農業協同組合新聞 JACOM
   

農業の新世紀を創る担い手たち
現地ルポ―輝く明日へ 個性豊かな農に生きる人々
活動の定着と経営安定を行政が支援
6次産業をキーワードに、緩やかな連帯をめざす
――「1×2×3」で夢実現ー――
せら夢高原ネットワーク(広島県)


ネットワーク会長の上田隆三氏
ネットワーク会長の上田隆三氏
 世羅高原は広島県のほぼ中央に位置し、尾道市の北、標高300m〜500mの台地。昭和30年代から40年代に県営農地パイロット事業、同52年に始まった国営農地開発事業により、次々に大型経営体が誕生した。当初、開発団地の入植は地元の住民に限られていたが、入植希望者が減ってきたため、平成5年度から対象を全国に拡げ、希望者を募集するようになった。しかし、開発団地の耕地は石礫や重粘土質で、肥沃な農地にするまでに時間がかかることや農業経験の少ない入植者は栽培技術もないため、赤字経営が続き、リタイアする人が増えていった。
 一方、平場農家は稲作が中心であったが、転作作物としてグリーンアスパラを導入し、今では産地として定着している。集団転作が進められており、現在多くの農業集団が組織化されている。開発団地入植者と地元農業者は交流が少なく、地域全体としての連携や交流活動は、ほとんどなかった。
 平成9年度、県は「農村地域6次産業推進事業」を制度化した。旧世羅郡の3町(世羅町、西世羅町、甲山町)はこの事業を導入し、観光農園や加工販売女性グループの直売所、産直市場の農業者が、横の連携を深める活動を開始した。それらの活動の中で、マネージメントセミナー、農産物加工や栽培研修などが実施された。そして、研修会などの参加者の中から、フルーツや花農園代表、女性起業代表、産直市場代表などが選出され、ネットワーク設立に向けた準備を重ねた。
 11年7月、32団体で『世羅高原6次産業ネットワーク』が結成された。会員は法人経営の農園、産直市場、女性グループ、集落単位の組織、農協などで、高校駅伝で全国的に有名な県立世羅高等学校も含まれている。ネットワークの組織づくりは、「6次産業」というキーワードに集まってきた個人や集団が、様々な活動をする中で、最終的に地域が活性化するという新しい手法だ。会員は現在、46団体、812名で、地元応援団5団体、ファンクラブ100名を数える。


◆ゆるやかな連帯をめざす

 「ネットワークとは、ゆるやかな連帯です。仲間づくりを進めるための手段だと、捉えています。それぞれが経営体であり、経営安定のための連帯だと思っています」と、会長の上田隆三氏は語る。氏は世羅大豊農園の組合理事長をしている。同農園は梨生産が主力であるが、経営する“山の駅”でネットワーク会員の生産物の販売や情報提供を行うなど、助け合いの精神を生かした活動も行っている。


◆「せら」の名をブランドに

 「広島市のひろしま夢プラザで年2回行うせら高原フェア、商品のブランド化、販売協力、研修会・共同イベントの開催、シンポジウム、講演会などの活動を行っており、ネットワークの利点を発揮し多くの人を巻き込んで盛り上がっています。やはり、協同の力はすばらしいものです。個人では販売力やPRなどに、限界があります。1×2×3=6次産業の主旨を生かし、ネットワーク会員が力を合わせれば、かなりのことができると思います。生産を上げ、売上を伸ばし、所得を伸ばす。これが6次産業の効果だと考えてます」。一人より二人、二人より三人と多くの人の協力で、みんなが豊かになる、協同の考え方がそこには生きている。今都会から、年間100〜120万人が世羅高原を訪れる。もっと多くの人に世羅高原を知ってもらうためには、ネットワークで築き上げてきた「せら」という名を“ブランド”にまで高めることだ、と上田隆三氏は訴える。
  ネットワークでは、会員が作る特産品にブランド認定制度を設けた。認定され特産品に認定マークをつけ、せら夢高原のブランドを消費者に浸透させることをめざしている。


◆観光農業は生産者プラスサービス業

吉宗誠也氏と奥さんの五十鈴さん
吉宗誠也氏と奥さんの五十鈴さん

 ネットワーク会員で、チューリップを中心とした観光農園を経営している吉宗誠也氏を、経営する旭鷹(きょくほう)農園に訪ねた。「私が行っているのは、観光農業です。生産者+サービス業だと思っています。お客さんに満足してもらうことが、なによりのサービスです。4月〜5月には一面チューリップが咲きます。リピーターの方が飽きないように、花の色の配置を変えるなど、お客さんに喜んでもらえるよう努力しています」と、サービス業としての花作りの難しさ、楽しさを語ってくれた。また、ネットワークについては、「6つの花観光農園で、“フラワーびれっじ”を組織し、定例会を持ちながら情報交換、共同PRなどを行っています。6次産業ネットワークは、異業種の方と情報交換ができることが利点だと思います。多くの人から情報を得て、広い視野で、将来展望や自分のめざす方向が見えてくるような気がします。世羅高原を訪れるお客さんに対しては、会員の情報を互いに提供しあい、ネットワーク全体として歓迎する体制ができていると思います」と語り、お客さんにリピーターになってもらう必要性を強調する。
 氏は大学時代を長野県で過ごし、卒業後ふるさとにUターンした。父親の元で、イベントの客対応などを行っていたが、父親が亡くなったのを機会に後を継いだ、2代目経営者だ。
 「チューリップ以外に、夏はひまわり、秋は大根を作っています。大根は、収穫体験ということで、お客さんに畑から引き抜く作業を体験してもらっています。観光農業の魅力の一つは、お客さんとの距離が近く、直接話ができることだと思う。また、若い人の感覚やチャンスを生かせる仕事だと考えています。これからは、花を見せるだけでなく付加価値を付けることが必要だと考え、一昨年から花に囲まれた結婚式を演出しました。これまでに5組の利用があり、結婚するお二人にはもちろん、観光客の方々にも印象深いものだったのではないかと思っています」と、これからのめざす方向を語り、チューリップに囲まれ4月に行った自身の結婚式写真を見せてくれた。


◆行政がバックアップし拡大・強化を補助

 18年4月の開園を目標に、町内の一角に世羅町農業公園の整備が進んでいる。農業公園では、ワイナリー、街の特産品販売・レストラン等、町外の人にアピールできるような施設計画が検討されている。
 また、農業公園には県民公園が併設され、自然を生かした空間が確保さる。そこにできるファーマーズマーケットを、ネットワーク活動の拠点として活用しながら、会員の施設にも巡ってもらえるような体制を考えている。
 ネットワークのほとんどの会員は、農協に加入していたり、産直市場の会員であったりと、町内の農産物の生産や加工・流通に深く関わっている。
 町内には、生産者等の2重、3重のネットワークが張り巡らされており、それぞれの活動が互いに刺激しあい、町全体が元気だ。
 同ネットワークは行政との連携が密で、世羅町と県尾三地域事務所が全面的にバックアップしている。「主体はネットワークです。行政としては、活動が定着するよう支援しながら、経営安定をめざしてもらいたい」と、県の担当者は話す。
 全国的に地域の活性化をめざし町おこし、村おこしが盛んだが、住民と行政の意識のズレが目立つ。そんな中、『せら夢高原ネットワーク』の試みは注目される。

(2005.1.12)

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