農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ 全農マークは信頼の証

第1回 (株)いなげや
安売り競争ではなく、「食味と品質」で消費を拡大
米販売量の8割強が「全農安心システム米」

 自給率40%と日本人は「食」の大半を輸入農畜産物に依存しているが、米国におけるBSEの発生、アジアを中心に広がる鳥インフルエンザなど、食の安全に関わる問題が次々と起こり、消費者の「安全・安心」へのニーズが高まると同時に、国産農畜産物への期待も大きくなっている。なかでも、新鮮で美味しく、安全・安心な国産農畜産物である「全農安心システム」をはじめとする全農商品への消費者や流通関係者の期待は高まっている。そこで本シリーズでは、消費の最前線にいる食品スーパーなどの商品政策担当者に、現在の消費動向とそこにおける全農商品の位置づけ、これから国内生産者に期待することなどを取材していくことにした。
 第1回は、東京・埼玉・神奈川など首都圏で130店舗を展開し、米販売量の8割が「全農安心システム米」という食品スーパーの(株)いなげやに、最近の米消費動向とそれに対する商品政策などを聞いた。

 
◆不作の翌年に大きく落ち込む米の消費量

白井和生 一般食品部許認可商品担当課長
白井和生 一般食品部許認可商品担当課長

 「お米の消費が落ち込み、価格がどんどん下がるなかで、どうやって売っていくのか」が、いま一番の悩みだと、首都圏で食品スーパーを展開する(株)いなげやで米の仕入政策を担当する白井和生一般食品部許認可商品担当課長はいう。
 日本人1人が年間に消費するお米の量は、昭和37年には118.3kgとほぼ2俵だった。その後、年々減少し平成15年にはついに1俵を下回る59.5kgと昭和30年代のほぼ半分にまで落ち込んでしまった。そうした米の消費量が落ち込んでいく歴史的な流れのなかで「もっとも着目したいのは、不作の翌年」だと白井課長。
 米の消費量はほぼ1年に1kgずつ減少しているが、例えば、平成10年の不作の翌年・11年の消費量は、10年の65.2kgから61.7kgと3.5kgも落ち込み、その後も12年61kg、13年60.7kg、14年60.1kgと消費は回復していない。昨年の15年産も不作だったが「本来、一番消費量を増やさなければいけない12月に入札価格が一番高くなったために、11月〜1月の米販売量が落ち込み」、いなげやでは、前年同月対比で15%も数量が減少した月もあるという。価格が高くなれば、米に頼らなくても食べるものはあるので、「米離れ」が進み、米の消費量は落ち込んでいく。だから「16年産は豊作基調だけれども、消費は落ち込むだろう」と白井課長はみている。
 
◆安くしても米の消費が伸びる時代ではない

生産者もいなげやの店頭に立って販売を支援する
生産者もいなげやの店頭に立って販売を支援する

 米の価格も需要と供給のバランスで決まるわけだが、「不作の年には高くなり、翌年、豊作になると下がるというパターンになるが、「米離れ」で需要が落ち込んでいるから下落傾向が続いている。15年産は不作ということで上がったが、16年産はさらに「米離れ」が進み「14年産のレベルかそれ以下になる」のではないかとみている。
 今後も「米離れ」が進むと予測されるもう一つの要因は「ブレンド米」だ。本来、ブレンド米は食味を良くするために複数の米をブレンドするのだが、最近は、15年産米が品不足になるということと、政府が古米を放出したことなどから、量販店が安売り用の価格合わせをするためにブレンドしたといえる。美味しさや品質ではなく価格合わせのためのブレンド米を食べた消費者が、「他に食べるものがいくらでもある」と米からさらに離れていってしまう危険性があるということだ。
 いなげやでは「安くしても消費が伸びる時代ではない」「米の消費を伸ばすには、本当に美味しいお米をもう一度、食べてもらうこと」だと考え、「途中でなくなったら、それは仕方がない。品質の悪いものやブレンド米を提供するよりは、キチンとしたものを売りたい」と、従来から進めてきた「単品銘柄にこだわって販売してきた」。

◆食味と品質重視――8銘柄に拡大した「安心システム米」

 いなげやでは、従来から農協や地区単位の産地指定によるPB米を中心に米を販売してきた。最近は、消費者の安全・安心への関心が高まるなかで、一部の表示違反・偽装表示など、ただでさえ冷え込んできている消費に追い討ちをかけるような問題が起きている。
 そうしたなかで、消費者の信頼を回復し、競合他社との差別化をはかるためには「最終的には美味しさ」だが、いまは「安全・安心を保障する生産履歴の公開が必要」ではないかと考えているときに、「全農安心システム」を紹介され、取り組むことにしたという。「消費が減っているなかでは、何とかして単価を維持しなければ売り上げが確保できません。そのために従来からのPB米に“全農安心システム”によって、安全・安心という付加価値を加えた」と白井課長は率直に語ってくれた。
 いなげやの「全農安心システム米」は、15年7月認証の「減農薬減化学肥料栽培米・福島こしひかり(特別栽培米)(通常精米)」(JA本宮)と「北海道ほしのゆめ(無洗米)」(JAながぬま・南幌)からはじまり、同年12月の「山形ササニシキ(通常精米)」(JA山形おきたま)、さらに16年に入ってからは「岩船産・新潟こしひかり」(JA神林)「福島ひとめぼれ」(JA会津みどり)「栃木コシヒカリ穂の香」(JA塩野谷)で通常精米と無洗米を認証、さらに通常精米の「山形はえぬき」(JAやまがた)と7銘柄に拡大した。現在「全農安心システム米」は全国で17社40銘柄・指定産地が認証され販売されているが、いなげやの7銘柄は最大の規模だ。
 さらにこの秋には「秋田あきたこまち」(JA秋田おばこ)の認証が予定されているが、17年産でももう1銘柄増やす予定があるという。こうした品揃えで「通常のお客様のニーズに応えられる品揃えができた」のではないかと白井課長は考える。ササニシキや新潟でも岩船のコシヒカリという品揃えはいなげやの「米へのこだわり」を感じさせるものがある。「商売としてメリットがある」ことを白井課長は隠さないが、「食味と品質」を優先させた選択だと自信をもっている。
 これらの米は、通常価格よりも5kg袋で100円前後高く販売されている。「味についての意見は聞いて産地に返しますが、値段が高いと店の担当者がいえば、私は徹底的に話をして理解してもらっています」というように、決して「安売り競争」に参戦せず、「食味と品質」で消費者の支持を得ようというのがいなげやのポリシーだ。

◆指定産地とは未来永劫のお付き合いを

 そして生産者との関係も「1回指定した産地は、徹底的にお客さまに理解していただくまで売り続けます。何事もなければ未来永劫にお付き合いをさせていただきたいと思っています」という。そうでなければ、生産者との信頼関係が築けないし、消費者からも支持されないからだとも。出来秋には、生産者がいなげやの店頭に立って販売を支援したりもする。そのことで自分たちが生産した米が、どのように、誰に買われていくのかを知ることもできるからだ。
 現在、いなげやは東京(63)・埼玉(31)・神奈川(20)・千葉(13)・茨城(1)に130店舗を展開しているが、米の販売量は1万トン強。そのうちの83%がPB米つまり「全農安心システム米」だ。「できれば1万トンを安心システム米にしたいですね」と白井課長はいう。なぜなら、産地である農協を訪れたときに「お年寄りの方が窓口で生産履歴の記帳の仕方を一所懸命教えてもらっている姿をみたら、この人たちの努力に応えて付加価値をつけて報いることが私たちの努めだと、しみじみ感じた」からだという。だから「大切に売りたい」とも。
 作る人の心と売る人の心を一つにすることができる。それが「全農安心システム」だともいえる。だからこそ消費者から支持されるのだろう。

◆手間ひまかけた良いお米を作って欲しい

 取材の終わりに白井課長は、「16年産米の価格は昨年よりも間違いなく下がると思いますが、ここが我慢のしどころだと思います。私たちもお米の信頼を回復しようと一所懸命に努力をしていますので、生産者の方には豊作だということで乱暴な売り方をされないよう注意してみていただきたい」、そして「これからは、品質の良いものを出した産地が残ると思います」。いなげやとしては「競争に巻き込まれない商品、単価を維持してお客さまに付加価値を提供できるものがあれば、ギフト売り場もあるので積極的に取り組みたいので、手間ひまをかけて良いお米を作っていただきたいと生産者の方にお願いしたい」と語ってくれた。 (2004.8.30)


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