農業協同組合新聞 JACOM
   

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シリーズ:新しい時代を創造する生協の活動と商品戦略

産直を通じて主体的に食と農を考える
生産者と消費者の社会を

東都生協理事長 庭野吉也氏に聞く

   
聞き手  田代 洋一 横浜国大教授
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 「産直」「協同」「民主」を基本理念に、事業連合化・事業連合統合が進む首都圏で、単独経営生協として独自の路線を歩む東都生協は、組合員参加の仕入委員会を廃し、より多くの組合員の身近に商品を置くために新たな商品事業の仕組みをスタートさせた。そうしたことを中心にいま東都生協がめざしていることを庭野吉也理事長に聞いた。聞き手は田代洋一横浜国立大学教授。


◆2人世帯・単身世帯増加が事業に影響を

庭野吉也 東都生協理事長
庭野吉也 東都生協理事長

 ――東都生協は共同購入が中心ですが、最近の事業動向とその中で班供給と個配との割合などについてまずお話ください。

 庭野 組合員数は増えていますが、1人当たり利用高が伸びていないので全体としての供給高は07年3月期で前年より3%減少しています。
 基本的には班を維持することを大前提にしたうえで、個配も伸ばしていくという考え方ですが、実態としては班は減少傾向にあって、個配が6割、班が4割という構成になっています。

 ――他の生協に比べれば、班が健闘しているといえますが、今後の方向としてはどう考えていますか。

 庭野 個配へシフトしていくことは止められないとは思いますが、配達ポイント当たりの供給高という事業的側面では班の方が優位性があります。また、生協組織のつくり方からしても基礎体としての班は引き続き大事にしたいと思っています。

 ――組合員構成に最近は変化がありますか。

 庭野 組合員の年齢が高くなってきているので、家族構成がいままでは夫婦と子ども2人の4人構成だったのが、夫婦だけとか単身世帯の割合が増えてきています。それが配達ポイント当たり購入高の減少につながっています。この点をどうするかということを事業面では真剣に考えています。

 ――新規加入者の年齢は何歳くらいですか。

 庭野 30歳代後半から40歳代前半が多いですね。

 ――その世代が加入する動機は何ですかね。

 庭野 安全・安心な食を求めていることと、共同購入ですから配達してくれて便利だということが多いようですね。

 ――購買動向の特徴としてはどうですか。

 庭野 価格に左右されるというのは全国共通の特徴ですね。産直で供給している青果物の場合、市場が高騰すると注文が殺到し、欠品をせざるをえない状況になることもあるというように、価格に敏感になってきています。それから少量規格への要望が強くなっていることとか、加工品での簡単・便利へのシフトがあげられます。

◆「地域総合産直」を再度事業のなかに位置づけ発展させる

 ――「産直の東都」としてやってこられたわけですが、取引産地は変化してきていますか。

 庭野 最近の特徴としては、取引先産地で量販店への出荷が増えてきていることです。なぜかといえば、生協よりも量販店の方が優位性があると判断されているのだと思います。

 ――量販店の方が優位性があるというのは具体的には…。

 庭野 出荷形態をコンテナ化したり、規格など取引条件に柔軟性があるということで、生協と量販店を併用している産地が増えているようです。

 ――いま取引している産地は何産地ですか。

 庭野 野菜の141団体を含めて249団体です。弱いと思える品目を補完するためだったり、新規の品目を扱うということで、年間で4〜5団体くらい増えてきています。組織形態としては生産者団体が多いです。

 ――茨城県のJAやさとと「地域総合産直」という取組みをしていましたが、これはいまは…。

 庭野 1988年に「地域総合産直」という考え方を掲げてから20年になります。残念ながらJAやさととの取扱高は、いまはピーク時の7割です。

 ――「地域総合産直」についてはどういう評価をしているのでしょうか。

 庭野 「地域総合産直」という考え方はいまでも有効性があると思っていますので、もう一度、事業のなかでキチンと位置づけ発展できるような取組みをどう展開していくかという検討を始めています。

 ――従来の取組みでどういう問題があったとお考えですか。

 庭野 あるべき姿を描き、それを達成するために生協が何をし、産地が何をするかを数値目標を含めて工程表をつくってやってこなかったということがあるのかなと思います。それから事業は事業、交流は交流というように事業と交流が分断されていて、もう一度関係性をどうするか考える場をお互いにつくる必要もあるのではないかと思いますね。JAやさととも、もう一度「地域総合産直」について政策的な議論ができる場をつくろうということになっています。

 ――産地交流についてはどのくらいやられていますか。

 庭野 「1万人の産地訪問」ということを1983年の10周年のときに掲げました。当時の組合員数は2万人でした。ここ数年は毎年、1万人を超える産地交流がされています。20万組織の中で1万が多いのか少ないのかという評価はありますが、交流をもっともっと盛んにして交流のあり方についても究めて、交流の中から食や農について考えられる組合員を育てていくような取組みにしていきたいですね。

 ――田んぼの生きもの調査のような取組みは…

 庭野 07年度はJAみやぎ仙南とJAみどりのとでやっています。

◆組合員に身近な商品事業を確立するための改革

 ――組合員参加による仕入委員会を廃止し新しい仕組みにされましたが、その理由はなんでしょうか。

 庭野 班とそれをまとめるブロックや支部の運営委員会があり理事会につながるというピラミッド型組織が崩れていく中で、仕入委員が組合員の声を代表する状況ではなくなってきたことが、一番大きなポイントです。
 かつては、仕入委員が地域の中で組合員の意見を聞き、それを商品の改善や見直し、開発に活かすということが、仕組みとしてできていました。そういう意味で、仕入委員会は一つのシンボルとしても考え方としても有効でしたが、いまはその代表性が欠如してきたので、それを見直さなければならないということになったわけです。
 それから仕入委員会が象徴化されてしまって、「仕入委員会があるから安全なのだ」ということになり、組合員が自ら商品に携わることが阻害されているのではないかということがあります。一人ひとりの組合員が一つの商品に関わりをもち、商品に愛着をもったりストーリーを理解する。それを利用につなげていくという仕組みをもう一度つくり直さなければいけない。こうしたことを商品事業参加のあり方改革課題としてこの間論議をしてきたわけです。

 ――例えば仕入委員会で決めた商品が売れなかったというような問題が生じていたのですか。

 庭野 原材料を含めてこだわった結果、価格が高くなり組合員から支持をされないというケースはありましたね。それから一度否決されたものが翌年再提案されると委員の顔ぶれが替り可決される、というような「組織内の二重基準」の問題もありました。

 ――組合員の声が反映されなくなるという意見はあるのではないですか。

 庭野 ありました。しかしいまは、一人ひとりの組合員が商品事業に接する機会をどれだけ多くするかを考えることが大事だと思います。それは、生協から購入する商品を通じて、安全・安心だけではなく、自分たちの食料とか農業にまで思いを馳せられるような商品事業の組み立てをするのが、本来の生協のあり方ではないかと思っています。かつては仕入委員会という代表制のなかで担保できていたのですが、いまの組織のなかでは代表制では担保しきれなくなったということです。

 ――商品委員会を軸とする新しい制度では、最終的な決定は常勤役員がするわけですね。

 庭野 最終的な決定権は業務側にありますが、そこにいたるプロセスや開発後の評価も組合員にしてもらい、新たな改善に活かしていくようにしています。

◆組合員の要望・意見にす 早く対応できる組織として

 ――「産直の東都」として、組合員が産地に行って商品開発をするというイメージがありましたが、新システムではどうなりますか。

 庭野 新しい仕組みの中で実質としての組合員参加をどうつくっていくのかが問われていくと思います。仕入委員会では組合員全体への広がりがありませんでしたから、全組合員に東都生協の商品を身近に感じられるようにすることだと思います。
 産直は目的ではなく方法ですから、産直という手段を活用して、単に安全・安心ということではなく、食と農を考える主体的な生産者と消費者の社会をつくっていくという東都生協としてのミッションを確立しなければいけないと思っています。

 ――生協の事業連合化が進む中で、単独経営生協として独自路線を歩む意義づけについて。

 庭野 経済合理性を追求するのであれば事業連合にメリットがあると思います。しかし、生協はそれだけでいいのだろうかと思います。例えば、事業連合になれば単協に商品部がなくなり、商品が組合員に身近でなくなりますし、組合員への要望や意見へすばやく対応できるのは東都生協くらいの規模ではないかと考えています。ただ物流では他生協と共同事業を行っているように機能連帯はしていきます。

 ――今日は貴重なお話をありがとうございました。

インタビューを終えて
 グローバル化、格差社会化のなかで生協のめざす方向にも二極化現象が見られる。1つは、低価格志向では競合には勝てないとして品質、こだわり、付加価値を追求する方向。もう1つは品質とともに低価格追求で競合に対抗する方向。前者が生クラ、パルシステムとすれば、後者はコープネットやユーコープのグループで、両連合の統合をめざしている。
 そのなかで東都生協は単独生協として我が道を行く。その東都が先の2つの道の狭間に埋没しないためには、「産直の東都」「地域総合産直」のコンセプト、格差社会化の時代におけるその今日的な意義をより鮮明にする必要があると思われるが、今回のインタビューではまだその点は見えきれなかった。
 そのなかで従来の仕入委員会を廃止してより広範な組合員の声を反映する方式への切り換えを図った点は大いに注目される。このように「東都」の従来の思考にとらわれることなく、それを大胆に見直すなかで、第3の道の活路が開かれるのではないか。(田代)
(2007.11.27)


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