農業協同組合新聞 JACOM
   

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トップインタビュー・農と共生の世紀づくりのために

現行「基本計画」検証を踏まえ食料自給率を検討
岩永峯一 農林水産副大臣 農政課題を語る
聞き手:梶井功 東京農工大学名誉教授
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 新たな食料・農業・農村基本計画の策定を3月にひかえ、岩永農水副大臣は、世界の爆発的な人口増加と食料危機の見通しに対応する食料安保を強調し、「自給率向上を国家の大きな目標に掲げて取り組んでいく」と新年の抱負を語った。梶井農工大名誉教授の質問に答え、話は▽担い手▽集落営農▽食品産業と農業の連携▽食の安全・安心▽自由貿易協定(FTA)を軸とする経済連携協定(EPA)▽JAグループへの期待や提言などに及んだ。



 強靱な農業構造の構築を
 
  ◆ミャンマーを訪問して

岩永峯一 農林水産副大臣
岩永峯一 農林水産副大臣

 梶井 新年おめでとうございます。

 岩永 おめでとうございます。

 梶井 まず食料自給率目標について、これは食料・農業・農村基本計画の柱の一つです。ところが新たな基本計画の策定を検討している政策審議会の企画部会では、自給率を引き上げる論議がどうも活発でないような感じです。3月には策定の予定ですが、この問題についておうかがいしたいと思います。

 岩永 日本は食料の60%を輸入に頼っていますが、世界の人口が今の63億人から、50年後に試算通り90億人に増えた時に60%が維持できるのか、考えれば恐い状況です。食べるものがなければ人間は生きられません。
 今から手を打っておく必要があります。日本が困った時の対策の一つを考える意味もあって、私は昨年暮れにミャンマーとインドネシアを訪問しました。
 ミャンマーでは、首相や農業の大臣らと会いましたが、「日本の支援もあって食料生産が増えた」と聞きました。同国の人口は5217万人ですが、面積は日本の1.8倍もある。それに大の日本人びいきです。
 軍事国家ですが、それは少数民族が武力紛争を起こすため治安上、やむを得ない事情からです。そこで、民主化運動が続いているのはご存知の通りで、私からは同国と協力できるようにまず民主化を進めて下さいと要請してきました。
 さて国内の基本計画見直しですが、企画部会では自給率が大きな議論となっています。何が何でも自給率向上を国家の大きな目標に掲げて、取り組んでほしいと思います。

 ◆兼業農家をどうするか

梶井功 東京農工大学名誉教授
梶井功 東京農工大学名誉教授
 梶井 議論が不十分な問題としては例えば、大増産のはずだった飼料作物は、現状では減っています。この政策は、どのように評価して基本計画をつくろうとしているのですか。

 岩永 飼料生産受託組織の活用による生産の組織化・外部化、耕畜連携による稲発酵粗飼料の作付拡大の推進などが必要としていた現行計画の検証を充分にしなければならんと考えています。戸数の減少や、労働力不足などで生産が拡大できなかったという反省をしなくてはなりません。

 梶井 経営安定対策については、その仕組みとともに、施策の対象とする担い手の範囲が議論になっています。自給率向上の観点から、担い手政策についてのお考えをお聞かせ下さい。

 岩永 農業で生活できるというより、むしろ豊かな生活を享受できる体制が求められるわけですから、やる気と能力のある担い手が農業生産の相当部分を担う強靱な農業構造の構築が農政の課題だと思います。しかし、兼業農家が日本農業の大半を占めている現実を踏まえて、専業農家に力をつけて、生産構造をしっかりしたものにしていく一方、兼業農家をどうしていくかを考えなければなりません。そこに集落営農の推進という課題が出てきます。
 私は10年前、滋賀県議会議員をしている時から集落営農をいってきました。集落の土地をどう活かしていくか、個別所有ではムダになる機械の共同利用はどうかなどといったことを共同で勉強してもらうため県下1800の集落に会議費などを県から助成することもやりました。

 ◆集落営農を位置づけて

 岩永 今度の基本計画見直しでは、集落営農を「担い手」と位置づけて各種の施策を集中化・重点化します。その中へ兼業農家を集約していこうという考え方です。そして集落として経理をきちんと一元化していく、法人化していこうじゃないかということです。集落営農の経営体質をきちんとしていくことが重点になるものと考えています。

 梶井 集落営農組織で土地利用を、みんなで相談し、作付作物なんかも決めて、やっているところは生産コストがうんと下がっています。農水省の生産費調査でみると、全作業受託組織などでは1ヘクタールか、それ以下の農家が10戸か15戸でやっている組織のコストは10ヘクタール程度の経営には並ぶくらいに低くなっています。だから集落営農でがっちりやっていけるところは大いに育ててほしいと思います。

 岩永 それには集落営農でやっていく兼業農家の意識改革が必要です。滋賀県の場合は300近くの集落営農が担い手として支援の対象になりそうですから、近く集落営農推進の決起大会みたいな集まりを開いて意識を高める取り組みもあります。

 梶井 それはよいことです。

 岩永 しかし取り組みには試行錯誤もあるだろうし、定着するまで4、5年は大変だと思います。
 話は変わりますが、食品産業と農業の連携も大事です。外食や中食の産業も伸びており、それらのニーズに応えなければなりません。例えば、国内で均質なものを大量に供給できなければ、食品産業は外国から買います。そこで、どういう国内体制をつくっていくか、私としては食品産業のトップと話し合ってみたいと思っています。

 ◆食育の新法つくりたい

 梶井 食の安全・安心についてはいかがですか。

 岩永 まずBSE問題を振り返りますと、英国では何万頭も発生した、日本は14頭だ、それでも日本は全頭検査となり、市場に出回っている牛肉の焼却もやった。一方では、青果物の偽装問題なんかも出てきました。
 そうした状況から、すべての食品でトレーサビリティシステムを構築しようという動向になってきました。このため今は逆に日本の農畜産物は安全安心だと世界から評価されるようになり、品質の高さもあって輸出を増やそうというまでに発展してきています。
 これらは農業所得の向上や後継者難の解決にもつながってきます。とはいうものの、世界の食料危機が将来、子どもたちにどう影響するか、食料安保の問題を国民全体に理解してもらわなくてはなりません。そこで食育という課題が非常に重要になっています。

 梶井 現行の基本計画がつくられた時に農水・厚労・文科3省が共同で大変、内容のいい食生活指針をつくりましたが、普及が遅れていますね。

 岩永 本当は食育の法律を前の国会で成立させたかったのですが、今度の国会では成立すると思います。そうなれば具体的な行動計画が示され、学校教育の中にも食育の時間がつくれると思います。

 梶井 食料安保に関して現行計画では、470万ヘクタールの耕地が健全に確保されていれば不測の事態があっても最低の食料供給ができるとしていました。ところが現実には、この確保が怪しくなっています。

 岩永 耕作放棄地について見直すべきだといっています。高いカネを出して土地改良をしたのに、それが荒れ地になっている部分がある、その辺をよく考えるべきです。

 ◆JAグループへの提言

 梶井 経済連携協定(EPA)の問題ですが、大筋合意したフィリピンとの間では向こうの小規模農家の生活向上に役立つように小規模生産者のバナナの関税は引き下げるといった配慮などがあります。最初の話のあったミャンマーとも、そういう考え方でいこうということですか。

 岩永 米国や豪州からの食料輸入も大切ですが、アセアン諸国との協調も日本の将来に大きくプラスしてきますから非常に大切です。ミャンマーとも、向こうの要望をよく聞くために我が国との間で対話を行う場を設けることを約束してきました。

 梶井 この1年のWTO交渉の評価と、今後の交渉のポイントについてはいかがですか。

 岩永 7月末の枠組み合意では、センシティブ品目について一般の関税削減方式と異なる扱いをすることなどが盛り込まれ、我が国の主張が一定程度反映されたものと考えております。
 今後の交渉でも、G10諸国との連携を強化し、EUと協調しつつ、途上国への働きかけもやりながら交渉に全力を尽くしていきます。
 
 梶井 最後に、途上国への働きかけは大事ですね。JAグループに対する期待や提言をお聞かせ下さい。

 岩永 営農指導とか各事業を通じて生産者と一体となっていく運営が大事ですね。とくに担い手の経営に着目した品目横断的な政策への移行、農地制度の改革、集落営農を含めた地域農業の再編成などを見極めて農協改革をしてもらわなければなりません。日本の食料を双肩に担っている役割を大事にし、消費者に顔を向けてがんばってほしいと期待しています。
 苦言を呈させてもらうと、子会社を含めて農協の不祥事が多発していますが、農家の信頼を失えば組織が成り立たないことを肝に銘じて改革に取り組んでほしいと思います。

(対談を終えて)
 副大臣には、大変お忙しい日程の合間をぬって対談の時間を作っていただいた。最後は半分腰を浮かしかけて話していただくというような情況で、年初早々落着かない対談になってしまったが、ポイントはお聞きできたかと思っている。
 国際的に孤立している感のあるミャンマーへの働きかけなど、複雑な今日の国際情勢のなかで日本がなすべきことは何かを考えさせる着眼と感じたところだが、もう少しゆっくりお聞きしたかった。副大臣も言われていたが、突っ込んだ議論を他日に期したい。
 副大臣は、集落営農の先進県として私どもが注目している滋賀県の御出身である。御自身、“滋賀県議会議員をしている時から集落営農をいってきました”と語られていた。集落営農のいいところも悪いところも十分にご承知の副大臣がいらっしゃる。集落営農が農政改革のなかで正当な地位を占めることを期待していいのであろう。(梶井)
(2005.1.5)


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