農業協同組合新聞 JACOM
   

農業の新世紀を創る担い手たち
現地ルポ―輝く明日へ 個性豊かな農に生きる人々
ベビーリーフづくりで地域農業の新たな担い手に
「市場ニーズを捉えるスピード感が大切です」
――新規就農者の挑戦ー――
(有)T.K.F(茨城県)


◆経営として成り立つ農業

こだわりは土づくり
こだわりは土づくり
 ほうれんそうや水菜、ルッコラ、レタスなどの幼葉を10センチ程度の大きさで摘み取り、それらをブレンドしサラダ用野菜として出荷する「ベビーリーフ」。茨城県つくば市でこのベビーリーフ生産に7年前から取り組んでいるのが木村誠さんだ。
 出身は東京都板橋区。農業には無縁の環境だったが31歳のときに新規就農で始めた。大学を卒業後、塾講師などの仕事をしながら生活していた木村さんは20代の後半につくば市を拠点にする土壌改良剤の製造会社に勤務、そこでセールスのために出向いた有機栽培に取り組む生産者と知り合ったことが農業経営を志すきっかけになった。
 「自分も勉強しながら土づくりの指導をしてました。みなさん農業はおもしろいというし、野菜を食べさせてもらうと非常にうまい。しかし、経営は厳しい、成り立たないという。どこかおかしくはないか、経営として成り立つ農業ができるはずと考えました」。
 めざしたのは、経営として成り立つ農業と作物づくりは無農薬、無化学肥料にこだわること。生産者との付き合いから出会ったカット野菜を扱う東京都内の業者に聞くと、業界では国産のベビーリーフを供給したいという動きがあることを知った。外食産業はもちろん量販店でもサラダ人気の高まりからベビーリーフ需要は高まっていたが、当時は多くを輸入に頼っていたのだ。


◆失敗からつかんだ経営姿勢

 これから絶対に注目される、と木村さんはベビーリーフづくりを決心。その業者への出荷を前提にしてオーストラリアに研修に出かけたり、農業改良普及センターに営農開始後に販売先が決まっていることや、出荷予定数量などの経営計画を提出して相談、資金の貸付や畑の確保などの準備を進めた。
 営農を始めたのは平成10年の4月。30アール作付けした。最初は1種類の野菜だけを妻と2人で栽培した。初出荷を迎えたのは6月だった。
 ところが想定したような量は収穫できない。
 「海外で研修したといっても日本では役に立たないことが分かった。1日30kgの出荷を約束していたのに、半日、幼葉を摘み取っても5kgにしかなってなくて愕然としました。それでも約束は約束。一日中収穫して夜になって出荷先の業者にようやく届けたことを思い出します」。
 知り合った生産者にも声をかけて出荷量の確保を図ったのだが、求められた量の確保に根を上げる生産者が半分出た。かれらも有機栽培に長く取り組んできたのだが、ベビーリーフづくりはまったく新しい試みなのだということが身にしみた。
 収穫量を上げるにはまず発芽率が高くなければならないし、作付け面積は決まっている以上いかに密植させられるかも重要になる。そしてなによりも「約束した出荷量は毎日確保する」ことが求められる。
 「今日は雨だったので収穫を休みました、雪で収穫できませんでした、では契約はストップしてしまいます」。
 木村さんがもっとも重視したのがこの約束どおりの出荷だ。「逆に言えば売り先が決まっていないものは作付けしていないということです」。これが経営として成り立つ農業の基盤だと考えてきた。
木村さん(中央)とTKFのスタッフ
木村さん(中央)とTKFのスタッフ


◆仲間づくりで地域に元気を

 出荷を安定させるには栽培面積の拡大が必要だと2年目からは借地で作付け農地を増やしていった。ベビーリーフづくりでは幼葉の摘み取りが終わればすぐに耕してまた新たな種をまく。しかし、冬の間はハウスでも発芽まで時間がかかる。そのためほ場の拡大で補うしかなくなる。
 軌道に乗ったと感じたのは3年前。自作地を手に入れ、現在の経営規模はハウス栽培1ヘクタール、露地2.5ヘクタール。このうち自作地が90アールとなった。
 おもな取引先は4社で今年は年商1億円を見込むまでになった。出荷量は1日約150kg。取引先のニーズに合わせてベビーリーフをブレンドするため収穫スタッフのほかパック詰めスタッフも含め25人のパートタイマーを雇用している。
 生産者も5人を組織化して出荷の安定をはかり取引先の信頼確保にもつとめている。


◆ステップアップはJA全農の支援と連携で

 平成16年3月には有限会社T.K.Fとなった。そして7月には地元JAの推薦をバックにJA全農茨城県本部が出資を決めた。
 同県本部では新たに地域農業を担う生産法人や大規模経営を総合的に支援するため「アグリ開発課」を設置して営農と経営を支援する事業に乗り出しているが、法人への出資もその一環。
 これをきっかけにJAとのつながりができたことで現在、JAつくば市の育苗センターを借りてさらに規模拡大に乗り出している。ハウスの新設をせず規模拡大が可能になった。JAにとっては稲の育苗後の6月から翌2月までは活用されていなかった施設を地域の新たな担い手に託すことによって効率的な利用が実現したといえる。
 とはいえ規模拡大すればするほど経営リスクも多くなり適正な経営判断が求められることも多くなる。
 「生産者は約束どおり出荷すべきだといわれるが、実際には当初の約束を守ってくれず予定どおり出荷しようという矢先に、業績不振などから数量を大幅に減らされてしまうこともある」。需要は高まっているといっても個々の契約となる別だ。そこで、作付けした野菜が無駄にならないよう常に業者のニーズをつかんでおいて、必要な野菜を供給できる情報収集と折衝が必要になる。
 「私にとってほ場がビジネスの場ですね」。


◆原点の土づくりを見失わず

 今後の課題は、出荷のための時間ではなく野菜づくりがきちんとできるようほ場管理に時間を取ることや良質のたい肥を土に入れることなど。また、経営面では種子代や包装資材費などの抑制だ。こうした課題についてはJA全農茨城県本部との連携が徐々に進んでいる。
 そして、連携のなかから生まれてきたプランが仲間とともに取り組むほうれんそうの産地化である。
 ベビーリーフに加えるもう一つの柱として県本部とともに生産、販売方法を検討中だ。県本部としては経営が安定するよう多様な出荷先を確保するなど販売戦略を練りながら構想の実現をめざしている。
 「スタート当初はなかなか農地を貸してもらえませんでしたが、最近はぜひ使ってほしいという声が地元から出るようになりました」。
 研修を希望する若者も多く地域の担い手として木村さんはしっかり根づいている。

(2005.1.12)

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