農業協同組合新聞 JACOM
 
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シリーズ 農協のあり方を探る−11

JA改革の本質を見極める(下の1)
米改革はJA改革のチャンス


今村奈良臣 東京大学名誉教授


第四、マーケティング機能、コンサルティング機能、マネージメント機能の充実を

今村奈良臣氏
いまむら・ならおみ 昭和9年大分県生まれ。前日本女子大学教授、東京大学名誉数授。元日本農業経済学会会長。東京大学大学院博士課程修了。著書に「人を活かす地域を興す」「農業の活路を世界に見る」「補助金と農業・農村」(第20回エコノミスト賞受賞)「揺れうごく家族農業」「国際化時代の日本農業」「農政改革の世界的帰趨」(編著)など。
 「農協のあり方についての研究会」報告書で提起した、JAの営農・経済事業改革の基本方向の核心を要約すれば、JAの(1)マーケティング機能、(2)コンサルティング機能、(3)マネージメント機能の3つをいかに充実するかということである。この3つの機能がきわめて不充分で、そのために組合員のJA離れが進み、地域農業は活力を失い、消費者や実需者から見離される。その結果、JAの経営状況はさらに悪化の道をたどる。こういう悪循環に陥っているJAが多くなっているが、それをいかに改革し、健全なJAにしていくか、という提案をしたつもりである。
 マーケティング機能とは、地域農業の生産物をいかに巧みに販売し、組合員の手取りの最大化をめざすかということである。そのためには、従来の市場出荷中心の無条件委託販売方式を改め、消費者、実需者のニーズに的確に応えうる販売戦略へといかに改革するかという課題に全力をあげて取り組まなければならない。無条件委託販売は「無責任委託販売だ」、「JAは単に集荷し、出荷しているだけ」というような批判をJAは組合員から浴びせかけられているのが実情である。JA−IT研究会に結集しているJAのトップリーダーの販売戦略の開発手法などに学んでほしい。(とりあえず「農村文化運動」第169号参照)
 コンサルティング機能とは、従来の枠にはまった営農指導事業を脱して、地域農業の活力を生み出すような改革路線を提示し、組合員の内包するエネルギーを全面的に開花させるような企画・営農・指導事業のことである。具体的には後で述べる10項目にわたる計画の策定と実践の課題である。
 マネージメント機能とは、JAの経営や組織・指導体制の管理・運営の改革にかかわることである。具体的には、(1)平等原則から公平原則への改革、(2)経営の透明性、公開制の徹底、(3)人事管理の改革と人材の育成、(4)財務健全化の徹底、(5)生産者組織、組合員組織の改革、特に女性の地位向上、など広範な分野の改革、改善をはかる課題である。以上、3つの機能についての改革の視点を基本にすえながら、次に当面する取り組むべき課題について述べよう。

第五、米政策改革を、地域農業改革・JA改革の新たな飛躍の契機と位置づける

 米政策改革は来年度から「待ったなし」という情況ですすめられることとなった。こういう事態に対して、「困った」、「弱った」、「仕方ない」などの消極的な声があちこちのJAから聞こえてくる。そうであってはならない。米政策改革を「チャンス」が来たと前向きにとらえ、これを契機に、米だけでなく、水田農業だけでなく、地域農業総体をいかに改革していくか、それと合わせてJA改革をいかに推進するかという積極的視点で取り組むべきことを提案したい。そのためには、次の視点をしっかり押さえておく必要があると私は考えている。
 (1)米も他の農産物と同じように「商品」になったことを改めてしっかりと認識し、売れる米づくりということを基本にすえなければならない。もちろん、このように言っても、米は日本人の主食であり、日本農業の根幹であることを否定するものではないが、しかし、あくまでも「商品」になったということをリアルにとらえなければならない。
 (2)米、麦、大豆等の土地利用型高生産性部門と野菜、花卉、園芸、果樹、畜産等の集約的部門との有機的結合をめざす新たな生産システムを構築する路線を策定し、その担い手を明確にしなければならない。
 (3)その場合、「大小相補」の原則を明確に打ち出し、地域農業の生産性向上と活性化をはかることが不可欠である。
 (4)米はもちろん、地域内で生産される多様な農畜産物の販売戦略を再構築し、とりわけ集約部門や加工部門を担う女性、高齢技能者あるいは新規参入者等のもつ活力を高めるよう全力をあげなければならない。直売所はその1つの道である。
 (5)同時に、消費者、実需者、市場の求める農畜産物の生産への的確な誘導を行うとともにトレーサビリティ等、安全、安心な農畜産物の安定供給体制への改革を進めなければならない。


 第六、計画策定にあたり、以下の10項目すべてについて、役員、職員、組合員の全智を傾け策定し、合意を作り実践する
 
 1、誰が

 (1)これまでの「人多地少」の時代から、「人少地多」の時代に決定的に転換した。この客観的条件の変化を直視し、将来にわたり地域農業を担う主体は誰か、青年と中堅、高齢技能者や女性をいかに組み合わせて活力を生み出すか、その方向性を明示しなければならない。
 (2)さらに「イエ」(農家)から「ヒト」(個)に着目すべき時代になったこととを明確に認識し、「ヒト」(青年、中堅、高齢技能者、新規参入者、Uターン希望者等)それぞれの持つすぐれた特性をいかに活かすか、いかに組み合わせるか、という方向を明確にしなければならない。
 (3)集落営農の法人化を推進すべきであろう。当面は水田営農(米、麦、大豆等の高生産性部門)の分野だけでもよい。法人化への機の熟している集落が多くなってきている。米の計画的、統一的生産とも関連させつつ農機具等の過剰投資を見直し、コスト削減と担い手確保をねらいとして法人化の道を追及しなければならない。多様な人材を活かす容れ物(法人)を作り、地域農業資源の保全管理とその効率的活用をはかる主体にしていかなければならない。
 (4)農業経営の法人化も全力をあげて取り組む必要があろう。「イエ」の後継ぎはいても「経営」の後継ぎがいない時代になった。法人は「農家」とは決定的に異なる。リスクを背負い、自己責任の原則にたち、企業家的精神を持ち、経営収支等の公開も行い、また、農業外部からの新規参入希望者等も受け入れることができる。将来を担う若い有能な人材をふやすためにも法人化の推進は欠かせない課題である。
 (5)要するに、JA管内のそれぞれの地域(集落から学校区までその範囲があるが)の農業を、誰が担っていくべきか、深く立ち入った協議の中から合意形成をはかり、それぞれの立場と役割を自主的に選択していく道を探り当てていただきたい。
 
 2、誰の(どの)土地で

 (1)まず、取り組んでほしいことは、それぞれの地域の土地について地図情報化(マッピング・システム化)を行い、耕地図を前に関係者全員で知恵を絞り、望ましい土地利用体系を具体的に策定することである。
 (2)その場合、水田、畑、樹園地、草地等について農業委員会の作成している農地基本台帳を地図情報化すること(全国の農業委員会の2割余が地図情報化をすでにしている)、それにJAの持っている組合員情報や土地改良区の持っている水系図・水利施設図、あるいは普及所が持っている土壌分析図などを地図に落とし、それらを重ね合わせて、土地利用にかかわる計画をきちんと策定してほしい。つまり、「適地適作」を地域ごとに徹底することである。農地の体系的・集団的利用やローテーションのあり方など関係者全員の合意の得られる計画を地図の上で策定するのである。
 (3)「誰が」、「誰の土地」の上で、「何を作るか」について踏み込んで討議を深め、農地の利用集積のあり方についても、地図情報にもとづき、合意を形成していくことが望ましい。
 (4)とりわけポイントとなる点は、機械化高生産性区(米、麦、大豆等)と集約的利用区(野菜、花卉、園芸、果樹等)、施設用区(ハウス、温室、畜舎等)との区分利用とそれらの有機連携ならびに耕畜連携のための土地利用体系の協定を作り上げることが望ましい。
 (5)そのためには、JAが中心となり市町村、農業委員会等との協力も受けながら、利用権設定などの農地にかかわる権利調整を推進し、集団的農用地利用集積の促進をはかることが望ましい。
 (6)地域によっては、特に西日本の中山間地域では、耕作放棄地が激増してきている。なかでも棚田や急傾斜の畑の耕作放棄がいちじるしい。これらを解消し、荒れた草地や里山なども含めて有効に活用するには、牛に「舌刈り」をさせたらどうであろうか。人の手による「下刈り」ではない。つまり、繁殖と育成の和牛の放牧である。500キログラムの牛は毎日50キログラムの青草を食べてくれる。セイタカアワダチソウでもカヤでもササでも食べてくれる。放牧になれた牛がいなければ、リーダー牛を畜産試験場などから借りてくればよい。レンタ・カウ(Rent A Cow)という手法である。いまでは軽便な電牧と太陽光発電池が開発されている。県や市町村にその導入のための助成を要求してもよい。牛の放牧は景観形成にもつながるし猪などの野生動物も出てこなくなるという効果もある。また、冬場のエサのためには、水田では稲のホール・クロップ・サイレージを積極的に作り、コメの生産調整にも寄与できる。つまり、農業の持つ多面的機能の発揮の上でも有効であり、また食料自給率の向上にも寄与することができる。耕作放棄地への牛の放牧は一石五鳥の効果を持っているのである。
 (7)さて、以上のような農地の利用調整にかかわる問題をどの範囲で議論し、望ましい利用体系を策定するか。一応考えられる範囲(単位)としては、(ア)学校区つまり面識集団、(イ)大字単位、(ウ)小字単位、(エ)基礎集落、の4つが考えられよう。地域によりそれぞれ具体的事情が異なるのでどの範囲がよいか、しっかりと検討してほしい。話をまとめるには小さい範囲の方が都合よいかもしれないが、水田利用のあり方やいまの農業技術体系から考えればより広い範囲で考えるべきであろう。範囲の確定は、地域の将来像を構想する上でも重要であるので慎重に検討し取り組んでほしい。
 (8)農地をはじめとする諸資源は、単に先祖から譲り渡されたものではなく、「子孫から借りている、より良好な姿にして返さなければならない」という思想に高めてほしいと私は考えている。この思想を私は農村に向かってだけではなく、国民に向かっても説いてきた。このような思想に立つことによって、農業・農村に対する国民の支持・支援をより広めていきたいと考えている。

(2003.8.21)



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