農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JAの生命線 営農指導と販売事業
第3回 JA販売事業革新のトップランナーに学ぶ
−JA富里市−
今村奈良臣 東京大学名誉教授(JA総合研究所長)

 これまで2回にわたり、JAの営農・販売事業の推進のための理論としてP―six理論を述べてきたが、それが現場でどのように実践されているか、ということを具体的に示すために、JA富里市の実践を紹介する。具体的に学んでほしい。

◆条件委託販売方式への決別

 JA富里市は千葉県北部の北総台地、成田空港に隣接する首都圏では有数の野菜の主産地である。スイカ、ニンジン、ダイコンをはじめ60種類以上にのぼる野菜の他、養豚も盛んである(JA富里市の概況などについては、本紙、平成18年1月10日号を参照)。
 組合員、生産者はJA営農部との協議のもとに「売れるものを作る」ことに徹底し、JAは、営農・販売担当の仲野隆三常務の言葉を借りれば、「生産者の目線で考え、無条件委託販売方式と決別し、消費者、実需者の多様なニーズに応える販売チャンネルを開発し、生産者手取り最大化をねらう」という戦略路線を推進している。
 まず、図をみていただきたい。実に多様な販売ルートと販売チャンネルがあることが読みとれると思う。従来の卸売市場への系統出荷方式も完全になくなったわけではない。
 しかし、最終消費者まで視野に入れた流通経路とそれに対応する営農部のシステムは実に多彩となっている。この図に示されている姿を私なりに整理すれば次のようになる。
 大きな流通・販売ルートは、(1)パッケージセンターを活用した量販店(スーパーなど)のインショップ方式、(2)外食、中食、総菜企業などへの契約販売による定量供給、(3)生協への直販ルート、(4)直売所など地産地消方式による消費者直売ルート、(5)地域内の養護施設、病院、学校給食などへの業務取引、(6)全農を通して卸売市場を経由する従来型方式、(7)ニンジンジュース、ポテトチップスなど加工企業への原料供給方式(豚も概念的にはこれに含まれる)、という7ルートに大きく分類できると思う。
 このような実に多岐にわたる販売チャンネルを開発してきた仲野隆三常務は、「販売チャンネルを多元化することにより生産者は全力をあげて生産に励み、その生産の成果が生産者のフトコロに確実に入って来るという体制をいかに作るかということがJAの使命でもあり、存在価値であると思う。営農部は何をどの位、どのように作るべきか、ということを企画・指導するだけではなく、その作ったものをどのように売り、どのように適切な対価を得て生産者の努力に報いるか、さらに、消費者の希望するものをいかに供給するか、その全過程に責任をもたなければならないと思う」と話されていた。もっとも、図にみるように産直事業は生活部の管轄とされているが、これは組織上の便宜によるもので、事実上は営農部が生産―流通―販売の全過程に責任を持ち、司令塔の役割を果たしているのである。
 このような販売政策をとることによって、のちに述べるように私の言うリスク最小の原則、つまり「3・3・3・1の原則」を実現しているのであり、それは当然のことながら、生産者手取りの最大化を実践していることになっている。このような背景のもとに、成田空港に隣接し、混住化がいちじるしく進展している中にあっても、JA富里市管内の農業と農業生産者たちは、たくましくかつ着実に産地として永続する道を歩んでいるのである。

JA富里市の農産物流通形態と取組み


◆「3・3・3・1」が販売戦略の原則

 かねてより私はリスク最小の原則、つまり裏返して言えば確実にもうかるJAの販売戦略として、「3・3・3・1の原則」を提唱してきた。3割は直売・直販、3割は加工なども含めて契約販売・契約生産、3割がバクチ、つまり卸売市場出荷、最後の1割が新規需要の開拓あるいは消費者ニーズへの対応などをめざした多様な生産物の試作、販売というものである。確実にもうかる見込みのないバクチはやめた方がよい。しかし、多くのJAは相変わらず無条件委託という名の農協共販、つまり卸売市場出荷という名のバクチばかり打ってきて、組合員とりわけ優秀な組合員に逃げられてきたのが実情だと思う。もちろん、3・3・3・1という割合は原則としての考え方を示したのであって、各JAの実状に即して5・2・2・1でもよいし、2・3・4・1であってもよい。またバクチは打ってもよい。しかし、バクチを打つなら確実にもうかる打ち方で打てと言っているのである。いまひとつ重要なことは、新規需要開拓をめざす試作・販売の最後の1割である。これを忘れた産地は間違いなく衰退してきている。胸に刻んでおいてほしい。
 さらにJA富里市の活動で注目すべきことが2つある。1つは九州や東北の遠隔地のJAと連携をとりつつ、プレパッケージセンターを活用して付加価値もつけつつ、そうした遠隔地の売りにくい農産物をインショップなどの販売ルートに乗せつつ販売していることである。こうすることによって、JA富里市だけでは周年供給ができない野菜類なども、周年供給のシステムに組み入れて、有利販売体制が組み立てられているのである。
 いま1つは、「地域の食、弱者の食に責任をもつ」(仲野常務)という考え方を徹底し実践していることである。地元の地方卸売市場が衰退する中で、地産地消のJA直売所を増やし強化するとか、病院、養護施設、地域の学校などへの給食の素材などを供給するシステムと体制を徹底してとっていることである。こうすることによって、JAは単に組合員だけではなく、地域の住民の支持・支援のもとにより大きな飛躍と新しい基盤がつくられるという考え方に立っていることが理解できよう。「食と農をつなぐ」ための多様な路線で活動をしているJA富里市に学んでいただきたい。

(2006.6.14)


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