農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JAの生命線 営農指導と販売事業
第4回 地域農業の再生と組織化に全力を
―マネージメント機能―
今村奈良臣 東京大学名誉教授(JA総合研究所長)


 JAの果たすべき機能は、大別すれば、(1)コンサルティング機能、(2)マーケティング機能、(3)マネージメント機能という3つの機能に集約できると思う。前回まで3回にわたり、コンサルティング機能の中核である営農指導とマーケティング、つまり販売事業について、充分とはいかないまでもその核心について述べてきた。
 今回は、マネージメント機能について述べよう。マネージメント機能は、その中味を大別すれば(1)JA本体の経営・財務、人事管理等にかかわる側面と(2)JA管内の生産者、組合員と農地等の地域資源や機械などの資本とを有効に組み合わせ、地域農業の活力をいかに高めていくか、つまり地域農業の再生に向けての組織化活動の側面、という2つの課題があると考えている。今回はこの中の後者の課題を展開してみよう。
 いまから4年前、「米政策改革大綱」の決定とそれにもとづく米の生産調整方式の抜本的改革、転作奨励金の廃止と「産地づくり交付金制度の創設」という状況の中で、JAは地域で何をなすべきか、という問題提起のもとに、私は次のような10項目提案を行った。
 (1)誰が
 (2)どの土地で(または、誰の土地で)
 (3)何を
 (4)どれだけ
 (5)どういう品質のものを
 (6)資源・環境を保全しつつ
 (7)どういう技術体系で、いつ作り
 (8)どのような方法で、いかに売るか
 (9)そのために産地づくり交付金をいかに活かすか
 (10)そのための推進体制をJAはいかに作るか
 この10項目の提案の中味を、現在の新たな状況の中においていかに推進、実践すべきか、その核心について整理して述べてみよう。

◆10項目の各項の内容

誰が

(1) 地域の農業の活力の源泉は人材にある。人材とは、のちに詳しく述べるように企画力、情報力、技術力、管理力、組織力に秀でた人を私は人材と規定しているが、農村には隠れた能力を活かし切れていない多数の人材が存在しているように思う。単に青年や中堅だけでなく、女性や高齢技能者、定年帰農者や新規参入者など、その持てる能力を発掘し、磨きをかけるべく、特にJAの役職員に課された課題は多い。
(2) いま農政はもちろんJAや農業委員会の系統組織など農業団体が一体となって「農業の担い手の育成、確保」の運動が進められているが、私には「担い手」という捉え方がどうもなじめない。地域農業の「<RUBY CHAR="担","かつ">ぎ手」と聞こえるのである。そうであってはなるまい。私は、しっかりした「農業経営者」をいかにふやすか、そのための支援をどうするか、という視点を強調すべきだと思う。
(3) わが国では伝統的に、かつ慣習的に家督、田畑山林家屋敷という家産、そして農業という家業の3つを長男が継承するようにされてきた。しかし、近年、家督、家産は継いでも家業を継がないようになってきた。こうした動態の中で、「イエ」(農家)から「ヒト」(個)に着目すべき時代になったことを明確に認識し、「ヒト」(青年、中堅、高齢技能者、女性、新規参入希望者、定年帰農者等)それぞれの持つすぐれた特性をいかに活かすか、いかに人材を組み合わせて活力を生み出すかという方向を目指してもらいたい。
(4) すぐれた個別農業経営ならびに農業生産法人経営など認定農業経営者の育成・支援にJAとしては全力を注入しなければならない。当然のことながら、これらの農業経営は平成19年度から始まる経営安定対策の直接支払い政策の対象となる経営であるが、それらの交付金はJAを経由することなく、行政組織を通じて直接交付されることになるであろう。そういう意味では、これら大規模経営のJA離れがさらに進む可能性もある。JAの営農企画や経営指導、販売戦略の改革を通して、JAへの求心力を高める努力が不可欠であろう。
(5) 集落営農の組織化と法人化の推進についても全力をあげて取り組まなくてはならない。当面は水田農業(米、麦、大豆等の高生産性部門)の分野だけでもよい。法人化への機の熟している集落が各地で見られるようになってきている。JA管内の各地域(支店)でまずパイオニアたりうる、かつモデルたりうる集落営農の新しい姿を実現し、それらが法人化への道筋をたどれるよう全力をあげて指導し、漸次、全地域に拡げていくようにすべきであろう。そのためには、次項で述べる農地の集団的利用権の設定などを可能にするためにも、全JAは農地保有合理化事業を推進できるような資格と条件を備えなければならないことは言うまでもない。そして農地の集団的集積の土台の上に、法人経営を設立するという二階建て方式が望ましい。そして、この法人経営の中に女性や高齢技能者による野菜部門などの専門部会を取り入れていくべきであろう。
(6) 近年、「イエ」の跡継ぎはいても、「経営」の跡継ぎがいない時代になった。現在の中学生、高校生あるいは大学生が将来の職業選択の対象として「農業経営者」を選択するような状況をJA管内でいかに作り出すかということが最大の課題である。そのためにも農業経営の法人化に全力をあげて取り組むべきであろう。法人は「農家」とは決定的に異なる。リスクを背負い、自己責任の原則に立ち、企業家的精神を持ち、経営収支等の明確化に努め、農業外部からも多様な人材を受け入れることもできる。将来を担う有用な人材を増やし、次代を背負う学生たちの選択の対象となりうる経営体を育成することが、当面する大きな課題である。
(7) 以上を総括して述べれば、JA管内、市町村管内のそれぞれの地域(基礎集落、小字、大字、面識集団としての学校区にいたるまでいろいろとありうる)の農業を、これから誰が担っていくべきか、経営していくべきか、真剣な討議の中から合意形成をはかり、それぞれの立場と役割とを地域の構成員が自主的に自らの意志で選択し、展望性のある方向を探り当ててもらいたい。

誰の(どの)土地で

(1) まず取り組んでほしいことは、それぞれの地域ごと(もしくは集落ごと)の土地についてのマッピング・システム化(地図情報化)を行い、耕地図を前に関係者全員で知恵を絞り、望ましい土地利用体系と水利用体系を策定することである。
(2) そのためには、農業委員会の作成している農地基本台帳にもとづき、地図情報化を行い、それにJAの持っている組合員情報や土地改良区の水系図、水利施設図、あるいは農業改良普及センターの土壌分析図や共済組合の共済に係わる資料等を重ね合わせて地図に落とし、土地利用の現況にもとづき、将来の望ましい方向を策定すべきであろう。つまり、「適地適作」を地域ごとに明らかにし、農地の体系的、集団的利用の方向について関係者全員で「適智適策」という考え方で合意形成をはかるべきであろう。
(3) その場合、とりわけ重要な視点は、機械化高生産性利用区(米、麦、大豆等)と集約的利用区(野菜、園芸、花卉、果樹等)と施設型利用区(ハウス、温室、畜舎等)との区分利用とそれら相互の有機的連携ならびに耕畜連携のための土地利用体系についての展望性に富んだ土地利用協定を作りあげることが望ましい。
(4) そのためには、市町村、農業委員会、JA等が協力し全力をあげて利用権設定や耕作放棄地の解消などの農地に関する権利調整を推進し、集団的農用地利用集積の促進をはかることが不可欠の課題である。
(5) 地域によっては、特に中・四国や九州など西日本の中山間地域では耕作放棄地が激増している。なかでも棚田や急傾斜の畑では耕作放棄が著しい。この耕作放棄地を解消し、荒れた草地や里山なども含めて有効に利用するためには、牛の「舌刈り」を広めることをすすめたい。人の手による「下刈り」ではなく牛による「舌刈り」である。放牧酪農が望ましいが、それが容易でないならば、和牛の繁殖と育成のための放牧をすすめたい。放牧に慣れたリーダー牛が必要となるが畜産試験場にその育成を要望してほしい。牛がいなければレンタ・カウ(Rent A Cow)方式で牛を借りてきて、耕作放棄地に放牧し、肥らせて返せばよい。いまでは軽便な太陽光発電器と使用容易な電極も開発されている。牛の放牧は、地域の景観形成にもつながるし、猪や鹿などの野生動物の被害も食い止められるようになる。牛の放牧は「一石五鳥」とも言うべき効果がある。冬場のエサとして水田でホール・クロップ・サイレージを作れば米の生産調整にも寄与できるし、食料の自給率向上や水田の多面的機能の発揮にも貢献できると考えられる。
(6) 以上述べてきた農地の利用調整にかかわる問題を、どの範囲で討議を深め望ましい土地利用体系の合意を形成すべきであろうか。とりあえず考えられる範囲としては、<1>学校区、つまり面識集団、<2>大字単位、<3>小字単位、<4>基礎集落の4つが考えられるが、地域によりそれぞれ具体的事情は異なるので、どの範囲が望ましいか、それぞれの地域特性に立脚して検討してほしい。話がまとまるのは小さい範囲の方がよいかもしれないが、いまの農業技術体系の有効活用の視点からみるならばより広域の方が望ましい。地域の将来像をしっかり協議するなかからその範囲を確定していくべきであろう。
(7) 農地をはじめとする諸資源は、単に先祖から譲り渡されてきたものではなく、「子孫からの預かりもの」であるので、より良好な状態で、「子孫からの借りたものを子孫に返していく」という思想というか哲学を広く持って高めていただきたいと私は、これまで全国各地の農民塾生をはじめとして講演の折りなどに説いてきた。このような思想に立脚することによって、農業、農村に対する国民の支持、支援をより広めていきたいと考えている。

(2006.6.23)


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