農業協同組合新聞 JACOM
   

JA米事業改革の現場から
現地ルポ JA山形おきたま(山形県) 
全地域で需要と結びついた米づくりをめざす

恵まれた自然環境を生かし一層の品質向上へ
―東京営業所を拠点に情報発信も―
 


 JAの米事業には、安全、安心な米づくりとともに、品質の均一化、需要に合わせた生産への誘導など、当然だがさまざまな課題がある。これらの課題に応えるための前提となるのが「JA米」への取り組みだと考えるべき時期に来ているといえるだろう。  JA山形おきたまでは、栽培履歴記帳運動にいち早く取り組み、生産者の意識改革を促してきた。同時に品質向上、均質化を図り固定需要の確保にも力を入れ、100万俵を扱う産地として評価を高める努力を続けている。今後の課題も含め現地に取材した。



◆「100万俵」集荷を目標に

 JA山形おきたまは、米沢、長井、南陽の3市と白鷹、高畠、川西、小国、飯豊の5町を管内とした県南部の広域合併JAである。正組合員数は約2万4000人、准組合員数は約8700人を数える。
 16年度のJAの販売高は286億円でそのうち188億円を米の販売額が占める。
 置賜地域は周囲の山から注ぎ込む豊富な水に加え、水稲栽培に適した肥沃な土、米の品質を高める昼夜の寒暖差が大きいという盆地特有の気候など、恵まれた自然環境にある。
 この地域で米づくりに取り組む生産者は約7000人。管内の作付け面積は1万4900ヘクタールでJAでは集荷量100万俵(6万トン)を目標に掲げている。確実な集荷で消費地に安定供給することが産地としての信頼を高めることだと考えられている。

◆消費地の声を産地に浸透させる

成田尚 生産販売部米穀販売課長
成田尚
生産販売部米穀販売課長
 JAグループが栽培履歴記帳運動を提唱し、グループ全体でスタートさせたのは平成15年。しかし、JA山形おきたまでは14年産から栽培履歴記帳と記録簿の回収に取り組んだ。対象はすべての生産者とし、JAでは記録簿の回収率100%も目標とした。安全、安心への関心が消費地で高まっていることをいち早く捉えて産地の対応を具体化した。回収率100%を目標にしたのも、運動として単にJAが記帳を呼びかけるだけでは実質的な安全、安心対策として意味がないと考えたからだ。
 当初は、やはり生産者から栽培履歴記帳運動が必要なことへの疑問や、手間がかかることなどへの不満もあり回収率は低かったという。しかし、集落座談会などで「消費地で安全、安心への関心が高まっている」ことを周知徹底させた結果、記帳運動は広がり回収率も向上した。そのうえで16年からJA米への取り組みをスタートさせることになった。
 「消費地の声が徐々に産地に浸透し生産者の意識が変わってくるなかでJA米への取り組みが始まった、ということだと思います」と生産販売部米穀販売課の成田尚課長は話す。
 17年産ではJA米の要件は99%以上を満たす結果となった。JA米として扱えなかったわずかな量はいずれも種子更新が確認できなかったケースだという。

◆販売計画と連動したJA米の取り組み

 18年産では100万俵(6万トン)の集荷目標のうち、主力品種のはえぬきが3万9900トンと66.5%を占める。ただ、コシヒカリや新形質米など(ミルキークイーンなど)の固定需要もあるため、JAではそれらの生産増も目標にしている。たとえば、コシヒカリは17年産では1万トンあまりが目標だったが18年産では1万2000トンをめざす。
 こうしたJAの生産集荷方針(=販売計画)については、JA全体で確認したのち、各支店から振興担当者が地区集落ごとに説明していく。JAの組織部会である「JA山形おきたま稲作振興会」にも、その方針が伝えられ、各地区に周知される。
 作付増の計画をしている品種などは、この周知によって種子の追加注文が行われ、品種需要とともに種子更新100%を目指すことにもなる。
 これは、いわばJAによる作付け計画、販売計画の生産者への提示をJA米への取り組みと連動させるということだろう。その点では「作ったものを販売する」のではなく、「売れるものを作る」ことへ転換すれば、おのずとJA米の要件をクリアしていくことを示しているといえるのではないか。

◆トレーサビリティシステムと安全自主検査体制

栽培暦と栽培管理記録簿を一冊にまとめている。
栽培暦と栽培管理記録簿を一冊にまとめている。

 JAが生産者に配付している栽培管理記録簿は、栽培暦とセットになったA4版の一冊の冊子になっている。(写真)
 前半には土づくりの重要性、JA米の要件など基本的な項目を周知させるための「おきたま米づくりの4か条」をはじめ、栽培暦、カメムシ対策、高品質仕上げのための乾燥、調製の留意点などがまとめられている。そして後半部分が栽培管理記録簿編だ。
 栽培管理記録簿では、最初のページでおもに使用が推奨される肥料や農薬名のほか、使用量などが一覧になっている。農薬であれば散布時期、使用回数、注意事項も明記されている。
 生産者はこの一覧表で作業時期を確認して使用し、記帳をしていく。提出は7月20日までと出荷前の2回としている。この地域ではえぬき、コシヒカリのほか、あきたこまち、ひとめぼれ、ササニシキ、新形質米なども生産しているが、栽培管理記録簿は品種ごとに提出することになっている。
 JAでは提出された記録簿の記載内容を点検して出荷を受けつける。また、米袋に貼付した個々の生産者のIDコードからトレースして、「いつ、誰が、どのように栽培したのか」の情報を提供することができるトレーサビリティシステムを整備している。そのほか15年度からJA独自の農産物安全分析センターを稼働させ、残留農薬の自主検査体制も確立している。
 また、生産者への情報提供としては、米のサンプル提出を求め、食味分析、形質分析などのデータをフィードバックさせ土づくりなど基本技術の向上に生かしている。

◆記帳が生産者の意識高める

JAでは生産者大会などで品質向上への取り組みを確認している
JAでは生産者大会などで品質向上への取り組みを確認している
 この「栽培暦・栽培管理記録簿」の今後の改善点はどこか。
 ひとつは栽培暦の見直しだという。全国的にもカメムシ被害粒が多くなっていることが指摘されているが、同JAでも品種によってカメムシ被害に差がみられ、17年産では主力品種であるはえぬきの1等米比率が前年より10%程度も低下したという。こうした点をふまえて発生状況を検証し、品種別にカメムシ対策を栽培暦に盛り込んでいくことを検討している。
 もうひとつはコンタミ対策と異物混入防止対策。複数の品種を作付けしている生産者がほとんどのため、品種切り替え時の乾燥機の清掃、点検などをきちんと実施したかどうかを栽培管理記録簿に追加することも検討している。
 「生産者には負担が増えるとの受け止め方があるかもしれないが、このレベルまでの栽培管理が産地に求められているということを、記帳することによって意識してもらうことが重要だと考えています」(成田課長)。

◆実需者との交流で作付けを誘導

 JA山形おきたま管内のコシヒカリは17年産で、日本穀物検定協会が実施している「食味ランキング」で「特A」(最高ランク)を獲得した。はえぬきは12年連続の獲得だ。12年連続の「特A」評価はほかに魚沼産コシヒカリだけ。地域の生産者の大きな自信になっている。
 こうした高い評価を消費地に発信して産地指定率の向上につなげていく役割を果たしているのが、15年4月に開設した東京営業所だ。この営業所などを拠点とした販売促進活動を展開してきた結果、16年産米の実績では集荷量の約70%を量販店、コンビニ、業務用などと結びついた固定需要が占めるようになった。
 毎年、3月には主要米卸業者と産地交流会を開くほか、米生産者代表も参加する消費地での研修会も実施している。はえぬきの認知度については一般消費者にはなかなか浸透していないが、実需者からは高く評価されている「さめてもおいしく業務用にも十分適した、玄人受けする米」であることを、こうした交流の場で知ることにもなる。
 また、JAではカントリー・エレベーターなど施設・サイロ単位での実需者との特定契約を結ぶことに力を入れ、これを施設利用率の向上にも結びつけたいとする。「組合員に一方的に施設利用を呼びかけるのではなく、施設で集荷したもの対して需要があり均一的な良質米としてきちんと販売できる、というメリットを示して理解してもらうことが施設稼働率の向上にもつながる」と成田課長は話す。
 そうしたメリットを示しながら、食味値、整粒歩合などといった品質のさらなる向上を実現していくことを課題としている。
 「生産者にとって自分で作った米がどこに売られ、どういう人が買い、どのような評価をされているか、情報が不足している。固定需要を確保することによって顔が見えてくると、生産者の意識も変わってくる。我々職員もその意識をもって今後、伝えていかなければならない」。恵まれた自然条件、地域の知名度、100万俵という生産量を生かし管内全地域が産地指定を得ることをめざしている。

(2006.3.7)


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