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シリーズ 農協運動の前進のために「農協改革」を考える ―


“マネーゲーム”を問う姿勢こそ
系統信用事業の未来、どう構築するか

 農協系統の信用事業改革はなぜ必要なのか? しばしばその理由は、「大競争時代」に対応するためと語られる。農協系統の金融業務を「一体化」させるべきとするJAバンク構想もそうした問題意識に基づいているといえるだろう。しかし大競争時代とはそもそも何なのか。そして、今後の事業はどうあるべきなのか。「横並びの競争ではなく住み分け」こそ求められており、また、「マネーゲームでよいのかと問う」姿勢を持つことを三輪昌男國學院大學名誉教授は提言している−−。
JAバンク・システムの不思議、預貸機能の無視

預(貯)貸率
(2000年3月末、%)
農 協 31.4
漁 協 38.1
労働金庫 66.0
信用組合 74.2
信用金庫 67.4
第二地銀 81.8
地方銀行 74.4
都市銀行 100.8
*日銀『金融経済統計月報』から作成
**譲渡性預金は含まない
‐‐農協・信連・農林中金が「一つの金融機関」として機能するような「JAバンク・システム」。厳しい競争を生き抜くために、これを構築せよという話に移ります。

 三輪 要するに系統一体体制を作れ、ですね。一体の具体的イメージとしてあげられているのは、IT投資とそれに基づく金融サービスの一体化。もう一つ、系統一体の早期是正措置の自主ルール。この二つです。

‐‐どちらもイメージが浮かびます。

 三輪 だけど自主ルールは、それをめぐって他と競争する機能ではないですね。ITのほうはそういう機能です。そして競争する機能としてあげられているのはそれだけ。これは奇妙です。

‐‐金融サービスに含まれているのでは?

 三輪 広義の金融サービスは預貸機能を含みますが、ITの金融サービスは預金機能・貸出機能そのものを含んでいません。預貸機能の充実に寄与する機能は含んでいますが。預貸機能そのものとは別の一群のサービスの機能です。

‐‐預貸機能とIT金融サービス機能は別なんですね。

 三輪 ただし、金融ジャーナリズムでは、将来、預貸機能は消滅する、預金取扱金融機関は他の機能で生き残りをはかる以外にない、という主張がみられます。
 預金が証券運用に変わる、借入でなく証券も発行して市場から直接に資金を取り入れる、という話です。
 しかし、少額預金者の個人にとって、預金でなく証券への小企業は証券を発行して、とは参らない。預金機能も貸出機能も、消滅するとか、片隅のものとかになるわけではありません。

‐‐しかし、IT革命が進展すると…。

 三輪 その見通しは水掛け論ですね。今、個人金融資産の5割強が預貯金という日本で、また、個人金融機関である農協について議論する場合、預(貯)貸機能の無視・軽視は許されません。

‐‐ところが無視、というわけですね。

 三輪 それだけでJAバンク・システム構想は撤回すべき、となる。だけど、さらに議論しましょう。貯貸機能の系統一体イメージはどういうものか。
 議論を進めるうえで重要なこととして、組合員との関係で貯貸機能を営んでいるのは単協であることを確認しておきます。  この貯貸機能の一体体制を推測してみましょう。

一体体制の現実的な見直し

‐‐農協・信連・農林中金を単一法人にする、ですか。

 三輪 極限はそうですね。しかし「ひとつの金融機関」として機能するような一体化だから、単一法人化の話はなしですね。
 系統三段階を前提にする。そして、農林中金が指導して一体体制を構築する、とされています。そこで中金と単協の関係に検討を絞りましょう。どうすれば一体体制になるか。

‐‐人事の一体=一元化。

 三輪 そうです。人事を単一法人と同じにする。しかし単協での合意が難しい。給与格差が大きい。だから現実性はないですね。

‐‐とすると、中金から単協へ出向する。

 三輪 せいぜいそんなところ、になってきますね。それを一体体制というとして、しかしそれにメリットがあるでしょうか。
 出向者は潜在意識で絶えず中金本店人事部を気にしている。単協では余所者扱い。概してそうなるのではないですか。

‐‐それでも指導力があるからメリットが……。

 三輪 指導力が本当にあるでしょうか。  貯金業務・貸出業務は地域性を持っています。農協には固有の地域特性がある。他の金融機関との競争での、農協の勝負手はこれです。地域特性を掘り起こし磨いて勝負する。
 それは地域に根差していないとできないことです。余所者にはできない。出向者に指導力があるというのは幻想です。

‐‐結局、メリットなしで取り止めになる。

 三輪 そう思います。

指導力でなく調整力、地域特性で勝負時代

‐‐中金は単協貯貸業務に関して無能ですか。

 三輪 必ずしもそうではありません。全国段階にいるから、調整力はあります。  これまで中金(推進部)は信連と連携して「推進方策」を作ってきましたこの強化が課題になります。  これまでは、全国画一的な単一の方針の作成・提示の趣のものでした。単協貯貸業務の地域性に留意するとき、そうでなく、経験交流の場作り、方針の選択肢の提示、に変わる。これは調整力の発揮です。

‐‐一体体制といっても、現実にはそれくらい…。

 三輪 そう思います。しかし一体体制とは別に、信用事業系統のあり方については、さらに議論が必要です。あとでやりましょう。

‐‐一体体制のつづきですが、全中会長ほか農協系統会表者などから成る「農協金融中央本部」を、農林中会に設置せよ、という話があります。

 三輪 全中会長たちが構成するのだから指導機関。とすると私には理解できない話です。理事会がある。そのチェック機関として新たに経営管理委員会を設ける。対応する両者が系統一体体制を構築し指導する。ここまでなんとか理解できる。ところが、それを指導する。屋上屋ですよ。

‐‐自主ルールの運営に当たるような話もあります。

 三輪 それだと、全中会長たちで構成するのはおかしいですよ。どちらにしても、全中会長たちが構成する組織を農林中金のなかに置こうとするから、無理が出るんじゃないですか。

IT化目的留意事項、上すべりの議論を排す

‐‐先に進む前に、IT投資に戻って、必要な議論をしてください。

 三輪 IT投資一元化は必要なことです。政府にいわれてでは情けないですね。
 IT投資について留意すべきことを、今さらいうまでもない内容ですが、確認の意味で申し上げます。
 (1)ITは相変わらず日進月歩で、ITの金融サービスも同じです。すぐ陳腐化してしまう。情勢も的確に読み判断する能力の強化、情勢変化に機敏に対応する体制作り、これが不可欠です。
 (2)IT投資の先頭にいる大手銀行の顧客は、不特定多数者で、農協の利用者は組合員という特定者。この違いはIT金融サービスの内容に大きく反映します。
 (3)上の2点に留意してIT投資をし、IT金融サービスを開発していくうえで何よりも重要なのは、組合員のニーズを具体的に細かく把握することです。
 こういうことへの留意の気配りなしで、IT投資に目を奪われて貯貸機能を見落としたり、「全国どこでも、統一された……金融サービスを提供」するといったり、というような状況をみると、流行のIT革命病にかかって、無邪気にはしゃいでいるのでは、と心配になります。
 全国どこでも、統一された、が組合員の最大のニーズでしょうか。IT金融サービスで組合員のニーズが大きいのは具体的に何か、の議論に集中すべきなんですよ。

「大競争」の乱用悲し、「対等の」競争でなく「住み分け」の競争

‐‐大競争時代に他の金融機関と対等に競争するためのJAバンク・システム構想。それは疑問ばかり。別の構想を議論してください。

 三輪 「大競争」の使い方が気になります。元はメガ・コンペティションの訳語です。この英語はグローバリゼーションと不可分のもの。巨大多国籍企業の世界制覇の戦いをさします。それを農協が参加する国内のローカルな競争に使う。文化水準が疑われる。聞くと、私は悲しくなります。
 それはともかく、大競争を口にする人たちがそれと表裏でいう「対等の競争」はいけません。単純な横並びの競争がイメージされています。しかし現実はけっしてそうではない。単位農協は、国際市場で外国の巨大銀行と、国内の全国レベルで大手銀行と、横並びで競争するわけではない。
 農協の活動地域で、他の金融機関と競争する。相手が大手銀行の支店であっても、これは横並びです。
 しかし、同質の横並び競争で、負けたほうが「淘汰」される、ということではありません。現実は、異質を見つけて住み分ける努力をする。それに失敗した金融機関が淘汰されるんです。
 簡単にいえば、単純な横並び競争でなく、住み分けの成功を追求する競争です。

‐‐「対等の競争」ではなく、住み分けの競争と発想すべきなんですね。住み分けに成功する方法は……。

 三輪 自分の特徴に注目することです。弱みを解消し、強みを磨いて勝負する。

異常な低貯貸率を直視、これにどう取り組むか

‐‐農協の弱みはいろいろありますね。

 三輪 システムの議論に関連している一番の弱みは、貯貸率が異常に低いことです、膨大な余裕金の運用難で悩んでいます。その弱み。

‐‐低貯貸率だから不良債権が少なくてすんだ、という人がいます。

 三輪 その人は相授資金を全部使って始末しなきゃならないほど不良債権が多いといっていましたね。そして、低貯貸率についてはそういうだけで、異常さ、弱みを問題にしていない。極楽トンボですね。

‐‐低貯貸率の原因は。

 三輪 いろいろあるけれど三つだけあげます。(1)個人金融機関だから。(2)土地代金が貯金として歩留まっている(分母大)。(3)農林公庫資金のような政策融資が、農協の貸出をへこませている(分子小)。

‐‐どう克服するか。

 三輪 (1)は変えられませんね。(2)は土地代金がある限り貯金として確保しておきたい。(3)は政府の考え方で左右されることです。  それぞれに即しての解消は難しい。

‐‐弱みはつづく……。

 三輪 貸出の拡大に努力する道があります。
 今、目に付くのは都市部でのアパート・貸家・駐車場のような農地を転用した「資産管理事業」への貸出です。全国平均でみた貯貸率がひところよりかなり上がりましたが、これが主な要因です。
ただし、空室の発生の危険に絶えず注意が必要な難しさを持っている。
 他に可能性として、(1)競争相手の領域への食い込み、(2)福祉、ゆとり、環境のような新しい価値観の事業への貸出があります。しかし、どちらも開発・拡大は容易なことでない。

‐‐どう取り組むか。

 三輪 前に触れましたが、農協固有の地域特性を生かすんです。

‐‐具体的にはどういう?

 三輪 ▽地域で農業を営む人たちを中核とする地域住民の協同組合である。▽集落を基盤にしている。▽小学校区に活動拠点(支所)を持っている。
 ▽営農面・生活面の多様な目的別組合員組織が活動している。
 ▽信用事業を他の多様な事業と連携して営んでいる。
 ▽単位農協の事業活動を、県レベルの地域の連合会が補完している。。
 これを生かす。どのようにかは、個々の農協で組合員・役員・職員が、分担している活動の場面で考え工夫するのが基本です。その経験を農協内で交流する。

県一円の信用事業統合も選択肢の一つ

‐‐他の農協との経験交流も大切ですね。

 三輪 信連の調整力の発揮が期待されます。
 それだけでなく、県規模の地域で信用事業の機能を統合するメリットも追求されてよい。1県平均で合併大型農協10の目標を達成しても、経済効率観点ではまだ小さい。地域密着は支所で、スケールメリットは県一円規模で。
 その方向で、農協が信用部門を信連へ積極的に(経営破綻処理としてでなく)事業譲渡していく。やがてz一県一信用事業組織へ。他の事業とは別法人になるが、強力な提携を保つ。
 私はこういう展望をイメージします。一つの選択肢として検討に値するものでは、と思っています。

‐‐農林中金はどういう位置づけになりますか。

 三輪 今がそうであるように、農業関連産業融資と、機関投資家の機能を持つ組織として、系統の全国段階に位置する。前に話した調整力の発揮機能は保ちつづける。それから系統一体のIT関連の統括。

‐‐系統全体のイメージについて他に何か……。

 三輪 一体体制を作れば、合併して今や数行になった大手銀行と横並び競争できる、という発想があるように見受けますが、それは幻想です。単位農協が異常な低貯貸率。その克服の道は固有の地域特性の発揮。単純に合計して資金量が匹敵するから対等、というわけにはいかないんです。
 そこで私が描く系統体制のイメージをお話したのですが、将来展望について、もう少し話したいことがあります。

公的金融のあり方も視野に入れて展望拓く、それが政府の役割

‐‐うかがわせてください。

 三輪 金融情勢について、大競争時代がくるといい、もっぱらそれを与件にして、どう対応するかを議論している。受け身の議論です。私は、それで終始するのでなく、金融情勢の変化に自分から進んで関わる姿勢での議論が必要だと思います。
 関わるポイントを二つに絞ります。一つはマネーゲームでよいのか、と問うこと。もう一つは、公的金融のあり方に目を向けることです。
 一つ目。金融は本来、物財とサービスの生産・流通・消費の円滑化が役割なのに、今や、切った張ったでどれだけ稼ぐかだけのマネーゲームになってしまった。資本主義はカジノ化した。よく聞くことですね。
 それでよいのかと問う。よくない。といっても農林水産省金融当局や農協信用事業系統組織だけで、大きな流れを変えることはできません。しかし、常にそう問い、マネーゲームに抵抗することはできる。そういう姿勢をとるべきではないでしょうか。

‐‐公的金融のほうは…。

 三輪 金融ビッグバンといっても公的金融に関する話はごく少ないですね。それを問題にすることです。
 ▽農協の低貯貸率の問題との関連で、農協政策融資のあり方を見直す。▽個人金融機関の存立は、昔から、内外を問わず公共政策に支えられていた。金融自由化の大勢のなかで、その支えが弱まり、なくなり、どこでも存立が難しくなった。マネーゲーム化と併せてそれでよいのかと問う。そのなかで、農協信用事業の展望を検討する。▽郵便貯金の民営化は、農協信用事業に致命的な影響をもたらすのではないですか。どう対処するか。
 政府は、そして農協系統も、こういうことを問題にするべきだ。私はそう思うのです。


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