農業協同組合新聞 JACOM
   

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シリーズ 農協のあり方を探る−4
(対談)
経済事業こそJAの総合力の要
販売事業で安全安心な国産農畜産物の安定供給の責任果たす


岡阿彌靖正 JA全農専務理事
 梶井 功 東京農工大学名誉教授


 安全・安心な農産物の安定的な供給と生産資材コスト低減などJAグループに求められている期待に応えるため、全農はこのほど「経済事業改革の基本方向」を決めた。JAにとっても経済事業はもっとも基本となる事業だ。JAに求められている改革と全農の機能をどう発揮させるのかについて岡阿彌靖正全農専務に聞いた。



◆大切な市場販売の役割


 梶井 今日は経済事業のなかでも、とくに全農の事業の今後のあり方についてお話を伺いたいと思います。
 まず、話をお聞かせいただく前提として、農水省の「農協のあり方研究会」報告についての私の感想ですが、報告書は農協運動のあり方からいえば全農の機能軽視ではないかという感を深く持っています。前回(農家組合員に最大のメリット与える改革を)農水省の山下協同組織課長と対談したのですが、全農の機能を今すぐに代金決済業務と需給情報提供機能などJAの補完機能に特化する、ということではなく、段階的にそういう方向にしていくべきだとのことでした。しかし、私は「段階的に」であっても、JAの補完機能に徹するという方向には問題があるのではないかと考えます。
 報告書はJAの直接販売を強化しろ、と提言しています。たとえばファーマーズ・マーケットのような直接販売でずいぶん業績を伸ばしているJAもありますし、また、今の社会情勢の変化のなかで卸売機能の限界というのも出てきていますから必要だとは思います。
 しかし、量販店や外食産業は全国展開するなかで非常に強い仕入れ機能を持つようになった。そうした状況への対応としてはJAの直接販売の強化だけでは限界がある。ですから、研究会はJAグループの組織としての販売力をいかに強化していくかを議論するべきだったと思います。

岡阿彌靖正氏
岡阿彌靖正氏

 岡阿彌 たしかに報告書の提言はある一面だけを強調しているという感じは持っています。
 たとえば、農産物販売に関して、JAは農産物を集めているだけ、という認識は市場販売任せになっているということなのでしょうが、市場販売自体、ただ集めるだけに終始しているわけではありません。たとえば、果樹でいえば糖度を上げる、あるいは品質ランクをきちんと分けて選果するなど市場に対して評価を高めようという努力をしているのが実態です。
 JAの直接販売の拡大といっても、一方で日本全体として都市部への人口集中という傾向はずっと変わりませんから、大都市に対する大量流通を確保し都市住民への農産物供給を安定させることも必要です。それはやはり農業生産を担っているJAグループの国民的役割だと私は思っています。
 そのための需給調整や価格調整機能は基本的には市場が果たしています。実際に食料が不足すれば困るのは都市住民ですから、そういう点では、今回の提言は農産物全体の流通に関してやや軽視があるのではないかと思っています。

 梶井 JAグループの経済事業を考える視点のひとつとして食料の安定供給という基本的な点が大切だということですね。そのなかで全農がどういう機能を果たしていくかを改めて聞かせてください。

 岡阿彌 その点は、それぞれの地域が県産品や地域ブランド品の販売を競争しているわけですから、全農は全体の需給について、生産者の手取りを確保する観点からの生産・消費情報の提供機能が重要になると思っています。

◆「全農安心システム」で国民の期待に応える

 岡阿彌 一方、それだけではなく食の安全・安心に対する関心の高まりに応える新たな仕組みづくりも大きな仕事になってきます。
 今、畜産も園芸も米も生産から流通までのトレーサビリティを確立することが求めらていて、量販店も卸も大変関心が高い。そのため、全農ではトレーサビリティ・システムである「全農安心システム」の拡充に取り組んでいるわけです。消費者・実需者のニーズに応えて産地に安心システムによる農産物づくりに取り組んでいただく。これを産地と消費者・実需者の中間にいる全農が推進しているわけです。
 そして産地に作ってもらった農産物を全農が検証して第三者が保証する。ホームページで生産履歴情報が検索できるようにもして、量販店等の店頭に並ぶ農産物をバックアップする。こういう取り組みがどんどん広がっています。以前は安心システム米は東北地区が中心でしたが、西日本地区にも広がり始めています。
 ですから、個々のJAによる農産物の安全・安心の保証も必要ですが、全農という組織は消費者に周知の団体ですし、そういう組織がきちんとバックアップして質も量も保証して流通させるという機能は重要だということです。むしろこういう機能については先頭を切ってどんどん取り組むことが全農の使命ではないかと思っています。
 全農は販売事業に関しては情報さえ流せばいいということでは、国民の新しいニーズに対応した商品開発、販売チャネルの開拓はできないと考えています。
 生産者・JAからみても、量と質とサービスがともなうものが役立つ情報です。

梶井  功氏
梶井 功氏

 梶井 米が典型的ですが、これだけ大量に消費している商品については、卸も荷をそろえるのが大変だと思うんですね。卸がさまざまな需要に対応した米をどうやってそろえるかというとき、やはり全国的な生産情報を握っている全農と取引きしてこそ需要に応じた米をそろえることができるんだと思います。

 岡阿彌 米について考えると、今後は需給や価格の変動が大きくなると予測しています。従ってリスクも大きくなる。例えば、今はコンビニでも量販店でも年間に何万トンという規模で販売しているわけですが、やはりそういった販売店にとって仕入先を一産地に限定するとリスクがある。
 同時に産地にとっても一業者に販売するとリスクがある。仮に契約を打ち切られてしまうとほかに何万トンという米をどう売るのか、大変苦戦するわけです。ですから、販売先を分散させる必要がありますが、1JAだけで、分散させることがうまくできるのかということになります。つまり、県単位、あるいは全国単位といった規模で事業を展開して、お互いリスクを分散し合いながら安定的に取り引きしていくという世界が大切だと思います。

◆経済事業こそ組合員との接点持つ

 梶井 こういう問題も含めて、農協系統全体として経済事業をどう立て直していくかという視点で考える必要があると思いますが、JAの事業にとっての経済事業の位置づけを改めて明確にする必要もあると思いますね。

岡阿彌靖正氏

 岡阿彌 経済事業とは、地域の組合員と日常的に接触している事業ですね。
 そういう意味では、これは組合長さんからもよく聞きますが、経済事業で日常的に組合員に接触しているから、貯金も集まり共済への加入もあるというJAの総合事業の展開が可能になるのだと思います。
 つまり、経済事業がなくなると組合員との日常的な接触の場が失われていくということになる。だから、経済事業はしっかり確保する、立て直すというのがJA改革の基本ではないかと思いますね。
 また、私はJAの事業については、総合事業ということと総合経営とを分けて考えたほうがいいと思っています。
 事業というのは、やはり総合的に展開しなければなりません。経済事業によって組合員と日常的な接触があり、信用、共済事業の実績につながる。そこは総合事業としてお互いに支え合っているわけですね。
 たとえば、自動車会社の場合を考えると、やはり自動車を売ることが仕事なわけですが、それと一緒にローンや保険も事業として展開しそれぞれ利益を上げている。JAの場合も経済事業を展開することが主体であって、それにいろいろな事業がついてくるということだと思います。そのうえで経営的にどう見るかについては、総合事業展開という特性をふまえて、改めてそれぞれどのレベルで採算をとるのかを明確にして経営する、という考え方が必要ではないかと思います。

◆JA・全農の実質的な事業2段の実現をめざす

 梶井 ところで先ごろ発表された農業白書で、農協の経済事業が取り上げられていて、なかでも農協系統の手数料率が高い傾向にあることを指摘し、農協系統事業を効率的に改善すべきだというくだりがあります。しかし、3段階合わせても生産資材の手数料率は13%程度です。一般企業では20%以下ということはほとんどありませんから、それにくらべれば低い。むしろ農協系統は全体でなんとかやりくりして低くマージンを抑えているという点をみるべきだと思います。それでいて、なお組合員からJAは高いという不満があるのはなぜかという分析こそ大切なのに、それはない……。

岡阿彌靖正氏

 岡阿彌 私は、農水省が分析する場合には、日本では将来農家は40万経営体だけ残ればいいという前提にこの頃は立っていると思います。しかし、実態はまだ200万程度の農産物販売農家が組合員となっていてそれを対象に事業をやっているわけです。だから行政の前提からみる効率性とわれわれ農協側からみる効率性とは違いがあると思いますね。
 効率性ということなら、われわれとしては、少し農家組合員別に事業の重点を変えなければいけないと考えているところです。たとえば、サービスはいらないから価格だけニーズに応えてくれればいいという農家層がいる一方で、高齢層や兼業農家の方のなかには、価格よりも、やはりサービス、たとえば、小口の配達といったこまめなニーズに応えてくれという方もいます。
 このようにニーズが違うわけですから、同じ条件では事業はできないわけですね。たとえば、全農は肥料では港湾からダイレクトに農家に配送するという取り組みもしていて、この場合は、3割程度安くなります。こういうことも組合員に知ってもらう必要がありますし、サービスに合わせた手数料の設定という議論もしなくてはならないと思いますね。

 梶井 それから「経済事業改革の基本方向」では、JAと全農の実質的な事業2段の整備を強調していますね。ということは、経済連と統合して県本部制になったところがだいぶありますが、まだ実態として、全農として一本化できないということですか。

 岡阿彌 たとえば手数料率も県別に違い、全農としてどのJAに対しても同じ手数料率ということになっていないんです。
 そこの改善策ですが、手数料は県ごとに異なっていますが、仕事のしくみを効率化し、コストを見直して流通経費を下げられないか検討しようということです。そうすると実質的にJAと全農の二段になる。
 そして、そこまでコストダウンするには、県域という単位でいいのかという議論にもなってきます。もう少し単位を大きくして広域ブロックでスケールメリットを追求するという発想もありますね。ただ、地域や品目によって販売にしても購買にしても扱う量が違いますから、だいたい共通するブロック程度の単位でまず統一を図るという考えで進めていきたいと考えています。

 梶井 それが実現できれば大変な前進になりますね。

 岡阿彌 日本の農業を発展させることが求められていますが、輸入農産物との競争も激しく、そのためには生産資材の価格とサービスをしっかり押さえて所得を確保していくことが中心になると思います。事業改革の焦点のひとつをそこに当てて進めていきたいと考えています。

 梶井 中国からの輸入野菜は残留農薬が問題になって一時下火になりましたが、それをきっかけに中国政府は中国では輸出野菜については農場を指定し、農薬使用についても厳しく管理していくという体制をとりました。しかも日本企業も含めて外資にそういう農場の経営をさせようとしている。
 今後、大量に日本に入ってくるでしょう。個々の産地、あるいは県でもとても対応できないと思います。日本としてどういう体制でそれに対応していくかを考えなくてはならないでしょう。
 そういう戦略を考えられるのも全農の機能だと思います。国内の産地間競争で済まなくなっている時代だということをふまえて経済事業改革を進めていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

対談を終えて

 全中がいま組織討議にかけている「経済事業改革の指針」(協議案)のなかに、生産資材購買事業についてのところにだが、“全国本部と県本部が一体化した広域拠点を基本に、JA―全農の実質二段の事業展開を実現する”という一項があった。
 全農・経済連の統合は、早いところはもう5年近くもたっている。それでいて“実質二段の事業展開を”経済事業改革の指針のなかであらためて強調しなければならないのが現実だということなら、農協のあり方研究会は、JAの補完機能に徹するなどを問題にするよりは、それは何故かを分析すべきではなかったのか。事は全農のガバナンスにかかわる問題であり、そのほうが大問題だからである。
 専務は“ブロック程度の単位でまず統一を図る”“事業改革の焦点のひとつをそこに当てて進めていきたい”といわれた。問題の“焦点”はどこにあるかを、やはり責任者として事業に直面している人のほうが適確に掴んでいると感じた。頑張ってほしい。(梶井)

 
(2003.6.2)


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