農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JAの現場から「JAのビジョン」づくりに向けた戦略を考える(総括)

「JAのビジョン」づくりのキーワードは
「地域特性」と「トップマネジメント」
梶井功東京農工大名誉教授


 本紙では昨年7月から8月にかけて北海道から九州まで全国20JAを訪ね、JAトップ層に担い手育成支援策、経済事業改革、組合員対応など「JAのビジョンづくり」のポイントとなる課題を中心に取材した。そのレポートを昨年(07年)10月10日号のダイジェスト版を皮切りに年末まで順次掲載してきた。そこにはそれぞれの地域特性を活かした地道な取り組みがあった。全国のJAが地域農業振興を柱とするJAのビジョンづくりに取り組むことは第24回JA全国大会での決議。20JAの取材を通じて、ビジョンづくりのポイントとして何が浮かび上がってきたのか。梶井功東京農工大名誉教授に本シリーズを総括してもらった。

「JAのビジョン」づくり レポート掲載の全国20JA
●JAふらの(北海道)
●JA相馬村(青森県)
●JA新いわて(岩手県)
●JA大潟村(秋田県)
●JA新ふくしま(福島県)
●JA東西しらかわ(福島県)
●JAはが野(栃木県)
●JAちばみどり(千葉県)
●JA富里市(千葉県)
●JA横浜(神奈川県)
●JA三浦市(神奈川県)
●JAえちご上越(新潟県)
●JAみっかび(静岡県)
●JAあいち知多(愛知県)
●JAいずも(島根県)
●JA三次(広島県)
●JAえひめ南(愛媛県)
●JA福岡市(福岡県)
●JAくるめ(福岡県)
●JAさが(佐賀県)

◆小規模JAのこだわりにもヒント

梶井功
かじい・いそし
大正15年新潟県生まれ。東京大学農学部卒業。昭和39年鹿児島大学農学部助教授、42年同大学教授、46年東京農工大学教授、平成2年定年退官、7年東京農工大学学長。14年東京農工大名誉教授。著書に『梶井功著作集』(筑波書房)など。

 今回の20JA調査レポートの最初の報告者・田代教授は、担当した“4JAを訪問した印象”として、“いずれもトップマネジメントが確立し、戦略意思が明確な農協であり、組織再編、経済事業改革は一段落したという共通認識である”ということ、“それぞれの地域特性にフィットしたポリシーの確立をめざしており、全国一律パターンの押しつけは無用ということを示している”ということの2つをあげていた。
 20JAのレポートを拝見して私も同じ感想を持った。トップマネジメントが確立せず、従って戦略意思も不明確なJAでは、今日を生き残ることはできないし、JAの基盤となる農業・農村には地域特性がある以上、その地域特性にフィットしたポリシーに基づくものでなければ、しっかりした事業活動を展開することはできない――活発に活動しているJAに共通する印象としては当然ともいえる印象だろうが、われわれが訪問した20JAはまさにそういうJAだった。
 20JAのなかに、正組合員数僅かに585人、準組合員を入れても944人の組合員数でしかないJA相馬村がある。合併、合併で1JA平均組合員数が1万人を超えるようになった今日では、そんな超零細JAがまだあるのか、といわれかねない規模のJAである。このJA相馬村よりは大きいが、組合員数2844人のJAみっかびも今日的基準では零細規模JAといわなければならない。
 いずれも非合併を通してきているJAだが、町村合併による“相馬村の消滅に加えて、JAまで…他JAと合併するようなことになっては「故郷を守」れなくなる”という判断、あるいは“合併すると( みっかびみかんという)ブランド確立のための長年の努力が水泡に帰し、組合にとってマイナスとなる”という判断が非合併を通させてきているのであるが、非合併零細規模JAにもかかわらず、“飛馬(ヒウマ)”りんごのJA相馬村、“ みっかびみかん”のJAみっかびの名は、JAの世界では知れわたっている。“地域特性にフィットしたポリシー”に基づくその活動実績が、JA相馬村では95%という“驚異的な高さ”のりんご共販率となり、JAみっかびでは“組合員1人当たりの貯金高、長期共済保有高はいずれも全国トップクラス”になって示されているからである。

◆販売事業でどう新路線を拓くか

 “流通の自由化、消費者・実需者ニーズの多様化に対応し、消費者・実需者のニーズを生産に結びつける販売事業改革”は、第24回JA全国大会が掲げた「JAグループのビジョン実現のための取組み」の4番目の柱だが、20JAのいずれもがこのJA事業の中心である“販売事業改革”に真摯に取り組んでいた。
 “生産部会をベースにした大型共販・卸売市場出荷、産直センター、中食・外食企業との契約取引、スーパーとのインショップ等々、多彩な販売形態を展開している”JA富里市、“量販店等との直接取引”での契約取引だけではなく、“卸売市場経由の予約相対取引(契約取引)”をしているJA千葉みどり、“生きがい対策と所得増をめざして、「外貨を稼ごう」と広島市のアンテナショップ、スーパー、デパートのインショップを開拓…それらの委託販売を買取制に移させた”JA三次、「『集荷』から『販売』へ」を基本に、農畜産物加工センター(あぐり工房)によるカット野菜や弁当供給、量販店への販売、産直、地産地消などに取り組”み、“38億円の取扱高”をあげる直売所「JAあぐりタウン・げんきの里」を運営しているJAあいち知多、“典型的な金融型JAであるが”都市農業の“維持”につとめ、“「地域の消費者が求める安全・安心な農産物、新鮮で品質の良い農産物をJA福岡市で安定的に生産・供給する」という農業振興・販売戦略”に立って「地産地消」ではなく「地消地産」を推進しているJA福岡市、“組合員農家に「出入り自由の基本原則(利用したい人が、何でも生産した物を、利用したいときに、量を問わず)で少量多品目の出荷ができる「一括販売方式」という、いかにも都市農業にふさわしい販売方式を“開拓した”JA横浜等々、“流通の自由化・実需者ニーズの多様化に対応し”た“販売事業改革”のさまざまなタイプを20JAの実践のなかに見ることができた。まさしく“それぞれの地域条件にフィットした”事業方式をJAの中心事業である販売事業で創り出しているといっていい。
 販売事業改革のさまざまなタイプのなかで、各JAに共通して、直売所が新たな刺戟を組合員農家、特に婦人、老齢者に与え、JAへの結集を強める契機になっていることを特記しておくべきだろう。直売所はどこでも“組合員には多品目の地産地消型販売を可能にしている”が、JAえひめ南の直売所では“JAいわて中央との連携協定が結ばれており…盛岡からはりんごが届けられ”店頭に並んでいる。“宇和島からはみかん、たけのこ、早掘りばれいしょなどが送られ”ている。
 「地産地消運動を核とした地域活性化」に取り組むこととし、直売所をその「地産地消の拠点」にすべく設置の促進を言ったのは第23回JA全国大会だが、直売所間のこうした連携を組織することを全国連も検討すべきなのではないか。
 もう1つ、販売事業の事業方式のこれからの問題として、JAちばみどりが行っている卸売市場との契約取引になる予約相対取引について、報告者・藤島教授が“卸売市場で競りにかけるとなると、価格が不安定となるため、収入の見通しを立てることはきわめて困難であると言わざるを得ないが、予約相対取引であれば収穫前から価格や数量を決めることができるため、農業経営としての安定度が格段に高まることになるのである”とコメントしていることをつけ加えておこう。重要な論点である。

◆情報公開も必要な購買事業

 購買事業については、農薬等の価格がよくホームセンターとの比較で問題にされるが、これについても、さまざまな取り組みがなされていた。“価格調査を月1回行い、農薬はホームセンターと同水準にし、価格クレームはなくなった”JAえちご上越、2002年には物流を全農に委託する県域物流システムに移行…8200万円のコスト削減を果たした”JAはが野、“資材価格で勝てないのは〔予約→早期引き取り→奨励金〕のシステムだとして、早期取り引きはやめて奨励金を仕入価格引き下げに回してもらい、配送は全農の三次発送センターに委託した”JA三次、“生産資材でも入札を行い、価格引き下げに努め”ているJA東西しらかわ、“配送拠点として物流センターを整備し、農家が予約した生産資材については引き取り日を月2回設定し、その価格を値引きし、全量引き取った場合は代金決済も6カ月延期するなど、生産資材価格の引き下げに努めている”JAあいち知多)等々。
 各JAとも大変な努力をしている。が、“市況にあわせて価格設定をして、そのなかで農協への結集度合いをどこまで確保できるか、が勝負だが、単協としてやれる資材価格引下げには限界がある。全農の原価を含めての情報公開が、組合員の結集を強化していく上で必要だ”というJA新ふくしま専務の“強調”は、JA関係者の大方の賛同するところだろう。

◆改めて問うべきJAの「担い手づくり・支援」

 第24回大会決議が、ビジョン実現のための取り組みの4本柱の第1に掲げたのは“担い手づくり・支援を軸とした地域農業の振興と安全・安心な農畜産物の提供”だった。“担い手づくり”は行政が農政改革の柱としていることでもあり、各JAとも行政とタイアップして“担い手づくり”に取り組んでいるが、20JAのその取り組みのなかで注目を要するのは、JAの取り組みの対象は必ずしも行政のいう“担い手”に限定されていないということである。
 “担い手の創出・育成について品目横断的経営安定対策の対象となる米・麦・大豆の担い手を「政策支援対象担い手」とし、それ以外の他作物農業者、高齢農業者や女性農業者等を「地域担い手」として位置づけている”JAグループ福岡のように、特別の名称までつけているのは珍しいが、各JAともこの政策対象にならない「地域担い手」の営農指導・援助に力を入れている。“品目横断的政策にのりにくい集落・農家対策としてJA出資法人・アグリパートナー(AP)をたちあげ、農家はAPに利用権を設定し、APの作業班としてグループで農作業することで政策対象になれるようにしている”JAえちご上越の取り組みなどその典型といっていいが、APの今後の展開にはことさらに注目しておく必要があろう。
 “担い手づくり”で集落営農の組織化が全国的に進められている。施策対象を一定規模以上の認定農業者にしぼろうとした行政当局に対し、集落営農の意義を強調、施策対象に組み込ませたのはJA農政活動の成果だったが、その組織化に意欲的に取り組んできたJAさがの場合、品目横断的経営安定対策の“支援対象である経営体による面積カバー率は、認定農業者がおよそ20%であるのに対し、集落営農組織によるものが80%相当に及んでいる”。
 この集落営農については、08年度以降“法人化や主たる従事者の所得目標の要件に係る現場での指導は…画一的かつ行き過ぎたものにならないよう”にすることになっている。要件緩和が今JAが取り組んでいる集落営農を、地域の農業者の協同で地域営農を守る組織にしていくのにプラスすることになるかどうか、それが問題である。
 “…JAの理念・存立基盤から「水田農業の構造改革に取り組み、政策支援対象の担い手の創出・育成は必要だ。しかし、JAとして女性農業者など地域担い手もまた必要だ。地域でいかに共存を図るか今後の大きな課題だ」と平田幸治JAくるめ組合長は語っているが、この言葉は重い”と報告者の武氏は受けとめる。同感である。
20JA調査レポートの報告へ

(2008.2.7)


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