農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JAの現場から「JAのビジョン」づくりに向けた戦略を考える(4)

都市との交流と高付加価値産地づくりをめざす
JAふらの・JA横浜・JA三浦市

白石正彦 東京農業大学教授


白石正彦氏

白石正彦氏

3つの農協を訪問して
 今回訪問した3つの農協のうちJA横浜は、地域農業振興計画に「Foodで風土」(市民と共有し、市民と分かち合う、市民とともに育てる農業)をキーワードとし、一括販売方式や営農面と生活面の一部を交叉させた事業活動を創造しており、これが信用・共済面の事業活動面にも間接効果を発揮している点を評価したい。
 JA三浦市は、「自然の味・健康野菜」をキーワードとして、春キャベツへの海洋深層水利用など活発な農家組合員グループのボトムアップ的活動を大切にしながら、川中・川下との契約取引の方向を拡充している点を評価したい。
 全国的に農業労働力の確保と次世代の担い手づくりが大きな課題であるが、JAふらのは、外国からの研修生受け入れではなく、都会等から30歳代までの男女の若者の滞在型農業体験の仕組みづくり、クリーン農業を前面に出した高付加価値型産地づくり、さらにJAの分権的マネージメンづくりの三層の戦略による相乗効果を評価したい。

しらいし・まさひこ
昭和17年山口県生まれ。九州大学大学院修了。農学博士。東京農業大学国際食料情報学部教授。昭和53年〜54年英国オックスフォード大学農業経済研究所客員研究員、平成5〜7年ICA新協同組合原則検討委員会委員、10年ドイツ・マーブルク大学経済学部客員教。


次世代づくりを重視し“ふらのブランド化”を実現
JAふらの(北海道)

◆高付加価値型クリーン農業に挑戦

ふらの・地図

 ふらの農協は、2001年に旧6農協の合併で誕生した。06年度末の正組合員は、2556人(1775戸)、准組合員は5820人(5820戸)、役職員は理事26人(うち常勤4人)、監事5人、職員370人、常雇人90人。その管内は上富良野町、中富良野町、富良野市、南富良野市、占冠村(しむかっぷ)の1市3町1村であり、旭川空港から車で45分で訪問できる富良野市の場合、年間200万人を越える観光客がラベンダー咲く丘陵地、テレビドラマ「北の国から」ロケ現場の散策やスキー等の目的で訪れ、高い知名度を誇っている。
 2006年度の管内の作付面積は2万2710haであり、作目別には野菜3割、水稲1割、麦類2割、豆類1割、飼料畑4分の1であるが、当農協の販売高284億円のうち青果が6割(163億円でたまねぎ70億円、メロン18億円、にんじん14億円、すいか・スイートコーン各8億円等)、米麦・豆・ビート等が2割(61億円)、畜産が1割(40億円)、加工1割(21億円)と青果(野菜)を主軸の地域ブランド化と付加価値を高める農産加工(調味液工場、にんじんジュース工場・氷温漬物工場等)、さらに耕種部門と畜産部門の地域資源循環(有機物供給センター、年間製造能力1万2千トン)、土壌分析施設等によるクリーン農業に力を注いでいる。

◆意識改革と組織・事業改革を連動する新中期計画

 当農協は、平成19年度〜21年度の新中期計画基本構想として、「農家の体質強化と生産性向上」、「競争力ある事業の展開と万全な経営の確立」を実現するために、「基本方針」に(1)担い手づくり・支援を軸に地域農業の振興、(2)ニーズに即応した安全・安心な農産物の提供、(3)機構改革による事業体制のスリム化、(4)変化に即応できる柔軟で、強靱な経営体質の構築、(5)マネージメントシステムの適合と有効性の継続的な改善の実施、を明示している。
 具体的には「組織改革」、「事業改革」、「意識改革」と「ヒト」、「モノ」、「カネ」の経営資源の有効活用を柱とし、重点戦略として「営業戦略」、経営体質」、「組織活力」、社会貢献」の4つを明らかにしている。さらに、これらを遂行するために、(1)統括管理本部、(2)信用事業本部、(3)営農販売事業本部(青果部、米穀部、営農部、畜産部)、(4)生産資材事業本部(生産資材部、機械燃料部)の4つの事業本部ごとの中期計画の柱、並びに主要計数計画、支所・施設の再編成を明示し、専門性の高度化を重視した分権的な管理システムを導入している。
 この中で奥野岩雄組合長は、従来型のクミカン制度(年度当初の残高はゼロ)を08年度末に廃止し、新たな制度(年度当初に年間支出額分を残高に計上)への移行(営農貯金や備荒貯金の積み増しや運転資金の対応等)が盛り込まれているねらいを農業者組合員と役職員の自助意識の高揚に置いていると語られたが、このような意識改革と農協の組織・事業改革の連動的仕掛けづくりが注目される。

◆担い手づくりを重視し野菜の道外出荷を先導

 ふらの農協の正組合員戸数当たり平均作付け規模は13ha、販売額は1600万円であるが、07〜08年までに水稲から野菜へ200haの転換、マッピングシステムの導入等を図りつつ認定農業者1500戸、集落営農組織30、法人受託組織10の支援と拡大に取り組んでいる。96年からは都会等から滞在型農業体験に興味をもつ30歳代までの若い世代(今年は男性40人、女性80人)が当農協が運営する「農業体験者滞在施設」(全個室で風呂・食事は共同)に4月中旬から10月下旬まで長期に宿泊しながら、日中は野菜農家で農業体験を行っており、この中から地元農業者と結婚し就農するケースも相当みられ、次世代対策の切り札として注目される。
 2006年度の青果の道外出荷実績(ホクレン扱い10月まで数量ベース)を道内農協別ランキングでみると、当農協はにんじん、スイートコーン、ほうれんそう、すいかが第1位、玉ねぎ、レタス、南瓜、ピーマン、ゆりねが第2位、メロンが第3位、ミニトマトが第4位を占めるなど、野菜供給基地として先導的な役割を果たしている。とくに注目される点は効率性と鮮度保持のため主要品目別選果場(玉葱は5ヵ所で処理能力9万トン等、CA冷蔵貯蔵施設、真空予令・予令庫・保冷庫等のVCセンター等)の役割も大きい。

都市農業の強みを生かし地産地消と食農文化を拓く
JA横浜(神奈川県)

◆県内No.1の農地基盤から都市農業を支援する

横浜・地図

 横浜農協は、2003年4月に市内の田奈農協を除く5農協の合併で発足した。市内の人口は360万人余りの大都市の下で、当農協は2006年度末に正組合員9923人(9536戸)、准組合員3万3083人(3万32戸)よって組織され、管内農地面積の3419haは県内で最大規模であり、そのうち市街化調整区域内農地は2640ha(うち農用地区域は1036ha)、市街化区域内の農地は779ha(うち350haは生産緑地に指定)である。このような農地基盤の持続は農業者・農協の取組みに加えて、都市機能のミニマムとして農の多面的機能発揮のための農業専用地区(26地区)や寺家・舞岡ふるさと村(2ヵ所)の開設等を推進してきた横浜市(自治体)の都市計画理念とその施策の相乗効果が大きい。

◆活発な教育文化活動を基礎にして事業経営を活性化

 当農協の役職員体制は、理事48人(うち常勤理事は10人)、監事7人(うち常勤監事1人)、職員1283人(うちパート66人)であり、組織機構は、12部、2室で、そのうち本店に総合リスク・企画部等、みなみ総合センターに営農部、経済部、きた総合センターに組織相談課を配置し、広域ブロック単位で地区営農経済センターを4カ所、金融・共済事業と組合員相談面で基幹支店を29カ所配置している。
 当組織の組合員組織である支部組織(地域組織)1万1822人、野菜部990人、果実部255人、植木部420人、花卉部113人、酪農部22人、養豚部19人、資産管理部1706人、青色申告部1955人、青壮年部724人、女性部5072人などが組織され、特に次世代の青壮年部と女性部の部員は正組合員戸数比でそれぞれ8%、53%を占め、支店単位での組合員教育活動と生活文化活動(教育文化活動)が活発で、2004年度に家の光文化賞を受賞している。
 このような食育活動を含む教育文化活動による組織的結集を横軸として、縦軸に専門性と総合性を結びつけた事業経営によって、2006年度末の貯金残高は1.2兆円、貸出残高4809億円(貯貸率40.1%)と、長期共済保有高3.3兆円、受託販売品取扱高27億円、購買品取扱高50億円(うち生産資材22億円)等の事業成果によって、当期剰余金35億円、単体自己資本比率が19.4%という健全経営を堅持している。

◆都市型営農販売事業方式の創造

 営農経済面では1992年度以来、旧横浜南農協でノウハウを蓄積してきた一括販売方式を、2003年度からは合併JA全域に普及している。すなわち、組合員農家に「出入り自由の基本原則(利用したい人が、何でも生産した物を、利用したいときに、量を問わず)」という都市JAならではの営農事業方式を開拓した。農家には、営農へのやる気をおこさせ、JA出荷のインセンティブを引き出しながら集荷量を拡大させていった。
 こうして徹底した規格簡素化を図り、「ハマッ子」「浜なし」「はまぽーく」「浜ぶどう」など「はま」を付けた「ブランド品」等を地産地消にこだわった約40店以上の直販ネットワークを構築した結果、市場出荷で73%、直販で27%を占めるようになった。そして2003年度は26億円、2006年度には27億円の販売高を達成している。

自然の味・健康野菜をめざした近郊型野菜産地
JA三浦市(神奈川県)

◆温暖な海洋性気候と横浜・東京近郊の地の利を生かす

三浦市・地図
 三浦市農協は、1965年10月に初声町農協と三崎町農協が合併し三浦市農協となり、1969年4月には南下浦町農協が合併し、現在の三浦市農協が誕生した。当農協管内の三浦市は人口約5万人で、三方を海で囲まれた三浦半島の先端に位置しているため、「冬暖かく、夏涼しい」海洋性気候に恵まれ、また、東京まで電車で1時間程度の都市近郊に立地している。このため、畑作農業や漁業、食品加工、さらに城ヶ島等への年間500万人の来遊観光客などのサービス産業を特徴としている。
当農協の2006年度末には正組合員1659人(1132戸)、准組合員907人(847戸)で、理事31人(うち常勤理事3人)、監事8人(うち常勤監事1人)、職員148人(うちパート20人)であり、組織機構は、7部、1室で、そのうち営農経済分野では営農部、共販部、土地改良対策室、生産購買部が配置され、4ヵ所に支店、6ヵ所の事業所を配置し、集荷所は18ヵ所あり農業者のコミュニケーションと出荷時の利便性を重視している。
 当農協の2006年度の事業は、販売品取扱高59億円、購買品49億円、貯金283億円、貸出金32億円、長期共済保有高953億円で、当期剰余金が約6000万円、自己資本比率17%の健全経営を保持している。

◆周年型ブランド野菜産地づくりを支援

 当農協管内では、冬はダイコン(786ha:出荷は白首の三浦大根が12月末、青首の冬大根が11月上旬から2月、春大根が2月下旬から4月上旬)、キャベツ(740ha:早春キャベツ11月下旬から3月中旬、春キャベツ3月から5月下旬)、夏はスイカ(386ha:7月から8月)、カボチャ(126ha:6月から8月)、メロン(55ha:6月下旬から7月)などの露地野菜中心の農業が営まれている。このうち、冬春ダイコンと早春・春キャベツが国の指定産地に、スイカが県の指定産地になっている。最近では、トウガン、ニガウリ、夏ネギ、トマトなども栽培され、みかん狩り、いちご狩りなども行われている。
 2005年農林業センサスによると当農協管内は、耕地面積1190ha(うち普通畑1170ha)で、同年の農業産出額111億円のうち大根が48.5%、キャベツが26.2%、すいかが12.4%、かぼちゃが3.6%、メロンが1.8%を占めている。
 当農協は、自然の味・健康野菜をめざし、販売面では、よこすか葉山農協と連携し、特産・三浦野菜生産販売連合(よこすか葉山農協から2人、全農神奈川県本部から2人、三浦市農協から7人の職員が出向)を組織している。この結果、三浦市農協の販売高は2006年度には、59億円でこのうちキャベツ31億円(前年比109.0%)、ダイコン18億円(前年比44.5%)、カボチャ2億円(前年比128.5%)、スイカ1億円(前年比90.4%)と続いている。このように、2006年度は安値の影響で、ダイコンは前年の40億円に対して18億円と前年比44.5%に減少したため、販売品合計は、平成17年度79億円から18年度は59億円に減少している。

◆海洋深層水を利用した春キャベツ生産

 三浦市農協の出荷組合は三崎支店に3ヵ所、初声支店に9ヵ所、上宮田支店に3ヵ所、松輪支店に3ヵ所組織され、それぞれ組合員のコミュニケーションと農協共販の集出荷単位としての機能を保持している。
 このうち、春キャベツ出荷グループの「松輪」は、2002年に松輪地区の68人の農家が春キャベツの出荷グループ「松輪」を結成し、「三浦ディーエスダブリュー株式会社」と連携して、三浦沖海洋深層水を利用した春キャベツ栽培(育苗期・移植期に灌水し、圃場に定植後は1〜2回の葉面散布)を行い、出荷箱に「三浦沖海洋深層水使用」と表示して出荷している。また、「ダイコンの消費拡大」と「小型化でより良い味」を目的としたサラダ専用に品種改良された「レディーサラダ」が栽培されている。
 以上のように当農協では(1)売れる品種や作り方の試験栽培、(2)市場動向をふまえた販路の多様化、(3)各出荷グループの個性的活動を重視し、これを川中・川下の指定産地として契約取引の強化に挑戦しつつある。

(2007.11.26)


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