農業協同組合新聞 JACOM
   

アジアの農業最新事情
韓国の農業関連組織の構造改革
−農業・畜産・人参協同組合中央会の統合と新システムの創出−
閔 勝奎(ミン スンギュ)
サムスン経済研究所 首席研究員

 

◆農業組織の構造改革

閔 勝奎(ミン スンギュ) サムスン経済研究所 首席研究員

 1997年末、韓国はIMF金融危機を招いた。国全体が経済危機に落ちた状態で改めて再建するためにはバブルからの脱出を図る体質改善が必要であった。政府と公企業はもちろん、銀行、私企業など社会のすべての分野にわたって生存のため構造改革が進んでいた。この様な変化の流れは農業部門においても例外ではなかった。
 韓国の農林部は、農業分野の体質改善のために自分から組織の構造調整を始めた。1998年から2年間で23%人員を減らし、職業公務員としての最高ポストである1級の席を4つから2つへと減らした。農林部の傘下機関である農産物流通公社の場合は42%の定員を減らすと共に組織の機能を整備した。この農産物流通公社の定員減縮比率は政府関連機関の中で最高値を記録した。
 また、農業生産基盤の整備機能を分担している農漁村振興公社、農地改良組合、農地改良組合連合会など3つの機関は統合され2000年1月1日農業基盤公社として新しく始まることになった。

◆3つの協同組合中央会の構造改革

 上で述べた農業関連組織の組織改革と同時に始まったのが3つの農業関連協同組合(農業協同組合、畜産協同組合、人参協同組合)の中央会の構造改革であった。
 この3つの協同組合の場合、同じ農民を相手に中央会が3つも存在していたために、会長、理事など役員だけでも数十人、職員の数は約10万人にのぼるほど巨大な組織となっていた。職員の1人当たり農民の組合員は14人に過ぎない状態であった。このような農協に対して農業者からは「これは農民のための協同組合ではなく役職員のための協同組合である」と批判が強まっていた。
 そこで1998年、政府は協同組合改革を農政改革の第1号の課題にして協同組合の構造改革を始めた。しかし協同組合の改革は利害機関の間の対立で意見の調整が思った通りには進まなかった。そのため政府が直接に表に出て協同組合の改革を推進することになった。政府主導の改革案を求めざるを得なくなったのである。
 農業協同組合・畜産協同組合・人参協同組合中央会を統合することとする、協同組合改革法が難産のあげく1999年8月に国会を通過し、2000年7月、統合農協中央会が公式に始まることになった。こうして、ようやく不毛な統合論争は終わり、3つの協同組合中央会が1つに統合されることになったのである。

◆協同組合の構造改革の背景

 今まで協同組合が、農業の発展と農業者の権益を守るために寄与をしてきたことは事実である。しかし農民らの目には農業と農業者がこれ程の危機に立たされている問題の根っこには、生産者団体としてのまっとうな役割を演じない協同組合にも責任があるということであった。 したがって、放漫な経営が維持されてきた3つの協同組合中央会を統合し、構造改革して、現場の農業者が実質的な利益を得られるように協同組合を改革せざるをえないという意見が強かった。
 過去にも何回もあった協同組合の改革はほとんどが部分的な改善に終始していたし、口だけでの改革であった。しかし IMF金融危機以後の韓国の経済状態は協同組合の構造改革を回避あるいは先延ばしすることができない状況であった。協同組合の間の機能重複、中央会と地方の会員組合の間の事業競合などで構造的な非効率は増加しつつあった。また金融及び流通市場の本格的な開放が進んでいく中で、今のような脆弱な協同組合の構造では競争で生き残るのが難しい状態であった。
 政府が3つの中央会の統合という厳しい改革案を推進したことも、このような事情によることであった。結局、痛みを伴うけれども、農業と農村の発展のために協同組合の改革をやらないといけないという深刻な危機意識から出発したものが協同組合の改革の背景であった。

◆協同組合中央会の統合の成功要因

 3つの協同組合中央会が1つに統合するまでに辿り着けた要因は、民主主義の3Cの原則を実行したことにある。
 第1、問題に対する常識(common sense)に鑑みて判断することであった。3つの中央会の統合に関連して改革の必然性はだれもが認めることであった。問題は利害関係者の抵抗を恐れてこれを実践できなかったことであった。
 第2、異なる意見があった時、互いの距離ができる限り縮まるように関係者らが向かい合って絶え間なく討論(conference)することである。
 1999年3月以後、政府は110回の討論会と国会を含めて5回の公聴会と76回の懇談会を開くなど利害関係者及び各界各層の意見を聴取した。その結果、多数の利害関係者が統合の必要性を理解し、さらには改革に参加することにもなった。
 第3、それでも合意できない時にはお互いに少しずつ譲歩して妥協(compromise)に至ることである。3つの協同組合中央会の統合過程において見られた、このような民主主義の3C原則に立脚した政策決定が統合の成功の要因だったと思われる。

◆構造改革の本質は新しいシステムの創出

 組織は有機体である。したがって、すべての経済組織は外部環境及び内部の与件変化に似合うように絶え間なく革新しないと存続できないのである。内外部の変化にも関わらずシステムの革新が行われないと、そのシステムは非効率が累積され崩壊しかねないのである。一時的に成功したシステムであっても、内外部の与件が変わるとシステムの効率は低下する。経済的な言葉を借りると、制度の疲労が重なりシステムを維持するのにかかる費用に比べてそのシステムを通じて得られる効益が少なくなるためである。
 にもかかわらず、一度定着したシステムは既存の秩序を維持しようとする慣性があるため容易に変わらない特徴を持っている。新しいシステムに対する必要性を認めていても、過去のシステムに慣れている構成員はできる限り慣れている既存の秩序を維持しようとする。
 特に変化の後に現れる状況に対する不安感のために、改革過程で不利益が予想される集団及び組織の構成員は組織の変化より現状の維持を願うのである。だから改革の責任者は推進の過程で現れる多くの抵抗に対して、うまく乗り越えるのが重要である。
 特に各分野のリーダーに要求されるのは、各々の専門分野に特化した知識よりは、組織全体を見渡す目と組織の変革を促す能力である。すなわち、革新追求型リーダー(Transformational leader)が切実に要求されるのである。このようなプロセスを通じて新たなシステムが、組織の構成員の意識と態度に沁みこんで定着した時、初めて改革が成功したと見なすことができるのである。

(2005.8.17)


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