農業協同組合新聞 JACOM
   

JA米事業改革の現場から
鼎談
「JA米」を標準米とした米づくりと
販売戦略がJAグループの課題


出席者
JA佐城(佐賀県)・円城寺吉一副組合長
JA全農米穀部・大貝浩平事業対策課長
(司会)北出俊昭・前明治大学教授



  「シリーズ・JA米事業改革の現場から」は、これまでJA米に取り組む産地の動向を中心にレポートしてきた。JA米の出荷量は17年産で目標の200万トンを大きく超える250万トンとなる見込みだ。ただ、今後は消費者に認知されるために精米販売を進めていくことが、この10月に打ち出された米穀事業改革でも核になっていることから生産現場には量の確保だけでなく、JA米としての要件を着実に満たす「質」の一層の向上が求められている。全農の事業改革でもJA米を販売戦略の核とする方針が示されている。
 今回はJA米の取り組みを進める課題と同時に、全農の米穀事業改革がめざすものも含めて話し合ってもらった。


◆改革は米の需給調整が大前提

大貝浩平氏
大貝浩平氏

 北出 今日は、売れる米づくりに向けJA米を核にした米事業改革をテーマに話し合っていただきたいと思います。
 まず最初に16年から米政策改革がスタートしたわけですが、現在の米をめぐる情勢について大貝課長からお話いただけますか。
 大貝 昨年の4月から計画流通制度がなくなって米の流通は原則自由ということになりました。従来は、全農は自主流通法人、経済連は第2種出荷取扱業者というように制度的な位置づけがあったわけですが、制度がなくなったことで極端にいえば全農も1つの米の取扱業者ということになりました。
 一方、需給をみると潜在的に供給過剰となっています。生産者には生産調整に取り組んでいただいているわけですが、17年産の水稲作付け面積は170万ヘクタールでした。需要量に対する適正な作付け面積は165万ヘクタールですから過剰作付けという状況です。
 結果として供給過剰になれば、どんな売り方をしても価格は浮揚しません。農家の方々には生産調整が強化されているにもかかわらず価格が一向に上がらないということに対するいらだちがあると思います。
 ただし、今までの需給対策はわれわれが集荷した米を在庫として調整保管して市場から隔離してきたわけですが、振り返ってみるとこの取り組みはJAに出荷され全農に委託されたお米に対してのみで財源負担し、需給調整してきたのですから、結果として農協と競合する業者のただ乗りを許してしまうことになりました。JAグループが一生懸命、財源負担をして需給環境を整備すると、それは新米の売りやすい環境をつくることでもあり、一方で、JAグループは市場隔離した米を古米として値引きして販売していかなければならないという矛盾ともいえる事態を生じさせていました。このことは、農協に出荷した人に負担を強いることにもなり、手取りを下げることにもつながったともいえます。
 さらに全農は統合したけれども、実際の販売現場では、県間競争は品質競争ではなく価格競争になってしまった。限られた大手卸に買ってもらうために販売対策費を使って競争し、それがどんどん増えることによって共同計算コストが上がって、ますます競争力を失い、その結果として集荷力が落ちるという悪循環に陥っていったのではないかと考えています。
 こういう事業方式ではJAに米を出荷した人が馬鹿をみてしまうということから、抜本的な見直しを行うこととし、その視点として農家の手取りの最大化をめざすことを基本に、今回、米穀事業改革を行うことにしたわけです。ただし、その前提はやはり需給をどう引き締めるかが課題だと思っています。
 北出 需給調整と集荷が課題だとの指摘ですが、現場の最近の状況はいかがですか。

◆時代の変化とJA米への期待

円城寺吉一氏
円城寺吉一氏

 円城寺 JA佐城は平成13年に7JAが合併して発足しました。とくに南部は米麦地帯で米、麦、大豆の販売額は通常であれば100億円ほどあります。しかし、昨年は台風、今年は台風と高温障害で作況は93となりました。さらに品質も悪く1.7ミリから1.85ミリの間に約1割が入っていますから、実質出荷できる米の生産量でいえば作況は80程度になってしまうという状況です。
 ただ、系統全体の集荷率は今も話があったように50%を切っている状況ですが、佐賀県は消費地が遠いこともあって農家が自ら販売に取り組むという動きは制度が変わってもほとんど出ていません。JAの共同乾燥施設のカバー率は約7割ですし、個別出荷でも農協集荷がありますから全体の集荷率は約8割になります。
 こうした状況のなかで、売れる米づくりに向けたJA米については、これが標準米だという考えで16年産から取り組んだところです。私は将来必ずJA米、あるいは系統をきちんと通しておかないと大手の卸は買ってくれなくなるんじゃないかと思っています。安全、安心というのはきちんとした裏付ければならない。そういう意味からもJA米の取り組みが必要だということです。
 北出 計画流通制度がなくなるという大きな変化のなかで、JA米の取り組みが非常に重要になってくるということですね。全国的な取り組み状況はどうなっていますか。16年産では100万トン、17年産は200万トンを目標にしていたと思いますが、実態はいかがでしょう。

◆消費者に認知される標準米めざす

 大貝 JA米の取り組みは15年11月にJAグループの米改革戦略として打ち出しました。これからは安全、安心をコンセプトにして一定の要件を備えた米を扱い、JAグループが扱うそうした米が標準米であって、だから価値があり、安売り商品とは違ってきちんとした価格で販売されているということをめざさなければならないと考えています。そうなれば産地も安定した営農ができるということを目的とした取り組みです。
 16年産では178万トンがJA米として集荷されました。17年産では250万トンを超える見込みで全集荷量の7割を占めるという状況になっています。
 数量的には当初の目標をクリアしている状況ですが、JA米として消費者に認知されていく取り組みという面ではまだこれからです。玄米段階で数量が増えても消費者の方は玄米で食べるわけではないので、精米としてのJA米販売にも取り組む必要がありますが、現在は精米段階まではJA米としての表示は普及していません。こうしたことを解消していく課題としてはたとえば、精米工場でのコンタミ(混入)の問題があります。もちろん意図せざる混入ということですが、玄米段階での確認対応を優先し、工場も含めた精米の確認対応が十分でない点もあり、精米での表示が進んでいない面があります。
 今後は消費者に認知していただける取り組みが必要ですから、そのためにはまず生産段階でも中身が伴っていなければならないわけですから、量が目標が超えたからいいということではなく、さらにきちんとした質に高めて消費者に売っていく。その結果として量も増えていくということが大切になると考えています。今後は量の追求ありき、ではないということですね。
 米事業改革でも精米販売に力を入れると言っていますが、それはJA米を核にした販売戦略を立てるということです。安全、安心について厳しくなっていますし、来年5月からはポジティブ・リスト制度が施行されます。これは加工食品も含めて、食品衛生法に基づく安全が問われるわけです。ただし、われわれは生産履歴など工程管理をきちんとして、農薬についても正しく使用していれば問題はないと考えています。ただ、無実の証明のためには、生産者が生産履歴記帳をきちんとしていなければ対応できないということです。それから種子更新、農産物検査の受検ですね。こうしたJA米の取り組みが行われることがポジティブ・リスト制度の施行にも対応できるということです。その結果、取引先からやはりJA米がほしいと言われるような状況になるようにわれわれとしても努力していきたいと考えています。

◆質を高める努力は現場から生み出す

北出俊昭氏
北出俊昭氏

 北出 JAとしてJA米の取り組みにはどんな課題がありますか。
 円城寺 16年産からJA米に取り組みましたが、これは1支所だけでした。種子更新という点でいえば管内全体で7割から8割は実施されていましたが、あえて確実な地域だけに絞って出荷することにしました。
 というのもトレーサビリティの問題や品種管理の問題も出てきたからです。偽装表示になるようなことはないと思っていましたが、初年度はどうなるか分からないため限定しました。17年度は100%をめざして取り組み90%はJA米として出荷できる見込みです。
 また、18年産の生産目標数量は全国で3県だけ昨年より増えましたが佐賀もそのひとつです。これはJAへの集荷率が高く系統利用も高いためだと考えています。そういう点では経済連、全農にきちんと販売してもらう機能を今後も期待します。 農家も最初はそんなことできるかといいながらもだんだん理解していきます。だから、担当職員にもきちんとしたスタンスを持って、理解できるように説明するよう言っています。
 北出 JA佐城では慎重な対応からスタートしたということですが全国的にはどうでしょうか。
 大貝 JA米の生産量に県間で差があるのは確かですが、一概に量が少ないからといって取り組みが遅れているということは言えないと考えています。つまり、円城寺副組合長が強調されたように、万が一ということを考えた場合、しっかりとした取り組みが地域全体でできるようになるまでは控えておこうという地域もあるわけです。
 全農としても、量がそれなりにあるからこそ影響力が大きいので、もう一度足下から固めようと考えています。農家の方には負担を強いることになるかもしれませんが、もし万が一のことがあれば取り返しがつかない、全部が信頼を失ってしまうわけですから。全農自身の問題も含めて原点に戻って確かめながらやっていかないと、実需者や消費者からもこれは本当に大丈夫か、ということになってしまいます。逆にいえばそこがきちんとしていれば、実需者にとってもJA米を扱っているということがステータスにもなるということだと思います。
 円城寺 全農がJA米を打ち出したときに、たとえば種籾は新しく買わなければいけないわけですから、経済的負担を強いるのかなどいろいろ意見はありました。
 そのなかで生産者からは高く売るためにJA米を作るのかという声が出てきました。いちばん最初に出てきたことがこれです。しかし、そうではなく、これが当たり前でJA米じゃないと価格は下がるよと訴えた。

◆「高く売るため」ではない JA米、意識改革も課題に

 北出 高く売るためにJA米を作るんだという意識が多かったと?
 円城寺 そうです。そうではなくてこれが当たり前だということですね。管内でも棚田で減農薬栽培するといった米づくりは行われていますが、それは別にしてJA米はそれとは違うということを言った。当初、高く売るために、という意識が感じられたものですから、これは勘違いが生まれては大変なことになるなと思い、JA米が標準米だということを理解してもらわないと、たとえば種子更新だけして生産履歴記帳はしていないなどのことが起きたり、農薬にしても不適正な使用をしていたなどのことが分かれば大きな問題になるわけですね。
 ちょうどそのときにある県の卸でコンタミの問題が起きた。DNA鑑定したら佐賀のヒノヒカリではないという結果になったんです。調べてみると精米機に残っていた前の米がサンプルとして採取されていたことが判明したので、われわれの問題ではなかったわけですが、たとえばこういうことが起きてますから16年産の取り組みではJA米の集出荷は限定したわけです。ただ、17年産からは100%をめざした取り組みを行いましたが、農家の意識も比較的早く変えることができたと思っています。
 北出 JA米は当たり前の取り組みだということですね。これは非常に重要な点だと思いますが、全農としては課題をどう考えていますか。
 大貝 まさに円城寺副組合長が指摘されたとおりです。つまり、これが標準品ですよということですね。今までは、生産者の方は、わざわざ生産工程管理をきちんとチェックしながら生産履歴を記帳することなどなかったと思いますから、これは大変な負担だとは思います。これだけ苦労したのだから高く売ってくれるのだろうという思いが出てくることも分からないでもありません。労力がかかっているわけですからね。農協の職員の方も農家からそう言われればつらいところもあると思います。そこが現場では難しいと思いますが、DNA鑑定などは簡単にできてしまう時代ですから、非常に緊張感があるといいますか、きちんとした米をきちんとしてかたちで消費者に届けるということができないと信頼が得られないということだと思います。

◆全農一体となった販売が改革の柱

大貝浩平氏

 北出 とにかくいいものを作る、それも消費者にきちんと分かるかたちで届けるということですね。その販売については今後全農はどう取り組むことにしているのでしょうか。
 大貝 われわれの反省とすれば今までは米が集まってきてから販売を考えるという方式でした。5月、6月に出荷契約は結びますがその時点では作柄も見えないということもあって、やはり9月、10月になって米が集まってから販売を考えるという食管型というんでしょうか、まず集めることからスタートするというスタイルでした。
 しかし、制度も変わったわけですから、まずお客様、卸だけではなく、外食、中食、量販店など実需者がどういう米を求めているか、というところから販売を考えるということです。価格帯、産地、きめ細かな品質など求めるものが業態によっても違いますから、それに合ったお客様をみつけて、複数年で契約を結ぶ。それも数量だけではなくて価格もセットで提案する。そのうえで今度はお客様が要望する米を産地にも提案して作ってもらう。こうした手間はかかりますが、播種前の契約栽培的な取り組みを進めていく必要があると思います。
 北出 JAとしての販売対応はどうお考えですか。
 円城寺 基本的には全農の方針のように集荷するだけではなく販売を考えた米づくりをするしかないと思います。
 ただ、米のブランド化を考えるとき何がブランドになるのかが問題だと思います。
 私たちは品質を向上させるために田植え時期を統一しトレーサビリティもしっかりするなどの対応で米を作り系統を通じて販売していきたいと考えています。
 有機栽培などの特徴ある作り方をする農家もいますが、農家が直接販売するのでは何か問題が起きたときに困るのは農家自身だと思うんですね。つまり、きちんとした裏づけがないんですよ。たとえばJA米であれば3つの要件をきちんとクリアしていなければなりませんね。しかし、農家個人で販売している産直品には裏づけがない。問題があったときには個人でどうしようもないし、その個人の問題だけで済めばいいですが、JA佐城のものはだめだということにでもなればわれわれも困ってしまう。
 だから、農協に出荷してそれを産直というスタイルで販売するならいいということで農家にも呼びかけています。農薬の使用法などもJAではきちんとチェックするわけですから。
 栽培上の問題だけではなく、米の場合は精米で販売するとなると品質管理も問われます。ところが色彩選別機や石抜きなどの装置がない精米機を使っていることもありますから、もし問題があれば二度と買ってもらえないでしょう。消費者は精米で食べるわけですからね。
 つまり、きちんとしたルートで、農協、経済連、そして全農のそれぞれの段階でチェックして販売していくものがいちばん安全だということです。私はこれが当たり前だと思いますね。

◆JAと連合会の機能分担と販売戦略づくり

円城寺吉一氏

 北出 ところで、JAの直接販売については今回の全農の米穀事業改革では、決して否定はしていませんがリスクもふまえて考える必要があることを指摘していますね。この問題について大貝課長からお聞かせいただけますか。
 大貝 JAはまさに私たちの組織の源であり、会員、出資者ですから、連合会はあくまでJAの事業を補完するという観点からすればJAの直接販売についてはだめだというようなことを言う立場にないと思います。 ただし、JAも農家のために存在するわけですから、JAが直接販売する場合に、農家の手取りが連合会に委託するより少ないということであれば考えなくてはならないということです。
 買い手の立場からすると全農から買うのではなくてJAから買うのだからその分安くしてくれということになります。実際に安くしないと売れないということがあり、それが安売り合戦を誘発するようなことになってはよくないですから、そこは連合会と連携、協調する必要があると思います。同じグループなのに安売り合戦するということになれば、それこそ農家の手取りの引き下げ合いにもつながりますから。
 もちろん一方で全農を通じた販売のほうが手取りが低いということであれば、それは共同計算コストがかかりすぎているということですから、われわれも反省して見直さなければならないということです。
 今回の改革では全農の使命として生産者手取りの最大化と、生産者と消費者の懸け橋機能という2つを打ち出しています。生産者が作って喜び、消費者が買って喜び、そしてその間に入って感謝される取り組みをめざすということです。流通経費を圧縮して、われわれに販売を委託していただいたほうがコスト面でも有利、代金の回収でも安心でき、産地情報を伝え、また消費地情報も発信されるという機能を発揮して認めていただけるような取り組みをしようということです。今後は機能で結集していただけるような事業のスタイルに変えていきたいということです。
 円城寺 私たちのJAは基本的に系統に販売を委託していますから、全農にはあの手この手を使って多元的な販売に力を入れてほしいですね。特色ある米がJAから出てくればその売り先を探して結びつけるという努力をしてほしい。
 一方で私たちは地元の学校給食向けなどの直接販売には徹底して努力していますが、私たち自らが東京に出てきて販売するようなことはしないということです。これは青果物も含めてですが、実際に東京にしょちゅう来て消費者の実態を知るということができるわけではありませんから。
 手取りの最大化の問題でいえば、実際は生産者による産直では価格競争になってしまうことです。調べてみると直販した場合が結果としていちばん価格が安い。最初はそこそこの価格で販売できて手取りもいいと思えても、2年目、3年目になってくると価格が引き下げられてしまうからです。結局、安くないと買ってもらえなくなる。
 米の場合、私たちは内金、追加払い方式としていますが、出来秋に業者はこの内金水準に少し上乗せして生産者から買う。しかし、翌年の3月に追加払いをすればJA出荷のほうが価格が高いんですね。こういうことをもっと農家に理解してもらわなければならないと思っています。


生産者に理解求める運動が生産現場の課題に

◆生産者が安心して米づくりできる契約方式へ

 大貝 その点でも播種前の契約などが重要で、米ができて集まってから販売をすると、どうしても早く売ってしまいたいとやはり価格面では買いたたかれがちになります。ですから、営農の安定のためにも、播種前に売れる量と価格が見通せる形でないと生産者にとっても安心できないことと思います。
 また、米づくりの課題として生産コスト削減による所得の向上ということがありますが、最終手取りが分からないと、なかなか生産コスト削減に向けた取り組みも進まないのではないかと思います。手取りが分かれば、あとは生産者の方もいかに生産コストを削減するか努力することによって、さらに手取りを増やす余地も出てくると思います。このために農地利用の面的集積や機械の共同利用などの生産コスト低減に向けた取り組みにもつながる面も出てくると思います。
 北出 そうした契約栽培的な取り組みは具体的には3月ごろに結ぶというイメージで考えていいわけですか。
 大貝 そうですね。できれば3月から4月ごろまでには18年産の米について量と価格の両方を決めていければいいと思いますが、まず一歩一歩取り組みを着実に進めていきたいと思います。
 これまでも年間契約はありましたが、それは量だけでした。価格は入札価格で決めましょうということになっていたのですが、そうすると、買い手の皆さんはどうしても量はすでに確保できているわけですから、入札では低い価格でしか札が入らなくなります。そうではなく、今後はあらかじめ量は確保できているわけですから、卸、実需者の皆さんにとっても調達リスクはないわけですから、そこを理解してもらって価格もきちんと決めてください、ということを求めていくということです。
 北出 全農は数多くの産地銘柄を把握しているわけですから、取引先の要望に応える契約を広げていけるということですね。
 大貝 そうです。それから不作のときの対応も重要になります。北のほうでは冷害という生産リスクもありますし、南では台風という生産リスクもありますね。それぞれの産地にリスクがあるわけですから、一部の産地銘柄だけでの契約だけではなかなかうまくいかないと思います。それで、全農において産地ごとのリスクをヘッジして、契約を結ぶことで対応していけると考えます。
 北出 ただ、産地には自分のところの米は特徴があり、おいしいという思いがそれぞれにあると思います。そのときに今後は全農として一本化して販売していくとなると自分たちの米はどうなるのかという声も出てくるのではないかと思いますが、そこは具体的にはどういう姿になるのでしょうか。
 大貝 全農が一枚岩で販売するといっても、それはたとえば全農米として売るというようなことではなくて、それぞれの産地、銘柄があるわけですから、販売はそうした産地銘柄で行っていきます。
 これまでは同じ全農なのに、卸に対して、ある県本部がこれだけ値引きしたとなると、ある県本部はそれよりもっと値引きする、ということをやってきたわけですね。これは農家にとって絶対にプラスにならずマイナスです。この方式はもうやめて、売るときにはある県産銘柄、あるいは、あるJAの米も、全農として一枚岩で販売していこうということです。

◆生産者から信頼され評価される事業方式に転換

北出俊昭氏

 北出 その一枚岩の販売のための仕組みはどうなるのですか。
 大貝 来年2月に全国本部に全農米穀グループ販売戦略統括部署を新設して情報を共有化するということです。これまでは県本部の独立性を考えてそれぞれ情報も遮断されたなかで販売をしていましたが、そのことが先ほどから指摘しているような事業をいびつなものにして流通コストが上昇することにもなったわけです。
 ですから、全体的にオール全農として、販売戦略をつくり、内部で販売も調整していくということです。全農として一つの事業体なわけですから、データも集約したうえで最適な販売を考えていくということですね。
 北出 米の流通は自由化したわけですが、自由化したのだからもう一度JAグループの米事業を再編成する必要があるんじゃないかということからの改革でもあるわけですね。
 円城寺 今ごろなぜという声もあるようですが、私は今からでも遅くはないと思います。自由化の流れのなかでJAも農家も、そして全農も感覚がずれてきたのではないかと思いますね。自由化というのは競争しなさいということですね。それがいい方向での競争になっていればよかったわけですが、悪い方向の競争になってしまっていた。この際、本当に若い職員の方々も含めていろいろな新しいかたちを作り出していってくれると思いますから私はそこに期待をしています。
 一方、機能分担の点でいえば、私たちは安心して消費者に届けられるものをきちんと生産するということだと思います。その点で私たちにとっては生産者に対しても思い切った指導が必要だと思いますね。米の品質が今年のように悪かったのは確かに天候が原因ですが、それだけのせいにしてはいかんと職員に言っているんです。植え付け時期、落水時期についても問題があることは事実です。卸からは昔にくらべて米の粒が小さいと言われます。そういう指摘について対応ができていたかどうか、天候のせいばかりにしないでもう一度意識の改革も進める。これは大きな改革だと思います。
 厳しさがないと絶対にいいものはできないですね。先ほどから申し上げている高温障害の問題ですが、今は6月25日ごろを田植え時期としています。それをもっと遅くすれば被害が避けれるわけです。県内のある農協が農家の反発に合いながらも昨年からそれに取り組んだのですが、きちんと結果が出たそうです。厳しく指導しないと緊張感も出ません。結果が良ければありがたかったということになるわけですから。

◆JAグループの農産物は安心だといえる取り組みを

 大貝 摩擦を恐れずにきちんと問題提起をすることが私たちにも求められています。たとえば、JA米についても厳しい管理マニュアルをつくっていますが、今後はそのマニュアルどおりでなければ、JA米として扱えないんだということ、さらにはJA米ではない一般米は、価格が下がるということなどもきちんと理解していただくような提起もしていきたいと考えています。
 北出 それでは最後に今後の米づくりについてそれぞれの現場から課題についてお聞かせいただけますか。
 円城寺 今年は戦後の農地改革以来ともいえる改革が打ち出されたわけですが私はこれを再浮上のチャンスととらえていろいろな制度を知ってもらうために今、組合員への説明会をしています。
 佐賀県では19年の1県1JA構想に向けて協議していますが、県でも一枚岩になって農家が安心して農業ができる基礎をつくっていきたいと考えています。
 私たちは何も単に高く売りたいということではなくて消費者の人たちが安心して食べられるものづくりに米だけではなくすべての農産物で、せいいっぱい努力しています。それがJA米なのだと思います。ですからJA、全農から販売されたものは安心な農産物だということをもっと訴えていきたいと思いますね。
 大貝 われわれは今回打ち出した米事業改革をしっかりと実現していくことがいちばん大事なことです。農家の方々にJAに出荷したよかったと思ってもらえる改革の実現が大事です。また、今後の担い手問題でいえば、とくに米、麦、大豆といった水田農業の担い手に対して全農として消費地情報も伝達しつつ担い手組織の組成に向けたお手伝いすることも大事だと考えています。
 北出 ありがとうございました。

鼎談を終えて

 現在農協組織は様々な改革課題を抱えているが、その象徴が米対策事業である。そうした観点から組織をあげてJA米に取り組み、新生全農米穀事業改革もとりまとめられた。本座談会はそうした状況のもとで行われ、貴重な意見が表明された。
 その中でとくに重視したい第1は、“JA米は「標準米」であって高く売るためではない”ということである。つまり、計画流通米制度がなくなり米流通が原則自由となった現在、これは“当然”との認識が重要なのである。第2は“JA米も生産・集荷だけで終わるのではなく、消費者販売が最終目標”なことである。そのため全農は今後精米販売を重視することにしているが、消費者へのJA米宣伝も重要課題となる。第3はこうした対策を進める上でも、農協役職員と生産者自身の意識改革が不可欠なことである。一部の不注意が全体の信用失墜につながるので、組織が一体となり協同した取り組みが必要なのである。
 各地域で米対策を進める上で多くの示唆を与える議論の場であった。(北出)


(2005.12.28)


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