農業協同組合新聞 JACOM
   

明日の日本農業をつくるIPM
微生物農薬で安全・安心な米づくり −JAいわて南

◆全域で特別栽培米・ひとめぼれに取り組む

 JAいわて南(今野忠夫組合長)は、岩手県の最南端に位置し、義経や藤原三代など多くの史跡が残る一関市・平泉町・花泉町を管内に、平成10年に誕生した。JA販売事業の約6割を占める米を中心に畜産・園芸など、地域の特性を活かした農業が展開されている。
 米の作付け面積約5800haの95%が「ひとめぼれ」だ。「売れる米づくり」をめざして、ひとめぼれの95%と加工業者と契約栽培しているもち米「こがねもち」で特別栽培米および現在は表示できないが減農薬栽培米が生産されている。特別栽培米は、肥料成分中の窒素部分を半分以上有機質成分にし、農薬使用回数5回・成分数8成分(岩手県の慣行栽培は16成分)で取り組むもの。減農薬栽培米は、肥料は慣行だが農薬は特別栽培米と同じ基準で取り組むものだ。
 全域で特別栽培米に取り組むのが基本だが、そこまで取り組めない生産者もいるので、国の「特別栽培農産物ガイドライン基準」の対象外だが、「将来的に特別栽培米にシフトしてもらう」ことと、「安全・安心な岩手南米づくり」をアピールするために減農薬栽培米にも併せて取り組んでいると吉野孝亮同JA営農部農産課長。

◆独自の試験で効果や問題点を確認

 農薬の成分数を8成分に減らすが、穂いもちとカメムシ防除ははずすわけにはいかない。除草剤は1〜2成分で防除できればいいが、抵抗性がついていることなどから3成分に。育苗箱処理剤もはずせない…。と各ステージを見直すなかで、種子消毒で何かいい薬剤はないかと考えていたときに、クミアイ化学のトリコデルマ菌を活用した微生物農薬「エコホープ」に出会ったと吉野課長。
 微生物農薬は新しい剤なので、当初、県の防除暦には採用されておらず、試験場での知見も少なかった。吉野課長は、自宅のハウスなども使って、有機質肥料との相性などさまざまな試験を何回も行ない問題がないかどうか確認をする。秋に試験をしたこともあるという。こうした経過を経て、エコホープを使うことを決め、無消毒種子を使用した農薬成分数8成分の防除が確立する。

◆生産者の理解を深める努力が必要

 トリコデルマ菌は、化学農薬のように直接病原菌に殺菌力を発揮するものではなく、催芽〜出芽期の過程で種子表面で大量に増殖して病原菌の生育・増殖を抑え発病を制御する。そのため、出芽後に種子や培土表面にカビがでることがある。
 こういう現象は、化学農薬に慣れた生産者にはすぐには理解しづらく「苗がダメになったのではないか」という問い合わせが殺到したという。もし殺菌剤などを使ってしまうと、微生物が死滅してしまったり、成分数が増え特別栽培米基準からはずれてしまうので、そのつど営農指導員が農家に出向き、問題がないことを説明して歩いた。いまは集落座談会などで、微生物農薬の特徴を説明し生産者が新しい農薬について理解し、こうした現象に慣れてもらうような努力をさらにしている。
 もう一つは、微生物が生存していなければ意味がない。そのため温度管理に注意しなければならないので、農家への配送は直接手渡しするが、留守の場合は何回も行かねばならずこれが辛かったという。しかし、今年はドライタイプが出たので、こうした心配はなくなった。

◆難防除雑草などに対応できる基準設定を

 いま吉野課長を悩ましているのが、雑草の防除だ。新しい雑草の侵入や抵抗性雑草など難防除雑草が増えており、現在の農薬成分数では防除できなくなったり、防除すれば特別栽培米基準から外れてしまうからだ。最近の薬剤は、薬量を少なくして環境負荷を低減し、しかもピンポイントで効くものになっている。だから、成分数でカウントするのではなく「有効成分の投下薬量の低減も何らかの形で反映できるように考慮して欲しい」し、「雑草で雑草を抑える」ような方法も研究開発して欲しいと考えている。
 育苗まではある程度、閉鎖された世界だが、本田はオープンな空間なので、気候の変動や新しい病害虫や雑草の発生など、予測のつかないことが起こりうる。今後、そうしたことに対応できる薬剤開発や対応策が水稲のIPMを確立するためには求められていくのではないだろうか。


微生物農薬、環境負荷の少ない農薬を低コストで提供−クミアイ化学工業(株)


◆有効な微生物の製剤化に力を入れる

 「安全性に優れ、環境に優しい、顧客から信頼される製品を開発する」ことを品質方針に明記しており、「IPMの精神は、経営方針とも合致している」とクミアイ化学の永山孝三研究開発部長。そういう意味で、いま同社が力を入れているのが微生物農薬と環境への負荷が少ない化学農薬の開発と施用技術の確立だ。
 同社は、病害虫防除に有効な微生物を多数所有しており、それの製剤化に向けた研究開発に力をいれている。そのなかから誕生したのが、静岡県農業試験場が安倍川河川敷で採取したノシバの根圏から分離・選抜した、非病原性糸状菌・トリコデルマ菌の胞子を有効成分とする水稲種子消毒剤「エコホープ」だ。
 微生物農薬の開発は「微生物の培養、製剤化技術、生き物である微生物を生きたまま輸送できる流通技術、の3つが揃わないと商品化できない」(岡田義顕企画普及部長)。エコホープはこれらの問題をクリアして陽の目をみることができたわけだ。
 エコホープは水稲のばか苗病・もみ枯細菌病・苗立枯細菌病に高い防除効果を示し、これらの病害の同時防除ができること。微生物なので薬害の心配がないこと。また、生菌の微生物農薬のため特別栽培米では使用成分数にカウントされないことも大きな特長だ。さらに独自の培養技術と製剤技術で、保存性の高い固形化(水和剤化)に成功したエコホープドライで使い勝手も向上した。

◆環境負荷の少ない農薬も開発

 「水稲はIPMが比較的進んでいる作物」といわれるが、とくに、種子消毒や作付け面積の70%程度で使用されている育苗箱処理剤の果たしている役割は大きいといえる。
 そういう意味で、微生物農薬と環境への流失が極端に少ない育苗箱施用農薬をベースに、本田防除が必要な場合にはドリフトが問題にならない同社独自の「豆つぶ剤」とそれを水溶性フィルムで包んだジャンボ剤。さらに基本技術を守れば1回処理で防除できる一発処理除草剤など同社のIPMプログラムの果たす役割は大きい。

◆野菜・果樹分野でもIPM確立に貢献していく

 また、野菜・果樹類の灰色かび病に対する微生物農薬エコショット(登録申請中)や天敵に影響が少なく昆虫に選択的に殺虫効果を示す殺虫剤、さらには昆虫寄生性微生物を用いた微生物農薬などの開発・導入も進めており、園芸分野でのIPM確立に貢献するとともに、JA全農のIPM推進事業にも積極的に参画したいと考えている。
 同社では今後も、微生物農薬の開発と同時に、化学農薬の開発でも「選択性が高く、投下薬量の低い環境に負荷の少ない農薬をいかに低コストで提供できるか」を追求していく。
JAいわて南の特別栽培米「栽培管理記録簿」の一部
JAいわて南の特別栽培米「栽培管理記録簿」の一部
(2005.4.4)

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