農業協同組合新聞 JACOM
   

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シリーズ 農協のあり方を探る−17

農協に求められる農業を中心とした地域活動

農政改革の焦点は「多面的機能」発揮の具体策
 
日出英輔 参議院議員
梶井功 東京農工大学名誉教授


 経済事業改革を柱としたJA改革にJAグループが動き出しているなか、それを法的にも裏づける農協法改正案が今国会で審議される。しかし、日出議員は改正によってそれぞれの事業改革が進んでも、今後さらに「農協とは何かが改めて問われる」ことになると指摘、農協のあり方のキーワードとして「地域活動」の重要性を提言する。一方、農政改革を進めるための基本計画見直しの議論も行われているが、焦点は国民に支持される農業、農村のため「多面的機能の発揮」を具体的に示すことにあると強調した。その国民理解の一翼を担うのも農協の役割だとして、そこでも地域住民への働きかけなど地域での活動が期待されると語っている。農政改革と農協のあり方の双方を見据えた議論をしてもらった。

■自給率向上策 積み残した大きな課題

日出英輔 参議院議員
ひので・えいすけ 昭和16年宮城県生まれ。東北大学法学部卒。昭和39年農水省入省。食糧庁企画課長、官房企画室長、大臣官房総務審議官、農蚕園芸局長、農産園芸局長を歴任、平成8年退官。10年参議院議員当選(全国比例区)。外務大臣政務官を務める、全国農政協顧問。自民党総合農政調査会副会長。
 梶井 今日は「食料・農業・農村基本計画」変更の議論も始まっていますので、まず最初に農政の主要課題についてのお考えを聞かせていただきたいと思います。
 基本法とそれに基づく現基本計画がいちばん中心に置いているのは、やはり自給力をいかに強化するかです。基本法の国会審議ではこの問題について非常に重要な修正が行われました。ひとつは食料の安定供給確保を定めた第2条が「国内の農業生産の増大を図ることを基本とし」という条文に修正されたことと、もうひとつは食料自給率目標は「その向上を図ることを旨とし」と明記されたことです。
 そのうえで現基本計画では自給率を40%から45%に引き上げることを目標にした。しかし、現実には目標達成は厳しいという状況だということですが、では、どこに問題があったのか、私はその検証から作業を始めるべきだと思います。

 日出 同感です。やはり積み残した大きな課題が自給率の問題です。45%という数値目標を掲げましたが、どういう政策で目標を達成していくのか、たとえば、農用地の面積やその他の目標達成手段については現基本計画では明らかではありません。
 それからもうひとつは、これからの農業、農村が国民から支持されるための、農業、農村の多面的機能の発揮という問題です。国際交渉の場ではその重要性を訴えてはいますが、国内政策として国民に見える形できちんと整理して打ち出したかといえばやはりこれもあいまいだった。この2点は非常に不満に思っている方は多いし、私自身も積み残したと思っています。
 今回の基本計画の見直しでは、担い手の問題や水資源、環境の保全など個別に課題は示されています。しかし、私はあまり細かい課題にとらわれず、もっと大きく食料・農業・農村政策の見直しの基本、心棒のようなものを明確に国民に示さないと不信感につながるのではないかと思っています。

 梶井 自給力という点での最大の問題ではやはり農地をどこでどれだけ確保するかということをはっきりさせることが大事です。国は基本計画策定時には470万ヘクタールを維持すれば不測の事態でも何とか国内で最低限の食料供給ができることを示した。

■問われる畜産のあり方と自給飼料生産の拡大

梶井功 東京農工大学名誉教授
かじい いそし 大正15年新潟県生まれ。昭和25年東京大学農学部卒業。39年鹿児島大学農学部助教授、42年同大学教授、46年東京農工大学教授、平成2年定年退官、7年東京農工大学学長。14年東京農工大名誉教授。著書に『梶井功著作集』(筑波書房)など

 日出 しかし、それもあくまで見通しであって政策的な歯止め措置があったわけではありません。

 梶井 まさに歯止め措置がないために今や472万ヘクタールにまで減少している。問題は何故農地の減少を食い止めることができなかったのかということです。
 それから、日出議員も強調されておられるのを拝見したことがあり、自給率向上の最大の問題は飼料ではないかということです。今回こそ飼料自給をどうするか具体的に考えなくてはいけませんね。

 日出 現基本計画を策定するとき、自給率向上のためには、食品残さを少なくするという極めて受身的な措置も含まれていました。また、県別の自給率も示されましたが、結局、自給率目標をどういう形で達成していくのかという点は必ずしも明確ではなかった。
 あのときはカロリー自給率について40%がいいのか、50%がいいのかという議論ではなく、本当は穀物自給率で考えるべきなのか、それともやはりカロリー自給率で示したほうがいいのか、そこを考えるべきでした。そういう議論のなかでいちばん問題だと思ってきたのが畜産の自給率です。
 畜産問題は自給飼料の問題だけではありません。排泄物の問題まで考えると、現在の畜産基地のあり方もこれでいいのかということになる。実際、相当程度、特定の地域で過剰に排泄物を処理しなければいけないという実態がありますね。
 そういう意味では、ただ単に輸入した飼料を使った加工型畜産に問題があるというだけにはとどまりません。畜産全体のあり方を議論しないと本当の自給率向上の話にならないと指摘してきました。この議論をあいまいにすると、大げさかもしれませんが日本は亡国の道をたどるということだと思います。
 こうした問題について国民的なコンセンサスを得ていこうということから農業・農村の多面的機能を訴えてきたわけですね。
 多面的機能というのは、少し言葉が硬すぎますが食料安全保障よりもふくらみのある内容の深い概念だと思います。ただ、現状では国際交渉の場での枕詞(まくらことば)的な話になりかねない。やはりきちんと政策を整理し、めりはりをつけて国民に示していかないと、食料自給率向上論もコンセンサスが得られないことになってしまうのではないかと心配しています。ですから、基本計画の見直しのなかでこの多面的機能を積極的に位置づけることが焦点だと現場の方々に話しています。

■「地域経済」の視点で描く水田農業ビジョンに期待

 梶井 ご指摘の飼料の問題では、ホールクロップサイレージの生産もいいのですが、あれは流通させられませんね。むしろこの際は、飼料稲、飼料米に積極的に取り組むなど、本当に日本で飼料穀物の生産はできないのか、もっと詰めた議論が必要だと思います。

 日出 そこは米改革の問題でもありますね。とくに米単作地帯では、転作はしていますが転作作物にあまりいいものがないという実情があります。たとえば北陸では小麦がなかなか生産できず大豆しかないと。大豆ができればまだいいほうで、本当に生産できるものがないというもっと厳しい地域もあるわけです。
 そこで、飼料稲の生産が考えられるわけですが、その場合は、自分たちの地域経済のなかに組み込む工夫が必要だと思います。こうものを生産するなら補助金をつける、というモデルを国が示すやり方を長年続けてきたわけですが、その方法は破綻の一歩手前だと思うんですね。そこで今度の地域水田農業ビジョンづくりは、みなさん方から見て地域の農業をどう考えるのかというプランを出してもらうことにした。行政手法としては非常に興味深いと思っています。難しいとは思いますが、自分たちの地域経済のなかで、こういう形であれば取り組めるということを飼料稲の問題も含めて考えていってほしいと思っています。

■担い手育成にJAがどう力を発揮するか

 梶井 地域水田農業ビジョンでは、どんな生産を行うかももちろんですが、地域の担い手を特定することも求められていますね。その担い手は集落営農組織でもいいとはなっていますが、5年以内に法人化しなければならないなど、さまざまな条件をつけています。地域の自主性を重視するといいながらもあまりに条件をつけすぎているのではないかと私は思います。
 たとえば、集落営農のなかで作業受託グループが生まれ、それが経営も引き受けて法人になっていくという例もある。自然に担い手が育っていくような経済的条件をどうつくるかが問題ではないでしょうか。実際に農業センサスを分析してみると、5ヘクタール以上に規模拡大したにも関わらず5年間で規模縮小してしまう経営が4分の1もあるというのが実態です。2000年まではそれを上回る数の規模拡大層が出ていたので全体としては増加していたのですが、最近は上昇力が弱くなっている。
 それでも、まだ今は規模は小さいけれども規模拡大をしていこうという層はいるわけですから、ここを見落としてはいけないと思いますね。ですから、現時点で一定規模以上の経営を担い手として限定して支援策を打っていくことで、地域農業が維持できるのかということが問われると思います。

 日出 担い手の育成については、単一手法ではだめだということははっきりしていると思います。日本では何か政策提案がなされると、それを全否定する議論の傾向があります。ただ、議論としては一律論にも功罪があると思います。
 たとえば、ある地域で法人化を全集落で進めようという運動をはじめましたが、そうすると現場ではなぜ法人化なのか、という反発が出た。しかし、それがきっかけになってそれぞれの集落で、では今後の労働力はどう確保するのか、という話が出てきたり、コスト概念を明確にしようという議論になったり、さまざまな論議になったと聞いています。地域農業の将来を考えると本当に危機感、焦燥感を募らせている地域のリーダーもいて何とか早く見通しを立てなければという思いの人もたくさんいるわけですから、こういう形で各地域で論議が起こり問題の解決を図っていくことも大切だと思います。

■JAに求められる新たな事業を生み出す発想

梶井功 東京農工大学名誉教授

 梶井 担い手育成にもJAの役割があると思います。研修という名目はついていますがJAも農業経営ができるようになっています。その制度を活用して担い手を育て一人前になったら自前で農地を持って経営してもらう、という形での担い手育成も可能ですね。JAに研修事業としての農業経営を認めたこの制度をもっと活用すべきだと思います。

 日出 JAのあり方についていえば、この数年の議論は、経済事業は株式会社並みに効率的に経営をやれ、信用事業は国際業務を行う大銀行と同じ検査マニュアルに耐えられる事業にしろ、というように縦に事業別に見ていく議論でした。そうなると農協とは一体何をするのかという疑問が出てくる。総合農協だ、というのでは答えになっていないと思うんですね。
 地域で農協はいったい何をしなければいけないかということが問われていると思います。そのためには経済事業を株式会社並みに、といった議論ではない別の次元の議論をしないと、地域で信頼を受けられないのではないか。今度の農協法改正案は経済事業分野が中心ですが、私はこれで農協改革の柱ができた気がせず、もっと手前の問題にとどまっているのではないかと感じています。
 今、ご指摘の担い手育成の事業も、この地域で農協はこういう課題に取り組もうという議論があってはじめて出てくることだと思います。それは広く人材育成という事業でもいいでしょう。
 ところが、今のままではそうした取り組みがどの事業に入るのかというと、信用事業にも関わるし経済事業にも関係する、という話になってしまう。それは少し切り口が違うのではないか、ということです。
 もちろんこれまであいまいにしてきた問題はあるため、たとえば、今度の農協法改正では共済事業についても生損保並みに情報公開しろということにもなっています。ただ、そのようにさまざまな事業を他業態並みにして総合化した農協とは、まるで化け物みたいなことになる。これでは一体協同組合としてよかったのかという話にもなりますから、やはり農協のあり方については今の農協法改正後、改めて議論されなければならないことだと思います。

 梶井 協同組合の大事な事業のひとつに組合員に対する組合の事業についての教育があります。それがまさに農協とは何かを組合員とともに考えることにつながると思いますが、農協法の度重なる改正のなかで教育という言葉すらついに削られてしまった。これは非常に重大な問題だと私は繰り返し指摘しているんです。

 日出 教育といえば、今、「食育」の重要性が叫ばれていますが、それを地域で働きかけていくこともJAとしては大切なことですね。今の事業のあり方で対応できるのでしょうか。
 先ほど話題にした農業、農村の多面的機能にしても、それを地域住民へ訴えることは、地域で農業を営んでいる人の集合体であるJAにとってこれから決定的に大事な仕事になるのではないかと思います。つまり、今は「その他」とされているような事業にこそ、これからの農協のあり方の大きな鍵があるのではないか。そうすると農協のあり方として考えなければならないのは、地域活動だということになると思います。

 梶井 准組合員も増えていて地域協同組合化しているのが実態ですからね。そのうえに立って協同組合らしい仕事をどうやるのか、それを常にベースとして考えておくことが大事じゃないかと私も思います。

 日出 農協と組合員との関係を考えると、効率追求でいけばかえって離反していくのではないかと思います。地域活動と言いましたが、これにはさまざまな活動があると思います。そういう活動を通じて組合員との関係をもっと密接にしていく組織だと。言ってみれば農業を中心とした地域経営体という意識であってほしいと思いますね。
 最近は地域で地域を支える、という意識で地域づくり町づくりを進めるという議論になってきています。ですから、地域活動をもっと膨らませていかないと21世紀の農協は成り立っていかないんじゃないか。そこに株式会社とは違う効率追求型の組織体ではない特徴があるんじゃないかと思います。

■株式会社参入と株式会社の活用

日出英輔 参議院議員
 梶井 ところで、株式会社の農業参入問題ですが、特区で認めた農地のリース方式の全国展開や特区では所有権まで認めろという主張もあります。どのようにお考えですか。

 日出 今、国民全体の雰囲気からすると日本の再生の鍵は新しい分野での起業であって、とくに農業、教育、福祉の3分野では、今までのやり方を変え、株式会社にも入ってもらい民の力で活性化するという話が国民全体に受け入れられているように思います。
 農業界には反発が強いですが、ただ、私が申しあげているのは、株式会社と言ったとたんに、それは家族農業の否定だとか、農業は効率だけではないと主張して、対話不可能になってしまうのは、議論の仕方としてはまずいのではないかということです。
 やはり農産物価格の低迷を考えると農業生産の現場と食品産業との距離をもっと短くしようとか、あるいは法人化を考えたときに生産コストを明確にしていく手法として株式会社を使うということはあると思うんですね。もちろん株式会社の全面参入に賛成するわけではありませんが、この2点については私は今の農業の現場で議論しておかないと、農業界は単に頑迷固陋だと逆に批判されかねないのではないかと思っています。

 梶井 もっとも疑問なのは株式会社が農地所有権を取得するということです。農地取得にお金をかけても収益は出ないわけですからね。なぜ、それを望むのかということに問題があるのではないかということです。

 日出 そこはまったく異論はありません。産廃の不法投棄目的などで農地取得を狙っている不埒な株式会社もありますから、それを押さえ込む議論は必要ですが、私が言いたいのは、一方で農業の現場で株式会社をどう活用するかという議論とうまくかみ合っていないのではないかということです。農協のあり方としても、きちんとした株式会社であればそれを活用するということも課題ではないかと考えています。つまり、株式会社は家族農業の否定だ、といった論調だけでは議論がミスマッチではないかと。この問題は日本農業の将来に関わることだと思うんですね。
 むしろ検証するだけではなく、具体的な活用事例まで示して、逆に間違った株式会社参入論を指摘していくことも必要だと思います。現在の農地法などの制度をまったくふまえない単なる規制緩和論に立った株式会社参入論ではだめだということを国民に広く知ってもらうことも大事ではないかということです。

■国際交渉 基本は「多様な農業」の共存 

 梶井 昨年は外務大臣政務官としてWTO(世界貿易機関)交渉にもあたられました。その経験から日本に求められていることについてはいかがでしょうか。

 日出 WTO交渉やFTA(自由貿易協定)交渉の場でさまざまな国の主張を聞いていると非常に多様な農業・農村があるということが分かりましたね。一つの国でも低地と高地でまったく違うこともありますし、たとえば、アジア・モンスーン地帯の農業といってもとても一括りにできるようなものではないですね。こういう農業・農村の多様性ということについてやはり日本は主張していかなければならないと思います。
 この点については先輩たちの努力もあってようやく理解が広まってきたと思います。これを大事にしていきたい。そのためにはJAグループも取り組んでいますが、農業団体の交流が非常に大事だと思っています。交渉というのは政府だけではなく、国会議員、民間の団体も一緒に取り組むことが大切だということを外務大臣政務官を務めて感じたことです。日本は先進国でありながらも農業については違った言い方をしてしているということについて今、各国から信頼感が生まれていることを大事にしていかなければならないと思います。

 梶井 各国の農業を共存させるルールを作ろうということへの支持を、農業団体としても広げていくことが大事ですね。ありがとうございました。


(対談を終えて)
 “今回の基本計画の見直しでは、担い手の問題や水資源、環境の保全など個別に課題は示されています。しかし、私はあまり細かい問題にとらわれず、もっと大きく食料・農業・農村政策の見直しの基本、心棒のようなものを明確に国民に示さないと不信感につながるのではないかと思っています”
 この議員の感想を私も共有する。いちばん大事な自給率問題を後回しにするような議論の進め方でいいのか、審議会の進め方に危惧を感じていたところだからである。幸い党総合農政調査会副会長であられる。議論を正しい軌道に是非乗せていただきたいと思う。
 農協は“農業を中心とした地域経営体”であれといわれる。効率追求事業体の寄せ集めでは“化け物”になってしまうことを心配されているのである。これも同感である。農業・農村に愛情を持ち、かつ農政に見識をもつ議員は少なくなった。貴重な御一人である。頑張ってほしい。
(梶井)

(2004.3.1)


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