農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JAの現場から「JAのビジョン」づくりに向けた戦略を考える(5)

専門農協との合併で地域に責任をもつ体制づくり
JAえひめ南(愛媛県)
村田 武 愛媛大学教授


村田 武氏
村田 武氏
JAえひめ南を訪問して
 「地域経済の活力がこのままでは衰えてしまう。」そのような危機感をもって、地域農業の振興の責任を担って奮闘している農協の姿をJAえひめ南に見ることができた。JAいわて中央との連携協定の締結による具体提携事業は組合員と地域を励ますうえで、大いに役立つであろう。
 第10回通常総代会資料の表紙には、「人が力だ」とある。JAえひめ南の願いをかなえるのは人の力、人が組織の原動力であるとは、林正照組合長の信念と聞いている。その人の力を引き出すにも、JAえひめ南の役職員は一体となって、組合員の期待に応える事業のスピード感のある取組みに力を入れてほしいというのが、私の心からの期待である。
 この9月に農業振興課を事務局にして、「南予農業活性化塾」が発足し、私はその塾長を引き受けたところである。人の力を引き出すにも、将来を見通し、ファイトをもって農業経営に打ち込む人材の育成に、全力で協力したいと考えている。

むらた・たけし
昭和17年福岡県生まれ。京都大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程中退。金沢大学教授、九州大学農学部教授、同大学大学院農学研究院教授を経て、平成18年より現職。主著に『農政転換と価格・所得政策』(共著、筑波書房、2000年)など。


◆日程に上ったかんきつ専門農協JA宇和青果との合併

えひめ南・地図

 宇和島市を中心に、愛媛県西南部南予地域の南半分、旧北宇和郡と西宇和郡の1市3町の7農協が合併してJAえひめ南が誕生して10年になる。
 管内は、宇和海沿岸のかんきつ主産地に加えて、高知県境の中山間地域まで含む。地域は、民間企業の撤退、養殖漁業の不振、そして急激な高齢化・過疎化による就業人口の減少など、小泉構造改革のもたらした地域格差の典型ともいえる経済危機のただなかにある。それは農協組合員の経済力の低下にも直結している。したがって、林正照組合長がよく理解しているように、地域経済の発展に多大の貢献をしてきた農協が、自らの経済事業改革を成功させるかどうかが地域経済の今後とも直結しているところに責任の重さがある。
 平成18年度末の正組合員は1万4341人(1万2923戸)、購買事業高は95.7億円、販売事業高は22.8億円である。
 温州ミカンを中心とするかんきつ部門については、その販売・加工を専門農協JA宇和青果(販売額63.5億円)が担ってきた。組合員約1500名はすべてJAえひめ南の組合員でもあり、生産資材や生活物資の購買事業はJAえひめ南に任せてきた。
 温州ミカン価格の長期低迷のもとで、JA宇和青果は、本年の総会で、平成21年4月を目標にJAえひめ南との合併を決議した。JAえひめ南も第4次中期経営計画(平成20〜22年度)を樹立して、合併基本構想の早期実現に努めることを確認しており、いよいよ両農協の合併を前提にした経済事業改革の推進が課題になっている。

◆ミカン園の荒廃を防ぐ

 第3次中期経営計画の最終年度を迎えている。JAえひめ南が、経済事業改革で腐心している課題の中心は、沿岸から中山間までの広域対応が求められる組合員への支援体制である。営農指導機能の強化では、行政・農協一体型での農業振興が重要になっており、管内全域での農業支援センターの設置によるワンフロア構想が実現した。
 ミカン傾斜畑の荒廃が始まっている。これには農協の緊急かつ重点的な対応が期待されている。
 そこで、力を入れてきたのが営農ヘルパー制度の充実である。ミカン主産地である旧吉田町の集落単位で実施した園地荒廃度調査結果を踏まえ、(1)労働力不足の農家への営農ヘルパー(摘果・収穫労働力)の派遣やスピードスプレイヤーの共同管理、(2)若い経営者への園地斡旋を進めている。園地斡旋については、農業委員会まかせにしないことが重要だ。これらの職務には、60歳で定年退職した農業改良普及員や農協営農指導員を活用している。
 いま林組合長がぜひとも実現したいと考え、先進事例の調査も進めているのが、農協出資の農作業受託会社の設立である。かんきつ農業の後退と園地荒廃に手をこまねいていては農協が組合員全体の信頼を失い、JA宇和青果との合併の意義についても組合員の期待を裏切るからである。高齢化した組合員の放任園地を農協直営で管理するモデル事業の立ち上げにまもなく着手する。

◆JAいわて中央との姉妹提携

 農産物販売の革新への取組を本格化した。管内10店舗を数える農産物直売所は、農協直営の「特産センター南君(みなみくん)」(販売額3.9億円)を中心に、組合員には多品目の地産地消型販売を可能にしている。本年1月にはJAいわて中央との連携協定が結ばれており、宇和島からはミカン、たけのこ、早掘りバレイショなどが送られ、盛岡からはりんごが届けられるようになった。
 生産資材の物流体制の整備では、3年前に設置されたJA全農えひめ南予物流センターを機軸に、予約分の農家戸配送の本格化による低コスト化を推進している。JAえひめ南にとっては、JA宇和青果との合併を成功裏に実現するには、(1)営農支援、(2)農産物販売革新、(3)資材購買サービスの低コスト化で、どれだけの成果を上げられるかである。
 この9月には、若い世代の奮起を促そうと、農業振興課が事務局を担当する「南予農業活性化塾」が開始された。第1期生として、農協青年部、フレッシュミズ、農業支援センターなどに参加する若い組合員27名が参加している。

(2007.12.7)


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