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シリーズ 農協運動の前進のために「農協改革」を考える ―


キーワードは「情報公開」と「組合員参加」
−−生活関連事業をめぐって

 農水省検討会の報告書「農協改革の方向」では、農協の生活関連事業を赤字解消をめざして見直すべきと指摘している。今回はこの問題をめぐって三輪昌男・國學院大學名誉教授を中心に研究者、JAグループの関係者に議論してもらった。 

50年間の染みついた「赤字観」の払拭が不可欠

−−今回は、農協改革検討会の報告書が指摘した「生活関連事業の見直し」について話合っていただきたい。この点について報告書は別掲のように記述していますが、全体として生活関連事業は赤字だからリストラすべきという指摘になっていると思います。

 三輪 報告書では「農協の提供するサービスの範囲の見直しを行っていく必要がある」と指摘しています。まず、範囲の見直しを言う前に生活関連事業とは何かをきちんと整理しておく必要がある。
 全中は昭和45年に「生活基本構想」を策定し、農業面の活動以外をすべて生活活動と呼ぶようになった。その構想では生活活動を9分野に分けています。そのなかには、信用事業も共済事業も、それから不動産関連事業など開発事業も入っていました。
 現在は信用、共済、開発はそれぞれの専門事業部門があるので外し、中央会系統(生活指導)と経済連系統(生活購買)が残っている分野をカバーしているという形になっています。
 この残っている分野については実は2つのネーミングがある。中央会系統は生活指導と生活購買を合わせて「生活活動」と呼び、経済連系統は購買事業とその関連事業を「生活事業」と呼んでます。
 報告書が意識しているのは、生活購買事業だと思いますが、しかし、赤字を出しているのは生活指導も同じです。これも含めて見ていく必要があると思います。

  生活活動の赤字については、たとえば、生活指導を行えばそれが間接効果となって信用事業や共済事業に反映する、だから、指導事業は赤字でもいんだという割り切り方がありました。

  農協の役職員のなかには、昭和20年代から築いてきた生活関連事業への考え方がある。赤字であってもいいという……。

 三輪 そこで問題にしたいのは、間接効果があるから赤字でいいんだという考え方でいいのか、です。
 指導部門というのは、農協経営分析調査でははじめから非採算性部門に位置づけてある。したがって、生活指導はそれでいいのかもしれないが(本当は、問題あり)、生活購買事業は採算性部門に位置づけられている。
 ところが、生活指導で間接効果論を唱えるものだから生活購買事業でも、ここでサービスをしていれば組合員は貯金してくれる、などと言って赤字を合理化するという流れがある。
 初めから赤字でいいんだという話になっている。そこを今、疑わないと。役職員と同時に組合員も一緒に真剣に考えないといけないと思います。

  農協の事業量がトータルに伸びているときには、指導事業が赤字でも、たとえば、共済の推進では、生活指導員や営農指導員が、組合員に信頼されて、いちばん最初にノルマを達成するという話があった。
 しかし、現在は、事業量、したがって収益が減少しており、信用、共済も厳しい状況にあります。こういう状況ではやはり事業範囲の見直しが必要だと思います。
 また、これまで本当に間接効果があったのかどうか。総代会の資料をみると、生活指導といっても、ほとんどが女性部活動の紹介だけ。女性部活動、イコール生活指導、になっているそういう仕事。農協の生活指導事業は生活指導員が担っている仕事、そういうことでいいのか。

  組合員の意識も変わってきていますからね。この50年間に「戸」から「個」に変わってきた。ですから、いくら生活活動をやっても、購買事業にメリットがあるかないか、購買品は安いか高いか、になる。

  かつての指導購買というスタイルは、組合員のニーズに合っていたのかもしれません。物が不足しており、また供給は農協が唯一の主体でしたから、それで通用した。ところが、今の時代に組合員の生活を指導してあげるから、農協の物を買ってくださいというのは、おこがましすぎる。

 三輪 農協の生活活動では、たとえば、サークル活動に補助金を出して奨励していますね。
 このことについてかつてある研究会で、生協の女性幹部が、私たち生協では、組合員が自主的に行う活動に補助金を出してはいけないと思っています、といって並み居る農協の関係者がノックアウトを喰らったと感じたのを覚えています。

  一方で女性部は、農協のためにやっている、だから、援助金をもらうのは当然だという意識になる。生協の場合は、自分のためにやっているという意識なんでしょうね。
 農協の場合は、事務局が前面に出過ぎているかもしれない。メンバーも高齢者が多くなったせいか、事務局が黒子として補佐するというよりも、事務局が本体そのものになりかけていないか。だから、女性部はよけいに農協のためにやっているという意識になると思いますね。

単純な廃止や委託ではなく農協経営本体での解決策を

Aコープ神奈川「中田店」
(株)Aコープ神奈川「中田店」では、昨年4月にリニューアルオープン。売場面積の拡張、生鮮品の品揃え強化で収益を上げている。

三輪 生活購買の赤字事業としては、Aコープ店舗、あるいは展示即売などの問題がありますね。
この問題をめぐって指摘したいのは責任体制が明確でないということです。採算をとる単位の具体的な設定と、だれが責任を持って赤字解消に取り組んでいくのかを明確とすることが、きわめて重要です。

  中央会の経営監査部門の人がJAに監査に行く。生活購買部門が赤字だから、赤字を解消されたし、という意見を出しその解消策を求める。ところがJA側ではそれは事業の話だから経済連に聞かなくてはいけない、となるが、経済連は経済連で、いや、われわれは仕入れ機能だけですから経営分析の話は中央会に聞いてください、と。たらい回しなんですよ。
 結局、損益の帰属は農協にあるから、Aコープの経営改善指導は連合会が責任を持つという体制になっていなかったんですね。それでも右肩上がりのときには経営ノウハウなど関係なかったわけです。
 ところが、状況が右肩下がりになってきたときに、ノウハウがものを言うわけですが、これまで経営ノウハウの蓄積などない。

  Aコープ店の課題は、現場からすると仕入れ機能ですね。
 量販店などに対抗できるだけの機能なり能力があるのか。今までは、経済連や全農に一任しっぱなし。われわれはただ売ればいいんだと。仕入れのノウハウは問題にならなかった。普通であればいちばん肝心な問題のはずなのに。
 Aコープ店が出店したときには独占状態で業績もよかったわけですが、競争相手が登場するともう勝てない。それで別会社にバトンタッチとなってしまう。

 三輪 報告書では、確実に赤字を解消していく方法として「事業の廃止、子会社や外部の委託等により」と書いてある。
 言い換えると、農協の本体のなかでいかに赤字を解消するかという問題が全部カットされている。農協本体では赤字は解消できないと言っているに等しい。そう思って書いているのかどうか分かりませんが(うっかりミスかも)、農協本体のなかで生活関連事業の赤字をどう解消していくのかという点をまったく提起していないのは大問題です。

  子会社に委託して黒字になるならどうしてそうなのか、また、農協本体のなかではなぜできないのかを示すべきですね。

  解決策としてまず考えなければいけないのは、全部情報公開でやるということです。
 Aコープ店の経営状況について組合員参加の委員会をつくって、情報公開して検討する。仕入れ状況や1日の客数、人件費など公開して。役職員だけで悩むんじゃなくて組合員参加型で考える。
 そういうなかから、それほど苦しいのか、それなら、もう一度女性部の共同購入組織を作ってAコープに結集するような仕掛けをつくろうという動きも出てくるかもしれない。しかし、それも一年やってみても立ち直らなかったら廃止しましょうと。このように納得したうえで廃止すれば組合員から批判の声は出ないでしょう。

 三輪 生活関連事業は赤字だからひとくくりにリストラしましょう、と叫んだだけでは問題は解決しません。赤字部門の内訳はいくつもあって、その一つひとつ赤字になる構造が違うわけですから。
 ですから赤字がどのくらい出ているのか、検討を加える対象を明確に特定して、それを分析する。そのことは同時に赤字の解消策を追求することになるわけですね。

生活関連事業の改善は経営トップの姿勢こそ

三輪 そこで次の問題は、その赤字解消に誰が取り組むのか、です。
 今までのやり方だと農協の総合企画部門に任せてしまっていた。しかし、私は、実際に現場で仕事をしている人間こそが最適任だと思います。農協の総合企画部門というのは、あくまで現場に対するアドバイザーだと思うんですね。経営分析などは現場ではできませんから、それは総合企画部門が担当したとしても、得られたデータを与えて経営改善の自覚と責任を現場に持たせ、赤字解消の役割を果たしてもらうべきだと思います。

  責任がはっきりしていないことが決定的に問題だったんでしょうね。責任が分散されていて、結局は無責任体制になってしまっていた。

 三輪 また、組合員参加で検討するという方法をとるなら、これは最初からそれを求めてやらなければならないでしょうね。
 赤字解消の検討項目は、支出と単位当り収入と事業量です。単位当り収入の面でも事業量をどう伸ばすのかという面でも、例えば購買品の単価を上げなければ解決しないとなれば、これは組合員がその気になるかどうかです。だからそもそもの初めから、どうして赤字になっているのかから検討するから参加してください、と呼びかけなければなりません。赤字構造について一緒に勉強する姿勢を持つことでしょう。
 結果だけ示して廃止するのかどうかを検討してください、では組合員もついてきてくれない。

  生活関連事業の改善のためには、やはり経営トップの姿勢が大切だと思いますね。トップが現場で仕事をしている職員を信頼して赤字解消に取り組んでもらう。これができるかどうか。できなければ、赤字解消はできません。

参考になるヨーロッパの協同組合の生活活動支援

 三輪 今日のテーマを議論するうえで参考になるのはヨーロッパです。日本の農協の生活活動がこれだけ手を広げているのは、ある意味では模範生だといえます。ヨーロッパでは生活活動(特に生活指導)に相当することを地域住民がやっていて協同組合は脇役です。剰余金の10%を寄付するとか、スタッフが不足しているのなら応援を出しましょうという格好で対応している。
 日本の農協の場合は、地域住民にそういう動きがないから、農協自身が取り組んでいる。しかし、現実は農協が請け負ってしまった形になり負担となり赤字になった。そうではなくて地域住民、つまり組合員が自分たちでサークルをつくって手弁当で活動をするという発想に、どう切り替えていくかが問われていると思います。

−−次回は、「農協の営農指導について」をテーマにしたいと思います。

生活関連事業の見直し
(「農協改革の方向」農協系統の事業・組織に関する検討会報告)

(1)農村社会において、組合員等に必要な生活関連サービスを提供することも農協の重要な役割である。
 しかしながら、農村部への一般企業の進出、都市部への交通条件の改善等により生活店舗やガソリンスタンドなど多くの部門で赤字になっており、これが農協の経営を大きく圧迫している。

 (2)したがって、農協に対する組合員等のニーズを踏まえて、農協の提供するサービスの範囲の見直しを行っていく必要がある。
 特に、赤字となっている事業・施設については、その収益状況を組合員に明示するとともに、年限を定めて、事業の廃止、子会社・外部への委託等により、確実に赤字を解消していく必要がある。
 (3)さらに、新規分野への参入についても、採算性をよく検討するとともに、過大な投資の回避、外部への委託の活用等にも留意していく必要がある。

 (4)特に、農村地域では急速に高齢化が進行しており、農協が、要介護者だけでなく健康な高齢者を含めた総合的な高齢者対策に積極的に取り組んでいく必要があるが、その際にも、市町村等とよく連携し、的確かつ効率的に事業を実施していく必要がある。


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