農業協同組合新聞 JACOM
   

JA米事業改革の現場から

「買ってもらえる米づくり」へ
意識改革を進める

JAしろねに見る米販売戦略


今年も稲刈りのシーズンを迎えた
今年も稲刈りのシーズンを迎えた

 「シリーズ・JA米事業改革の現場から」の第3回は、新潟県のJAしろねを訪ねた。
 新潟県では17年産から「コシヒカリBL」への全面的な切り替えを図っているが、これはJA米の要件のひとつである種子更新を生産者に徹底させる契機にもなっている。ただ、売れる米づくりに向けては、銘柄が確認された種子の使用や生産履歴記帳運動に加え、新潟米の一層の品質向上とばらつきのない均質化努力が求められている。こうした課題を乗り越えるためJAしろねでは稲作部会がJAと一体となって生産から販売までをリード。生産者自身が販売の環境を把握することで「売れる米づくり」から「買ってもらえる米づくり」へ一歩踏み出している。

販売の最前線に出向く「稲作部会」が機動力を発揮

◆個人完結型農業の結める

小林明義 営農米穀課長
小林明義
営農米穀課長

 JAしろね管内は、今年(17年)3月に新潟市と合併した旧白根市地域で市中部から南部にかけての信濃川と中之口川に囲まれた平坦な地帯である。
 水田面積は4200ヘクタール。米の平年生産量は2万トン程度である。作付けされる品種はコシヒカリ、こしいぶきのほか、もち米(わたぼうし、こがねもち)、酒米(五百万石)がある。
 良質米産地として米づくりにもちろん力を入れてきたが、実はJAの農産物販売額63億円のうち、米は29億円と半分以下にとどまる。ブドウ、桃、梨、洋なしなど果樹生産や施設園芸が盛んで、転作対応で増えた野菜づくりと合わせて、複合経営の生産者が中心となっている。
 米づくりがコシヒカリ一辺倒にならず他の品種の作付けも進んでいるのは、こうした果樹などの生産が盛んなことも影響している。
 「品種が多いのは、労力・作期を分散させるためや自家用のもち米は自分で確保するといった昔からの考えもあるが、果樹や野菜など園芸作物の販売状況を肌で感じ、“米も需要のある米づくりが必要”と市場動向に敏感になった生産者が多いことも理由です」と営農部営農米穀課の小林明義課長は話す。
 JA管内では、コシヒカリとこしいぶきのほかに、もち米を1品種栽培するのが平均的な作付内容で、10ヘクタール程度以上に規模拡大した生産者ではさらに酒造組合との契約で酒米の生産も手がけているという。
 ただ、JA出荷者850人の生産者のうち、10ヘクタール以上に規模拡大したのは10人程度、20ヘクタール以上を耕作する法人も10法人ほどで、平均2.5ヘクタール規模の生産者が地域農業の中核をなす。しかも、カントリー・エレベーターやライス・センターといった集荷施設はなく、栽培から乾燥調製まで自己完結で行う生産者を売れる米づくりに向けていかに結集させ産地としての評価を得るかが課題となっていた。

◆販売のための組合員組織

小田信雄 稲作部会長
小田信雄
稲作部会長

 自己完結型農家がJAに結集する核となっているのが約260人で構成するJAしろね稲作部会だ。前身の組織を含め今年で結成10年になる。きっかけとなったのは食糧法改正で売る自由が喧伝されJAへの結集力が落ちたことだった。
 「訴えたいのは、このままJAへの結集力が低下することは市場で力がなくなるという危機感。ところが、米は黙っていても売れる、現に刈り取りが終り、JAに出荷すれば売れているはず、という認識がまだまだ根強かった。意識を統一した米づくりをしJAに結集しなければ販売は困難になるという意識を持つべきだということを強調しました」と小田信雄部会長は話す。
 こうして部会が中心となって土づくりのための土壌改良剤普及や高温登熟防止のための田植え時期の適正化指導、適期防除など品質向上に向けた米づくりの徹底をめざす取り組みを進めてきたが、特筆されるのはそればかりではなく稲作部会として京浜、阪神地区の卸業者などを訪問、生産者・JA・全農が一体となり、市場ニーズを知る機会を継続的につくったことだ。
 17年度は、部会長など一部の部員、JA職員だけでなく9支所から生産者とJAの営農指導員合わせて20名ほどが参加する視察研修を行った。参加者の感想をJAは広報誌で3カ月連続で連載している。そこでは「ただ作ればいいという考えではなく課題があることに気づいた」、「新潟米はおいしくて当たり前と思われている」、「高品質で安定した生産が求められている」、「個人の勝手な行動でブランドは簡単に崩壊する。検査等級のみが重要という考えを直し、ブランドは生産者が自ら守らなければならない」、といった厳しい認識が示されている。
 小林課長は「販売のための生産部会という性格が大きな特徴。視察を通じて生産者の意識を変えてもらうことが品質向上につながるという狙いです」と話す。

消費者と価値観を共有し
再生産の確保めざす運動を展開

卸などの業者を視察した体験を連載するJA広報誌
卸などの業者を視察した体験を連載するJA広報誌

◆JA米をベースにして高品質化をめざす

 JA米の取り組みもこの稲作部会が中心となって進めてきたが、17年産ではコシヒカリBLへの全面切り替えによって、JA米の要件である種子更新の必要性について理解が高まったという。JA米の対象にはこしいぶき・五百万石や今年からはもち米も加わったが、JA以外からの種子購入の場合は保証票や販売証明などをJAに提出することになっている。
 一方、生産履歴記帳については園芸が盛んな地域で、履歴記帳は「米も記録して当り前という意識が浸透していた」という。記帳用紙はあらかじめ記入された事項をチェックする方式ではなく肥料、農薬名などを使用量を含めてすべて記入式となっているが、「野菜や畜産ではもっと複雑。生産者はすでに鍛錬されていた」と小田部会長は話す。16年産では点検の結果、生産基準が守られていなかった例はなかった。
 16年産のJA米の実績は作柄の影響があって7100トンにとどまったが、17年産では8800トンが目標。
 このJA米をベースに国のガイドラインによる減農薬減化学肥料栽培(農薬使用量10成分以下、化学肥料使用量10aあたり3kg以下)と「全農安心システム米」に取り組む生産者もいる。
 減減栽培米や全農安心システム米は卸売業者経由で大手量販店などに販売されている。
 さらに現在、北海道の生協との間で同JAのコシヒカリをプライベートブランド化する話も進んでいる。JAと部会では全農と同行し、定期的に消費地へ販売推進を行い、生産現場の生の声を伝えるとともに、話し合いの場に臨むことを通じて「しろね米」を産地指定してもらうことも目標のひとつにしている。
 小田部会長はその理由について「生産履歴記帳などかなりの負担が生産者にかかっているのは事実。だからといって有利販売をめざすのは米価が下がっているなかでは難しい。食べてくれる人に自分たちの米づくりを直接話し信頼関係を築いて、“来年も頼みます”と言われることで再生産を確保していく。いわば米づくりについての価値観を共有する運動として取り組むべきだと考えているんです」と話す。

◆栽培法の地域統一化が課題

JAの本所と米倉庫
JAの本所と米倉庫

 実需者、消費者との話し合いのなかで最近急速に求められはじめたのがコンタミの防止だ。
 「どう防止策をとったのか、翌年の話し合いでは答えが求められる。絶対に混入がないとはいえないが、ここまで防止策に取り組んだということを証明できる体制は必要になる」。
 部会では今年、乾燥機の清掃のためのブロアー(送風機)やバキュームなどの購入費を定額補助をすることにしたが、申し込みが予想以上に多く「買ってもらえる米づくりという意識は急速に波及してきた」と現状を評価する。
 一方で、土壌分析値や食味値を生産者にフィードバックして生産面での課題を明らかにし、全生産者が各品種ごと統一した栽培に取り組むことが産地としての評価をさらに高めることから、こうした課題解決のためにも「生産者の意識改革を進め稲作部会が機動力を発揮する」とリーダーの小田部会長は目標を掲げている。

JAしろね JAしろね概要(16年度)
・代表理事組合長:高橋豊
・組合員数:4933人
 (うち正組合員数3360人)
・販売品取り扱い高:61億9000万円
・購買品取り扱い高:36億3700万円
・貯金残高:338億5700万円
・長期共済保有高:2560億2700万円
・職員数:177人(臨時職員含む)

(2005.9.13)


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