農業協同組合新聞 JACOM
   

米価下落を考える=米流通業界からの提言

インタビュー コメへの「信頼回復」のため安全・安心対策が課題
産地と流通業界の連携で変革期を乗り切る

(株)ミツハシ代表取締役社長 三橋美幸氏に聞く
聞き手:北出俊昭 前明治大学教授



 15年産の米価高騰と下落は米卸業界に大きな打撃を与えた。その在庫が16年産価格のかつてない下落につながっている。価格の乱高下と需要減退の一方、米流通・販売面では安全・安心対策、JAS法への対応も求められた。米流通の自由化のなか、三橋社長は「今こそ産地と業界が連携を強めるとき」と強調する。米産地への期待と提言を聞いた。聞き手は北出俊昭前明治大学教授。


◆消費者の米不信とJAS法

三橋美幸氏
みつはし・よしゆき 
昭和33年神奈川県生まれ。56年早稲田大法学部卒、三菱商事入社。63年(株)ミツハシ入社、取締役就任。平成5年代表取締役副社長、7年代表取締役社長。
 北出 16年度は米政策改革の初年度でしたがこの1年をどう捉えてますか。

 三橋 15年産米から16年産にかけて価格がかつてない乱高下をしたわけですが、これはまさに自由化の証ということなのでしょう。そういう意味では、自立の必要性を感じさせられた1年だったという気がします。それこそ自己責任が明確に問われる、だからこそ自立しなければ、ということだと思います。
 これはコメ業界だけのことではないですね。とくに生活者サイドからの観点が昔よりもはるかに強まっています。

 北出 具体的にはどこに現れていますか。

 三橋 やはりJAS法の改正です。それも1粒たりとも表示と異なる品種の混入があってはならないという。昔では考えられません。
 ただ、そこまで厳密にすることが本当に必要かという議論もありますが、私は消費者の不信感がそれほどまでに強かったのかと受けとめています。
 私たちが設置しているお客様相談室には、米がおいしくないのは表示と中身が違うからではないか、古米を混ぜているのだろうといったクレームが来ます。決して不正はしておらず一所懸命に取り組んでいるのにそういう声があるのは、消費者にそう思わせてしまった過去の経緯もあったからではないか。 
 ですから、JAS法への対応とは消費者がわれわれに与えた試練、信頼回復のためのハードルだと考えるべきだと思っています。そのハードルを乗り越えるためにしっかり取り組み、その取り組みを消費者に伝える以外にはないと考えています。

 北出 流通自由化の一方で新たな法律への対応も迫られたということですね。


◆誇りの持てる業界への脱皮

 三橋 実はJAS法にきちんと対応できずに依然として不信感を持って見られ、働く人が誇りを持てないようであれば、もうこの商売をやめる、それとも投資をし、考えられるあらゆる対策をとって混入のない商品を製造するか、そのどっちかだと考えたんです。
 それでわれわれは仕事を続けていくと選択し、そのために全工場に今考えられる可能な限りの混入防止とトレーサビリティの新システムを導入したわけです。
 もちろんそれでも混入してしまうケースは絶対にないとは言えません。そのときにはさらに改善しなければなりませんが、少なくとも考えられる限りの可能な対策をとっていることが誇りを失わずに仕事ができることにつながります。
 今、私たちの商品にはロットナンバーが1袋づつについていますから、クレームがあったときにもその番号を教えてもらえば、どの精米機でいつ精米し、どのタンクに保管されたのか分かります。仮にクレームがあっても何が原因だったのか追求ができる体制になっています。
 今後は産地の方とも協力していきたいと考えています。われわれが取り組めるのは結局精米工場だけですから、産地とも協力しないと完全ではありませんから。


◆生産者とともに信頼回復を

北出俊昭 前明治大学教授
北出俊昭 前明治大学教授

 北出 生産者にとってもこの問題は重要です。乾燥調製機をいちいち清掃するなど負担もかかりますが。

 三橋 私も、1粒たりとも、という議論が前面に出すぎるのはよくないと思っています。
 たとえば、刈り取る品種が変わるときにはコンバインを掃除してその日付を記録しておきましょう、という取り組みがありますが、それは後から、いつ誰が掃除したのかということが分かるようにしておくだけでもいい、ということです。掃除をしていても混入があった、というのと、何もしていなかった、というのではまったく違います。
 1粒たりともという議論になると気の遠くなるような話になってしまいますが、それを考えるよりも一歩一歩の取り組みが大事だと思います。それが生産サイドとわれわれからのメッセージになるわけですからね。


◆かつてない米価乱高下の背景

三橋美幸氏
 北出 米価の乱高下はどういう影響をもたらしていますか。

 三橋 以前は米の価格はほとんど安定していましたが、最近は乱高下の幅が非常に大きいですね。これは自由化の波という明確なメッセージだと思います。これをいけないというわけにはいかず、自由化の宿命ということでしよう。だから備えがなければなりません。
 しかし、15年産の場合は、われわれには供給責任が問われるからと高値でも仕入れをした。ところが何が起きたかといえば、消費者は米に支払う額を実は決めていて、高くなったらそれ以上は買わない、ということから需要はストップした。
 供給責任を果たすために高くても仕入れているんだ、という姿勢も通らなくなったということです。売れる米を売れる条件で仕入れるという非常に難しいことが求められている。
 それを克服していく努力はしなければなりませんが、この世界は粗利の水準が低すぎますから乱高下すれば卸の経営は耐えられません。それが今回の破たんに表れた。
 ですから、価格の乱高下に耐えるには産地との連携を強めなくてはならないし、それを真剣に考えないと業界全体が崩壊してしまう。改めて生産サイドと卸サイドが連携して取り組んでいかなければ環境は絶対によくならないと思います。それはさきほどのトレーサビリティの問題も同じです。

 北出 今、JA組織はJA米を基本に安全・安心な米を供給するという運動に取り組んでいます。これをどうお考えですか。

 三橋 もちろんいいことだと思っていますが、課題は流通との連携ではないでしょうか。たとえばある先進的な農協では米の30kg袋1袋づつにバーコードを入れている。それによって生産者を特定することができますね。しかしながら、大変残念ですが私どもの工場では30kg単位では精米しませんので、互いの意図がマッチしないということになってしまいます。
 取り組んでいただいていること自体は非常にすばらしいことですから、一緒にそうした取り組みを考えることができればもっと効率的で安全確保に効果のあることが可能になると思います。


◆経営モデルづくりにチャレンジを

 三橋 それから、もっと根本的な問題として生産サイドの方とともに取り組みたいことは全体のコストの見直しです。流通コストの削減の問題もありますが、生産から流通までトータルコストをどうすれば下げられるのかをしっかり考えるべきだということです。
 コストを下げると、農家の方の手取りが下がるというイメージになりがちですがそうではなくて、1俵いくらという目標を設定して、それでも成り立つ経営を工夫するということです。今後もおそらく米価は上がらないと思います。そうなると上がらなくても成り立つ農業をめざす必要がある。われわれもリスクを背負いながらどう実現できるか、共に考えてみたいと思っています。

 北出 生産者にとっては何とか価格を維持できないかということから需給調整にも取り組んできましたが。

 三橋 先ほども指摘したように価格が上昇すれば需要は減退してしまうという状況ですよね。価格を維持しようとすれば需要が減ってトータルマーケットも縮小し、生産量も減っていってしまうと思います。
 それよりもむしろ価格はこの程度であっても経営が成り立つ方法がないかと考えるほうがみんなにとっていい解決策ではないでしょうか。

 北出 改革のためにはどんなことが必要でしょうか。

 三橋 米づくりのモデルケースをつくる必要があると思います。こういう工夫をすれば経営が成り立つな、と思えるような姿がいるんじゃないでしょうか。やはり農業をやればこういう夢が実現するという指針を与えることが今大事ではないでしょうか。


◆ともに新しいトライをし続けよう

 北出 需要に応じた生産、売れる米づくりも課題だといわれていますが流通業界からはどう評価しますか。

 三橋 実は売れるものを作るということは大変なことですよね。何が売れるか分かりません。だから、売れたものが売れるものなんです(笑)。
 他のメーカーを見ても、売れるかどうかは分からないけれども売れるんじゃないかとトライし続けているわけですよ。100のトライをしてヒットは1つあるかどうかという世界。売れる米づくりといっても、こういうトライ・アンド・エラーをもっとやっていこうということではないでしょうか。それを私たちは産地の方々と一緒になって地に足を着けて取り組ませていただきたいということです。

 

インタビューを終えて

 米をめぐる状況は激しく変化している。流通は多様化し、米価は不作で上昇した後下落が続いている。こうした状況は卸売業者をも直撃している。ミツハシは本年4月、最新の精米工場を完成させたが、それは消費者の間に強まっている安全・安心のニーズに応えるためであった。これまでも米の信頼回復に取り組んできたが、三橋社長は今後その必要性が一層高いことを強調された。生産・出荷段階からそれが要求されるのは当然である。
 同時に価格が高いと消費者は米の消費量を減らすので、生産者としてもコストなどの到達目標と達成方法を自ら持つべきこと、また、生産と流通を含めたトータルコストの低減を図るため、生産者・団体との協議の必要性も強調された。これは今後の重要課題である。さらに、“売れる米”とは結果として“売れた米”なので、常にトライ・アンド・エラーのチャレンジ精神が大切なことなど、消費者に直接対応している事業者の立場からの貴重なご意見を伺うことができた。 (北出)


(2005.5.17)


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