質的に全額保護される。

‐‐ペイオフだと、1000万円以上はパーになってしまうのですか。

 三輪 いいえ。管財人が、破綻金融機関の資産を処分して得た資金で、預貯金を含む諸負債について、残高比例で返済します(優先条項があればそれを組み入れる)。だから通常、パーにはならないし、損失僅少ですむこともあります。

‐‐二つの方式はどう使い分けるんですか。

 三輪 米国では、処理コストを推定・比較して、コストが小さい方式を使う、というのが原則です。

‐‐コストの内容は?

 三輪 ペイオフの場合、支払保険金額と資産処分による預金回収額の差額、他に名寄せ、支払対象外の預金(他人名義・架空名義・導入預貯金など)の選別、支払事務などに手間(人件費)・雑費がかかります。資金援助の場合は、無償供与が主です。


米国では「ペイオフ」でなく「資金援助」が主流

‐‐二つの方式の、米国での実績はどうなんですか。

 三輪 保険機関(FDIC)は、資金援助を好みます。ペイオフは、名寄せなど手間がかかって煩わしい。もう一つ、重要なことですが、ペイオフで最高限度超過部分に損失が生じて、騒ぎが起きるのを避けたい、という理由です。
 議会から時々、原則どおりやれ、と注意されている。

‐‐別表をみると、件数は資金援助よりだいぶ少ないですが、ペイオフが実施されていますね。限度超過部分の損失での騒ぎは?

 三輪 米国でペイオフを実施するのは小規模金融機関のようです。小規模金融機関の預金者は最高限度内の少額の人がほとんど。超過部分を持っている人も少しはいるが、しかしFDICの『80年代の歴史』というレポート(97年刊)をみると、騒ぎが起こった記録はまったくない、と書いています。損失はあっても僅少というのが、昔はともかく別表にみる近年の実績なんですね。
 それでもFDICは、超過部分損失での騒ぎが心配。しかし、その心配が93年の立法で無用になったようです。管財人による負債返済のさい、預金を最優先することが規定されたのです。実質全額保護になった。それでもペイオフは手間がかかって煩わしい。94年以降99年現在まで、ペイオフは皆無です。

‐‐日本では……。

 三輪 当初はペイオフの定めだけでした。86年の法改正で資金援助ができるようになった。87年に貯金保険で、91年に預金保険で初めて制度が発動されて、その後、特に預金保険ではかなりの発動件数になっていますが、すべて資金援助です。96年6月以降の全額保護中も。ペイオフは手間がかかって煩わしいということが理由でしょう。


米国と日本の経験から「ペイオフ」はないとみるのが常識

‐‐来年4月、全額保護打切り後の見通しはどうでしょうか。

 三輪 お話してきた米国と日本の経験からすると、ペイオフはない、とみるのが常識ではないでしょうか。マスコミは人々の心配をあおるのが商売のようで、「解禁」後ペイオフが起こり、預貯金者が何らかの損失を被る可能性が大きいようにいっています。
 それに乗せられてはいけません。政府の立場では、ペイオフはなさそうとは、けっしていえないですね。しかし判断は一切抜きで、判断材料の情報を提供することはできるのではないですか。ペイオフ解禁で経営環境が厳しくなることを強調するだけでなくて。

‐‐マスコミが不安をあおるので、他の金融機関に貯金を移す動きが、農協で起きるかもしれませんね。

 三輪 農協の組合員には、土地代金を農協貯金で持っている人がいますから、1000万円まではともかく、超過部分を分散しようとする動きは、すでにあるかもしれませんね。


農協のこれからの対処は的確な情報提供

‐‐農協サイドはどう対処したらいいんでしょうか。

 三輪 さきほどお話した米国と日本のペイオフの経験、それから出てくる常識的な今後の見通しを、誇張などけっしてせずに情報提供することですね。
 それから、次の事実を情報として提供すること。
 (1) 貯金保険の保険料(貯金者でなく金融機関=農協が貯金保険機構に払います)は現在、前回お話したように、一般保険料0.018%、特別保険料0.013%。これに対して預金保険は0.048%、0.036%とかなり高い。これは、預金保険に属する金融機関よりも、農協のほうが経営が安定しており、健全であることを意味します。住専問題の時、マスコミで、農協経営は弱いとボロクソにいわれましたが、この数字はそうでないことをはっきり示しています。
 (2) 農協系統は、他の金融機関にはない、貯金保険制度を補足する、立派な相援制度を持っています。
 (3) けっして政府にいわれてでなく昔から自主的に、個々の農協の経営上の問題を早期に発見して経営陣に是正を促す、中央会系統監査システムを持っています。国際的にみて立派なものですが、ドイツの先進例に学んで、他にもいろいろ研究して、より充実したものにしようと努力しています。これらの情報提供で、組合員は安心するんじゃないですか。
 それだけではありません。最も重要な対処策は、信用事業(だけでなく全事業)に対する組合員のニーズを掘り下げて把握し、的確に、そして十分に応えていくことです。いうまでもないことですが。

‐‐ありがとうございました。


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