農業協同組合新聞 JACOM
 
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日本生協連の農業「提言」を考える

食と農に国民的視点からの提言を

JAみやぎ登米 阿部長壽代表理事組合長に聞く



 日本生協連の「農業・食生活への提言」検討委員会は、昨年7月から12月にかけて国内各地の農業現場への視察も行い提言をまとめた。その視察先のひとつが宮城県のJAみやぎ登米で阿部長壽組合長は検討委員会委員と意見交換をしている。改めて「提言」についてJAの立場からの評価を聞いた。


◆関税引き下げは自給率向上の放棄

――農業の現場ではこの「提言」をどう受け止めていますか。

 WTO農業交渉が微妙な時期を迎える段階に来ているのに、あえて関税引き下げ論を主張しているのは自給率向上を放棄したとしか思えず、日生協には大きな責任があると思います。言ってみれば協同組合運動をかなぐりすてて財界より先に輸入自由化、完全自由化を唱えている。その口火を切ったといわざるをえない感じがします。
 国内自給については農地もなく限界があり、国産農産物では食料をそもそもカバーできないから国際調達するしかない、なんとか自給率を向上させようという政策を掲げるのはナンセンス、と言っているような印象です。生産者と消費者が守ろうとしている協同組合間協同の放棄だし、産直、地産地消の取り組みで国内自給率を足もとから高めようとすることを頭から否定するように思います。日生協の提言でありながら協同組合運動からの提言がないことが極めて残念です。
――たしかに今回のWTO農業交渉の開始にあたって日本は「日本提案」をまとめ世界に向けて大幅な関税引き下げなど急激な改革は認められないとし、それが市民、国民の合意だと主張していますがそれは忘れられてしまったのかと思います。
 高関税によって消費者が日本農業の保護コストを負担している、と書いてありますね。こういう立論でいいのでしょうか。
 これは結局、関税というものが何なのか、あのとき議論したことが忘れられてしまったのかということです。関税というのは自然条件、地理条件といった生産条件の格差を是正、国際間で調整するというものですよね。それが無視され単に農産物価格に置き換えて消費者が保護コストを負担しているという。
 つまり、自給率を高めるコストは負担しない、自給率を高めるのは農業者たちがやればいいということにも聞こえてしまいます。
 しかし、現在の日本で食料がそれほど家計を圧迫しているのでしょうか。ちょっと調べてみましたが、エンゲル係数でいえば1960年ごろは48%でしたが、2000年には23%程度でそれ以降も変わっていません。実態として国民経済を脅かすような高価格ではないわけですよね。もっと国民的視点からの提言が必要だと思います。

◆社会分析と是正への取組みが協同組合セクターの役割

――ただ、日生協では所得格差が拡大する社会になって生協組合員にも低所得層が増えており、高関税でもいいとは言えない、という考えのようです。
 国民の間に所得格差が広がっているのは現実ですが、それを前提にして考えるわけですか。そうではなく格差が出ているのはなぜか、どう是正するのか。それを考えて運動を起こすのが生協ではないか、それが生活を守る運動でしょう。その分析がないまま関税引き下げだけを提言しているのは貧困な提言ではないでしょうか。
 しかし、安くて安全な農産物であればどこの国からでもいい、という考え、つまり、自給を否定する考えが根本にあるからそう主張するわけでしょう。多くの生協が本当にそう考えているのか、と思います。
―― 一方で農村地域社会の維持の必要性も主張し農業資源や環境の保全策は必要だとも提言しています。
 つかみどころがない主張だと感じています。一方で農業については産業としての農業を盛んに強調していて、それも農村を維持している家族農業の否定ではないかと思われる主張をしているからです。関税の引き下げを前提に効率的な経営に品目横断政策を、と言っていますが、その効率的経営とはやはり株式会社経営が念頭にあるのではないか。農地制度の規制緩和を求める主張からもそれが伺えます。
 ですから、産業としての農業と農村地域社会政策を切り離すべきだといっても、現場からすればそれはどういうことなのか。農村地域社会の必要性を言っていてもそれは肯定なのか、本当は否定的なのか分かりませんし、この部分は付け足しに思えます。私は家族農業が日本農業の基本だと思っていますから、家族農業を否定すれば農村地域社会も崩壊してしまうと考えます。


家族農業なくして自給率向上は果たせるか

◆農業と農村社会は切り離せない

――政策的に支援するなら、今後は効果がある対象と透明性のある方法で実施すべきという提言もしています。
 品目横断政策についてとくに担い手を限定し、いわば投資効果が分かる経営に支援をしていくべきだということですね。そして透明性を確保するなら株式会社経営のようなもの、と考えられているのでしょう。
 しかし、透明性を言うならこうして農村の地域社会が健全に維持されていること自体が最大の透明性の証明ではないでしょうか。日本は都市と農村がバランスをとって発展していくように維持してきた。それで所得格差もさほどない社会になってきた。農村に来れば景観も農業も含めて地域社会がある、それが透明性をいちばん示しているのではないか。しかし、現実には農村はさびれて厳しい状況になりつつあるわけです。そこで産業としての農業と農村地域社会への政策を切り離せということですが、現場からすれば切り離せないのが実態です。結局、産業としての農業論というのもよく分からないものになっていると思いますね。

◆自給率向上に向け国民的運動の展開を

――この提言をめぐっては生協と農協などの協同組合間提携や、あるいは協同組合運動そのものが問われているという受け止め方も多いようです。
 協同組合のなかで、同志的な批判というものをしなければならないですね。それがこのところ欠落していたことが今回のような生活協同組合側からの提言が出てくることになったと思います。
 厳しい状況ですが、私は浮き足だってはいけないと思います。ここで腰を据えて立ち止まって協同組合原則から考えるべきです。
 かつてのウルグアイ・ラウンド交渉のときは食管制度もあってお互いに共通目標があった。それが自由化によってそれぞれが自由化に対応することが迫られ、確かに提携とか、同志的批判というものがなくなった。いわば分断されてしまったのかもしれません。
 私は日本の農業は家族経営、兼業農家があることが基本的な構造だと思います。新基本計画では集落営農を担い手として認知しましたが、当然な構造政策だと思います。それを前提にしなければ自給率の向上もできないと思います。
 自給率をどう考えるかということについて、否定的な意見も多いし私は新基本計画は自由化の総仕上げだと思う。そういうなかで本当は生協と農協陣営がともに食料自給率の国民的な議論を仕掛けるべきです。農村を健全に維持し、どうすれば高められるのか、双方の組合員の数を考えれば非常に大きな運動になる。
 こういう運動を仕掛けることこそわれわれが取り組むことではないか。私は農協の事業改革には農協運動の再構築が必要だと主張していますが、生協も同じで事業改革をするなら、原則に立ち返って運動を起こすことを考えてほしいと思います。


(2005.7.11)


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