農業協同組合新聞 JACOM
   

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新しい時代を創造する生協の活動と商品戦略

道内地域生協と事業提携し生協運動の発展をめざす

佐久間 成浩 コープさっぽろ専務理事
インタビュアー 田代洋一 横浜国立大学教授
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 北海道拓殖銀行や雪印乳業の経営破綻などから、北海道の経済は長く低迷している。そうしたなか、道内の多くの生協も経営的に厳しい状況におかれてきた。コープさっぽろは2005年度を最終年度とする経営再建計画に取り組んできたが、2年前倒ししてこの目標を達成した。さらに道内地域生協と事業提携・統合することで、道内生協組合員が同じサービスを受けられる体制を整えてきた。この間の状況と今後の取組みについて、佐久間成浩専務理事に聞いた。


◆店舗中心の事業展開が破綻


 ――まず、大変お聞きしにくいことですが、なぜ経営的危機に陥ったのでしょうか。

佐久間 成浩氏
さくま・しげひろ
昭和18年生まれ。昭和44年日本生協連入職、60年日本生協連食品部長、平成4年(株)日本協同組合貿易常務取締役、7年日本生協連商品本部長、13年コープさっぽろ理事、14年コープさっぽろ専務理事。

 佐久間 現在は釧路も入れて71店舗ですが、一番多いときには126店舗ありました。いまは、釧路を除いた旧エリアだけなら65店舗ですから倍近く店舗があったわけです。家電、衣料、スポーツまで扱うGMS(大型総合スーパー)的なお店から100坪、200坪の小型なSM(スーパーマーケット)まで、業態の幅を広く取って、借入金で店舗展開していたわけです。
 2000年度(以下00年度)の供給高1450億円に対して有利子負債が900億円ありました。小売業の場合、通常は売上げの3ヵ月分が借入のメルクマールだといわれていますが、その倍あったわけです。

 ――店舗中心だった…。

 佐久間 収益性のある協同購入の取組みは遅れていました。コープさっぽろはバブル前はトップ企業でしたから、銀行もお金を貸してくれました。それでかなり膨張していたのがバブルの破綻で一気に金詰り現象が起きたということです。

 ――なぜ、店舗中心だったのですか。

 佐久間 消費者のすべてのニーズに応えるには、店舗業態の方が密度が濃いので、そこを目指したのです。
 それから協同購入を大きくすると店舗のお客が少なくなるのではないかという危惧をもっていました。結果としては、それは逆だったわけですけどね。


◆地域一番の「おいしい店」をめざしてSM業態に特化


 ――再建へのポイントはなんでしょうか。

 佐久間 日本生協連の専務だった内館さんが理事長になって2つの手を打たれました。
 1つは、食料・酒・ドラッグによるSM業態に特化し、衣料品は子会社化し、他のものはすべてテナントに切り替えることです。そして、一定基準以下の赤字店を02年度までに閉鎖しました。
 そして、協同購入に力を入れて収益をあげる。さらに共済に力を入れてネット構造を変えることで借金を返していくことにしました。

 ――その結果として収益構造はかなり改善されたわけですか。

田代 洋一氏
たしろ・よういち
昭和18年千葉県生まれ。東京教育大学文学部卒業。経済学博士。昭和41年農林水産省入省、林野庁、農業総合研究所を経て50年横浜国立大学助教授、60年同大学教授、平成11年同大学大学院国際社会科学研究科教授。主な著書に『新版 農業問題入門』(大月書店)、『農政「改革」の構図』(筑波書房)、『WTOと日本農業』(同)など。

 佐久間 03年度の供給高は1634億円強で経常剰余金が30億円です。店舗事業は02年度まで赤字でしたが、03年度は経常剰余金が1000万円と黒字になりました。協同購入は24億円、共済7億円弱の黒字ですから、協同購入と共済で突き進んできた結果だといえます。
 もう一つ気をつけてきたのは、供給高を落とすと販管比率が上がりますから、売りに負けない店をつくろうと考えてきました。そのために400〜500坪の標準SMで売りをつくるために「おいしいお店」というコンセプトをもってやってきました。

 ――「おいしいお店」とはどういうものですか。

 佐久間 生鮮は1個からの品揃えを実現するとか、こだわり商品の拡大、品質重視、さらに母の日とかハレの日の重視とか11の柱をたて、生鮮・惣菜を中心に地域一番の評価を得られる店です。品揃えでいうと600坪の店では、農産は400、水産は340、デリカ100、グロッサリー7100、日用品8700を基本にして、客数・棚や台のレイアウトの基軸をつくってきました。
 そして週1回売場を切り替える。生鮮品は週2回売場を切り替えるようにしていこうとやってきて、やっと組合員の支持が上がってきて客数が増えてきました。その結果、02年度5億円ほど赤字だった店舗事業がわずかですが黒字になったわけですから、5億円改善したことになります。


◆お客との対話を大事にし「買いやすい店」づくりを


 佐久間 この既存店の売上げを落とさないために、「おいしいお店」のコンセプトにそった「買いやすいお店」をつくれといっているんです。それは、店内の回遊性がいいこと。それから棚とかを女性の目線で見やすく買いやすい高さにするとか、店づくりの見直しをするということです。
 もう一つは、パートさんを戦力化し、パートでも優秀な人は登用していく試験制度の導入を考えています。そのことで、補助的な作業をする専従職員を減らす店舗オペレーションをしたいと思っています。

 ――買いやすいお店とはどのくらいの広さですか。

 佐久間 ドラッグを除いて600坪くらいだと思いますね。商圏を半径500mとみて、毎日きていただくにはそのくらいの広さが必要だと思います。

 ――ドラッグは必ずおいていくわけですか。

佐久間 成浩氏

 佐久間 40〜50坪の酒売場と120〜150坪のドラッグを併設してSM業態が、うちでは一番いいですね。

 ――推奨販売をしていると聞きましたが、これは具体的にどういうことをするのですか。

 佐久間 昨年の秋から、夕方の4〜5時ころのお客さんが多い時間帯に職員全員が売場に出て、組合員対応をして、コミュニケーションをとるようにしています。そのときに在庫が残りそうなものは値段を下げてキッチリ売り切ってしまうことをしています。

 ――職員の評判はどうですか。

 佐久間 実績が積みあがると自信になりますから、効果はあがってきていると思います。そしてカスタマーサービスとは何なのかといえば、お客さんと顔を合わせてコミュニケーションをとることが一番ですからね。

 ――協同購入は戸配が多いのですか。

 佐久間 戸配が半分ですね。

 ――協同購入では戸配に力を入れていくわけですか。

 佐久間 札幌エリアは核家族や単身赴任者が多く、班をつくりにくいという状況がありますからね。


◆事業提携の広がりで食品販売で10%のシェア確保


 ――道内生協の状況と事業提携はどうなっていますか。

 佐久間 累損もあり、経営は厳しい状況が続いています。道央市民生協は、実質は事業統合ですが組織を残して全面的に事業提携し、03年度はコープさっぽろと同等の事業剰余率になりました。単独での存続が危ぶまれていた釧路市民生協は03年の下期に統合し、コープさっぽろ釧路地区になりました。11月には宗谷市民生協と業務提供しましたが、協同購入の企画統一で供給が大きく伸びています。コープ十勝、コープどうとうからも業務提携の申し入れがあります。いくつかの解決しなければならない問題がありますが、04年度中には目途をつけるつもりです。これが実現すると道内地域生協のほぼすべてと提携することになります。
 これで事業規模は2100億円と道内食品販売の約10%を占めることになりますが、農産物や魚でローカルバイイングをどう残すかという問題があります。


◆全国の産地と「産直契約」 年2回産直協議会」を開催


 ――産直にはどのように取り組まれていますか。

 佐久間 年2回、組合員・専従職員・産地の3者で「産直協議会」を開催し、産直基準などについてお互いに確認をしあっています。

 ――産直契約書を結んでいるんですか。

 佐久間 産直基準の遵守とか、情報開示、数量・価格設定、不測の事態発生時の対処、契約不履行のペナルティなどを内容とした契約書を取り交わしています。産直基準は絶対的なものではないので、事前に見直すことも謳っています。

 ――道内産地が多い…。

 佐久間 道内で穫れるものは少ないので、全国からですね。

 ――お米はどうですか。

 佐久間 産直はありませんが、道内産が55%です。

 ――道内農業との結びつきは…

 佐久間 馬鈴薯とか玉ねぎ、ニンジンなどは生産量がありますが、青果物の道内生産量は少ないですね。


◆POS情報を開示し、メーカーと共同で商品政策を組立てる


 ――POS情報を有効に活用されていると聞きましたが…。

佐久間 成浩氏

 佐久間 以前から全店のPOS情報をすべて、ウェッブ上の「コープ宝箱」で開示し、メーカー・ベンダー・小売が共同して商売をしていこうというスタンスをとっています。そして商品ごとに、店ごとのチラシの効果や道内他社店との比較など詳細な分析をふまえたMD研究会を定期的に行い商品政策を組み立てています。
 情報は隠すのではなく全部出して、うちとの取引きはどうするのかをメーカーにも考えてもらおうということです。

 ――商品開発に組合員はどう関わっていますか。

 佐久間 経営破綻したために独自の商品開発は断念してきましたが、そろそろ日本生協連と連携して地域の原料にこだわった商品開発をしたいと考え、組合員が参加する商品開発検討委員会を今年から組織しました。ここで、開発コンセプトから値段、デザイン、容量まで決めてもらおうと思っています。


◆リスクの共有化は最重点課題 「食の安全委員会」を設置


 ――理事会に「食の安全委員会」を設置されていますが、この役割はなんですか。

 佐久間 リスクをどう評価し、それを組合員と共有化しマネジメントしていくかは、最重点の問題だと考えています。そのことの指針を練り上げたいと思っています。委員は大学の先生とか専門家にお願いし、組合員理事と常勤が参加しています。

 ――表示問題では「表示ウオッチャー」制度がありますね。

 佐久間 毎月、店を点検するウオッチャーが70名います。その代表者が月1回、代表者会議を開いています。それから年1回ご意見を伺うモニターが100名います。

 ――基準は国の基準ですか。

 佐久間 国の基準に上乗せした「生鮮食品の自主表示基準」をつくり、組合員に配布していますが、まず国の基準をしっかり守ることが基本ですね。


◆道内農業を応援するため「コープさっぽろ農業賞」を創設


 ――今年から「コープさっぽろ農業賞」を創設されましたが、その理由をお聞かせください。

 佐久間 北海道の経済が低迷していますが、北海道経済の中心は農業ですから、消費者の立場から農業を応援しようということでスタートしました。
 これには2つあって、一つは生産者におくる農業大賞・特別賞で、もう一つは消費者が農業・農業者と交流することでえた感動体験に贈る農業交流賞です。知事も共感され「道知事賞」も贈ることになりました。
 今年からですが、消費者の視線で選ぶことで、他にはない特色がだせればいいなと考えています。

 ――お忙しいところを、今日はありがとうございました。

インタビューを終えて
 再建過程は日本でかつて経験したことのない厳しさだったと思われるが、店舗も黒字化、さらに道内他生協も救済しつつ、みごとによみがえった。しかも単なる再建ではない。食を中心にSM業態に特化、600坪を中心に1000坪の新店にもチャレンジ。「売り負けない店」「おいしい店」「買いやすい店」、主婦の150cmの目線にあわせ、広々とした店作りをめざす。戸配を中心に共同購入や共済にも力を入れ、これからの日本生協の方向も示す。
 POS情報を全店開示し、売れ筋は一目瞭然。メーカー、ベンダーと問題意識を共有しようとする姿勢はすばらしい。情報公開が新生コープさっぽろのモットーのようだ。
 市場志向の道農業との結びつきは必ずしも強くなかったが、畜肉や牛乳など原料にこだわった商品開発にもチャレンジする。道農業を応援する「コープさっぽろ農業賞」も始めた。これら消費者サイドからの地産地消の呼びかけに道農業がどう応えるかが次の課題だ。(田代)
(2004.6.10)


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